
安達哲さんといえば、あの大ヒット作「お天気お姉さん」とか、キュートなのか枯れてるのかよくわからない、日なたぼっこみたいな佳品ともいうべき「バカ姉弟」だとか---がなんといっても有名ですが、デビュー作から2作目にあたる初期作品に「キラキラ!」というのがあるんですよ。
20代の後半のある1時期、イーダちゃんはこの作品にめっちゃハマっておりました。
これだけひとつの作品世界にのめりこむことはもう2度となかろうって思えるくらいのハマりよう---朝から晩までこれの全8巻に読みふけっていて、気づいたらまる1日が暮れちゃってた、みたいな週末がたしか2度ほどあったように記憶してます。それくらい、この「キラキラ!」が好きでした。
安達哲さんは、胸がきゅーんと痛くなるくらいの切なさが身上の抒情作家です。
抒情作家の旬って案外短いんですよね---なんといっても「感性」一発の世界ですから。
その旬をめいっぱいつめこんで、恥ずかしげもなく思いきり青春の汗やら涙やらを振りまきながら輝いているこの「キラキラ!」---私見でいわせてもらうなら、僕はこれ、安達さんの最高傑作と思っています。
ストーリーはというと、ま、ありふれた学園青春モノという分類にあたると思うんですけど。
主人公は、冒頭にUPした表紙写真のむかって右側にいるほうの男の子。彼、作品内で自己紹介めいたことをちょっといってるんで、それ、ここでちょい使わせてもらいませう。
----オレ 杉田慎平 都立高普通科の二年生 生活は毎日煮つまってる…。 (講談社「キラキラ!」より)
だそうです---うむ。
この杉田慎平クンが煮つまった退屈な高校日常に活路を求め、青晶学園というという私立の芸能科に転校するところから、この物語ははじまるんですね。
物語全体の舞台であるこの青晶学園というのは、芸能科の存在をウリに生徒を募ってる高校なんですよ。
客引きパンダならぬ生徒集め用特別部隊といったところです。学園側も特別扱いして甘やかしているし、まあ、彼ら自身も甘やかされることに慣れきっている。そうして、華やかで刺激もいっぱい、芸能人が半数近くもいて、恋バナもそこいらじゅうにあふれているような、この新たなる学園生活のなかで、慎平クンは表紙の左側にいる美少女、当物語のヒロインであるところの戸田恵美理とまずもって出会うわけ。
で、さまざまな人間模様とロマンスをはらんだ物語世界のはじまりはじまりーっ!
てなわけなんでありますが、この漫画、スタートからほんとに瑞々しいんですわ。
最初は、芸能界関連の話なんかがやたら理想化された憧れの世界みたいに描かれてて、「うわ。なに、このミーハー!お水っぽー」とか思っていたのですが、読み進むにつれ、だんだんそんな軽口がたたけなくなってきた。
感情移入しきったキャラクターの性格づけのリアルさとか、あと、ときどきストーリーがふと立ちどまって、慎平と恵美理とのあいだに刹那の愛情がキラリ! と通うあたりのデッサンとか。
切実でした。繊細でした。漫画のなかの恵美理の表情にあわせて、いちいち胸がきゅっと締まるんですよ。
作りモンじゃない、裏側にかすかな痛みの気配の伴った、物語の生き生きした展開に、もう、魅了されました。
旬の抒情作家の、疾走する抒情の勢いをとめられる奴なんて、どこにもいやしません。
たとえば、このページなんてどうです---?

