第6位 ★加賀井温泉「一陽館」★ 長野県長野市松代町東条55 026-278-2016
茶色い鉄泉といってまず閃くのは、秀吉の愛した「有馬温泉」、日本海に面した青森・黄金崎のあの「不老不死温泉」なんかであり、僕だってむろんのことこれらの名泉を高評価するのにやぶさかじゃないんですが、僕の場合、それよりももっと上位におきたい、いわば贔屓筋の特濃鉄泉ってのが、まあ三つばかりあるんです。
それが、和歌山駅すぐのとこにある「花山温泉」、奈良最奥地の入之波温泉元湯「山鳩湯」、それに、長野の松代ってとこのごく目立たない一角にある、この加賀井温泉「一陽館」さん…。
これら三つの温泉は、どれもとびっきりの伝説鉄泉であり、どれが上か下かなんて評価はとてもじゃないけどできないんですが、あえて贔屓の匙加減って観点からいけば、僕がもっとも愛でているのは、たぶん、最後の加賀井温泉「一陽館」さんなんじゃないか、と思います。
ええ、それくらい、ここ「一陽館」さんのお湯ってスペシャルなんですわ…。
うそだと思うなら、まずは記事上にUPしたフォトをご覧あれ---!
ねえ、いかがです、この破格の特濃ぶり?
これを見て呻らないのは、まっとうな温泉好きじゃないと思うなあ。
こちら、クルマでいくと、なんか市街地のはずれのほうにありましてね、看板なんてないし、どっちかというと分かりにくい立地なんスよ。
むかしは有名な湯治場だったようで、宿の建物は当時の湯治棟の名残りだとか。
でも、いまは宿泊はやってなくて、営業は立ち寄り湯のみ。
ですから、まあフツーの宿泊目的の旅行客は、ここ、あんまこられないんですよ。
でもね、実際にここにきてみたら、貴方は、絶対びっくりするはず---だってね、こちらの駐車場、いつきてもクルマでいっぱいなんだから。
僕がここ訪れたのは、2006年の6月25日に2度と、2008年の4月22日の1度と、たった3度きりなんですけど、それでも滋賀ナンバーや前橋ナンバーのクルマ、どしどしとまってましたもん。
ええ、ジモティーやさまざまなファン層に支えられている、実に人望あふれる立寄り湯だってことですね。
なにしろ、こちらは、無条件に湯が凄い。
「湯力(ゆぢから)」が、もう、ハンパないの。
そのあたりの湯力の詳細について、こちらの名物御主人、お客に必ず解説してくださいますんで、まずはそのお話、聴いてみませう。
----ここの湯はね、炭酸成分を多く含んでるんですよ。ほら、ここが源泉です。ちょっと蓋外しますから、顔寄せて、においを嗅いでみてください…。
----(御主人の言葉通り源泉にそろそろと顔を寄せて)うわっ!(と、凄い炭酸臭にのけぞる)
----ねっ、凄いでしょ?(少し微笑まれて)あと、ここの湯で特筆されるのは、湯のなかの含有成分が、ほかのお湯とは段違いだってことですね。家庭の浴槽ぶんの湯量に換算すると、お客さん、ここのお湯、どのくらいの含有成分が溶かしこまれてるか分かります?
----いやぁ、ちょっと量ってのは…。
----なんとね、(トここで御主人意味深に当方の顔をにらんで)バスクリンにして82袋分! そのくらいの有効成分が含有されてる、天然の薬湯なんですよ、ここは…(満足げに)。基本は、含鉄・ナトリウム・カルシウム--塩化物泉の炭酸湯なんですけど、うちでは、いちど炭酸を抜いてから風呂に入れてます…。
このようにここの御主人、一見のお客には、必ず解説してくださいます。
その話しぶりが板についてるというか、なんか、やけに理路整然と整ってるなあと思ってたら、なんと、御主人の前歴は教師だったとか…。
なるほどねー、それならば納得だ---。
で、肝心のこちらの湯なんですが、ここ、細長い屋内の内湯と、野外の混浴露天と、お風呂がふたつありまして。
内湯はもう、湯の析出物が湯舟周りを岩みたいに固めちゃって、もの凄いったら。
湯のかほりも、さまざまな含有物が入りまじって、なんとも凄まじい。
スーパー銭湯によく見られる保健所的な「清潔さ」は、微塵もなし。
ハンパに清潔好きの奥さんタイプなら、ひょっとして嫌悪感もあらわに顔しかめちゃうかも…。
でもね、僕は、はじめてここのお湯をいただいたときから、ここのお湯と浴場の美しさに打たれたんです。
とにかく、ビューティホーなのよ、ここ…。
どこもかしこも濃ゆすぎオレンジ!
