一公の将棋雑記

将棋に関する雑記です。

悪夢の社団戦(後編)

2009-08-29 02:25:12 | 社団戦
義務教育を受けている男子中学生が社会人とは思えぬが、将棋は大人と子どもが対等の条件で戦える、優秀な競技である。出場資格に制限はないのだ。とはいえ、彼の横の副将は小学生に見える。こちらの副将はM氏だったが、まるで祖父と孫のような戦いで、M氏は私以上に指しづらかったのではないか。
将棋は前局に続いて、私の先手番となった。
☗7六歩☖3四歩☗2六歩☖5四歩。
後手はゴキゲン中飛車をにおわせる。ここで☗2五歩☖5二飛☗5八金なら☖5五歩とくると思った。それなら☗2四歩~☖5六歩と大決戦になる公算が高い。私もこの急戦は嫌いではないが、どうしても☗2五歩と突けなかった。相手のほうがこの定跡を熟知していると感じたからだ。
私は☗4八銀と自重する。しかし中学生を相手に、この気合負けは免れなかった。厳密には、ここで勝敗は決していたのかもしれない。
以下後手は角を換わり、飛車を2二に廻る。いかにもゴキゲン中飛車を指し慣れている感じだ。
相手は1手指すごとにそっぽを向いている。局面を考えるのは自分の手番だけで十分、という態度だ。ちょっとカチンとくるが、私も中学生のときはこんな感じだったのだろうか。
将棋は持久戦になった。ここで、唯一の勝負所だった局面を示してみよう。

先手 私:1六歩、1九香、2八飛、3六歩、3七桂、4六銀、5六歩、5八金、6六歩、6七銀、7六歩、7七桂、7八金、8七歩、8八玉、9六歩、9九香 持駒:角、歩
後手氏:1一香、1四歩、2二飛、2四歩、3三桂、3四歩、4四銀、5四歩、6二金、6三銀、6四歩、7二金、7三桂、7四歩、8二玉、8三歩、9一香、9四歩 持駒:角、歩2

