イーダちゃんの「晴れときどき瞑想」♪

美味しい人生、というのが目標。毎日を豊かにする音楽、温泉、本なぞについて、徒然なるままに語っていきたいですねえ(^^;>

徒然その236☆ ひさびさ関西・南紀白浜温泉紀行! ☆

2017-01-11 17:23:27 | ☆湯けむりほわわん温泉紀行☆


 あけおめ、皆さん---!
 2017年の1月4日から6日にかけて、僕・イーダちゃんは、ひさびさ関西の温泉ツアーに行ってきました。
 僕の温泉行っていうのは、基本ひとり旅なんですが、今回は珍しく大阪の友人であるYと。
 ま、激動の2016年、いろんな裏切りやら手痛い傷心、幻滅やらをどんすか経験して、それらの厄払いみたいな意味をこめた温泉行だったんですけど、
 和歌山・南紀白浜の今回の湯は、なんかとりわけ染みたなあ…。、
 なんだかんだで僕、学生時代をふくめて白浜の地に赴くのはこれで5度目なんスけど、
 いままでのなかで、この旅が、たぶんいちばん印象深かったように思います。
 うーんと、僕、万葉集が好きでね----これ、僕は、日本最大の叙事詩だと考えているんだけど----そのなかでも人麿を別格とすれば、
 有馬の皇子が好きなのよ。
 万葉の時代には、こちら、白浜じゃなくって「牟婁の湯」と呼ばれてたようなんだけど、
 潮騒の響きを聴きながら、ここの湯に浸かっていると、僕の胸にはいつも彼の歌がほのかにこだましてきます。

-----岩城の 浜松が枝を 引き結び 真幸くあれば また帰り来む…。

 ご承知の通り、有馬の皇子はここに生きて帰ってはこれなかったんだけど…。
 敬愛するフェブリアット女流漫画家の清原なつのさんも有馬の皇子のファンだったらしく、彼を主人公に作品を仕上げてられるんで、
 今回は参考までに、それ、ひとつ挙げておきませうか---ホイ。




 これ、「飛鳥昔語り」っていう1970年代中期の作品。
 30年以上前の作品なのに、いまだに読み継がれてるんだから、その魅力は推して知るべし。
 ちなみに清原センセは、獅子座生まれね。
 僕のいちばん尊敬するヴァイオリニストのジョルジュ・エネスコも獅子座生まれだし、バンド仲間のK氏も獅子座だし、
 例の彼もやっぱり太陽・獅子座だし…僕の火星も獅子宮の20度だしね----サビアンで読むと、ここ、実はヤバイんだわ----どうも獅子座宮に縁が深いような気もします。

 それはそうと今回の旅行が実現したのは、実は、地元に激安レンタカーを見つけたからなんですよ。
 フツーのレンタカーでクルマ3日くらい借りたら3、4万はすぐいっちゃいますが、
 僕が地元で見つけたここ「ガッツレンタカー」は、なんと1週間借りて1万1千円!
 まあ、アクセルベタ踏みして登りで100キロがギリの、年期入った軽なんだけど、それにしても安いっしょ?
 この場を借りて、ひとつ「ガッツレンタカー」の宣伝、入れちゃいますか?




 てなわけで<ヨコハマ--大阪>間を軽でばびゅーんと飛ばしていってきたんです。
 天候に恵まれて、とちゅうの富士が信じられないくらい綺麗だった。
 あ。ちなみに大阪の友人というのは、以前、僕の過去記事で紹介したこともある、古書「うんたらた」のご主人。
 ほんとは着いた当日から旅行にでかける手筈だったんだけど、僕、会社でひきこんだ風邪がだいぶ悪化してて、
 運転中も鼻ばっかりでるし、しかも、高速の乗り換えまちがえて最初滝谷不動じゃなくって神戸くんだりまでいっちゃったりして、
 大阪の彼のとこ着いたらもう午後の6時まわっててすっかり日も落ちてたんで、
 その夜は彼の家に泊めていただくことにあいなりました。

