20階の窓辺から

児童文学作家 加藤純子のblog
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「私たちのブルース」(ネトフリ)

2024年09月05日 | Weblog
            


オムニバス形式で済州島で暮らす人々の暮らしを描いた、韓国ドラマです。
オムニバスが、それぞれの人間をいろんな角度から描写しています。
長いドラマが多い、韓国ドラマは、それゆえに、人間を深く深く描きます。

女性脚本家の描いた、済州島での人々の暮らし。
それがオムニバスで、少しづつ繋がりながら、全体が見えてくる。
貧困格差というより、貧困が際立って見える、済州島。

その昔、NHKのBSで歴史ドラマをやっていて、問題を起こし流されていく場所が済州島。
済州島とは、そういうイメージしかありませんでした。

でも違いました。
そこで、必死に生きている人々の暮らしがある。
海女として海に潜り、鮑をとってくる年老いた女性たち。
ここでのチームワークには、韓国ならではの儒教の思想が流れています。
そしてそこの市場では、魚などを捌いて売ったり、安い洋服やお鍋やプライパンなど雑貨も売っています。
そのごちゃごちゃ感の中に、一つ一つのドラマがあります。

イ・ビョンホンなんて、昔、日本で韓流ドラマが大流行の頃の、大スターです。華々しい受賞歴などをたくさん持っている、54歳です。
でも、その彼がオムニバスの一話のボロボロの主人公をやっています。
その彼の役者としての姿勢に、感動します。
見栄も体裁もありません。
どんなものでも、役者として、いいものに出て、自己表現をする。
その姿勢が、かっこいいです。
昔の韓流ドラマブームの時の彼には、あまり興味を持ちませんでしたが。

ぶっきらぼうで、たった一人の母が、父と別れてから、愛人になり、そこで育てられ、子どもの頃、さんざいじめられます。
大人になってからも、すでに40歳を過ぎていても、彼は母親を憎みながら、一人で、雑貨売りをしている彼は、大荷物を積んだトラックの中で寝たり、たまには、安いモーテルで寝たり、家というものを持ちません。
彼の、ぶっきらぼうで、男気で生きているようなクサさはあるものの、誰よりも愛に溢れ、優しい人柄には胸を打たれます。

もう一人、私が気にいったのが、同級生にほのかな初恋を抱きながらも、生涯一人で働き続け、市場でも、貧しい友人たちにお金を貸したりしながら、生きている、ちょっとおせっかいだけれど、人間味に溢れた、「ユニ」役。イ・ジョンウン。

カラオケで歌う歌が、パンソリのような悲しさや「恨」を秘め、健気に強く誰にも寄りかからずに生きている、彼女の胸の奥の悲しさが、垣間見えます。
でも、パンソリを歌いながらも、踊る、そのノリが、かっこいい。
切ない。

かつての、初恋の人だった同級生に騙されかけて誘惑されて、しばし女になった気分でいた「ユニ」が、気付きます。
利用されているのだと。
苦労人は感度が鋭いです。
そしてエリートだと思っていた彼が、実はお金に困っていることに気付きます。「離婚」「別居」と話す彼が、アメリカにいる家族を愛していることに気づきます。
そして、彼がお風呂に入っている隙に、お金を置いて、一人帰ります。
そのお金を見た彼も、一人でボロ雑巾のように、働き詰めで弟たちを育て、周りの人たちを大事にして生きてきた、彼女の心根に触れ、銀行から、そのお金を送り返します。
彼女は他にも辛いことが起こります。
でも、彼女の深い人間への想いが大好きです。イ・ジョンウンはお化粧もしないで役柄を演じています。見事です。
このオムニバスでの、彼女の存在。サイコーでした。
彼女は、かつて、映画館で見た「パラサイト 半地下の家族」の家政婦さん役です。

高校生で同級生同士で関係を持って、妊娠してしまったカップルの話も出てきます。
二人とも母親に逃げられ、父親の手、一つで育てられた、でも「勉強をする」ことにプライドをかけている子です。
「子どもを産んで、育てながら、ソウル大学へ行く」と父親に宣言します。そのごちゃごちゃした結末にも泣かされます。

中でも男として「完璧」に描かれているのが、小さなアワビ釣りの船の若き船長。
女性脚本家が、理想として描いたのではと思うくらい、恋に対しても慎重で、一旦好きになると、徹底的に愛しぬく。
それでいて大きな包容力があり、人間一人一人を尊重します。
こんな、いい男は現実にはいないだろうなと思いながらも、彼が好きになった海女さんの双子の姉(ダウン症)への向き合い方など素晴らしい。
ダウン症の姉の才能まで、最後、彼がこっそり話を聞き、妹に知られないように最後は彼女がさりげなく見られるようにします。
本当に、泣けます。

この「私たちのブルース」の女性脚本家は、
「済州島は韓国の情緒が一番残っている場所だと思います。親戚でなくても知り合いとつながったら、その人の人生に関心を持つ文化が韓国を表現するにおいて、欠かせないと思いました」と語っています。

貧しさの吹き溜まりのような島が舞台だからこそ、生まれたドラマだと思いました。

韓国ドラマというと、「ペントハウス」とか、きらびやかなソウルの漢江(ハンガン)のそばに立つ、タワーマンションでの醜い話。(日本でも真似して、ドラマを作っているようですが)
ウッソーと思います。気持ちの悪い人間関係をゴリゴリ押し出しているようなドラマでした。
格差は、日本もあるけど、韓国にはもっともっとありそうです。

そう思っていたところに、地べたをはって生きる人々のドラマが出てきました。
新聞で知ったのですが、毎回、泣きながら、ハマってみているオムニバスです。
ぜひ、おすすめです。
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