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博多陥没事故~再掘削に潜むリスク

2017-11-18 18:00:04 | 博多駅前陥没

福岡市地下鉄七隈線延伸工事中に起きた陥没事故から1年。福岡市は、11月7日、埋め戻した現場の再掘削工法として事故前と同じナトムの採用を決めた。これについて、土木情報誌・日経コンストラクションは『博多再掘削、なお残る“風化岩”への不安』(11.14)記事の中で「事故から1年を目前に控えたタイミングで決定した計画は、事故で浮かび上がったトンネル崩落のリスクを潰せているかのように見える。不均質な地層の地盤改良には不安が残る」と述べている。これは見逃せない記事なので、詳しく紹介したい。

同誌が再掘削のリスクと位置付けているのは、トンネルを掘削する岩盤層の上端付近に1.9~2.8mの厚さで広がる(岩盤が風化して粘性土化した)難透水性風化岩層。事故前は、トンネル掘削によって生じる地中の変位やひずみに難透水性風化岩層が耐え、すぐ上の砂れき層からの地下水の流入を阻む想定だった。ところが、難透水性風化岩層の厚さや強度が想定を下回っていたため、トンネルの掘削によって難透水性風化岩層に緩みや亀裂が発生し、大量の土砂が地下水とともにトンネル内に流れ込み陥没に至った。そこで、再掘削は、難透水性風化岩層の支持力や止水性に頼らない施工方法として「人工岩盤掘削工法」を採用した。(これについては、先週、さかんに報道されていた)

再掘削の手順は、まず、地盤改良で陥没穴の緩い砂層と周囲の土砂層を固める。改良範囲の四方には、高圧噴射撹拌工法や薬液注入工法で高さ約15mの遮水壁を立ち上げる。周囲からの水の流入を防いだうえで、遮水壁で囲んだ範囲の地下水をくみ出して水位を下げる。次に、崩落によって土砂が積もったトンネル内に改良材を充填して固める。そこをナトム工法で掘削する。(下図参照)

(ここからが重要なところ)安全に掘削するには、地盤改良をどれだけ確実にできるかがポイントになる。しかし、事故で一度崩れた地盤の改良は容易ではないという。 予定されている地盤改良範囲には、地下約11mに直径約2.5mの雨水幹線が通るが、福岡市技術専門委員会はこうした障害物の直下でも、高圧噴射撹拌工法ならば地盤改良できるとみている。しかし、問題は、事前に把握できない障害物が地中にあった場合だと同誌は指摘している陥没範囲には、トンネル崩落時に一緒に落ちた信号機や管路などが埋まっている。こうした箇所は、固化材の噴射や撹拌の度合いを適切に設定できず、改良不足になる恐れがあるというのだ。

さらなるリスクは、岩盤層と改良部の境界、つまり難透水性風化岩層の部分。難透水性風化岩の亀裂などが水みちとなり、トンネル内に水を引き込む懸念があるという。計画では難透水性風化岩層の上半までを高圧噴射撹拌工法で改良し、岩盤に改良体を「根入れ」するとしている。しかし、高圧噴射撹拌工法は難透水性風化岩層のような比較的固い地盤では効果を発揮しにくい。加えて、強度や厚みのばらつきが大きく、十分な強度を持つ改良杭を形成できない恐れもあるという。技術専門委員会の委員の1人は日経コンストラクションの取材に対し、「トンネル内の水を抜くまで、狙い通りの改良ができているかどうかは分からない」「もし、トンネル内の水位と一緒に周辺の地下水位も下がれば、上からの水の流れを止められていないことになる。そうなれば、追加の止水対策を検討せざるを得ない」と打ち明けている

こうしたリスクに対し、福岡市の担当者は「ナトムの補助工法で対応可能だ」と述べている。(補助工法とは、切り羽から斜め前方に鋼管を打ち込んでトンネル天端の崩落を防ぐ注入式長尺鋼管先受け工法のこと)。事故前と異なり、鋼管が薄い難透水性風化岩層を突き破っても大量の地下水がトンネル内に流れ込む危険性は低く、必要な向きや長さで鋼管を施工できると言っている。

以上が記事の要点となるが、やはり気になるのは福岡市のナトム工法への”過信”。国の第三者委員会が市の選定した工法に誤りはなかったと判定したことが背景にあると思われるが、陥没事故の引き金となっていただけに不安は大きい。再掘削にこのようなリスクが潜んでいるのだから、なおさらのこと。福岡市は再掘削前に市民に向けた説明会を開くべきだと思うが、今のところそういった動きはない。

 

 

 陥没直後の穴の様子。崩落時に一緒に落ちた埋設管や電柱、信号機などが陥没範囲の中心部に埋まっているとみられる(日経コンストラクションより)

 

 

  

 

 

 

 地盤改良範囲の横断図。流動化処理土と難透水性風化岩層に挟まれた緩い砂層と周辺の土砂層に高圧噴射撹拌工法で地盤改良を施す(福岡市資料より)

  

 

 

 

 

地盤改良範囲の平面図。陥没範囲の四方を壁で囲むように改良し、周囲からの地下水の流入を防ぐ(福岡市資料より)





 NATMによる再掘削の手順。福岡市技術専門委員会は掘削前にNATMに適した固い地盤を人工的に造る工程も含め、今回の再掘削工法を「人工岩盤掘削工法」と呼んでいる。だから資料にナトムの文字はない。(福岡市資料より)

 


《関連記事》

博多再掘削、なお残る“風化岩”への不安(日経コンストラクション 2017.11.14)※有料記事

 

《関連資料》

福岡市交通局。福岡市地下鉄七隈線建設技術専門委員会(H29.11.7)の開催結果について