2011年の1月27日、たてこんだ就活のあいまをぬって、ひさびさに温泉にいってきちゃいました。
三浦半島の逗子葉山の山奥の秘境にある---あの「星山温泉」へ!
横浜市内からだと、クルマでだいたい所要時間40分くらいの距離ですか。
実は、こちら、知るひとぞ知る、知らないひとはまったく知らないという、いささかスペシャルな温泉なんですよ。
どういう意味でスペシャルかというと---うーん、まあ、ページ頭にUPした全景写真を見てやってください---初見のおひとはたいていのけぞるかと思います。
事実、僕が写真を見せた8割のかたが、
----えっ。これ、温泉なの…!?
と、一瞬の空白をおいての絶句顔に、みんななりましたもんねえ。
まあ、むりもない、理由はわかってるんです。世間のひとが温泉というものに対して抱いているイメージのほとんどが、この「星山温泉」には欠如してるんですから。
その1としては、まず、冒頭写真に見られるような建物の外貌ですね。
誰が見たって完璧なバラックで廃墟すれすれ。あと、写真のトリミング外になってるんですが、画面のむかって左側には、廃材みたいな巨きな木材が、それこそ家3件分くらい、無造作にダボーッと積みあげられているんです。それが小山みたいになってる。これ見て、ああ、ここにぜひ宿泊したい、と思う危篤な方はまあおらんでせう。
その2としては、営業努力がこれっぱかしも見当たらないこと?---だって、ここ、立て看板の1枚すらないんですよ。温泉があるということを知らせるための1文字すらない。
要するに、あらかじめ存在を知らないひとは、絶対ここにはこられない!
ここに至るまでの道も難所の連続ですからね。このバラックのある山奥の高台にいきつくまでには、こちら、クルマ1台がやっとの幅の、超手狭な、叢に覆われた、視界の効かない、急坂のくねくね私道を、勇気をもって、いくつもクリアしなくちゃいけません。
行ける、という情報があってこれですもん。知らないひとは、それこそ辿りつきようがありません。
ですがですがですが---こちらの温泉、案外、人気があるんですよ。
なぜ?
----うーむ、たぶん、名湯だから…。
実際、この日の午後にこちらに訪れたとき、イーダちゃんのまえに先客さんがもう3人もいらっしゃったんですよ。
僕は、ここに通うようになって3年目くらいになりますけど、3人待ちってパターンは初めてだったな。(こちらのお風呂の湯舟は、一般家庭用のステンレス製のもので、基本的にひとり仕様です。だもんで、こんな客同士がバッティングした際には、このような待ち時間が必要なわけ)
山のなかは町よりさらに冷えこんでいて、ご主人が番待ちの我々のために火をおこしてくれました。
で、皆で火をかこんでお風呂の番を待ったんですよ---ときどきお喋りしたりしながら。いかにも地方っぽい温泉地ならいざ知らず、こんな神奈川の都会近郊の温泉で、このようなカントリーなあったかい会話ができるとは思ってなかったイーダちゃんとしては、予想外のこうした事態にやや頬がほころんじゃったことを、ここに告白しておきます。
ええ、愉しかったんですよ---ぱちぱち焚火を眺めながらの温泉番待ちってとってもいいの。
ふいに叢がかさっといって、なんだろ? とそっちに視線をむけると、そこからささーっとすばしっこいリスがいきなり駆けてきたりして…。
---あららら…リスですよ、ほら、リス…!
