今日はたまプラーザの教室に行く前に、ちょっと寄り道して横浜市営地下鉄のセンター北駅に向かいました。ここから程近いところにある
横浜市歴史博物館で、現在《横浜の仏像〜しられざるみほとけたち》という特別展が開催されています。
国宝や重要文化財に指定されている主な仏像彫刻が奈良や京都に多く存在することは論をまたないところですが、神奈川県、もっと狭めて横浜市にも貴重な仏像が今日まで伝えられています。この特別展では横浜市に特化して、各寺に伝えられている様々な時代作の仏像彫刻を一堂に会して、歴史的背景も交えながら間近に鑑賞しようというものでした。
手指の消毒と来訪者名簿の記載を済ませて会場に入ると
タイトルと共に横浜市泉区の向導寺に伝わる阿弥陀如来座像が出迎えてくれます。因みに館内は撮影禁止ですが、この御像だけは写真撮影を許されていました。
会場内には横浜市内に伝わる様々な仏像が居並んでいます。一番古いものは
7〜8世紀、飛鳥時代作といわれる鶴見区・松蔭寺の如来(伝阿弥陀如来)座像です。像高25cmと小柄ながら、部分部分に斑鳩・法隆寺や調布・深大寺の銅造仏にも通ずる作風が見てとれます。
この特別展で特に注目されるのが、横浜最古の寺院で市営地下鉄の駅名にもなっている南区・弘明寺(ぐみょうじ)の秘仏本尊・十一面観世音菩薩立像です。
11世紀、平安時代に造像されたこちらの御像は、
伊勢原市の日向薬師宝城坊秘仏の薬師三尊像と並ぶ、神奈川県の誇る鉈彫仏の傑作として名高いものです。
荒々しいノミの彫り跡が残る鉈彫仏は、かつては未完成品であるという見方がされていました。しかし近年ではこの造形が長く人々に大切にされてきた霊木から仏が姿を表した状態を彫刻で表現したものであり、これこそが鉈彫仏の完成形であるという認識が一般的です。
弘明寺の御本尊は秘仏のため普段は目にすることはできず、御開帳の際にも御厨子の中におわしますため全身を拝見することは叶いません。しかしこの特別展では、その秘仏の全身の御姿をかなり間近に拝見することができます。貴重な機会です。
完成後の乾燥による割れを防ぐための内刳り(うちぐり)を施していない一木造りのため、御顔に大きな割れが入ってしまっているのが痛々しくも見えます。それでも、180cmを越えるスラリとした御姿と優しい微笑みをたたえた御顔は何とも美しいものです。
平安時代には平等院鳳凰堂の阿弥陀如来座像で有名な定朝の作風に代表される優美な御姿の仏像が数多く作られました。横浜市の仏像では
栄区・證菩提寺の阿弥陀如来座像がそれにあたります。ふっくらと張りのある頬や優しい眼差しは、如何にも貴族好みの優美さをたたえています。
やがて鎌倉期に入ると東国の仏像の作風も武家好みが主流となり、奈良・東大寺や興福寺の戦火で消失した仏像を新たに造像した大仏師運慶をはじめとした慶派の様式が好まれるようになりました。その作風を代表するのが磯子区・東漸寺の薬師如来坐像です。張りのある体躯や堂々たる居住まいは運慶作の興福寺北円堂の本尊弥勒如来坐像に通ずるものがあり、かなり腕の立つ慶派仏師によるものと推察されています。
中世に入ると、宋や明の影響を受けた仏像が製作されるようになりました。その時代の代表作が
金沢区・慶珊寺の十一面観世音菩薩坐像です。直立の弘明寺像とは対象的に、磐座に手をついてゆったりと腰を下ろして足を組む優美な姿は、宋や明の仏画の影響が見てとれる像です。
もうすぐ終わってしまう前に何とか行くことができて、本当によかったと思います。横浜市営地下鉄センター北駅徒歩5分の横浜市歴史博物館で21日㈰まで開催中ですので、お時間があれば観にいってみては如何でしょうか。