共 結 来 縁 ~ あるヴァイオリン&ヴィオラ講師の戯言 ~

山川異域、風月同天、寄諸仏子、共結来縁…山川の域異れど、風月は同天にあり、諸仏の縁に寄りたる者、来たれる縁を共に結ばむ

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2013年01月16日 18時18分41秒 | 日記
今日はヒマな水曜日です。ということで、久しぶりに映画鑑賞に出かけました。

観に行ったのは《レ・ミゼラブル》です。ヴィクトル・ユゴーの超大作をミュージカルにした作品で、1985年ロンドンで初演されて以来、世界43ケ国で上演されている作品が映画化されたものです。

ミュージカルというと台詞の途中でいきなり歌い出すのが面食らう方も多いかと思いますが、この作品はごく一部を除いて、ほぼ全編にわたって歌で進んでいきますので、まるでオペラを観ているような感じで違和感なく観られます。

ストーリー等はウィキペディアか何かで見て頂くとして、個人的感想としては、メチャメチャよかったです。

先ず当たり前のことですがキャスト全員が歌が上手い!それに何しろ驚いたのが、この映画はミュージカル映画に有りがちないわゆる『口パク』ではなく、その場で各キャストがちゃんと生で歌っているのです。なので、山の上だったり教会の中だったり雨の街角だったりの空気感が歌と一緒に録音されていて、よりリアリティがあります。このあたりは、この作品が元々舞台作品であるということを念頭に入れてのことでしょう。

それに、現場でクローズアップで歌うところを撮影するので、舞台だとどんな場面でも全体的に歌い上げてしまわければならないところを本当に囁いたり泣いたりしながら歌えるので、より聴く者の心に迫ってきます。このあたりも演技や歌が下手な人にはできません。

それに、後でパンフレットを読んで納得したのですが、実はここに出てくるハリウッドスター達は、結構ミュージカルに出演経験があったり、音楽に携わったりしている経歴の持ち主が多いのです。

主人公ジャン・バルジャン役のヒュー・ジャックマンは、どうしても《X-men》のウルヴァリンの印象が強いのですが、実は《美女と野獣》や《オクラホマ!》といったミュージカルでデビューしているのだそうです。この作品でも、前半の《Who am I》や後半の大アリア《彼を帰して》で絶唱を聴かせてくれます。

敵役のジャベールを演ずるラッセル・クロウは《グラディエーター》に代表されるようなアクションスターかと思いきや、ミュージカル《ロッキー・ホラー・ショウ》等にも出演経験があるのだそうです。ジャベールのアリア《星よ》や、宿敵ジャン・バルジャンに心ならずも命を救われ、自己の価値観の崩壊に苛まれる最期の場面では、その歌唱力を遺憾無く発揮しています。

更にファンティーヌ役のアン・ハサウェイのお母さんは、かつて舞台版《レ・ミゼラブル》に出演していた舞台女優さんだったという、この作品と浅からぬ縁をもっていた人だったようです。劇中で、娘を救うために娼婦にまで身をやつした彼女が絶望の中で歌う《夢やぶれて》は、涙無くしては聴けません。この曲はスコットランドのニヤけたオバチャンがオーディション番組で歌ったことによって単独で有名になってしまいましたが、こういう歌はこうしてストーリーの流れの中で歌われることによって、初めてその真価が発揮できるのです。

圧巻なのが、中盤に歌われる《One day more》というアンサンブルで、追っ手を逃れたジャン・バルジャン、愛し合うバルジャンの娘コゼットとマリウス、マリウスに思いを寄せるエポニーヌ、革命軍の学生達、それを追い詰めるジャベール、狂言回し的に立ち回る宿屋の名テナルディエ夫婦(エポニーヌの両親)が、それぞれの思いを次々と歌い重ねていきます。

もし普通の芝居でこれだけの人が一辺にしゃべったら収拾がつかなくなりますが、これが台詞を音符に載せたアンサンブルになると成立するのです。かつてG.ヴェルディが、同じくユゴーの《王は踊る》という戯曲を基にしたオペラ《リゴレット》を発表した時、パリでの公演で、最終幕にあるリゴレット、その娘ジルダ、リゴレットの主君マントヴァ公爵、安宿の主の妹マッダレーナが一辺にそれぞれの思いを歌う四重唱を聴いたユゴーが「ヴェルディはとんでもないことをやってのけた」と感嘆したという逸話がありますが、これは音楽劇ならではの効果と言えましょう。

そして…革命軍が弾圧された中で一人だけ生き残ってしまったマリウスが歌う《カフェソング》、更にエピローグからのラストシーンは、館内のそこここから啜り泣く声が聞こえます。もう、涙無くしては観られません。

とにかくこれは《ウェストサイドストーリー》や《サウンドオブミュージック》に匹敵するほどの名作です。予備知識も何にも持たずに観に行っても大丈夫ですので、とにかく映画館の大きなスクリーンで上映している間に、是非映画館で御覧になってみて下さい。
コメント
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