長崎雪景
万葉集 巻第二十
三年(天平宝字三年 西暦759年)春正月一日
因幡国の庁にして
饗(あえ)を国郡の司等に賜ふ宴(うたげ)の歌一首
新しき年の始めの初春の
今日降る雪のいや重(し)け吉事(よごと)
上の一首は
守大伴宿禰家持作れり
ハボタン(葉牡丹)=【Brassica oleracea var.acephala】
万葉集全二十巻の最後の歌です。
藤原仲麻呂を除こうとした橘奈良麻呂事件に加担したとして
左遷で前年六月に任じられ因幡(現在の鳥取県
東部)の国守(県知事に相当)であった大伴家持
このとき42歳。
因幡の国は
家持が以前国守に補任された越中の国より
経済力もはるかに劣る格下の国と見られていました。
この歌をよんで
以後68歳で没する(西暦785年)まで
彼は一切歌をよむことをやめてしまいます。
ナンテン(南天)=【Nandina domestica】
そういう事実を後知恵でも知ってしまうと
ああ雪が降っていますねぇ
雪が積もるようにいいことが積み重なるといいですねぇ
とひたすらのんきに歌い上げようとしていた内面には
すでに彼の苦い渋い人生があったことを
またその苦渋が以後の歌作を断念させるほどであったことを
ついつい読み取ろうとしてしまう訳ですが
ならばこそ
この歌を
中年、初老のおじさん、おばさんとなりつつある
私の知己友人の諸兄諸嬢に
重ねたご苦労とともに寿ぐお正月にふさわしい秀歌として
ここにお届け申し上げます。
しつこいですが
もう一度
新しき年の始めの初春の
今日降る雪のいや重(し)け吉事(よごと)
あけましておめでとうございます。