湯舟の縁も、その横の板壁も、お湯の流れる樋部分も、なにもかもが濃厚きわまる鉄泉色に染まってて----
でも、長年、お湯の析出物によりしっくりと塗りかためられ、変形・変色しまくったここの浴場は、生半可なスーパー銭湯が数千集まったものより美しい、と僕は思ったな。
まさに、ここには、生半可な一般的市民良識なんかを超越した、有無をいわせぬ「自然力」が横溢しているんです…。
まあ、論より証拠---なにより先に、こちらのお湯に入ってみませう。
掛け湯して、足先からとろとろとこちらのお湯に肩までつかれば、ほぼ一、二秒で、貴方はここのお湯がどんなに凄いか理解するでせう。
成分の濃さを、頭よりさきに肌と全身の毛穴とがまず感じるの。
マジ、湯中の成分が、肌にじわじわ浸透していくノリが感じられるんだってば。
あ。僕は、ここのお湯につかる場合、いっつも鼻と上唇のあいだの、空手でいういわゆる「人中」まで湯に沈めるんですけど、そうすると人体でもっとも敏感な上唇の感触で、湯中に含まれた炭酸のたまんない「シュワー感」が、実によく味わえるんです。
くすぐったくて、なおかつじわじわと体内に浸透してくる、効能ありまくりの、超・濃厚な炭酸-鉄泉!
このレベルのお湯は、ちょっとないぞお---
屋内の内湯も凄いんだけど、こちら、野外の混浴の露天は、さらに輪をかけて凄まじい。
奈良の最奥の、あの「山鳩湯」に勝るとも劣らぬ、とんでもない濃厚オレンジです。
ただ、飲泉すると、うごーっ! とえずきますんで注意。
あと、まちがえて髪を洗ったりすると、翌朝、髪が固まって、もの凄いアフロになってるし…(^0^)/
そんじゅそこらじゃ味わおうたって味わえない、とにかく稀有なお湯なのさ。
僕は、はじめてここに入ったとき、とにかく嬉しくってね、飲泉したり、得意の目玉洗いや源泉の鼻孔吸いを敢行したりしてたら、あっというまに1時間半くらいたっちゃって…
もう、湯立っちゃいましたねえ、完璧に---。
湯立ってレロレロになって、湯舟の縁に頬をあててぐったりしてたら、なぜかそこに雀がチチチと下りてきて---おっと思って湯舟まわりを何気に見てみると、湯からちょっと離れた部分の析出物の割れ目に蟻がマメに這ってたりね---その向こうは葱畑がさらさら---葱畑奥には桃色の牡丹の花が無心にゆれている---で、ぶ厚い析出物に変形した湯口からは、いつまでも源泉がトプトプトプとあふれてて…。
絵に画いたように平和な午後の湯浴みです。
なんも、いうことはなかったですね---ていうか、このレベルまできちゃうと素晴らしすぎて、月並なことなんかなにもいえないよ…。
----うわー、ここってゴッチ湯だわ…。
ええ、無冠の帝王にして関節技の神様であり、猪木や藤原、船木や高田なんかの共通の師匠であった、あのプロレスのカール・ゴッチ…。
陽のあたるメインストリートにはあまりでずに、むしろ道場という日蔭の場所で伝説になった、あのカール・ゴッチの最強称号こそ、ここの湯にはふさわしいような気がします。
お勧め度数120パーセント---御主人の後継ぎがいなくて、この施設の存続が危ないとどこぞのテレビでやっていたそうですから、うん、いまのうち、是非とも飛びこみの湯浴みを敢行するのがいいんじゃないでせうか---ねえ?