 いつもながらの無計画----でも、僕、この無計画っていうのがとっても好きなの。
 計画で人生管理しちゃうとそりゃあ楽だけど、それをしないほうが人生の苦さや甘さやアクシデントとより深く付きあえるってのが、僕の持論。
 今回の旅では、この持論が、皆「吉」のほうにむけ働いてくれましたねえ。

 で、翌日の5日、有馬にいこうか白浜にいこうか、ちょっと迷ったんですが、僕等、ノリで南紀白浜のほうをセレクトし、そっち方面にむかったと思いねえ。
 岸和田を経由して、和歌山の白浜到着は、PMの15時くらい。
 白浜にきたのは2008年の11月の熊野行のとちゅうに立ち寄りして以来です。
 なんか、ぜんぜん変わってない。
 な、懐かしいゾ、おい---!
 天気はよかったんだけど、海風が強く、白波が騒いで、めっちゃ寒かったですね。
 白浜にきたら、イのいちに行くお湯は、当然こちらです。
 あの中大兄皇子も天智天皇も噂の持統天皇も浸かったという、海際の歴史的名湯「崎の湯」---!






 あいかわらず素晴らしかったです、「崎の湯」…。
 友人のYが温泉初心者だったんで、掛け湯のこと教えたりして、いつものひとり沈殿入浴とはいくらか勝手がちがっていたんですが、
 なに、それはそれ、彼も予想を上回る「崎の湯」の凄さに瞠目している気配が伝わってきました。
 分かるよ、Yチャン----だって、ここ湯力凄いもん…。
 関西系にやや多い塩素投入もないし、ここ、海辺ならではの熱海みたいなよくあったまる塩辛湯でしょ?----しかも、底のほうにかすかな硫黄臭を伴ったこの湯の浸透力ときたらないもんなあ。
 しかも、たったいま湯舟に注がれたばかりの、このお湯の鮮度---!
 さらにさらに、この目のまえの海原の息吹きときたらどうよ?
 それにこの横殴りの海風---薄っぺらな言葉を交わす余裕と暇なんてなかったですね、正直いって。
 あれえ、空ってこんなに高かったっけ…?
 風が吹いて、湯気が流れて、淡い硫黄の香りがあたりにぱーっと散りひろがって、
 僕等ふたり、俗世の言葉なんかすっかろ失念して、青いあおーい空の下----
 それこそ太古の二匹の猿みたいに、無心のからっぽになりきって、いつまでも「崎の湯」にぷかぷかと浸かっていたんです…。






 夕飯後には、前々から入りたいと思ってた上記の「牟婁の湯」にも入ることができて、まさに宿願達成。
 こちら、いつも白浜にくるたび「入りたい入りたい」と想いつつ、いっつも白浜の顔である露天の「崎の湯」にさきに入って、
 エネルギー使い果たしちゃってたんで、なかなか行くことできなかったんですよねえ。
 でも、今回は、こちらの湯にも入ることができてよかった----やっぱ、こちら、噂通りの凄玉湯でありました。
 旅は、やっぱ、泊まりがいいよねえ---。

 泊まりはまったく予定立ててなかったんで、看板で見つけた素泊り4000円の民宿をとって、そこで巣ごもり。
 話すことがありすぎて、もう熱っぽくて体調わるかったけど、いやあ、Yチャン、楽しかったよなあ!
 俺は俺で東京でのゴタゴタを全部話しきれたし、
 君にしてもあんなに酔っぱらって、あれほど思いのたけをブチ撒けてくれるとはねえ…。

 最後に仏蘭西の問題作家、L・F・セリーヌの一説を引用して、この個人的すぎる記事にケリつけることにいたしませうか。

----旅に出るのはたしかに有益だ。
  旅は想像力を働かせる…。
  それ以外はすべて骨折り損のくたびれ儲け。
  それにこれは誰にだってできることだ---目を閉じさえすればいい。
  すると人生の向こう側だ……。


 うーん、視線、ややひねくれているかもだけど、セリーヌはやっぱいいっスねえ----じゃ、そういうことで今夜はここらでお休みなさい…グッナイッ…!(^o-y☆彡



 
 


 

