学習障害と英語指導を考える

特別支援の視点から。
どの子もハッピーになるような指導を。

The Cat in the Hatとフォニックス

2015年11月12日 | 日記

今日、FBで目にした投稿で、Dr. Seussの絵本の写真を見て、

いままとめている途中の音韻意識やフォニックスに関する内容を少しご紹介しようかなと思いました。

Dr. Seussは英語圏の子どもなら誰もが知っているといって良い絵本ですね。

作者がシリーズを書くきっかけとなったのは、
非常に有名な「読み戦争」だったことはご存じでしょうか。

 

読み戦争は、初期の英語の読み書き指導について、

ホール・ランゲッジVSフォニックスのいずれがより効果があるのかに関する論争です。

 

英単語の綴りを学ぶための指導法であるフォニックスの歴史は長く、

約400年ほど前、1690年にBenjamin Harrisによって刊行されたThe New England Primerが最初だと言われています。

The Primerは、読み書き初心者のためにアルファベット、母音、子音、連続子音や音節分解などについて解説された教本で、当時イギリスの植民地だったアメリカでの使用を目的としていました。

 

そののちアメリカでは1800年代中頃、

ホーラス・マンによって「まず意味から読み始める」トップダウンアプローチが提唱されたことから、文字や音から学ぶボトムアップアプローチへの批判が高まりました。

フォニックスのように単語の細部に注目するのではなく文脈からの理解を重視し、

文中に出てきた単語についてはホール・ワード(whole word)アプローチで指導しました。

それは単語全体を見て覚える方法で、その指導法はlook-and-sayとも呼ばれ、

文字通り、単語全体を見て、声に出して覚える方法です。

その後、1920年代のJohn Deweyの進歩主義が全国的に広まるとともに、ホール・ワードアプローチが最も主流となりました。

 

ですが1955年、アメリカの作家Rudolf Fleschが、Why Johnny Can’t Readを出版し、

「理論の裏付けもない暗記を強要しており、学習者は知らない単語に出くわすたびに混乱する」

と、Look-and-Say指導法に痛烈な批判を繰り広げました。

 

Why Johnny Can’t Readがきっかけとなり、論争がいっそう激しくなったと言われています。

 

Fleschの主張では、ホール・ワードの指導法は「中国語式アプローチである」と批判しており、

「(ホール・ワードは)phonetic languageである英語をpicture language の中国語のように指導しようとするため、phonetic language の利点を無駄にしている」と言い切っています。

そして、「読み規則を用いて単語を声に出しながら読み方を学ぶ、フォニックスを使うべきである」と強く訴えました。

 

確かに、私たちも漢字を学ぶときは分解せずにそのまま全体で暗記しますね。

ですが「英単語の綴りをそのように暗記に頼って覚えるべきではない」、というのがFleschの主張です。

 

その主張に共感したTheodor Seuss Geiseiが、

Dr. Seussとして執筆した子ども向け本が、The Cat in the Hatです。

 

留守中の兄と妹の前に、不思議な帽子をかぶったネコが現れて、

色んないたずらをするストーリーですが、

単音節の語の多くがライムしており(例:pat, bat, rat, cat, sat, fat, matなど)、

音読する楽しさや、

読み規則を使って自分で読める楽しさを感じることができるようになっています。

 

同書は出版後3年で100万部を売り上げ、

現在でも最も読まれている児童書の1冊です。

 

現在、さまざまな調査によって、学習初期における読み研究では、
デコーディング(decoding)すなわちフォニックスを学ぶことが最も効果的であるということが報告されています。
(National Institute of Child Health and Human Development, 2000;Rose, 2006)


デコーディングとは、単語を見て、語に含まれている文字に音を対応させ音声化することを意味し、
単語の意味は関係なく、文字を音に変換することができるスキルのことです。

 

学習初期においてデコーディングスキルの習得は、

単語の認知とスペリングに良い影響を与えるだけでなく、

その後の読解を容易にすることができることも明らかにされており、

文字と音の対応知識は、

学習する子どもの知能指数よりも、

読みの到達度に最も影響を与えるとも言われています。

 

そのデコーディングを支える基本の力が「音韻意識」や「文字認識」です。

学習障害のお子さんだけでなく、日本の子どもでも、

英語の音韻意識やアルファベットの文字認識がきちんと身についていなければ、

デコーディングにはつまずく可能性があるだろうと思います。

実際に、日本の英語教育では体系的なデコーディングは指導しておらず、

look-and-sayの手法に頼っています。

 

それが、多くの生徒が英語の読み書きができていない理由だと私は考えています。

 

余談ですが、Oxford のReading Treeは、ホール・ランゲッジがベースで、ホール・ランゲッジの理論に基づいたフォニックスが指導できるように構成されています。

フォニックスにもいくつか種類があり、

ホール・ランゲッジで用いられるアナリティック・フォニックス、

その後、現在イギリスやアメリカで最も支持されている、シンセティック・フォニックスなど、

学習の理論によって指導の方法が違っています。

 

「フォニックスが良いと言われたからフォニックス」

 ではなくて、

日本の子どもにとってどのような理論で読み書きを指導するのが最も効果があるのかといった研究がもっと必要だと思っています。


最新の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
子供にもよる (八色正代)
2015-11-12 18:44:05
大変興味深く読ませていただきました。
子供にもよるし、学習環境にもよると思います。様々な言語背景から入ってきた英語なので、フォニックスには例外が多い。文字と音の対応がわかって、分解したり組み立てたりする、論理的なことが、苦手な子もいる。様々な学習方法はあって良い。果たして日本の学校教育にフォニックスがどれくらい必需品なのか、検討の余地があると思う。初期の段階で出てくる、基本語彙には、サイトワードが多い。フォニックスが役立つのは、高校生になって出てくるような、長い単語が出てくるときだ
返信する
Unknown (村上)
2015-11-12 19:22:08
そういう風に考えてる人は多いですね。
でも私はそうではないと思っていますので。
返信する

コメントを投稿