第7位 ★湯の峰温泉「つぼ湯」★ 和歌山県田辺市本宮町湯の峰110 0735-42-0074
2008年の11月、会社の首脳部ともめ、抹殺指令がだされていたイーダちゃんは、赴任先の現場でさんざんな目にあっておりました。
直属上司は、なんとしても僕を辞めさせるようにと指令を受け、宮使いの悲しさゆえそれを実行し、当然、僕はそれらの理不尽に公然と反抗し、毎日のように上司や上司寄りの同僚とつばぜりあう、なんとも殺気立ってがさついた、素敵な日常を送っていたのです。
もうね、憂鬱きわまりない日々だった---仕事しながら1日中尖っているのは、疲れる疲れる!
で、そんな日常に厭いた僕は、11月の25~28日にかけて、熊野巡礼の旅にでたのです。
むかしっから熊野は憧れの地だったんですよ。
定家、西行、和泉式部なんかも歩いた熊野古道を、自分の足で行脚してみたかった。
いまでは、これ、糞づまりな環境がいい契機となって、僕に「熊野行脚」への扉をひらいてくれたんだなって解釈してます。
実際、熊野の旅は、天候にも恵まれ、素晴らしかった。
僕、熊野本宮の宿坊「瑞宝殿」ってとこに3晩泊まってね---宿代は1泊3000円也(詳細は、徒然その118☆まことの聖地「熊野・大斉原(おおゆのはら)」にて☆でも紹介してます---熊野の中辺路あたりをおもに歩いたんですよ。
熊野は、なおやかで、優しく、同時に峻厳であり、神秘的でした。
山間の「伏拝王子社跡」から終点の大斎原の大鳥居が見えたときの感激は、いまも忘れられません…。
そんな僕の熊野行の象徴となったのが、こちら、湯の峰温泉にある「つぼ湯」---
ここのお湯は日本最古の自噴湯であり、同時に世界遺産に認定された唯一の温泉でもあるのです。
実際にここを歩いてみると、もう50mほど歩いただけで、旅館なんかどこにも見えなくなっちゃうんですよ。
あまりの小ささにびっくりする、小ぶりでささやかな、山あいの温泉地なんですけど、やっぱりね、町に漂ってる歴史観がフツーじゃない。
湯の谷川の清流にそって、「小栗判官蘇生の地」と書かれているのぼりが何本もはためいてて…。
こちら、近くにある「湯の峰温泉公衆浴場」で、入浴券を購入するんですよ---料金は750円也。
小さいお風呂だから、一度に2人くらいしか入れない、だから、必然的に番待ちになるわけ。
僕が訪れたときは連休後のせいかお客が多く、18番という待ち札をわたされました。
「浴場」のおじさんにいわせると、18番っていうのは、だいたい1時間半待ちのコースだそうです。
ほかの浴場だったら、マジ、1時間半待ち? 冗談いってんじゃねえよ! とかいったノリになるんでせうけど、どういうわけか、ここではまったくそうしたアングリー心理に陥りませんでしたねえ。
----へえ、1時間半待ちか…。だったら、ゆっくり楽しんで待ってやろうじゃないの…。
で、東光寺のまえのお店で購入した生卵を網に入れて、湯の谷川の有名な「湯筒」でもってかぷかぷと温泉卵にしてみたり、そんな僕同様温泉卵作りにいそしんでいる三重発のご夫婦と何気に世間話してみたり…。
1時間半の待ちなんて、あっという間でした。
そうして、17番の女の子のふたり連れと交代して、木扉のフックに18番の待ち札をかけて入った憧れの「つぼ湯」は、嗚呼、サイッコーでしたねえ---。
「つぼ湯」は、長野の五色温泉みたいに日によって色が変化するお湯だそうです。
僕が入ったときは、やや緑寄りの白濁色をしておりました。