徒然その243☆ 忘れじの名湯たち (別府「神丘温泉」と宮城「佐藤旅館」) ☆

2016-11-26 16:02:40 | ☆湯けむりほわわん温泉紀行☆



 世に忘れられない女というのがあるように、忘れらない温泉というものもまた存在します----。
 僕的にいうなら、まず閃くのは、九州大分の温泉王国・別府にあった「神丘温泉」というのがまずそれですね。
 2008年の3月18日、僕が世界一の温泉として敬愛する泥湯の名湯「別府温泉保養ランド」に宿泊した際、いっぺんだけここを訪れました。
 道々に菜の花がいっぱい咲き乱れた、町のやや外れにあったこの温泉は、どう見ても温泉には見えなかった。
 噂にはいろいろと聴いていたけど、目の前にしてみると、これは、噂以上の雑貨屋風情。
 というか、実際に商店に座ったオバちゃんが、雑貨とかお菓子とか売ってるし。
 これで、ここが温泉だって分かるほうがむしろどうかしてるって。
 しかし、こう見えてこのやたら雑貨屋風の、一見しがない感じの商店さん----実は、とびきりの凄玉温泉だったのであります。
 実際、僕もなかに入ってみるまで、それは分かんなかった。
 いかにもジモティーらしい丸椅子に座りこんだオバちゃんと、どうやらここの商店主らしいオバちゃんが、なにやら熱心に話しこんでる。
 本当にここが温泉なのか不安だから、どうしてもこっちは上目遣いの物言いになる。

----あのー、こちらに温泉があるってうかがってきたんですがぁ…?

 しかし、対するオバちゃんは悠々たるもの、自信に満ちた態度でもって、

----ああ、ありますよ。泥湯のほう? それともフツーのお湯のほう?

----じゃ、泥湯のほうで…。

----泥湯ね。なら、〇〇円いただきます(いくらだったかは忘れた。予想外に安かったのはたしか)。泥湯のほうはね、フツーの湯より高いんだわ。

----はあ…。(ト硬貨で払って)

----あと、お兄さん、泥湯はね、そこの廊下の突き当りいったところだから…。まえの扉はそこ籠でてるでしょ? いまご夫婦が入ってるからあけないでね。あと、お兄さんもそこのご夫婦みたいに、服脱いだらその籠扉のまえにだしといてね…。誰か入ってるって印になるから。あと…泥湯の湯舟の底ねえ、格子みたいになってるけど、そこに指入れないようにね…とっても熱くて火傷すっから。いや、火傷するひと、結構いるんだわ、これが……。

 いやいや、微に入り細に入り、もう細かいの。
 説明に礼をいって、廊下を突き当りまでいって、さっそくその扉をあけたら、

----ほう…!

 と、ついため息がでちゃったよ----あんまりキュートな湯舟だったから。





 ちなみに、湯場全体の景観はこんな感じ----なぜか、観葉植物の大きな鉢が入口付近にドスンとおいてあって。




 広さはそうない、広いといえばまあ広いのかもしれないけど、湯舟自体がまずちっちゃいし、総スペースの4分の1の端の部分だけ風呂が占めてる感じっていうか。
 ま、しかし、この泥湯の色合いは、とにかく並じゃない。
 掛け湯してみたら、これが超・熱いの。
 壁の水道で洗面器に水入れて、湯舟にそれ入れて、その往復を何度か繰り返したのち、ようやく入れそうな温度になってきたんで、えい、ままよ、と足先からこの泥湯に身体を沈めたら、
 もう、震えました…。
 入った刹那、これはほとんど藝術だ、と全身の細胞で思ったな。
 なんてサラサラの、しかも軽々とした、しかも、底のほうに威力を秘めたお湯だろうか。
 別府独特の、やや酸っぱい感じの硫黄臭もちゃんと加味してるこのお湯は、まぎれもなく特A級のお湯でありました。
 お湯のなかで手足をちょっと動かすだけで、泥湯の流れが身体を微妙にくすぐり、その体感がえもいわずたまんない。
 泥湯マニアでもあるイーダちゃんは、前述した「別府温泉保養ランド」やおなじ別府にある「鉱泥温泉」、あと、秋田の泥湯温泉の「奥山旅館」、岩手・藤七温泉の「彩雲荘」なんかの極上泥湯を経験していましたが、そのうちのどれともちがう。
 とにかくクリーミーで、どの泥湯より爽やかに軽く、あとを引かない感じのお湯なんです。
 しかも、その効能は、壁の但し書きにもあるように、関節リウマチ、糖尿病、婦人病、ムチウチ症から、なんと原爆症まで効くっていうんだから、ハンパない!
 原爆症はさすがにどうかと思ったけど、無茶苦茶身体に効くお湯だっていうのは、入ったニンゲンなら誰だってすぐ分かると思う。
 それくらいこちらの湯は別格のお湯でした。
 あのリストがショパンのことを「花影のなかの大砲」と称したことがあるけど、まさにそんな感じ。

