Delight Slight Light KISS/松任谷由実(1988)
1.リフレインが叫んでる
2.Nobody Else
3.ふってあげる
4.誕生日おめでとう
5.Home Townへようこそ
6.とこしえにGood Night(夜明けの色)
7.恋はNo-return
8.幸せはあなたへの復讐
9.吹雪の中を
10.September Blue Moon
前にも書いたが、ユーミンこと松任谷由実は、今年でデビュー50周年だそうな。おめでとうございます。50年とは、ほんと凄い。この世界で50年も、それも、ほとんど第一線をキープしたまま続けてこれた、というのは賞賛に値する。他国でも、そんな人はほんの一握りだろう。ほんとに凄い人だと、つくづく思う。
これも書いたが(笑)、そのユーミンのデビュー50周年記念のベスト盤『ユーミン万歳!』が発売された。3枚組全50曲、ファンのリクエスト(人気投票?)を基に収録曲を決めたという。我が家でも早速購入して聴いているが、とにかく聴けば聴くほどユーミンの凄さを思い知る。なんというか、どの曲もメロディが立っているのだ。50曲あるけど、似たようなメロディが見当たらない。どの曲も歌詞と共にメロディが立っている。Aメロもサビも絶妙の歌詞とメロディ。“どこかで恋をしてるなら、今度は諦めないでね”とか“私を許さないで、憎んでも覚えてて”といった印象的なフレーズに印象的なメロディがついている。ほんと凄い。また、50曲全て名曲ばかりなのに、あれがないこれがない、というのに後から気づくのも凄い。「スラバヤ通りの妹へ」「まぶしい草野球」「夕闇にひとり」「DANG DANG」「14番目の月」ちょっと思いつくだけでも、人気曲がこれだけ漏れてる。凄い。
と、そんなユーミンなのであるが、僕も80年代の頃は結構ユーミン聴いてた。80年代のユーミンは、前半は年2枚という精力的なリリースペースで、その才能を見せつけていたが、80年代半ばあたりから、アルバムは年1枚それも毎年11月頃に発売して、年末商戦に向けてテレビCM等とタイアップし、メディアで宣伝しまくってアルバムを売る、というパターンで商売をするようになり、個人的にはついて行けなくなって、徐々に聴かなくなっていった、という経緯がある。ユーミン側としては、この戦略を90年代まで続けてアルバムを売りまくり、ユーミン全盛期を築いた。正にバブル(笑)
という訳で、ここに紹介する『Delight Slight Light KISS』なのだが、言うならば、僕にとって最後に聴いたユーミンのアルバムである。なんと想い出深いことか(笑)
とはいえ、露骨な商法に反発しつつも、グレードの高さ故、よく聴いていたアルバムでもある。この頃、ユーミンはプロモーションの為か、新作が出ると、アルバムのテーマを設定し、より分かりやすくアピールする方法をとっていた。この『Delight Slight Light KISS』のテーマは“純愛”だったような気がする。ま、ユーミンに限らず、ポップソングはラブソングが大半だったから、純愛も何もいつもと同じじゃん、としか思えなかったけどね(笑) ちなみに、この2年後の『Love Wars』のテーマは“愛の任侠”だったかと思う。はいそうですか、って感じだけど(笑)
という訳で『Delight Slight Light KISS』である。アルバムはいきなり「リフレインが叫んでる」で始まる。この曲は名曲だ。初めて聴いた時、ほんと固まってしまったのを覚えている。一度聴いただけなのに、歌い出しの“どうしてどうして”が何度も頭の中でリフレインされていた。ファンの間で人気投票をしても、TOP5に入るという人気曲でもあり、とにかく名曲なのだ。ただ、別れというか恋愛の終わりがテーマになっているが、あまりに悲しすぎて救いがない。他の曲だと、失恋がテーマでも、本人が強がったり嫉妬したり拗ねたり、或いは、相手の男の方が黙ってしまったり涙を見せたりして、なんとなく救いがある。だけど、この「リフレインが叫んでる」は救いがない。出会ってはいけないのに出会ってしまった自分たちの運命を嘆きながら、この男女はこのまま心中するのではないか、という気がしてきて、こちらも暗く悲しくなってしまうのだ。なので、まともに聴いていられなかったりする。
その人気と作品の完成度故か、ユーミンの曲は色々深読み出来たりする。つーか深読みする人多い。ユーミンはしたたかなんだから、この人の言うことを額面通りに受け取っちゃいけないよ、って感じなんだろうか。本作の「Home Townへようこそ」もそういう曲。フツーに聴いてると、都会育ちの女性が恋人(婚約者?)のふるさと、つまり田舎を初めて訪れて、ここでこれから始まる愛する人との新しい生活に思いを馳せる、という内容だが、当時この曲を紹介したFMのDJが、都会でさんざ遊んでた女性が、そろそろ潮時かな、と思って、地方出身の純朴な資産家の息子をゲットし、田舎で悠々と暮らせる、とにんまりしてる、という歌なのでは、と正に深読みしてた(笑) なんとなく、ユーミンならあるかも、なんて思ってしまうのが怖いが、そんな下世話な深読みをさせてしまうものが、ユーミンの作品にはあるのは確か。そこがユーミンの凄いとこかも。ちなみに、深読みはしないけど、僕もこの曲は好きである。
「とこしえにGood Night」も好きだな。いなたい雰囲気とテンポが良い。「恋はNo-return」は『オレたちひょうきん族』のエンディング・テーマだった気がする。ユーミンとか山下達郎とか、こういうタイアップ意外と好きだよね(笑) “天国の前にハートを見せて”というのは、ユーミンならではのキラー・フレーズ。個人的にはラストの「September Blue Moon」が一番かな。サンバのリズム、ユーミンにしては捻りのないメロディも良い。
という訳で、なんというか、実に色々な事を思い出してしまうアルバムである。時代は正にバブル絶頂期、アルバム自体も当時の世相を反映している気もするが、考えてみると、早い時期から、言葉は悪いが、ユーミンはやや浮き世離れした音楽を作ってきたので、この時ようやく時代がユーミンに追いついた、と言えなくもない。とにかく凄い。50周年は通過点なので、まだまだ60年、70年目指して頑張って欲しい、と思うのであります(マジ)