局面は☗2四歩と突き捨てたところだったか。ここで☗2三歩は☖4二飛☗2四飛☖3五銀☗同歩☖4六飛と捌かれて悪い、と読んでいながら、そう指してしまった。まったくどうかしている。
もうこれで劣勢なのだが、以下の進行を記せば、☗4七歩☖3六飛☗4八銀(泣きたい1手)☖6五歩(まったく読みになかった)☗2二歩成☖6六歩☗同銀☖4四角…となり、角の利きを最大限に活かされ、こちらのひどい見落としもあり(もっともここでは敗勢だった)、サンドバッグ状態での無残な敗戦となった。
感想戦では、真っ先に「☗2四歩の突き捨てが悪手でしょう」と言われた。☗2三歩に、幸便に☖4二飛と廻られたからだが、敗着はもっと先だと思っていただけに、この指摘は意外だった。ただ、ひとつ分かったことは、彼の棋力が私より上だ、ということだ。
いつの間にか見知らぬオジサンが感想戦に加わり、さらに局面を検討する。☖6五歩が意外と厳しかったので、それなら先手から突くのはどうか、となった。
すなわち☗4三角☖5二角☗同角成☖同金を利かし、☗6五歩と突くのである。以下☖6五同歩☗6四歩☖同銀☗3一角は先手優勢。
これは後手にも☖6六歩☗同銀☖3九角の筋が生じるが、これは飛車を見捨てて☗6七金右が好手で、後手は☖2八角成と飛車を取っても、馬の働きが今ひとつとなる。
オジサンはなぜか私側を持って検討してくれていたが、やはり同年代に肩入れしたくなったのだろうか。この方の棋力も、相当あると見た。
4局目の扇子は中井広恵女流六段の非売品直筆扇子を用意したが、かようなわけで、またも開かれることはなかった。もっとも感想戦ではこちらもアツくなって、つい扇いでしまったが。
M氏も必勝の将棋を負け、チームも1勝6敗の完敗となった。全4局が終わってみれば、個人、チーム成績とも1勝3敗だった。戦前は、個人もチームも4勝0敗と信じていただけに、この結果はかなり堪えた。
大会が滞りなく終了すると、今度は撤去である。また私は学生時代を思い出す。
テキパキと動いて、会場が朝来たときと同じガラーンとした状態になり、私たちも引き揚げる。
この後は、チームのメンバーらとちょっと豪勢な打ち上げとなった。惨敗だった私はグゥの音も出ない。ちなみに、LPSAファンクラブ会員の宣伝本部長・R氏は2勝1敗。負けた1局も、強豪のKK氏相手に善戦しており、チームの成績が全体的に悪かった中で、R氏は今回のMVPだった。さぞや美味い酒だったろう。
打ちひしがれている私に知り合いの女性が、私のブログの意見を述べる。
「私は一公さんが月見栞のことを書いてもいいと思うの。だけど女流棋士をおばさん呼ばわりしたことがあったでしょ。あれは許せない。
男はさァ、歳を取っても味が出るとか別のいい方があるけど、女性にはそれがないでしょ。ああいう言葉は安易に使わないでほしい」
彼女は私をまっすぐに見ると、そう言いきった。
「おばちゃん」云々は、ジョークのつもりで書いたのだが、同性の立場から見ると、笑って看過できない書き込みだったらしい。これはまったく正当な主張であり、私は返す言葉がなかった。
彼女は私を冷めた目で見つめ、口もとの端を上げて、「この人どうしようもないわね」と言わんばかりに、薄く笑みを浮かべていた。いつもは温和で優しい女性なのだが、このときは、その表情が怖かった。
というわけで、大山康晴15世名人の命日だった7月26日は、本当にいろいろあった。しかしいい経験にもなった。私はLPSAの女流棋士に、公式戦の前に「頑張ってください」と激励したことが何度もあった。しかしそれが彼女らにとって、いかにたいへんなプレッシャーとなっていたか、私はまったく分からないでいた。
むろんプロとして活動している以上、ファンからの声を無碍にはできない。しかしこちらも、軽い気持ちで口にしていたところもあったのだ。これからは、激励の伝達方法にも、一計を案じる必要もあると痛感した。
さて、明日30日は社団戦の3日目が行われる。私は幸いなことに、いや残念なことに、地元の夏祭りがあって参加できない。しかし社団戦には魔物が棲んでいる。参戦されるLPSAチームの皆さまは、かかるプレッシャーを撥ねのけて、悔いのない将棋を指してください。
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9 コメント

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小学生 (洋志)
2009-08-29 03:54:40
 小学生、2年生に負けたときは、熱くはならなかったが、意気消沈した。感想戦で一手だけ、指摘しおって。
 もう一人、Wプロが小学生になりたての頃。すでに風格があった。とても勝てる気がしなかった。

 女性は歳をとっても、単なるおばちゃんか。 そういえば、いやな歳のとり方をする人もいる。けれども、そうでもない人もいるけどな。 そのお方、コンプレックスがあるのか、イッコーさんに気があるのか、どちらかでしょう。断じます(笑い)。
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そのおじさん (江戸川)
2009-08-29 08:51:19
もしや私では・・・・・
あの局面、子供さんが主張するほど良いとは思えなかった。
あの程度(失礼)の局面で勝ったつもりでは彼もそこまでと思いました。
ちなみに、私は弱いです。。。ごめん
今期は役員業の方が中心のため4部の方もちょくちょく覗かせて頂いています。
これからもよろしくお願いします。
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LPSAがんばれ~(^^)/ (LPSAファン)
2009-08-29 09:48:00
昨日はありがとうございました。
とても楽しかったです^^

LPSA女流の皆さんには、応援を、プレッシャーではなく良いエネルギーに変えてもらえるといいですね^^
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確かに (かをる)
2009-08-29 12:13:26
やたらと「がんばれ」と言うのも確かに考えものかもしれませんね。誰よりも勝ちたいのはご本人のはずですし。かと言って何も言われないのもそれはそれでさびしいかもしれず、結局のところ時と場合による、ということなのかも。

