★水菜洗う長い時間を水流し 正子
鍋もの、漬物、煮物にも重宝される水菜は別名「京菜」とも言われ、少し葉にぎざぎざの特徴があることで知られ、春先に良く食される野菜である。長い時間をかけて丁寧に水洗いで洗われ、漸く水ぬるむ春の喜びを感じる好きな句です。(桑本栄太郎)
○今日の俳句
乙訓は風吹く丘ぞ菜花咲く/桑本栄太郎
乙訓は、長岡京があったところとして知られるが、丘に菜花が咲きやわらかな起伏を彩っている。風もやわらかに菜花をなでてゆく。「乙訓」がよく効いている。(高橋正子)
○彼岸のぼたもち
日本で彼岸に供え物として作られる「ぼたもち」と「おはぎ」は同じもので、炊いた米を軽くついてまとめ、分厚く餡で包んだ10cm弱の菓子として作られるのが一般的である。これらの名は、彼岸の頃に咲く牡丹(春)と萩(秋)に由来すると言われる。
私は、子供のころから「おはぎ」と呼んできた。「ぼたもち」は、民話などで覚えた言葉である。秋の彼岸も春の彼岸も、母が晒餡ときなこのおはぎを作った。お寺の位牌にお供えしてもらうために、重箱に入れ風呂敷に包んでお寺に持ってゆくのは、祖母と私であった。お寺に集まるおはぎの量を見て、お供えのおはぎの行方を心配したりもした。おはぎはもち米とうるち米と半々まぜて、一升炊いていたのではと思う。
結婚してからは、お寺にもってゆくのではなくて、自家用に作った。晒餡ではなく、粒あんのおはぎ。松山に住んでいた頃は、近くにお家のある藤田洋子さんが手作りのおはぎをもってくれた。お姑さんから教わったらしく、粒あんの大ぶりのおはぎで絶品。「頬が落ちる」とは最近は聞かないが、まさにそれ。甘いものをあまり食べない信之先生が、洋子さんのおはぎは特別楽しみにしていた。「おはぎ」と言おうが、「ぼたもち」と言おうが、花に因んだ、ほのぼのとした供物である。
★供うまでぼたもち作り余念なし/高橋正子
○彼岸(2012年3月18日の日記より)
★兄妹の相睦みけり彼岸過/石田波郷
★竹の芽も茜さしたる彼岸かな/芥川龍之介
★線香の燃え速し彼岸の風に吹かれ/高橋信之
俳句の季語では、「彼岸」と言えば、春の彼岸で、秋の彼岸の季語は「秋彼岸」という。季語「彼岸」は、春分の日をはさんだ3月18日から24日までの七日間だが、今年の彼岸は、3月17日から23日までの七日間。寺では彼岸会を修し、先祖の墓参りをする。「暑さ寒さも彼岸まで」というように、このころから春暖の気が定まる。「彼岸前」「彼岸過」「中日」も季語として扱われ、いずれも春の季語である。信之先生の彼岸六句を紹介。
松山持田、臥風先生句碑2句
わが坐り師の句碑坐り彼岸の土
彼岸の風吹きゆき句碑の石乾く
信之先生は、松山にいたころ、彼岸となると恩師の川本臥風先生の句碑を訪ねることが多かった。
城山が見えている風の猫柳 臥風
松山の旧制松山高校のグランドの隅に建っている句碑である。旧制松山高校は、松山市持田にあったが、今は愛媛大学付属小中学校となっている。私が大学に入学した時は、旧制松山高校時代の木造校舎が残され、そこでも講義があった。信之先生はそこの教授であった。
○片栗の花
[片栗の花/横浜・四季の森公園(2013年3月21日)]
★片栗の一つの花の花盛り/高野素十
★片栗の花を見しより旅心/稻畑汀子
★西行の出家の寺に片栗咲く/松崎鉄之介
★かたくりの明日ひらく花虔しき/石田あき子
★山の風山を出るまで片栗に/古川忠利
★片栗の一群に日の留まりぬ/橋本順子
★里山にかたくりの咲く頃となる/家塚洋子