ちょっと思ったよりだいぶ小さくなっちゃって、判別、難しいかと思うんですが、これ、彼氏のいる若菜に惚れて訪ねてきたけど夜中に部屋から追いだされた主人公・慎平と、彼氏と小競り合いして落ちこんでる若菜を心配して訪ねてやってきた恵美理とが、偶然若菜邸まえで出会ったときのシーンなんです。(知らんひとはなんのこっちゃ、ですよねえ。スミマセン m(_ _)m )
このふたり、なんとなく気のあう同士なんですよ。それは当人同士もうっすら気づいてる。
でも、若さと、思わぬ夜中の出会いだというシチエーションが、ふたりの態度をふだんよりぶきっちょに固くしてる。
ふたりともお互いにちょっとづつ警戒してて、あと、わずかばかりの照れもある。
特に、電信柱のうえの恵美理にむかって、
----おまえこそなにやってるんだ、バーカ…。
なんていってつっぱって、わざと乱暴な口調でもって内心の照れを気取られないようにしている、主人公・慎平---マフラーとコートで電柱上の恵美理を見上げている少年です---の可愛いことったら。
ああ、覚えある、ある! と、あらゆる男子は自らの少年時を思い出し、頭を掻きむしるべきシーンですよ、ここは。
ここで頭を掻きむしんないのは、碌な大人じゃありません。
それにしても、安達先生、青春期特有の恋愛への甘い憧れと、それと相反する不安とを実にうまくコンパクトに処理されたもんですねえ。ええ、グッド・ジョブです。安達先生は詩人ですね、根本のところが。
しかし、詩人で繊細だということは、恋愛時の極上のハッピー波動も感知するけど、それと同時に、恋愛最下部のドロドロのマイナス波動をも感知して反応してしまうということです。
繊細ってたぶん、諸刃の剣なんですね。
この「キラキラ!」においても恋愛のそっち面への降下というか、人生の影の面に没入していきがちな、この作者特有の「堕ちたがり」の性癖が、すでにあちこちに兆しているのが感知可能です。芸能界にデヴューして次々と認められていく恵美理に恋して破滅していく秀才キャラ・奥平クンとか、あと、慎平から恵美理を奪ったものの、運命のイタズラから暴力団の刃に倒れ夭折してしまうケンだとかがいい例ですね。
こうした闇側の破滅キャラが大きく育っていって、遂には作品そのものを飲みこんでしまうほど「無明」が濃くなったのが、恐らく次作の「さくらの唄」だったのではないでせうか。
あ。ちなみにイーダちゃんは「さくらの唄」は苦手。
連載されていた「ヤンマガ」でも、あれ、後ろのほうに掲載されていたことが多かったんじゃないかな。だって、あまりに暗すぎましたもん。
最終的に作者は「藝術」を人生の常闇からの脱出口として設置したかったようだけど、最期まで読んでいくと結局「藝術」も闇側に呑まれちゃってますよねえ。安達さん自身もくたびれてて、人生で迷子になったみたいに足場も分からず、途方に暮れてる感じとでもいいますか。
あれ、画いている本人さんも「藝術の勝利」なんて信じてませんよ。
いちばんいけないのは「青さ」がないこと。「青さ」と背伸びは若者の特権ですもん。それを手放したら若者なんて、ただの野犬といっしょです。だから、後味わるいんですよ、この漫画。
おっと、話がとびました、「キラキラ!」にリターンをば。
「神は細部に宿る」なんて有名な言葉がありますが、この「キラキラ!」においても注目すべき細部はいっぱいあります。
超・個人的にイーダちゃんが推薦したいのは、ここ---。

これ、先輩タレントの別荘に若菜といっしょに連れこまれて、貞操の危機をひしひしと感じている恵美理が、先輩タレントが部屋を出たすきにとりあえず救いを求めて内線の電話をとったら---携帯のない時代、なんか懐かしいっスね---たまたま皆と遊びにきていた下の部屋の慎平に繋がったったという場面なんですが…。
----恵美理:あんたンとこのメンツじゃないの? 何匹かこっちきてるわよ。うるさいからさっさとひきとりにおいで!
