学習障害と英語指導を考える

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Toe By Toe~意味のない語(無意味語)を読ませる練習について

2013年12月23日 | Toe by Toe指導について

21日のセミナーでは、Toe by Toeを紹介しましたので、

こちらでも紹介します。

 

一文字のアルファベットから、二文字、三文字と

子音と母音のブレンディングを段階的に身につけるように

作られています。

その際、多くの”無意味語”を読む練習が入っています。

(無意味語で練習して、
 そのパターンを使った有意味語につなげていくのです)

 

で、私のあとに講演された藤堂先生に

「村上先生の紹介したToe by Toeは無駄だと思う」

とすぱーっと一刀両断されたのですが (-_-)

その代わりに、

「無意味語」ではなく、”意味のあるもので練習すべき”

というサジェスチョンをなされました。

 

実は以前にも、

「意味のない単語で練習は絶対にしたくない。なんでしないといけないのか」

と、別の先生もおっしゃっていました。

 
わたしはフォニックスの専門家ではないので
こだわりがあまりないですし、
 
読めるようになるために、
絶対に有意味語を使わなくてはいけない、
 
という根拠はどこにあるのだろうか、とは思います。
 
 
 

わたしが目指しているのは、

チャレンジ教室の子が、「初めて見た英単語が音読できるようになる」ことです。

 

視覚的に記憶頼って読めるようになった単語は

多くの場合全体的に単語を捉えているので

文字が置き換わると読めない、読み間違える、

ということにつながりますし、

文脈に頼って読みを推測するのも本当に単語が読めてるとは言えません。

 

初見の語(初めてみる単語)が音読できてこそ、

ようやく単語のデコーディング(文字と音の対応)ができていると言えるのです。

 

 

Toe by Toeを使う前は

無意味語を使った練習はそれまでやったことがありませんでした。

日本では、フォニックスに関する読みトレーニング報告はあっても、

Toe by Toeの実践報告はこれまでみたことはありません。

 

ですから、

「まずやってみて、その結果から考えよう」と思っていました。

 

 

そして今回紹介した事例がBくんだったわけです。

そして彼がどのような段階を経て”読める”ようになったかは、

会場の方にご紹介しましたが(一番下にリンクをはりました)、

「段階を踏むと読めるんだ」

「文字が読めるってこういうことか」

と感じて頂けたのではないでしょうか。

 

このスライドは、これはPlautらによるトライアングルモデルですが、

別のセミナーで使用したものです。

このときは、

英語圏でディスレクシアと言われる児童に見られる症状と、

日本の英語初期学習者の読みの状況が似ている、

という説明で使いました。

 

 

読みが成立するためには、

意味と、文字と、音韻がそれぞれ結びついている、

という仮説に基づいています。

 

またトライアングルモデルでは、

実在する単語も、非単語(意味のない単語)も

同じ回路で処理されると仮定されています。

 

であるとすれば、

文字と音の回路を結びつけるためのトレーニングには、

読んでいる対象に”意味があるかないか”ということは、

関係ないのではないかと考えられます。

 

 

また、無意味語の練習は、パターン練習に向いているようです。

 

たとえば、母音と子音の足し算を最初に身につけてほしいのですが、

そのときに有意味語で練習となると、難しいですね。

at, 

it,

in,

on

などなど。

意味を教えにくいですね。

 

また、有意味語から始める読み練習は、

いきなり3文字(CVC=子音+母音+子音)で練習することになるのが多いパターンですが、

この読み練習では

日本の子どもたちはほぼ間違いなく 

CV(子音+母音) + C(子音) という足し算をやってしまいます。

 

実際そういう傾向は、多く見られませんか?

 

英語の CVCの読みは

オンセットであるCと、ライムの VCが基本になります。

ratであれば、 r + at です。

前の子音をオンセット、うしろの母音と子音を合わせてライム(rime)と言います。

 

日本人の生徒は、母語の影響がありますので

どうしても母音をくっつけてしまう。

 

それも、ただCV+Cという読み方をするだけでなく、

最後の子音のあとに母音をくっつけて、

CV+CVになってしまいがちです。

(ratが、らっと、つまり日本語になります)

 

 

三文字のCVCを読む前に、

徹底的にVCの足し算を身につけることで(つまり、先にうしろのライムから意識させる)、

CVCが正確に読めるようになることがわかりました。

 

実はToe by TOeでも足りなくて、

実際は自作で練習もさせていますよ。

 

at, et, it, ot, ut、

in, en, on, an, un

といった、母音と子音のペアをたくさん読ませることもしました。

 

それが身についたな、と思ったところでようやく

語頭に子音を足します。

 

Bくんは、そのやり方で指導した最初の生徒です。

 

三文字を読ませるときに、

少しでもつまるようならば、

まずうしろの2つを足して読ませる。

次に、最初の子音を足す。

本当に、見事に読めますよ。

 

 

 

さて、もちろん音と意味を結びつけることも、とても大切です。

それはピクチャーカードなどを使って、

「語彙を増やす」という目的で同時進行していくことができます。

 