 ☆LPSAファンさん
昨日はありがとうございました。またお時間のある時にはご一緒したいです(^^)
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花とおばさん (すぐり)
2009-08-29 14:44:01
ちゃんと 「おばちゃま」 と言わないから怒られるんですよ。
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狙いのコースか危険球か (第一ROM大隊R900)
2009-08-29 17:18:56
「おばさん」発言と月見栞さんネタは二つとも経緯をちゃんと読んでいれば基本的に共感もしくは理解できる楽しいお話だと思いますが、オブラートが非常に薄い(もしくはかなりの直球 笑)のでLPSAの女流棋士やファンが読むと複雑な気分を生じさせる要素を含んでいるとは感じました。過激な表現は両刃の剣といったところでしょうか。あるいはノーガード戦法とも言えるイッコーさんのこのブログでの表現にはある種の畏敬の念すら覚えますが、個性として定着するかアレルギー反応の憂き目に会うか、今後とも陰ながら応援しつつ注意深く見守って行きたいと思います。(笑)
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Unknown ()
2009-08-29 22:19:05
前編・中編・後編、拝見させていただきました。
臨場感たっぷりの文章で、面白かったです(^^)

団体戦は、学生以来やっていないので、やりたいなあ。

おばちゃんネタですが、ジョークとはいえ素直に書けるイッコーさんに憧れます。
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明日、社団戦 (para)
2009-08-29 22:29:33
明日、参加できない一公さんの分も社団戦を楽しんできます。押しつぶされるようなプレッシャーも、何もかもひっくるめて味わってきます。
もちろん、一公さんの声援も忘れずに頑張ってきます。
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返事8つ (一公)
2009-08-30 01:23:00
洋志さん
私が中学生のとき、大人の人に勝ったら、その人は負けたくせに、私の手合いカードを持って、手合い係に渡したことがありました。私に●がついていました…(笑)。大人が子どもに負けるのは、つらいものがありますね。もっともプロ棋界では日常的ですが…。
私に意見した女性は既婚ですが、気があるのかなぁ…。

江戸川さん
コメントありがとうございます。
と同時に、オジサン呼ばわりしてしまい、申し訳ありませんでした。
以前女流棋士スーパーサロンで、上田先生に指導対局を受けていた青年のことを書いたら、その人からコメントを頂戴し、どこで誰が読んでるか分からねぇなぁ、と気を引き締めたものでした。
30日の社団戦には行けませんが、LPSAのゼッケンを見かけたら、また感想戦でアドバイスをしてやってください。

LPSAファンさん
こちらこそ楽しませていただきました。
それにしてもご職業が「先生」とは驚きました。またよろしくお願いいたします。
LPSAの皆さまが、私たちの応援を、そのまま力に変えてくださるといいんですが…。

かをるさん
これはホントにねー、軽々と声援を送れなくなってしまいましたよ。LPSAの皆さまが…以下同文。

すぐりさん
「おばちゃま」でもダメです。「王将」を「王様」と呼ぶのと変わりませんから。

第一ROM大隊R900さん
これは…結局ホメられているんでしょうか?
LPSAの皆さまはオトナですし、理解があるので、過激な文章も大目に見てくださっている気がします。
事実、私のブログを読まれている女流棋士も、私に対する態度が変わっておりませんので…いや、変わったんだった…(笑)。

俊さん
臨場感がありましたか。本人は不甲斐ない成績が悔しくて、それをブログにぶつけただけなんですが…。
俊さんも、社団戦の類に出られたらいかがでしょうか。結果次第では、かなりへこみますけど…。

paraさん
30日の社団戦は、楽しんできてください。
ただ、私は別に、皆さんに声援は送ってませんが(爆笑)。とりあえず、チーム4勝0敗を祈っています。
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