----慎平:だれだ おメー? 高ビシャにざけんなよ ここおめーんちかよ----- これでもくらえっ はっはっはっ! (ガラガラうがいしながら送話器にむかって大笑い)
----恵美理:これ どこのバカ? (あきれながら受話器から耳をはなして)
この慎平のうがい笑いのギャグは、いまでも好きっス。
というかぜひとも実地で使いたい。携帯時代になってから飲み会で何度か使ったことありましたけど、相手とシチエーション顧みずにおなじ流れだけやってみせてもねえ---ええ、あんまり受けませんでした。ぐっすん。
あと、安達先生、夜の描写がいいんですよ、とても。いま僕が紹介したほかにも---慎平が恵美理とふたりで夜の街をはじめて徘徊するシーンとか、公演をバックれた恵美理をむかえる慎平の仲間たちが、皆で、夜中の青晶学園で突発的なライヴをはじめちゃうところとか---胸がきゅんとよじれるような、極上ポエジーがつまったシーンがそこいらじゅうに目白押しです。
さすがに89年の作品ですからいまじゃあまり見かけなくなりましたが、ネットで探すか大きなネットカフェとかにいけば、たぶん、なんとかなると思うんですけど、どうでせうかね?
安達先生じゃないけど、結局、ニンゲンって「キラキラ!」なんじゃないでせうか。
この「キラキラ!」の瞬間をもとめて、僕らは生きてるんじゃないかなあ。
少なくとも僕はそうですね。恋をするのも旅をするのも温泉巡りするのも音楽を聴くのも---すべては、生命がぱっと燃えあがる、この「キラキラ!」の瞬間のためだと思ってる。
残りの人生であと何回「キラキラ!」できるかはわかりませんけど---ねえ?---なるたけ多く「キラキラ!」していきたいものですねえ。(^o^)/
滅多に見ない@niftyを見ていてビックリしました、また何処かでお会い出来れば楽しいですね。
まだ全部@niftyを読んでないのですが温泉の趣向が同じ様で後ほどユックリ読ませて頂きます。
smiyaga@hotmail.com
いや、先日は「太閤湯」で本当に楽しい湯浴みができました。叔父さんのおかげです。楽しかったですねえ。楽しくて楽しくてしようがなかった。感謝します。
しかし、僕は最近niftyさんにはあんまり投稿してなかったんですが、偶然にびっくりです。
また、いつか、どこかの温泉で会いましょう。(^^)
そして、書かないはずのクチコミを、自分も入れてしまいました。一日違いに箱根に行っているというのがというのが、ね☆
以前もそんなこと、ありましたね。
いつも丁寧なお返事をありがとうございます。
僕もいまさっき気づいたんですが、ほんとに1日ちがいの箱根探訪になってますねえ。ええ、たしかまえにもそんなことがありました。偶然というか、ふしぎな気がします。
いつも暖かい励ましをありがとう。よいお年を
エミリのさらさらストレートに憧れて縮毛矯正を初めてしたのもこの頃でした。
今から押し入れをひっくり返してみます。
エミリ、いいっスねえ。親父さんと喧嘩して、帰って花瓶にシーンはいまも好き。
あと、脇役の女高生のおでこの広い純朴なコ(ラグビー部のマネージャーのコ)も僕は好き。
「タックルは腰から下ーっ!」のあのギャグはいいなあ。
押入れヒッキー中の「キラキラ」によろしく!
忘れられないのは純情そうな子がチョイ悪っぽいのと付き合ってて「ダメ、ゴムつけてよ、んんっ!」と言ってるのにおかまいなしにと生挿入されるシーン。女性蔑視を意識した瞬間でしたね。そんなシーンありませんでした?
それは、たぶん、バンドマンの不良のタクヤが恋人のアイドルの若菜といちゃつくシーンだったと思うんだけど、特に女性蔑視というようなアングルではない、無邪気な描写だったように思います。
キラキラ、のことを検索してたら、こんなにキラキラ愛が溢れてるので、足跡残します。
自分にとっても、このキラキラは、青春のすべて要素が入っていると言っても、過言ではありません。
2019年の今日、部屋を片付けていると、出てきたキラキラを、再読。本当に、あの頃を思い出す、素晴らしい作品です。