当然、自噴泉---玉砂利の細き隙間から、ぷくぷくぷくと新鮮なお湯ちゃんが次々と湧いてきます。
足と尻に触れる玉砂利の感触が、たまんない---入浴5秒ですでにエクスタシーの気配です。
ただ、湯舟はね、ここ、とってもちっちゃいの---飛行機のコクピットみたい---2人入るともう満杯---基本は、ひとりで入る湯なんだと思う。
驚かされたのは、僕、ここは詫び系の湯だろう、なんて風に勝手に事前予測してたんですが、ここのお湯自体は、僕のそんなさもしい予想をはるかに覆す、もの凄い生命パワーをうちに宿した強烈な野生湯だったっていうこと。
硫黄の濃ゆい香りがぴんとね、なんかこう、縦に立って迫ってくる感じなの---。
ええ、湯舟はちっちゃいし、湯の谷川の清流もささやかで、一見ここ静かで癒し系じみた外貌をしちゃあいるんですが、ええ、ここ「つぼ湯」の本性は、まちがいなくヘビー級の---しかもファイタータイプ!---凄玉温泉なのでありました。
ヘンな譬えかもしれないけど、僕は、ここのお湯から微妙な「凶暴さ」さえ感じていたんです。
うん、一般的に殺気系温泉と見なされている、あの秋田の超酸性の「玉川温泉」よりもずっと。
さっすが、廃人になった小栗判官を蘇生させちゃうわけだよ!---湯治湯って称号はミスマッチだな---ええ、湯の峰温泉は、やっぱり、より強力な語感の「蘇生湯」の呼び名こそふさわしいんじゃないのかな。
生と死の境に咲く、どろどろの命の塊のような、湯の峰温泉の名湯「つぼ湯」!
温泉好きなら、是非、こちらの湯をいちど訪れてください---そして、千数百年分の神秘の湯力がしずしずと胎内に浸透してくる、逸楽と殺気とめまいとを同時に体感して、軽く瞠目してほしいと思います…。
第8位 ★増冨ラジウム温泉「不老閣」★ 山梨県北杜市須玉町小尾6672 0551-45-0311
山梨といえば「ほうとう」で有名ですが、こちら、名湯の宝庫でもあります。
山梨といってぱっとうかんでくるのは、あの「韮崎旭温泉」だとか、笛吹川の「はやぶさ温泉」なんかなんですが、絶対忘れちゃいけないのが、こちちの増冨ラジウム温泉「不老閣」(じゃ~んと効果音)なんであります。
僕は、こちらの温泉のある、須玉町小尾って土地の自然がまず大好き。
ぽーんと平野がひらけてて、地平は遠くに、見通しのいい青空はいつきてもなんかなごんでて…。
蛇足でつけくわえますと、こちら、ジャーナリストのリチャード・コシミズ氏の一族の郷里だそうです。
輿水なんて珍しい姓だと思ってたんだけど、ここにきたら輿水姓はいっぱいいるんだって。
イーダちゃんは、この増冨ラジウム温泉「不老閣」さんの自炊部に、2009年の9月15日から17日まで3連泊しました。
まえから情報探って、憧れてたんですね---で、いってみたら、思ったより立派な旅館さんなんでびっくり!---ええ、本谷川の清流の向こう岸にはじめて目指すべき「不老閣」さんのあで姿が見えたときは、僕、なんかのまちがいじゃないか、と思ったくらい。
自炊部があるっていうんで、もっとひなびた感じのちっちゃなお宿じゃないかな、なんて勝手に想像してたんですよ。
でも、実際の「不老閣」さんは、なんちゅーか、モロ一流旅館。
ロビーも門構えも豪華で綺麗---これは、宿のセレクトまちがえちゃったかなあ、なんて最初は思っちゃいました。
予約入れてたんでその旨をロビーで伝えると、女将さんがでてきて、にこやかにこちらにどうぞ、なんておっしゃって、自炊部専用の説明用紙片手に、丁寧にお宿の説明をしてくださいます---