横浜からほんの30分あまりの近郊で、よもやこんな山小屋気分を満喫できようとは思わなかった。
僕のひとつまえの風呂待ちの男のお客さんは、おなじ横浜からの訪問さんだったんですよね。この方はこちらの温泉がはじめてだとおっしゃるんで、泉質についていろいろとお喋りしました。えーと、こちらのお湯はですね、基本的に鉱泉を薪で暖めたものなんですよ。だから、お湯に入ってるとき、こちら、薪のにおいがするんです。泉質的には、アルカリ度の高い透明湯。あと、肌触りは、超・トロットローでね……なんて。
とりとめのないそんな話をしつつ、ときどき焚火の炎に両手をかざしたりするのは、なんともいえないノスタルジックな情緒がありました。なんか、お風呂に入るまえにすでに癒されちゃったみたいな感じ。
そうだ、そのときの写真もUPしておきませうね。
待ちあいのテーブルが正面の白いやつ---あと、肝心のお風呂があるのは、正面の青いバラックのなかです。
最後の番待ちのとき、ご主人にお金---入浴料の500円です---を払い忘れていることに気づいて、バラック裏で窯焚中のご主人にお金を払いにいったら、なんとはなしにお喋りがはじまりました。
そこから仕入れた豆知識を少々---えーと、まず、こちら「星山温泉」の開祖は、ご主人のお父さんである。
このお父さん、肉屋のチェーンをやってられて、あいた時間を利用して、当地にアスレチック・クラブ---夏にはキャンプ場にもなった---をひらいたそうなんです。当時はトランポリンが10個くらい置いてあって、夏のキャンプ時には、テントじゃないトランポリン上で眠っちゃう子供なんかもけっこういたとか。
こちらの数多くのバラック小屋群も、すべてはそのお父さんの手作りだというんだから、そのバイタリティーにはたまげちゃいます。
ご主人自身も笑って、
----まあ親父は丈夫でガタイがよくって、90まで生きたひとですから……。
なんていいながら、目を細めて笑ってられました。
井戸を掘ってこの鉱泉がでてきたのは、20年くらいまえのことだそうです。
で、窯焚の薪のけむりにいぶされながら話しこんでいたら、僕のひとつまえの横浜発の叔父さんが、ああ、お風呂終りましたよー と満足顔で僕を呼びにきてくださいまして、ま、ひさかたぶりの「星山温泉」のご入浴とあいなった次第であります。
いやー、何度入ってもいいお湯ですわ、ここは…。
足首から腰までお湯入りした時点で、いっつもそのトロトロ度に身体が驚くの。
頭じゃじゅうじゅう分かってるはずなのに、身体が嬉しがるんです。うわー こらあ、トットロやないですかって。
僕は、nifty温泉さんのクチコミでも書きましたけど、ここのお湯、お尻の肉近辺にいちばん効くみたい。特にお尻下部の柔らかいお肉が、いつもお湯のトロトロ度に共鳴してめろめろによろめく感じ。僕は痔持ちじゃないんですけど、痔持ちのひとにはここのお湯さぞ効くんじゃないか、と思います。
足、運ぶだけの価値のある温泉ですよ。温泉以上に清潔に気を使われる方からすると、とても理解できない、怪しさと猟奇満載のカオス空間かもわかりませんけど、僕は、ここのお湯はとても好きだなあ---。
この写真を見たら女性なんか引いちゃうかもなあ、とUPするのためらっていたんですが、やっぱりあげておきませう。
ここほど滑らかで、新鮮なトロトロ湯って全国規模でもけっこう稀だと思いますもん。
実際、あの温泉チャンピオンの郡司さんもこちらの温泉のこと、その著書のなかで紹介されてるんですよ。(郡司勇「一湯入魂温泉」山と渓谷社168P) 僕もいちばん最初にここを知ったのは、この著書のおかげなのでありました。
最後に、クルマでこちらにおこしになろうってひとのために、「星山温泉」への簡単な経路をちょいと書きだしておきませう。
横浜新道を逗子で降りて逗葉新道へ→逗葉新道の料金所(100円)をすぎたらひとつめの信号を左折→湘南国際村の交差点を右折して「水源入口」の看板を左に→で、「水心堂 魚のハクセイ館(現在は休業中)」の細道をいき、5差路(まるで迷路のような)のむかって2つめの細道を右折→すると、すぐお地蔵さんがあります。そこの前を左折(ここ、超・細い急下りの激坂です。気をつけて!)→で、バラックみたいな家が見えてきたら、そのまえのガタガタ山道を左に---低い車高のクルマだと擦るかもってくらいの、未舗装、がたがたの凹凸道ですんで、シャコタン系の改造車はだめ、絶対に通れませんよ---あとは終点までいけば、はい、そこが目的地の「星山温泉」でーす!
湯あがりに少うし炎の小さくなった焚火にもういちどあたって、ご主人にどうもって挨拶して、鳥の声、木々のざわめきに見送られながら帰るときの満足度は、ちょっと言葉ではいいつくせぬほどのものでした。
ひさびさにいい午後をすごせた感じで、よかったあ…。温泉ってやっぱ、イーダちゃんの癒しのためには最強のアイテムみたいです---。(^.^;>
おっと。駄句がひとつひらめいたい。
----襟元に薪の香りを引きつれて笑みつつ帰る星山温泉…。
おあとがよろしいようで---お休みなさい…。<(_ _)>