 こちらのお湯一件のために九州まで飛行機で飛んで行ってもいいと思えるくらいの、まさにスペシャルなお風呂だった「神丘温泉」----残念ながら2012年の7月に閉館となってしまいました。
 いまじゃ、まさに幻の温泉となってしまったわけで…。
 とっても残念---お風呂途中でちがうところの扉あけたら、いきなり犬が吠えてきた、なんてびっくりもいい思い出です。
 それにしても忘がたい、湯力(ゆぢから)も佇まいもアメニティもすべて含めて、ほかとは到底替えがたい、唯一無二の素晴らしい温泉でした。
 こういう愛らしい温泉が消えていくっていうのは、ほんと、淋しいと思う。
 いまでも菜の花の咲き乱れる田舎道を歩いていると、なんかの拍子にときどきあの神丘温泉の泥湯の硫黄臭がふっと僕の鼻孔をよぎることがあるっていっても、それ、まんざらうそでもありません…。





                                 ✖             ✖             ✖

 忘れじの温泉トリビュートのふたつめは、宮城・温湯温泉にあった、創業700年の歴史をもつ、あの「佐藤旅館」さんです。
 「佐藤旅館」については余計な言葉なぞいらない、この写真さえ見ればどれだけここが素晴らしい宿だったか、誰でも一発で分かります----じゃ、ホイ!




 どうですか、あまりの抒情に心ごとよろめきそうな眩暈を感じられたんじゃないですか----?
 2008年の6月2日から3日にかけて、僕は、こちらのお宿に2泊させていただきました。
 素泊まりの2泊3日で、たしか料金は7000円だったように記憶してます。
 僕の借りた部屋はこの写真向かって右手奥側の、自炊処隣りの1階のお部屋だったんだけどんね、
 この向かい正面のやっぱり1階の部屋に、僕とおなじヨコハマからやってきたご家族がその日は泊まられて、
 夜になるとそのご家族の子供さんらの愉しげな笑い声が中庭越しに、こう流れてくるんですよ。
 静かな静かな夏の夜----客は、僕とその一家さんだけ----
 あのシチエーションは、なんというかとてもよかった…。
 中国の古い詩で漢の武帝作のこんなのがあるんだけど、

     簫鼓鳴りて 棹歌起こり
     歓楽極まりて 哀情多し…

 いうまでもなく、武帝の詩と僕の佐藤旅館での1夜はシチエーションちがいすぎなんですが、
 古い日本家屋ですごしたあの初夏の夜の子供たちの笑い声は、草陰で鳴いていた虫たちの声とともに、僕の耳にいまも焼きついています。
 
 この「佐藤旅館」さん、内湯も露天もとてもよかった。
 特にこちらの露天、泉質はもちろんだけど景観も素晴らしくてね、透明な綺麗なお風呂に肩までちゃぽんとつかると、モミジと、紫のヤマフジと、ヤマツツジの集落が眺められるんですよ。
 露天からでて、いくらか背伸びして囲いの外に目線をやれば、あそこの赤いのは「温湯橋」----
 その下を流れているのは、あれは「一迫川」…。
 もう、いるだけでなにか心身ともに満ち足りてくるような、素敵な宿でした。
 じゃ、露天と居室の古い写真とをちょっとUPしときませうか----