★片栗に日は透明をかぎりなく/高橋正子
★片栗の花と光とせめぎあう/高橋正子
カタクリ(片栗、学名:Erythronium japonicum Decne.)は、ユリ科カタクリ属に属する多年草。古語では「堅香子(かたかご)」と呼ばれていた。雪解け後に落葉樹林の林床で真っ先にカタクリやニリンソウなどが葉と茎を伸ばし花を咲かせる。その後枯れて地上部の姿が消える。
早春に10 cm程の花茎を伸ばし、薄紫から桃色の花を先端に一つ下向きに咲かせる。蕾をもった個体は芽が地上に出てから10日程で開花する。花茎の下部に通常2枚の葉があり、幅2.5-6.5 cm程の長楕円形の葉には暗紫色の模様がある。地域によっては模様がないものもある。開花時期は4-6月で、花被片と雄しべは6個。雄蕊は長短3本ずつあり、葯は暗紫色。長い雄蕊の葯は短いものより外側にあり、先に成熟して裂開する。雌蕊の花柱はわずかに3裂している。地上に葉を展開すると同時に開花する。日中に花に日が当たると、花被片が開き反り返る。日差しがない日は終日花が閉じたままである。開花後は3室からなる果実ができ、各室には数個-20程の胚珠ができる。平均で60%程の胚珠が種子となる。胚珠は長さ2 mmほどの長楕円形である。
早春に地上部に展開し、その後葉や茎は枯れてしまう。地上に姿を現す期間は4-5週間程度で、群落での開花期間は2週間程と短い。このため、ニリンソウなど同様の植物とともに「スプリング・エフェメラル」(春の妖精)と呼ばれている。種子にはアリが好む薄黄色のエライオソームという物質が付いており、アリに拾われることによって生育地を広げている(同様の例はスミレなどにも見られる)。
◇生活する花たち「桜・諸葛菜(花大根)・葦の角」(横浜・四季の森公園)
鍋もの、漬物、煮物にも重宝される水菜は別名「京菜」とも言われ、少し葉にぎざぎざの特徴があることで知られ、春先に良く食される野菜である。長い時間をかけて丁寧に水洗いで洗われ、漸く水ぬるむ春の喜びを感じる好きな句です。(桑本栄太郎)
○今日の俳句
乙訓は風吹く丘ぞ菜花咲く/桑本栄太郎
乙訓は、長岡京があったところとして知られるが、丘に菜花が咲きやわらかな起伏を彩っている。風もやわらかに菜花をなでてゆく。「乙訓」がよく効いている。(高橋正子)
○彼岸のぼたもち
日本で彼岸に供え物として作られる「ぼたもち」と「おはぎ」は同じもので、炊いた米を軽くついてまとめ、分厚く餡で包んだ10cm弱の菓子として作られるのが一般的である。これらの名は、彼岸の頃に咲く牡丹(春)と萩(秋)に由来すると言われる。
私は、子供のころから「おはぎ」と呼んできた。「ぼたもち」は、民話などで覚えた言葉である。秋の彼岸も春の彼岸も、母が晒餡ときなこのおはぎを作った。お寺の位牌にお供えしてもらうために、重箱に入れ風呂敷に包んでお寺に持ってゆくのは、祖母と私であった。お寺に集まるおはぎの量を見て、お供えのおはぎの行方を心配したりもした。おはぎはもち米とうるち米と半々まぜて、一升炊いていたのではと思う。
結婚してからは、お寺にもってゆくのではなくて、自家用に作った。晒餡ではなく、粒あんのおはぎ。松山に住んでいた頃は、近くにお家のある藤田洋子さんが手作りのおはぎをもってくれた。お姑さんから教わったらしく、粒あんの大ぶりのおはぎで絶品。「頬が落ちる」とは最近は聞かないが、まさにそれ。甘いものをあまり食べない信之先生が、洋子さんのおはぎは特別楽しみにしていた。「おはぎ」と言おうが、「ぼたもち」と言おうが、花に因んだ、ほのぼのとした供物である。
