【写真:住宅や事業所が密集している芹川流域。今後、芹谷ダム中止後の治水対策が課題となる(県提供)】
■治水政策、県と市町に溝
県の諮問機関「公共事業評価監視委員会」が事業計画の中止方針を了承し、計画中止が正式に決まった県営芹谷ダム(多賀町)。しかし、将来的にはダム事業を推進すべきというのが同委の基本的立場で、今後、彦根市と多賀町を流れる芹川の治水対策のあり方などが焦点となりそうだ。(井戸田崇志)
「芹川は(氾濫(はんらん)時の)潜在的被害などで非常に問題があり、ほかの河川とバランスをとったというのは問題外」。委員長の小林圭介・県立大名誉教授は、中止を了承した1月9日の同委で、美濃部博・県河川開発課長に厳しい口調で迫った。
美濃部課長が、中止の根拠に挙げたのが、県内504の1級河川などを治水対策の優先度に応じて分類した「中長期整備実施河川の検討結果」だ。美濃部課長は、芹川が早期対策の必要なAランクに位置づけられるものの、総事業費398億円のダム建設を行うと、他の河川の治水対策費が確保できないと説明。両市町を含む湖東圏域の今後20年間の具体的な治水対策を明記する河川整備計画には、ダム事業は盛り込まないとし、理解を求めた。
これに対し、小林委員長は芹川流域に住宅や事業所が密集し、人口が多いことなどから、他河川と単純比較はできないと指摘。県の姿勢に真っ向から異議を唱えた格好で、ほかの委員も同調した。
同ダムを建設すると、100年に1回の確率で起こる洪水に対応できるとされるが、県は財政上の制約で今後20年間、川底に堆積(たいせき)した土砂の掘削など30年に1回の洪水に対応できるよう治水対策を講じる方針だ。
しかし、委員からは「30年に1回だと、人生で2度水害に遭うことになる」との意見が上がり、田村秀夫・県土木交通部長は「100年に1回との目標は維持する」と述べたが、ダムと同等の効果がある治水代替案は示さなかった。
結局、同委が嘉田知事に提出した意見書では、「社会・経済情勢の変化から、優先的に達成すべき治水安全度を30分の1に下げ、ダム事業を中止し、堆積土砂撤去事業を実施することは妥当」と中止を一応は支持。しかし、「撤去事業の完成後は、速やかに住民の安全を保障する治水安全度100分の1の確保を目指したダム事業及び河川改修、あるいはそれに替わる治水対策の推進を図ること」とし、ダム計画に伴う水没予定地区の住民の生活再建や、地域振興にも早急に取り組むよう求めた。
知事はこれまで、同ダムについて「将来的な建設までは否定しない」とのスタンスを示し、今月20日に県庁で知事と面会した彦根市の獅山向洋市長は「委員会はダムは必要と言っているように思える」と批判した。ただ、河川整備計画に事業が盛り込まれなければダム事業は白紙に戻る上、水没地区の住民の集団移転は行わない方針で、今後、ダム事業が復活する可能性は低いとみられる。
ダム建設は必要とする獅山市長と多賀町の久保久良町長を、知事が押し切った形となった芹谷ダム中止問題だが、水害対策で協力しあうべき県と市町の関係は悪化しており、知事は今後、治水政策を巡っても難しい調整を迫られることになる。
【関連ニュース番号:0901/96、1月16日;0901/51、1月9日など】
(2月23日付け読売新聞・電子版)
http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/shiga/news/20090223-OYT8T00306.html