 2009年3月11日の東日本の震災で、こちらの宿のお湯はとまってしまった…。
 僕、心配になって地震直後にご主人に電話したりもしたんですね。
 当時やってた nifty温泉のクチコミ欄から応援のメッセージなんかも入れてみた。
 ご主人は、やっぱり新聞の報道通り、宿のお湯がとまってしまった、といってました。
 あと、今後1年分以上の予約取り消しの電話をかけることで忙殺されてる、ともおっしゃってました。
 いろいろ大変だけど、必ず復旧する、ともいってられた。
 でも、いま現在まで、いまだ「佐藤旅館」さんに再開の気配はありません。
 700年もつづいてきた、まるで文化財のような極上宿だったのに…。
 
 いま患ってる胃潰瘍のせいか、なんとなく後ろ向きの記事になっちゃったけど、
 営業をとめてしまった、ここには書かなかった素晴らしい温泉宿さんらにも、
 疎遠になってしまったかつての友人たち宛てのものとおなじメッセージを送りたいと思います。

----おーい、元気ですかぁ…? あれからどうしてる? 僕は元気…。君はどう? 今度、機会があったらまた逢おうねえ…!








 

徒然その242☆ 北温泉再訪記 ☆

2016-11-25 20:34:10 | ☆湯けむりほわわん温泉紀行☆



 2016年11月の19日から20日にかけて、イーダちゃんは、わが最愛の温泉宿であるところの、あの那須の「北温泉」に2連泊してきました。
 いやー、例によって米と飯盒持参の北海道行以来のマイ自炊スタイルでいったんですけどね、
 実際こちらを訪れるのは2011年の5月19日の愛車クラッシュ全損事故以来のことですから、
 なんというか、すべてが懐かしく、いろんな意味でたまんないものがありました…。
 今回の旅が可能になったのには、地元で激安の「ガッツレンタカー」というのを見つけたのがでかかった。
 こちら、軽を1週間借りて、なんと1万1千円という激安価格---これなら文無しのイーダちゃんにもじゅうぶん利用可能です。
 でもって、夜勤明けにこのガッツレンタカー(メーカーはスズキでした)を駆って、ガガガガガーッといってまいりました。
 肌に染み入るほど大好きな、ほとんど身体の一部といいきってしまってもいい、あの特別な、懐かしの「北温泉」に----!
 
 ひさびさの「北温泉」---2011年以来の訪問だから、これは、なんと5年ぶりの宿泊となります。
 東北インターの那須口で降りて、懐かしの那須の道筋が見えてきたら、お恥ずかしい話ですが、心臓がドキドキしてきたことをここに告白しておきませうか。
 那須という地はセレブの別荘地なんて一面もあるのですが、「北温泉」はそんなセレブなんかが集う別荘地とはまったく位相のちがう、奥那須のかなり外れのほうにあるのです。
 那須の観光センターの雑踏も、温泉神社も、それからあの有名な濁り湯の「鹿の湯」も「殺生石」もずっといきすぎて、R15号を延々直進----
 むかし有料道路だった一角も越えて、道の両側に熊笹の集落がだいぶ目立ってきたころ、「北温泉→」という表示のある看板を右折、 
 人家のまったくない山のくねくね道を延々いくと、やがて「北温泉」の駐車場に突きあたります。
 ひさびさにきてみると、駐車場が新しく綺麗になってるんでびっくりしました。
 かつての修験道の修行の地だった「北温泉」---クルマのドアをあけると、あのいくらか厳しさを帯びた、冷涼とした独自の山の気配を首筋に感じます。

----ああ、あの北温泉にきたんだな…、という実感じんわり。

 今回のイーダちゃんの湯治旅の目的は、実は、癒しなのでありました。
 失恋、じゃないんだけど、ちょっと個人的に大きな幻滅と失望とを感じさせるある事件がありまして、
 僕、自分で思ってるよりかなーりダメージを受けちゃってたんですね---軽い胃潰瘍なんかにもなっちゃって、
 こんなことはまえの会社でリストラ喰らったときにもなかったことです。
 自分のなかのタフネスが目減りして、計測の針がもうレッドゾーンでふれているのを、ええ、僕は意識してたんです。
 だから、徹夜明け運転で「北温泉」の駐車場にやっと到着して、荷物をクルマからだし、宿への400mのくねくね道を下りはじめたときに兆した安堵感は、 
 ほとんど筆舌に尽くしがたいものがありました。






