今朝…というか夜明け前のことですが、寝ていたらいきなり誰かが玄関のドアをノックしてきました。始めは夢かな?…と思っていたのですが、床に入ったままずっと聞いているうちにリアルにドアをノックされているということが分かってきました。
『え、こんな夜中に誰…?』
と思って様子を見ていたのですが、その後もノックが続いていました。よもや怪奇現象か…と思いながら咄嗟にスマホを手に玄関に向かうと、またしてもドアがノックされました。
そもそもうちの玄関にはチャイムもあるのに、わざわざドアを叩くというのも変な話だな…と思いつつどうしようか…と迷ったのですが、思い切って
「…どちら様ですか?」
と声をかけてみました。
すると…
「…ここはどこ?開けてくれよ。」
という、しわがれた男性の声が…!
『何?何?何?!』
とパニックになりながらも、
『これは現実にいる人間の声だ。』
と冷静に分析する自分もいて、ドア越しに
「どうされましたか?」
と声をかけてみました。それでもノックが止まらないので、とにかくスマホで110番に電話をして状況を伝え、出動を要請しました。
それから数分後に玄関の外が騒がしくなってきたので
『あぁ、警察が来たんだな。』
と思っていると、玄関のチャイムが鳴りました。それでドアを開けてみると二人の警察官と、ずぶ濡れのバジャマ姿にスリッパ履きのおじいさんとが立っていました。
片方の警察官に事情を説明している間、おじいさんはもう一人の警察官に腕を支えられて立っていました。そして、とりあえずそのおじいさんは警察に連行されることになりました。
変な時間に叩き起こされてすっかり面食らってしまったのですが、とりあえずもう一度寝直すことにしました。するとお昼過ぎ頃に、また玄関のチャイムが鳴ったのです。
出てみると、先程の警察官の一人とエプロンをかけた中年女性が立っていました。そして、未明の件についての顛末を聞かせてくれました。
なんでも、あのおじいさんは
(イメージ画像)
割と近所にある介護型老人ホームに入居している認知症の方で、夜中に夜勤の介護士さんが目を離した隙に何らかのタイミングで施設の外に出て徘徊しているうちに元いた場所が分からなくなってしまい、あちこち彷徨いた中でたまたま玄関灯が点けっぱなしになっていた我が家まで来てドアを叩いていたのではないか…とのことでした。警察官と一緒に来ていたのは老人ホームの職員の方のようで、頻りに恐縮して頭を下げておられました。
職員さんは
「我々も万全を期しているつもりでしたが、夜間は人手が足りていない状況もあって〇〇さんが施設外に出てしまったことに気づくのが遅くなってしまいました。結果的に御迷惑をおかけしてしまうことになってしまい、大変申し訳ございませんでした。」
と謝罪されました。先ず、我が家の近くに介護型老人ホームがあること自体も知りませんでしたが、
「そういうことなら大丈夫です。かえって事情が分かってよかったと思っていますから、気になさらないでください。」
と言ってお引取りいただきました。
昔、音楽教室の生徒さんに介護士の方がいらしたので、その勤務内容の過酷さは具に聞いていました。まして夜間は人手が足りなくなることもあり、だからといって徘徊者を拘束することも禁止されていて
「どうにもならない事態になることもあるんてす。」
という話も聞いていました。
そんな話を聞いていたこともありますから、職員さんに文句をつけたり、ましてや責めたりする気持ちには全くなれませんでした。むしろ、大変なお仕事をされているのだから、くれぐれも御自愛いただきたいと思ったのです。
私は割りと早くに両親を亡くしました。母は四半世紀以上前に、父も10年前に他界しましたが、生前の父との最後の会話が
「俺は特にお前達に何かを残してやれるという自覚は無い。もしあるとすれば、お前達に老人介護を経験させずに済むということだけだ。」
というものでした。
当時は
「何言ってんの。そんなこと気にしてたわけ?」
と父に返してしまっていましたが、考えてみると仮に父や母が存命で、今回のように昼夜問わず徘徊するような事態になっていたら、恐らく今のような生活はしていられないと思うのです。そう思うと、父の言葉の重みを再認識せざるを得ません。
不特定多数が共同生活している中で、日々のケアに加えて新型コロナウィルスのクラスター発生にも神経を尖らせていなければならないという大変なお仕事をされている介護士さん。難しいとは思いますが、せめて御自身の体調管理には十分に気をつけていただきたいと思います。