まず語彙を増やしつつ、

無意味語であろうが有意味語であろうが、

文字と音のルールを少しずつ段階的に身につけるうちに

だんだん知っている単語が読めるようになっていく、

という学びの順番が自然で、無理がないのではないかと思います。

 

 

=============

Bくんの読み練習風景(興味のある方はどうぞ) 

1.アルファベットの音読み練習 (ここまでに来るのに数ヶ月以上かかってます)
http://www.youtube.com/watch?v=bQgWeHjdDfU&feature=youtu.be

2.母音+子音~3文字 (音の足し算の練習です)
http://www.youtube.com/watch?v=4jwwHc4yCcs&feature=youtu.be

http://www.youtube.com/watch?v=ZUD5nk0UDAA

 

3.第1ステップのセンテンス読み(2回目)thの読みが定着していないことがわかります。
http://www.youtube.com/edit?o=U&video_id=gHpLlPaJitc

4.第1ステップのセンテンス読み(3回目)スピードがすごく上がっています。http://www.youtube.com/watch?v=x8yQg3bRAQw&feature=youtu.be

5.第2段階の子音+子音ブレンディング(子音が連続する音の足し算)
http://www.youtube.com/watch?v=Pqsl8UUhPEM&feature=youtu.be 

6.子音+子音+子音のブレンディング (これぞ「ザ・無意味語」なのですが、ゲーム感覚です。このあと有意味語の練習になります)

http://www.youtube.com/watch?v=RIBGK6yc-PU

 

 

 

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4 コメント

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正確に読めていたのでびっくり (石井重光)
2013-12-24 21:13:00
加代子先生、Bくんのビデオとても驚きました。正確な発音を指導されていることにまず驚きました。意味あるものを教えるのか、ないものを教えるのかは読むことができるという目標は同じでも、手法として読めることに重点を置くのか、意味を考えながら読むのかの違いがあります。
まさにそれぞれの個の能力に応じた方法でいいのではないでしょうか。いい加減な考えですみません。でもそれを見極めていくのが指導者の役割だと思います。
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石井先生 (まとりょん)
2013-12-25 11:17:26
石井先生、コメントありがとうございます。

読めるってなんだろう、というのが私の今のテーマの一つです。
日本人で英語の読みが苦手な子にどう指導していくか、というのは大きな課題だと思いますので、これからも試行錯誤していきたいです。

Bくんはこの方法は比較的合っていたのだなあとも思います。彼が今後どのように発展させていくかもまた報告させていただきます~!
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Unknown (もじこ(成田))
2014-01-16 17:22:26
へんなタイミングですみません。
先生の発表、とても勉強になりましたし、頑張ろうという気になりました!ありがとうございます。

藤堂先生一刀両断(?!)の件、私はアスペルガーと純粋ディスレクシア(そういうものがあると仮定しての話ですが)はやっぱり違うんだと、感心して聞きました。
規則性が好きなアスペルガーと、文脈重視のディスレクシアの違いではないかと思いました。


実はうちの子(アスペルガーのないディスレクシア)は無意味語はちょっとモチベーションが下がるようで、難しくても有意味語であってほしいと思う派のようです。
なのでうちでは初級の語彙とは言い難いものでも有意味語を使ってますが(rotとかpitとか、これはこれで大変)、
個人的には、無意味語でも積極的に読もうと思えるなら、どんどん取り入れるべきではないかと思います。
B君、発音が良いのが何よりすばらしいです!
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もじこさんへ (まとりょん)
2014-02-03 22:24:53
もじこさん

こちらのブログは本当に気が向いたときにアップしているので、お返事遅くなり済みません。

まず、Toe by Toeは、文字と音の対応ルールを習得するものであって、語彙を増やす訓練ではありません。

私は意味、文字、音の三つのつながりのうち、英語系のディスレクシアが最も弱いのは、文字と音のつながりであるという一般的なデータを元に、
文字ー音対応トレーニングを取り入れたというお話しでした。

ディスレクシアか、アスペルガーかということは全く関係ございません。

意味と音の結びつき、意味と文字の結びつき、文字と音の結びつきは、それぞれ脳の別の部分を使いますね。

そこで、「意味がないと」とおっしゃるということは、イメージと、音と、意味を同時にインプットすることです。それでは、子どもが本当に、文字と音の対応規則を学んでいるのかわかりません。

また、意味と音と文字を同時に入れることの危険性は、「視覚頼りの暗記」になることです。
まず形を見て、意味を思い出して、その意味から音を引っ張り出していませんか。
それでは、本当に”文字が読めている”とは言えません。”その形を覚えている”のです。

少し専門的な話しになりますが、英語圏の教育界であった、意味や文脈重視のwhole languageと、文字音対応規則重視フォニックス間の論争で、結果的にフォニックスが優位になった理由だと思います。

サイトワードはもちろんありますが、基本的に、単語は、目で覚えさせてはいけませんね・・・。

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