今日も日中は猛暑日となり、厳しい暑さに見舞われました。天気予報で『危険な暑さ』と連呼していますが、たしかにこれは危険性を感じます…。
ところで、今日8月5日はモーツァルトの《クラリネット、ヴィオラ、ピアノのためのトリオ》が作曲された日です。
《クラリネット、ヴィオラ、ピアノのためのトリオ K.498》は

ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトが作曲した室内楽作品で、俗に《ケーゲルシュタット・トリオ》の愛称で親しまれています。愛称の由来は、モーツァルトが

ボウリングの原型とされる「ケーゲルン(Kegeln)」(日本語では九柱戯とも訳される)に興じながら作曲した…という言い伝えによるものです。
因みにボウリングというスポーツの起源は古く、紀元前5000年頃の古代エジプトの遺跡で、木でできたボールとピンが発見されているそうです。元々は倒すピンを災いや悪霊に見立て、それをたくさん倒せば災いから逃れることができる…という宗教儀式だったようです。
他にもボウリングのようなゲームは世界中のあちこちで発見されていますが、ヨーロッパでは中世ドイツで宗教革命家マルティン・ルター(1483〜1546)が

9本のピンをひし形に並べて倒し、ルールも定めたことから、『ナインピンズ・ボウリング=九柱戯』として広まっていきました。17世紀になるとアメリカにまで渡っていきましたが、賭け事と結びついて人気になりすぎたため、1840年代には禁止されてしまいました。
そこでナインピンを禁じる法律を回避するために、

一本ピンを追加して、三角形に並べた10本のピン=テンピン・ボウリングが発明されます。これが今の形のボウリングの始まりだそうで、1950年代に全自動ピンスポッター(ピンを自動で並べる機械)が発明されてからは、世界中に急速に普及していきました。
話をモーツァルトに戻すと、《ケーゲルシュタット・トリオ》は1786年8月5日にウィーンで作曲されました。クラリネット、ヴィオラ、ピアノというこの一風変わった編成は、友人のクラリネット奏者アントン・シュタードラー(1753〜1812)ら仲間うちで演奏するために作曲されたからだと言われています。
モーツァルトはシュタードラーというクラリネットの名手が友人にいたこともあって当時発明されて間もないこの楽器に興味を持ち、《クラリネット五重奏曲 イ長調 K.581》や《クラリネット協奏曲 イ長調 K.622》、また歌劇《皇帝ティトゥスの慈悲》K.621のセストのアリアでのクラリネット・ソロなど幾つかのクラリネットの曲を残しました。この《ケーゲルシュタット・トリオ》は、クラリネットを独立して扱ったおそらく最初の作品であろうといわれています。
また、クラリネット音楽としての重要性に隠れがちであるが、実はヴィオラパートも魅力的です。初演時にはモーツァルト自身がヴィオラを担当したと伝えられていますが、奏法的にも、一つの独立した声部としての取り扱い方からいっても、ヴィオラという楽器の能力を十分に発揮させた作品ということもできます。
そんなわけで、今日はモーツァルトの《ケーゲルシュタット・トリオ K.498》をお聴きいただきたいと思います。中音域の楽器が奏でる、モーツァルト円熟期の室内楽をお楽しみください。