Islander Works

書いて、読んで、人生は続く。大島健夫のブログ

生きていく

2011-10-06 13:53:42 | 出たもの
何も考えずに無意識に街を歩いているとき、いないはずの人間の姿を見てしまうことがある。聴こえるはずのない声を聴いてしまうことがある。はっとして全身が総毛立つ。慌ててもっとよく見ようとする。もっとはっきりと聴こうとする。しかしもう何も見えない。聴こえない。

それは多くの場合、いわゆる「あの世から来た幽霊」というような外因性の現象ではなく、単に自分の脳の内部から投影されたものに過ぎないことを私は知っている。しかし、人間は、様々な他者とコミュニケーションを持ちながらでなければ生きてゆけない生き物である。

「いないはずの人間」の数は、自分自身が生きている限り、自分の中で日々に少しずつ増えてゆく。それらの、もう二度と会えない人間たちに関するデータは、本人と向き合って照会しリアルタイムで修正することができないままに、脳の奥底に存在し続けている。そこにある彼らのデータは、彼らと関わっていた時代の自分自身のデータ、それを取り巻く環境に関するデータとともにある。意識上の自分自身からはアクセスできないままに、それらのデータは保存され、連綿とそこにあり続ける。だとすれば、それはあの世と何が違うのか。何かのはずみにそのデータのかけらが意識上の世界に現れてしまったとき、それは本物の幽霊と何が違うのか。

昨夜、雨音が忍び込む3-tri-で、私はふとそんなことを考えていた。

Poe-Tri Vol.40。

今回の出演者は、

新著「スーパーラッキーストライク」が刊行されたばかりの死紺亭柳竹さん


初出演、詩のボクシングでおなじみの篠塚義成さん


詩で戦うサラリーマン、マノメアツシさん


そして私は、不可思議/wonderboy作「先生、あのね」と、自作の「踊れ」の二篇を朗読した。

オープンマイク参加者は、

midoさん


川島むーさん


ジュテーム北村さん


ケイコさん


あしゅりんさん


という皆さんだった。

リハーサルの時、篠塚さんが谷川俊太郎の『生きる』を読んでいた。

素晴らしい詩だと心から思う。本当のことが書かれているからだ。そして、もっと素晴らしいと思うのは、書かれていないことがたくさんあることだ。

生きていく。負けていく。誰かを負けさせていく。失敗していく。誰かを失敗させていく。恥を背負っていく。誰かに恥をかかせていく。打ちのめされていく。誰かを打ちのめしていく。もがいていく。手さぐりで進もうとしていく。霧の中を歩ていく。なぜ歩いてるのかわからなくなっていく。もう会えない人間がひとりずつ増えていく。もう戻れない瞬間が一瞬ずつ増えていく。わかったと思う。わからなくなる。わかったと思う。わからなくなる。わかったと思う。わからなくなる。生きていく。

生きていたい。生きていたくない。生きていたい。

生きていくということ。