★供うまでぼたもち作り余念なし/高橋正子
○彼岸(2012年3月18日の日記より)
★兄妹の相睦みけり彼岸過/石田波郷
★竹の芽も茜さしたる彼岸かな/芥川龍之介
★線香の燃え速し彼岸の風に吹かれ/高橋信之
俳句の季語では、「彼岸」と言えば、春の彼岸で、秋の彼岸の季語は「秋彼岸」という。季語「彼岸」は、春分の日をはさんだ3月18日から24日までの七日間だが、今年の彼岸は、3月17日から23日までの七日間。寺では彼岸会を修し、先祖の墓参りをする。「暑さ寒さも彼岸まで」というように、このころから春暖の気が定まる。「彼岸前」「彼岸過」「中日」も季語として扱われ、いずれも春の季語である。信之先生の彼岸六句を紹介。
松山持田、臥風先生句碑2句
わが坐り師の句碑坐り彼岸の土
彼岸の風吹きゆき句碑の石乾く
信之先生は、松山にいたころ、彼岸となると恩師の川本臥風先生の句碑を訪ねることが多かった。
城山が見えている風の猫柳 臥風
松山の旧制松山高校のグランドの隅に建っている句碑である。旧制松山高校は、松山市持田にあったが、今は愛媛大学付属小中学校となっている。私が大学に入学した時は、旧制松山高校時代の木造校舎が残され、そこでも講義があった。信之先生はそこの教授であった。
○片栗の花
[片栗の花/横浜・四季の森公園(2013年3月21日)]
★片栗の一つの花の花盛り/高野素十
★片栗の花を見しより旅心/稻畑汀子
★西行の出家の寺に片栗咲く/松崎鉄之介
★かたくりの明日ひらく花虔しき/石田あき子
★山の風山を出るまで片栗に/古川忠利
★片栗の一群に日の留まりぬ/橋本順子
★里山にかたくりの咲く頃となる/家塚洋子
★片栗に日は透明をかぎりなく/高橋正子
★片栗の花と光とせめぎあう/高橋正子
カタクリ(片栗、学名:Erythronium japonicum Decne.)は、ユリ科カタクリ属に属する多年草。古語では「堅香子(かたかご)」と呼ばれていた。雪解け後に落葉樹林の林床で真っ先にカタクリやニリンソウなどが葉と茎を伸ばし花を咲かせる。その後枯れて地上部の姿が消える。
早春に10 cm程の花茎を伸ばし、薄紫から桃色の花を先端に一つ下向きに咲かせる。蕾をもった個体は芽が地上に出てから10日程で開花する。花茎の下部に通常2枚の葉があり、幅2.5-6.5 cm程の長楕円形の葉には暗紫色の模様がある。地域によっては模様がないものもある。開花時期は4-6月で、花被片と雄しべは6個。雄蕊は長短3本ずつあり、葯は暗紫色。長い雄蕊の葯は短いものより外側にあり、先に成熟して裂開する。雌蕊の花柱はわずかに3裂している。地上に葉を展開すると同時に開花する。日中に花に日が当たると、花被片が開き反り返る。日差しがない日は終日花が閉じたままである。開花後は3室からなる果実ができ、各室には数個-20程の胚珠ができる。平均で60%程の胚珠が種子となる。胚珠は長さ2 mmほどの長楕円形である。
早春に地上部に展開し、その後葉や茎は枯れてしまう。地上に姿を現す期間は4-5週間程度で、群落での開花期間は2週間程と短い。このため、ニリンソウなど同様の植物とともに「スプリング・エフェメラル」(春の妖精)と呼ばれている。種子にはアリが好む薄黄色のエライオソームという物質が付いており、アリに拾われることによって生育地を広げている(同様の例はスミレなどにも見られる)。
◇生活する花たち「桜・諸葛菜(花大根)・葦の角」(横浜・四季の森公園)