「あ」
突然、姫さまは大きな声をあげました。というのは、金のまりを受け損なって、それはころころ転がって、泉の中にぽちゃんと落ちてしまったのです。姫さまはあわてて泉に走り寄り、泉の中に手を入れてみましたが、泉は思っていた以上に深く、まりをとることどころか底を見ることさえできませんでした。姫さまは困ってしまって、泣きそうになり、つい、言ってしまいました。
「ああ、だれかわたしの金のまりをとってくださらないかしら。そうすればわたしは、そのお礼のために何でもするのに」
涙がぽろぽろ流れてきて、姫さまはとうとう泣き出してしまいました。おかあさまが下さった金のまりなのに、とてもたいせつなのに、きっともう永遠にとりもどすことはできないのだと、姫さまが泣いてると、ふと声が聞こえてきました。
「お姫さま、そんなに泣いてはいけません。あんまり泣いてしまったら、泉の隣にもう一つ泉ができてしまいますよ」
姫様は、どこから声が聞こえてくるのかと、周りをきょろきょろ見回しました。すると、泉のそばに、いつしかとても青い顔をした一匹の大きなかえるがいたのです。しかしそのかえるはゲコとも言わず、きれいなことばでやさしそうに言うのです。
「さっきから様子を見ていました。なくしてしまった金のまり、よかったらわたしが取ってきてあげましょう」
それを聞くと、姫さまの顔は、ぱっと明るくなりました。するとかえるは言いました。
「そのかわり、約束ははたしてくださいね」
「やくそく?」
「そうです。さっきおっしゃったではありませんか、まりをとってくれたら、何でもすると」
姫さまはちょっとびっくりしましたが、たかがかえるのいうことだからと、何でもないことのように、言いました。
「いいわ、何でもしてあげる。だからまりを取ってきて」
するとかえるは、ぽちゃんと泉の中に飛びこみ、泉の底まで泳いで行って、みごとに金のまりを持って出て来たのです。かえるがまりを姫さまに渡すと、姫さまは、わあっとよろこんで、まりを受け取りました。そこでかえるは言いました。
「さっきの約束、忘れないでくださいね」
(つづく)