 一歩づつ「北温泉」に近づくごとに、その重圧感が心なしすうっと薄れていく。
 山の寒気にくるまれ、夜笹川の瀬音が近づくごとに、ああ、帰ってきたんだな、というふしぎな安堵感が募っていく。
 5年ぶりの「北温泉」は、あいかわらずの佇まいでした。
 帳場も、山小屋みたいな玄関風景も、玄関前でかんかん燃えているマキストーブの風情も、記憶のまんま。
 僕は、もう、ただ静かに、単純に嬉しかったな…。






 宿の御主人から部屋の鍵をお借りして、316号の、寛永の部屋(実際に寛永のとき作られらた古い部屋なんです、ここは)に案内されます。
 ここは、たしかまえにも泊まったことがある部屋。
 暖房器具は炬燵オンリーの、8畳の部屋---隙間もあって、冬には寒い部屋なんですが、ここに荷物を置くと、いつもながらなんとも心が安らぐのを感じます。




 お茶を一杯飲んで、5分ほど休んだのち、僕は、すぐに同階の廊下の突き当りにある、「北温泉」のいちばんメインである「天狗の湯」に行きました。
 知ってるひとには説明不要かと思いますが、こちら、お湯処と廊下のあいだに、なんとドアすらないんです。
 部屋がフツーに並んでる廊下をまっすぐいったら、すだれ一枚隔てて、もうそこ湯治客らの裸の天国なの。
 ふっと居室からでて湯処のほうを見たら、まるだしの男性局部が見える、みたいな前近代の世界。
 でもね、こちらのお湯が恵んでくれる「癒し」っていうのは、ほかとは比べられない深いものがあるのも事実。
 だからこそ、「北温泉」の「天狗の湯」は、いつきても日本各地からやってきた湯の客でいっぱいなわけ。
 なにせ5年ぶりですから、こみあげてくるものも少々ありましたが、
 ああ、やっぱり、こちら、むかしのまんまの神々しくて威厳に満ちた、あの「天狗の湯」でした…。








 もうね、ここのお湯に浸かっちゃったら、いうことなんかなにもないよ…。
 だって、言葉なんかなにほどのものかね? 
 那須の山伝いに大量に流れてくる「天狗の湯」の源泉は、「北温泉」が雨に見舞われると、たちまちのうちにその温度を下げて39度のぬる湯になったり、 
 お湯のなかに遠くから運ばれてきた茶色の葉っぱがいくつも混じっていたり、
 でも、それから3、4時間もすると、雨以前のときより激熱の熱湯になってたり、近辺の山といっしょでまったくの話生きてるんですよ、こちらのお湯は。
 中世の修験道のころから那須の山とともに粛々と生きてきた「天狗の湯」----
 こちらのお湯で湯浴みをするというのは、つまり、那須の山々の命の恵みをいただくって側面もあるわけであって。
 はっきりいって尋常のパワーじゃありませんや。
 今回ひさびさに湯浴みしてみて、傷心の僕は「天狗の湯」の恐るべきパワーを全身の肌でもって痛感しました。
 たぷたぷとお湯と同化するうち、自分のなかにあった傷心の固い結ぼれが、お湯のたゆたいにあわせて、ゆるゆるとほぐれていくのが感じられました。
 湯気湯気、ゆらゆら----
 源泉は、じゃぶじゃぶ----
 若いお姉さんがおひとり途中から入ってこられたけど----追記:こちらのお湯、混浴なんです----とちゅうまで全く気がつきませんでした。
 ほかの湯浴み客の会話も裸も、もうなんていうかこの世のすべての事象が、湯気の作りだす幻影みたいに思えてきちゃって……
 こんな深い瞑想的な湯浴みを体感できたのはひさしぶりです。
 僕、日本各地のさまざまな温泉地を巡ってはきましたけど、
 そうして、お湯のパワーだけなら「北温泉」を凌ぐくらいのお湯もいくらかは知っちゃあいるけど、
 那須という土地全体の地母神から受けとるパワーの総量という見地から改めて見てみると、
 こちら「天狗の湯」から注がれるパワーというものは、ひょっとしたら日本一の高みにあるのかもしれません…。
 