1.「不老閣」は、旅館部と自炊部(ラジウムランド)とに分かれている。
2.自炊部の「岩湯」は、自炊棟から野外の山道を少うし歩かねばならない。
3.「不老閣」の温泉は、基本的に19度の冷泉。旅館部の内湯などでは加温しているが、自炊部の「岩湯」は、19度の冷泉のまま掛け流しにしている。
4.1日の理想入浴回は3回。ラジウム湯は想像以上に効く湯のため、入りすぎに注意すること。
5.「岩湯」には、男性入浴時間と女性入浴時間とがある。なお、山道が危険なため、夜間の「岩湯」には入れない。
以上のような説明を和服姿の美人の女将さんから聴きながら、僕は、心ここにあらずというか、ディズニーランド入場前の幼児みたいな心境になってきちゃったことを、ここに告白しときます。
だって、いままでいろんな湯治宿にいったけど、こんな懇切丁寧な湯治の説明受けるの、マジはじめてだったんだもん。
女将さんの話にうなずきながら、心は、はるかな「岩湯」にさきに飛んでいってしまい、もうどうにも制御不能。
で、本館の2階から渡り廊下で山の中腹にある自炊棟の自室に案内されて、そこに荷物を置くやいなや、そわそわイーダちゃんは山沿いの階段を延々のぼり---距離結構あるぞお! 運動不足人は注意(^.-y☆---さっそく噂の「岩湯」を訪れたのです…。
噂の「岩湯」は、もう雰囲気むんむんでしたねえ。
旅館部のゴージャスなムードとまったくノリがちがうのよ---ちなみにアタマ左の写真が「岩湯」のある湯小屋、右上フォトが「岩湯」なり---僕は、このいかにも湯治場の雰囲気に入るまえから呑まれちゃってね、ま、半ば陶然と湯小屋の戸をあけたわけです。
すると、お客さんがいるいる---いやはや、「岩湯」ったら凄い人気です。
で、僕は着替処で全裸になりまして、いよいよ「岩湯」のなかにINすると、あらら、湯小屋の内部ってかなり薄暗くなってるんです。
湯舟は、なんか家みたいにでっかい岩にぎゅうぎゅう乗られてる感じ---凄え!
そして、湯舟にむかって左手上方向には、超・立派な神棚が…。
厳かに神棚にむかい拝礼して、しずしずとお湯にむかいます。
すでに湯舟につかってる先輩客らに黙礼して、湯舟脇で掛け湯を少々---すると、
----うお、ちべたっ…!
と、あまりの冷たさについ声がでちまって。
----そりゃあね、19度の冷泉ですから、と先客のじいちゃんが、ころころ笑います。
----でもね、辛坊して入ってれば、すぐ内部からぽかぽかになるから…。ここの湯は、凄いですよ、お兄さん…。
この先客じいちゃんのいう通りでした。5分10分とこの淡い暗緑色の冷泉につかっているあいだに、僕は、形容しがたい暖かい落ち着き気分包まれている自分を発見したのです。
単に気持ちいいっていうのとは、ちょっとちがう---そうした肉体快楽的なベクトルの要素を外したうえで、もっと厳かで神聖な---いままでの温泉歴では決して感じられなかった種類の、非常に精神的であると同時にある意味ストイックで神道的な、要するに、まったく新種の未知の湯浴み感---!
こ、これは、素晴らしすぎる…。
後ろ頭にごつごつ当たる岩の硬い感じと、足元から湧出してくる源泉あぶくが太腿裏にあたる際のなんともくすぐったい感触、あと、深くなった呼吸ごとに身体の芯まで染みてくるこのふしぎな清涼感は、これは、湯に混入したラジウムの効果なんでせうか?
