11月、神戸市北区は「茅葺き屋根にふれあう月間」として毎週末催しを行っています。
神戸に茅葺き?と驚かれるかもしれませんが、北区には田園に茅葺屋根という景観が広がっています。もう半月前にもなってしまいましたが、さる11月7日(土)に、そのオープニングを飾る「箱木千年家ライブコンサート 千の時、千の響」が行われ行ってきました。
ところでこの箱木家があるのは、新神戸トンネルを抜けた六甲山の北側。行こうと決めたまではよかったけれども、土地勘がない私はさてどうやってたどり着こうかと地図を眺めること数十分。ついついtwitterで呟いてしまったところ、ありがたいことに茅葺屋のshiozawaさんが救いの手を差しのべてくださり、古民家族の可愛い学生さんとともに箱木家へ行くことができました。その節は大変お世話になりました。
箱木家は室町時代に建てられた、日本最古の茅葺き民家(国の重文指定)。
千年家とは古い昔のというような意味で、昭和57年にダム建設のために数十メートル高い場所へ解体移築され、その時の調査で建築された時代が判明したそうです。江戸時代の文献にも千年家として既にのっており、神戸の茅葺き民家の象徴ともいえます。
この家の最大の特徴は大壁造りにあるとshiozawaさんに教わりました。軒も深く頭を下げて入ると包み込まれるような感覚。柱や床板は手斧(ちょうな)ではつられていて、プリミティブな空気を感じました。
今回、北区とともにここで開かれるライブコンサートを主催したのが、shiozawaさんの弟子でもあり、淡河かやぶき屋根保存会くさかんむり代表でもあるsagaraさんでした。
sagaraさんと初めてお会いしたのは三年半ほど前で、飛騨かやぶきさんのお仕事で
親方のshiozawaさんと小松市に仕事で来ていらっしゃったときになるでしょうか。
茅文研のSさんと現場へお邪魔した際、かわむらの甘納豆の詰めあわせを手土産にもっていったところ、中に一つだけ入っていた丹波栗の甘納豆を親方とうばいあっていたことを、微笑ましく思いだします。ふふ。
「日本中で一番この家を好きなのは僕です」というくらい、sagaraさんは箱木家のもつ密度、空間が好きなのだとか。それはまだ茅のかの字も知らない、そして将来、茅葺職人になるとはツユとも思ってもいない十年以上も前からのことで、友人とよく訪れていたそうです。そのなかでこの家を訪れるたびに感じていたのが、哀しさだったと言い、もう民家として人が暮らすことがない箱木家を、いつか囲炉裏の火にかわるあたたかな温もりで満たすことができたら・・・・という思いを抱き続けてきたのでした。
そんな十年ごしの箱木家への熱い思いが叶った日が、実は茅葺き屋根にふれあう月間の幕開け、このライブコンサートの日でもあったのです。
だとしたら、これはもういかなきゃでしょ?
コンサートが始まる前、現在もこの家の管理をされていらっしゃる箱木家52代ご当主からのご挨拶があり、箱木さんもとても喜んでいらっしゃるご様子が伝わってきました。
やがて黄昏どきの淡い光に包まれるころ、西アフリカの民族音楽をベースにしたバチコンドーの歌と踊りでライブ第1部の幕があきました。
それは千年家の哀しみを霧散させ、歓喜の産声をあげさせるに相応しい明るく晴れやかなもので、会場も交えたダンスパフォーマンスには、山城茅葺の山田さん、sagaraさんとチャイ屋のアサやんさんも舞台に誘われ(無理矢理?)、会場をわかせてくれました。
会場が一つになったその後は、slow caféの皆さんの歌声が暮れなずむ夕空とともに聴衆を柔かく包みこんでくれ、そうかと思うと一転、ドラム集団イ―リャ・ダスタルーカスが再び強烈なリズムを轟かす。その響きは千年家の目覚めあたりに知らしめるようでもありました。
すっかり日も暮れ、空には一番星もまたたいての幕間。
可愛くもあり逞しくもある
古民家族さんたちのお給仕で、美味しいおにぎりとお味噌汁をいただきながら、地区にお住まいの方々と言葉を交わしていると「箱木家があるのは知っていたけど、こんなに古く由緒あるものとは思わなかった」「若い茅葺き職人さんが活躍されて嬉しいね」。そんなお声も聴きました。
厚い茅葺き屋根と土壁に覆われた箱木家のなかはとても静かです。
居間の床板は手斧ではつられた跡がゆるやかに波うつ湖面のように、ひとつひとつに光がやどっていました。その波間にたゆたうようにはらりと敷かれた異国の布。シンガーむぎさんが座り、ライブ第2部が千年家の居間で始まりました。
ほんの二ケ月前に母となったむぎさんの歌声は、胎内のなかで聴いた子守唄の調べ。人も家も魂の奥底にしみいる母の声に癒されているようでもありました。
むぎさんの歌声の余韻がのこるなか、ライブのフィナーレを飾ったのは、ほかでもないsagaraさん。
かつて家族がかこんだ囲炉裏に火をくべるように、音をくべたいとハン(円盤型のスイスの楽器)を手に、祈るように、確かめるように、対話するように、想いをこめて、静かにそれでいて力強く奏でられていきました。捧げられた音の花束は、一輪、一輪、聞く人の心の中にも舞いおり、そして確かにその音にこめられた思いを、箱木千年家は聴き届けていました。
この日のライブには150人くらいの人々が集いました。
これをきっかけに、茅や茅葺きに関心をもっていただき、
茅を巡る文化、環境、景観、
ハッピーでピースな草のリズムがもっともっと広がっていきますようにと、
夜空にこだまする音とともに願ったのでした。
sagaraさんのブログ
〔くさかんむり〕