                     ✖             ✖             ✖

 さて、「天狗の湯」をたっぷり堪能されたら、お薦めめなのは、やっぱりこちら「北温泉」館内の探索かと---。
 特に寛永の世に建てられた「天狗の湯」のある旧館は、素晴らしい。
 そう、「北温泉」ってね、基本的に魔窟なんですわ。
 常に薄暗い廊下は、古代の夢の迷宮さながらに錯綜していて、三叉路、四叉路なんてわけわからない地理もここじゃあ当たりまえ。
 行き止まりになってる謎の昇り階段があるわ、
 わけのわからん神サマを祭った小さな社がほとんど曲がり角ごとにあるわ、
 そこで焚かれている香の香りが、おかげで館内中にくまなく四六時中立ちこめているわ、
 さらにはトイレ前の通路下には暖房代わりの源泉が流れていて、そこに宿猫である「モモ」が腹をぺったりつけていつも眠げにくつろいでいるわ、
 湯ボケしたアタマと心を癒してくれるキテレツ風景が、もう満載です…。








 さあ、このへんまで読まれてくれたら、貴方もそろそろ「北温泉」にいきたくなってきたんじゃないですか?
 うん、「北温泉」は、とてもいい。
 誰がなんといおうと、僕は、昭和の香りたなびくこちらの宿「北温泉」を推薦します。
 女性の方には、たしかにここの混浴のハードルは、高めかもわかんない。
 でもでもでもね、着替処が男女いっしょくたの「天狗の湯」がむりにしても、宿前の広大な温泉プールなら女性用の着替処もちゃんとありますから。
 実際、僕にしてもここのお風呂で混浴したことは、数知れずありますし。
 極上の湯のなかで、見ず知らずの裸の異性と、性じゃない、温泉や旅行の世間話をするのは、とてもいいものです。
 人間の生活というものを、これほど厳かに肯定してくれる場所って、そうそうないんじゃないかな?
 俗世の汚猥と汚れとを落とすためには、ウイ、私見ですが、こちらは最上の場所であるかと存じます----m(_ _)m   
                                                                          (了)






                 ★北温泉旅館★
                 栃木県那須郡那須町湯本151
                 ☎0287-76-2008
 

 



 

徒然その206☆イーダちゃんの「日本全国特上温泉ベストテン!」PART2☆

2015-04-16 17:37:49 | ☆湯けむりほわわん温泉紀行☆
                      
                    

   第6位 ★加賀井温泉「一陽館」★ 長野県長野市松代町東条55 026-278-2016

 茶色い鉄泉といってまず閃くのは、秀吉の愛した「有馬温泉」、日本海に面した青森・黄金崎のあの「不老不死温泉」なんかであり、僕だってむろんのことこれらの名泉を高評価するのにやぶさかじゃないんですが、僕の場合、それよりももっと上位におきたい、いわば贔屓筋の特濃鉄泉ってのが、まあ三つばかりあるんです。
 それが、和歌山駅すぐのとこにある「花山温泉」、奈良最奥地の入之波温泉元湯「山鳩湯」、それに、長野の松代ってとこのごく目立たない一角にある、この加賀井温泉「一陽館」さん…。
 これら三つの温泉は、どれもとびっきりの伝説鉄泉であり、どれが上か下かなんて評価はとてもじゃないけどできないんですが、あえて贔屓の匙加減って観点からいけば、僕がもっとも愛でているのは、たぶん、最後の加賀井温泉「一陽館」さんなんじゃないか、と思います。
 ええ、それくらい、ここ「一陽館」さんのお湯ってスペシャルなんですわ…。