イーダちゃんは、この天然のラジウム湯の虜になりました。
理性が霧散するほどぼーっとなって、みんなして身じろぎもせずにここの冷泉につかっていると、暗緑の泉面がそのうちよく映る鏡になって、そこに神棚正面の窓がそのままくっきりこんと映りこんでくるんです。、
----おお、見事だな…。こんな鏡のなかにもこんな精緻な世界があるなんて…。
なんて感心してると、その鏡のなかの逆さ扉から新たなお客がまたやってきて、
----やあ、こんにちはー! なんて挨拶してこられて。
その声にはっとなって、泉面の鏡からやっと顔をあげ、
----ああ、こんにちは…。
と、どうにか世界に回帰して発する自分の声が、ひとの声みたいに遠く響いて、ふしぎな感じ……。
「岩湯」で知り合ったお客さんのなかには、玉川温泉に長逗留してたけど、湯があわなくて湯治先をこちらに変えた方、6年がかりで悪化した肝硬変を治しきった方なんかもおられまして。
尋常な湯場じゃないっスよ、こちら---まさに神の湯---ちなみに、ここの自炊棟の宿代、3泊してたったの1万3500円。
これは、絶対訪ねなきゃ損だと僕としては思うんだけどなあ…。
第9位 ★東鳴子温泉「黒湯の高友旅館」★ 宮城県大崎市鳴子温泉鷲ノ巣118 0229-83-3170
温泉チャンピオンの郡司さんにいわせると、日本の温泉の西の横綱は「別府」であり、東の横綱は「鳴子」であるそうです。
鳴子温泉のことをよく知らなかった当時の僕は、氏のこの意見を読んで、思わず「?」と両眉を寄せたもんですが、何度か鳴子を訪れるうち、氏の視点が実に達見であることが分かってきました。
鳴子の湯は、マジ、素晴らしい…。
あの、鳴子って観光写真でよく紹介されるように、こけしの町なんです。
駅からおりてすぐのところに巨大なこけし像があって、観光客はまずその歓迎こけしに目線を吸いとられるはず。
ここ、群馬の草津ほど全国区で有名な場所じゃないけど、週末とか連休だったら、いついっても観光客はそこそこいます。
お湯の充実度もなかなか凄いっスよ---駅から湯の街通りの坂をちょい上ったとこには、あの白濁の共同湯「滝の湯」さんがあるでしょ?
あと、駅前通りから中町通りをぶらぶらと15分ほど歩いて、江合川沿いのルート108まででれば、緑湯で有名な「西多賀旅館」さん、アトピーに効くと評判の白濁湯「東多賀の湯」さんなんかが並んでる。
ここらあたりだけでも相当レベルの温泉地だと思うんだけど、ここ「鳴子温泉」には、さらに奥の院があるんです。
それが、観光客がめったにいかない、辺鄙で、閑散とした「東鳴子温泉」なんです。
JR「鳴子温泉」駅の近辺は、さまざまな旅館がひしめくように建ちならび、ほとんど熱海みたいなノリをかもしだしてるんですが、こちら「東鳴子温泉」は、そうしたにぎわいとはちょっと無縁かも。
まず、昼間いっても、ひとがあんま歩いてないし。
店舗もほとんどなく---食べ物屋なんて1軒しかないうえ、旅館もせいぜい4、5軒くらいしかない。
でもでもでもね---湯治場みたいにしーんと静まったここの地区に、実は、只者じゃない、スーパーヘビー級の伝説湯があるんスよ…。
それが、東鳴子温泉「黒湯の高友旅館」さん---!
僕がここに泊まったのは、2007年の5月12日とかなりむかしのことなんですが、まだ、温泉ビギナーだった僕のうぶうぶ温泉ソウルは、ほとんどここのお湯パワーで開眼したんじゃないか、と今じゃ思っとります。
その後も泊まりでいくことはなかったものの、鳴子に寄る機会があれば、僕は、ここの湯に必ず立ち寄りを決めてます。
だって、ここ、単純に凄いんだもん…(-_-;)
僕が全国各地の名泉で知りあった初見の風呂友と温泉話をする際、こちらのお湯は、ええ、あの「別府温泉保養ランド」の泥湯についで、話題に乗る確率が高いお湯でもありました。
ていうか、段持ちの風呂マニアが、もう、みんなしてすでに知ってるわけ。
僕は、那須の「北温泉」の自炊用の台所で、前日まで「高友旅館」に泊まっていたというおばちゃんとお話ししたことがあるし、たまたま入った岡山の「幕湯」でも、初めて会った兄ちゃんから「高友旅館」の名を聴いてびっくりしたことがある。
なんちゅーか、全国区なんですよ---こちらの「黒湯」って。
ただ、「黒湯の高友旅館」と謳ってはいても、こちらのお湯は、なにも「黒湯」だけじゃありません。
ここ「高友旅館」さんは、独自の源泉を、なんと4種も引いているお風呂なんスよ。
売りのお風呂は、「黒湯」のほかに、「重曹泉」「単純泉」「ラムネ風呂(こちらのみ女性限定! けど、僕は宿のひとの許しを得て入ったことある)」なんかがございまして。
もー、温泉マニアからすると、パラダイスですよ、ここ。
ま、宿さんのお建物自体はモロ昭和してて、木造のふる~い、いくらか薄気味わるくもある造りですから、清潔好きの若奥さんタイプだったら敬遠しちゃうかもしれない。
でも、こちら垂涎の「黒湯」はね---それはもう、あらゆる温泉びとの予測を超える、それこそ神の湯なんですから…。
そんな些細な理由で入らないでいたら、あまりにも勿体ない。
で、いよいよその肝心な「黒湯」の解説ね---こちら、含硫黄-ナトリウム-ラジウム-炭酸水素-鉄泉の温泉なんです。
お風呂の扉をあけて、やや薄暗い照明の下にあられるのは、ひょうたん型の、定員10名くらいの、大きめのお風呂です。
お湯は、濃ゆい暗緑---もっとも、日によって色は変化するそうですが。
コンクリートと岩とでできた、やや無骨な風貌のこちらのお風呂---湯の湧出物や含有成分ですすけたように変色した風呂場の壁なんかもとっても印象的なんだけど、ここに入ったひとがまずたじろぐのは、なんといってもここのお湯だけがかもしだす独自のにおいでせう。
----うわ、なに? 臭っ…!
