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昔々、まだ言葉が本当のことしか言ってなかった頃のことです。
あるところに小さな王国があり、そこにはとてもりっぱなお城があって、とてもりっぱな王さまが国を豊かに治めていました。王さまにはお妃さまとの間に、とても美しいお姫さまがひとりいらっしゃいました。
お城の隣には、こんもりと茂った青い森があり、城壁の西側の小さな木戸からそっと出ると、すぐ青い森とつながっていて、お姫さまはよくそこで遊んでいました。木の実をひろったり、小鹿を見つけたり、珍しい鳥の声を聴いたり、お姫さまは、森の中でそれは豊かに楽しい思いをしました。
森には森番小屋があって、いつもこの森を守っている森番が住んでいました。森番はリュートを弾くのがとても上手で、時々森の奥でリュートをかき鳴らしては悲しい歌を歌っていました。
美しくも心たよりなき
小さな姫よ
その喉に 棲む
小さなツグミを解き放ち
わたしの憂いを木の実のように
食べておくれ
姫さまはなんであんなに悲しい歌を歌うのかしらと、時に森番小屋に近づいてみました。けれども、一切中には入っていきませんでした。というのも、森番の男はそれほど美しくはなく、何かたくらみがあってあそこに住んでいるらしいということを、侍女たちから聞いていたからです。言葉は本当のことを言うと言いますから、たぶんそれは本当のことなのだろうと、姫さまは思って、あまり森番小屋には近づいていきませんでした。
そんなある日のことです。それは熱い夏の盛りの頃でありました。姫様はあまりに熱いので、森の奥にある小さな泉のそばで涼もうと、西の木戸から出て森に入りました。手には金のまりを持っていました。それは最近、おかあさまでいらっしゃるお妃さまからもらったもので、姫さまはとても気に入って、大事にしていたのです。
泉は、森の中で一番大きなぼだいじゅの根元からこんこんとわき出ていました。近づくとさわやかな木の香りがする美しい水がとどまることなく流れだし、そこから小さな小川が始まっていました。姫様は、まりを投げたり、受けたりしながら、小川沿いに歩いていき、菩提樹の下の泉のところに行きついて、泉のそばの大きなぼだいじゅの根の上に、そっと座りました。するとまた、あの森番の歌が聞こえてきました。
美しくも心たよりなき
小さな姫よ
その喉に棲む
小さなツグミを解き放ち
わたしの憂いを木の実のように
食べておくれ
「あの森番は何がそんなに悲しいのかしら」と姫さまは言いながら、金のまりを投げたり、受けたり、転がしたりして遊んでいました。
(つづく)