イワシの翻訳LOVE

はしくれトランスレータ「イワシ」が、翻訳への愛をつれづれなるままに記します。

これにより、問題

2007年12月18日 00時00分47秒 | Weblog

訳文でつい多発してしまう表現の一つに、「これにより、」がある。これは別段おかしい表現ではないし、決してNGであるなどとは言わないのであるが、あんまり連発すると、なんとも翻訳調な感じがしてちょっと気になるのはわたしだけではあるまい(でもない?)。つまり、「これにより、」は、わりと誰もが不用意に使ってしまう語であると。そして、これにより、訳文がなんとも堅苦しくなると。なので、これにより、これを「これにより、問題」と名付けたいのである。

たとえば、「これにより、AがBになった」とか、「これにより、Cが大幅に減少することが予測されます」とか、そういう使い方がなされるわけであるが、なぜそれがわたしにとって気になるかというと、やはり無生物主語の問題が関わってくる。つまり「『これ』がAをBにさせる」、という構文は、日本語の語感ではなんとなく不自然な感じがする。

英辞朗で調べてみると、「これにより、」に相当する原文は、This led to とか、This will helpとか、This made など様々。いろんなものがあるのだが、共通して、主語のThisに引きずられて、これにより、とやってしまっているようだ。では、「これにより、」を使いたくないときは、どうすればよいのだろう。試しに、同じく英辞朗でThis led to を調べてみる。すると、「これにより、」以外にも、「そこで、」とか、「そのため、」などが使われていることがわかる。「そのため、」というのは「これにより、」と比べると自然に感じる。続く文の中に出てくる主語を、普通に使えるからだ。

例えが適切かどうかはわからないが、「雨が降ってきた。そのため、我々はしかたなく雨宿りをした」といえば自然だ。「我々」の自主的な判断が感じられる。ところが、「雨が降ってきた。これにより、我々はしかたなく雨宿りをせざるを得なかった」とすると、なんとも「これにより」の力が強く感じられてしまい、「我々は~」の文章に影響が与えられて、文がヘンになる。「我々」の自主性までが失われてしまうような気がするのだ。あるいは、「これにより、」をいっそ省略する、という手もある。「雨が降ってきた。我々はしかたなく雨宿りをした」でも十分によい文章となる。

なかなか難しい問題ではあるが、実は自分でもあまり釈然としていない。今日のエントリを書いてみて、頭がすっきりしたというよりも、これにより、この問題についてどうやら今後よけいに悩みそうな気がしてならないという気がしているのであった。

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