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去年のしまいごろ、岩井俊二監督の「リップヴァンウィンクルの恋人」ってのを観ました。
近所の Tutaya でみんな借りてるから、たぶんいい映画なんだろうなってのが、観た動機。
岩井俊二氏が「スワロウテイル」や「花とアリス」なんかも撮ってるひとだって知識も、その時点じゃゼロでした。
僕、どちらも借りて観たことあるんだけど、たしか、どちらも5分ばかり観ただけで、あとはまったく観なかったと思う。
----うわー、たりぃ映画だなあ、これ…。
で、あくびしながらPC切っちゃって…。
岩井さんの映画って、なんか、スタートダッシュかけない派じゃないかと思うんですよね。
この名画「リップヴァンウィンクルの恋人」についても、ほぼ同様なことがいえます。
最初、黒木華演じる七海がネットで見つけた鉄也と結婚して、物語全体のいわばテーマであるところの里中真白(Coocco)と出会うまでの展開は、僕的にはもうひたすらダルかった。
ただ、これってもしかしたら、物語のテーマを超・大事に思ってる監督の戦略かもしれない。
だって、これ、いきなしテーマからはじめたら、この映画、ただのありふれメルヘンになっちゃうかもしれないから。
そうさせないために、用心に用心を重ね、岩井監督の日常のデッサンは延々つづきます。
七海が離婚して鉄也家を追ンだされていよいよプーになり、生活のために「なんでも屋」の安室と再び絡むまで、だいたい30分くらいかな?
そして、この間、僕等は、岩井監督の眼鏡を通して、彼の日常へのウンザリ目線と付きあわされるって仕組みになってるんだけど。
岩井さん、藝術家ですもん。
「ボヴァリー夫人はわたしだ!」のフローベルじゃないけど、退屈な日常に対してゲンナリしてないわけがない。
ま、ゴダールほど日常の市民生活に「侮蔑」の念を塗りたくるわけじゃないんで、また、時事的なネット社会や、そうしたネット社会を通じてはじめて展開できる「なんでも屋」みたいな商売をモダンに言及してもいるんで、そこそこ見れはするんだけど…。
しかし、物語がこうした伏線部を経過し、いかにもうさん臭げな「なんでも屋」を通じて、七海がAV女優の里中真白と出会うと物語は急転。
ここからの展開は、すさまじかった----僕、魅入られちゃいました。
いや~、岩井俊二監督「リップヴァンウィンクルの恋人」、超・名画です…。
やられた~、と呻るしかないな、これは。
このこしゃまっくれてスレ切った、物質主義のゆきついたような平均主義の現代に、こんなにも美しい映画をつくるなんて、なんて凄い監督だ、あんたは、岩井さん!
で、調べたら、このひと、僕とおない年でした----しかも、誕生日が僕と3日ちがいの水瓶座ときた。
3日ちがいってことは、たぶん、月の位置は、水瓶あたり----金星の位置は射手座にまちがいないでせう。
アセンダントは分からないけれど、いずれにしてもいかにも「風」&「風」の配置のひとのつくった映画だなあ、という香りがぷんぷん匂いたつような映画です。
映画観てないひとにネタバレしちゃうとマズイからいえないけど、この真白ってAV女優は、いかにも破天荒な、危ないキャラとして描かれているんですが、その内面の繊細さと脆さをデッサンするときの岩井監督のまなざしときたら、ちょっと形容するコトバに困るほど優しいの。
それは、もう破格の優しさ……。
七海とふたりでウェディングドレスの店を訪れ、そこでで試着する場面…。
そのウェディングドレスを購入して、それを着たままねぐらである無人の邸宅に帰り、ほとんどレズピアン・ラヴのようなタッチで語られる、真白の童女みたいな舌足らずの告白……。
----あのね、宅配のひとがウチにきて、親切に荷物を部屋のなかまで運んでくれるでしょ?
そんなとき、あたし、ああ、あたしなんかのためにこのひとこんなことまでしてくれて、なんていいひとだろうっていつも思うの…。
そうして、あたしにこんな優しさを届けてくれる世界って、なんていい場所だろうって染みこむように思うの…。
そりゃあ、ちがう、彼等は商売だからそうしてるんであって、その親切はただのサービスなんだっていうひともいるし、あたしだってそのへんのところは分かってる。
でもね、だからといって、そのひとらの親切がまるきり100%のうそだってことにはならない、と、あたしは思うの。
そのうちの何パーセントかは、やっぱり真心からの親切だって思えるし、あたしとしてもむしろそっちのほうがいいの…。
だって、この世のすべてにそんな親切が満ちあふれていたら…、あたし、壊れちゃう……。
容量がもう、耐えきれない…。
あのね、七海……、お金っていうのは、みんなわるくいうけど、そんなことない……弱いひとの心を剥きだしの親切からちゃんと守って、役に立ってくれてるの……そう、お金っていうのはね、七海、この世のそうした親切を隠すために、あるんだよ……。
クライマックスの真白のこのとどめのささやきをスクリーン越しに聴いたとき、僕は、不覚にも涙がこぼれちまった。
映画のクライマックスのこの場面、このセリフを歌わせるために、すべてのシチエーション、すべてのストーリーが入念に編まれていたなんて。
構造的には、まさに「能」----七海がワキで、真白がシテで----真白にこの純白のアリアを歌わせるためだけに、この映画全体の額縁が必要だったんだなあ、なんて僕はつい思ってしまったよ。
真白の死後の真白実家での大騒ぎは、まさしく挽歌でせう。
名もなく、益もなく、世の淵から押し出されていく、小さな、キレイな魂たちにむけられた切なすぎる挽歌……。
そうした意味で、こちら、非常に深い、近来珍しいタイプの宗教的な映画である、といっちゃってもいいのかもしれません。
映画観て泣いたのは、僕、ひさしぶりでした。
まあ映画ですから、好き嫌いとかもいろいろあるでせう。
平明なタッチで描かれてはいるけど、こちら、とってもクセの強い映画だから嫌うひともそりゃあいるでせう。
けど、そうした諸事情をあえて踏まえたうえで、僕は、こちら「リップヴァンウィンクルの恋人」を推薦したいと思います----。
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あ。あと僕、去年の師走に神保町を徘徊してとき、偶然、ピエトロ・ジェルミの「刑事」のDVD入手しちゃいました。
「死ぬほど愛して」の主題歌で有名な、1960年封切りの、むかしむかしのイタリア映画。
ピエトロ・ジェルミっていったら、あーた、あの「鉄道員」の監督兼主演の伝説男じゃないですか。
(ただし、イーダちゃんは「鉄道員」にかけては、点が辛いの。あのラスト、甘すぎるってば!)
あそこから甘さを剥ぎとって、極上のハードボイルドの逸品として仕上がっているのが、この「刑事」なのよ。
時代の風俗もたまらんし、登場人物の人間臭さもいちいち濃すぎてまいっちゃう。
「リップヴァンウィンクルの恋人」と並んで、このピエトロ・ジェルミの「刑事」も、この場を借りて推薦しておきたいですねえ----んじゃま、夜も更けたことだし、そろそろ星に帰りますかね?----どすこい、皆さん、お休みなさい……。(^0-y☆彡
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