と、たぶん初見の誰もが思うはず。
ええ、こちらのお湯、猛烈な石油臭(有機溶剤臭)がするんスよ。
それこそ、日本一臭い湯と異名をもつ、新潟の、あの強力なアウトロー温泉「西方の湯」のように。
あれからアンモニア臭を取りのぞいて、煮物のダシ臭ものぞき、さらに石油の香りを強く煮出した感じ、とでもいうんでせうか。
ともかくね、尋常じゃない香りなわけ---しかも、これ、世間的にいう「いい匂い」というやつの対局にある種の香りです---ですから、この風呂場まできて、引きかえしちゃうひとがいるってケースもまあ分からないじゃない---でもね、掛け湯して、いっぺん肩までそっくりこの強烈なお風呂に沈めてみたら、きっと誰もがここのお湯の「湯力(ゆぢから)」に驚嘆することでせう。
5月13日の早朝の4:30---たまたま僕と一緒に湯浴みした小さなおばあさんは(お。いい忘れてた。こちらの湯、混浴です)、
----ここのお湯につかるとね、リューマチが全然痛くなくなるの…。
ほんのり桜色の頬で、そうおっしゃってました。
あのときは、やたら熱がる僕のために、ご自分は熱湯好きなのにわざわざ水をザブザブ入れてくだすってありがとう!m(_ _)m
で、「黒湯」がいよいよ凄いのは、このおばあさんのほかにも、この湯の「湯力」について言及するひとが後を絶たないこと。
宿さんがつっくたチラシから、ちょっとその声をアトランダムに抜粋してみませうか---
石巻のSさん:膝のズキズキ痛むのが治る。
気仙沼のOさん:脳出血による半身不随のしびれ治る。
多賀城のSさん:苦しかった強度の神経痛、肩の痛み、治る。
気仙沼のYさん:足のひらのしびれ治り、帰宅して身体が軽々となる。
古川のSさん:重症のロッカン神経痛、治る。
女川の船員Hさん:ヘルニヤで体の痛苦しいの、治る。
札幌のYさん:宿便がでてお腹ヘコミ体調がきわめて快調になる。
宮崎町のIさん:3年ぶりに曲がらなかった足曲がるようになる。
仙台のSさん:交通事故に遭い曲がらなかった首も曲がり、腰の骨の痛みもとれました。
鹿又のSさん:左足の皿割って3か月め、黒湯に入って杖なしで歩けるようになり、ギブスをかけて固くなったスジも軟くなる……
これはまあ、なんとあの玉川温泉並の「快癒博覧会」ではないですか---。
ま、これだけじゃデータ少なすぎるんだけど、ともかくこの「黒湯の高友旅館」の名を貴方の脳チップにクリックしていただければ、イーダちゃんはとても幸甚です。
いまこうしてこれ書いてても、あの「高友旅館」のぎしぎしいう、長い、暗い廊下が脳裏に閃いてワクワクしちゃう。
嗚呼、昭和臭むんむんの、あの郷愁の「黒湯の高友旅館」、是非ともまた行きたいもんっスねえ…!
(第2部、長すぎるんでこれにて了。そのうちまた続きやりまっすw)