 うそだと思うなら、まずは記事上にUPしたフォトをご覧あれ---!
 ねえ、いかがです、この破格の特濃ぶり?
 これを見て呻らないのは、まっとうな温泉好きじゃないと思うなあ。
 こちら、クルマでいくと、なんか市街地のはずれのほうにありましてね、看板なんてないし、どっちかというと分かりにくい立地なんスよ。
 むかしは有名な湯治場だったようで、宿の建物は当時の湯治棟の名残りだとか。
 でも、いまは宿泊はやってなくて、営業は立ち寄り湯のみ。
 ですから、まあフツーの宿泊目的の旅行客は、ここ、あんまこられないんですよ。
 でもね、実際にここにきてみたら、貴方は、絶対びっくりするはず---だってね、こちらの駐車場、いつきてもクルマでいっぱいなんだから。
 僕がここ訪れたのは、2006年の6月25日に2度と、2008年の4月22日の1度と、たった3度きりなんですけど、それでも滋賀ナンバーや前橋ナンバーのクルマ、どしどしとまってましたもん。
 ええ、ジモティーやさまざまなファン層に支えられている、実に人望あふれる立寄り湯だってことですね。
 なにしろ、こちらは、無条件に湯が凄い。
 「湯力(ゆぢから)」が、もう、ハンパないの。
 そのあたりの湯力の詳細について、こちらの名物御主人、お客に必ず解説してくださいますんで、まずはそのお話、聴いてみませう。

----ここの湯はね、炭酸成分を多く含んでるんですよ。ほら、ここが源泉です。ちょっと蓋外しますから、顔寄せて、においを嗅いでみてください…。

----(御主人の言葉通り源泉にそろそろと顔を寄せて)うわっ!(と、凄い炭酸臭にのけぞる)

----ねっ、凄いでしょ?(少し微笑まれて)あと、ここの湯で特筆されるのは、湯のなかの含有成分が、ほかのお湯とは段違いだってことですね。家庭の浴槽ぶんの湯量に換算すると、お客さん、ここのお湯、どのくらいの含有成分が溶かしこまれてるか分かります?

----いやぁ、ちょっと量ってのは…。

----なんとね、(トここで御主人意味深に当方の顔をにらんで)バスクリンにして82袋分! そのくらいの有効成分が含有されてる、天然の薬湯なんですよ、ここは…(満足げに)。基本は、含鉄・ナトリウム・カルシウム--塩化物泉の炭酸湯なんですけど、うちでは、いちど炭酸を抜いてから風呂に入れてます…。

 このようにここの御主人、一見のお客には、必ず解説してくださいます。
 その話しぶりが板についてるというか、なんか、やけに理路整然と整ってるなあと思ってたら、なんと、御主人の前歴は教師だったとか…。
 なるほどねー、それならば納得だ---。

 で、肝心のこちらの湯なんですが、ここ、細長い屋内の内湯と、野外の混浴露天と、お風呂がふたつありまして。
 内湯はもう、湯の析出物が湯舟周りを岩みたいに固めちゃって、もの凄いったら。
 湯のかほりも、さまざまな含有物が入りまじって、なんとも凄まじい。
 スーパー銭湯によく見られる保健所的な「清潔さ」は、微塵もなし。
 ハンパに清潔好きの奥さんタイプなら、ひょっとして嫌悪感もあらわに顔しかめちゃうかも…。
 でもね、僕は、はじめてここのお湯をいただいたときから、ここのお湯と浴場の美しさに打たれたんです。
 とにかく、ビューティホーなのよ、ここ…。
 どこもかしこも濃ゆすぎオレンジ!
 湯舟の縁も、その横の板壁も、お湯の流れる樋部分も、なにもかもが濃厚きわまる鉄泉色に染まってて----
 でも、長年、お湯の析出物によりしっくりと塗りかためられ、変形・変色しまくったここの浴場は、生半可なスーパー銭湯が数千集まったものより美しい、と僕は思ったな。
 まさに、ここには、生半可な一般的市民良識なんかを超越した、有無をいわせぬ「自然力」が横溢しているんです…。

 まあ、論より証拠---なにより先に、こちらのお湯に入ってみませう。
 掛け湯して、足先からとろとろとこちらのお湯に肩までつかれば、ほぼ一、二秒で、貴方はここのお湯がどんなに凄いか理解するでせう。
 成分の濃さを、頭よりさきに肌と全身の毛穴とがまず感じるの。
 マジ、湯中の成分が、肌にじわじわ浸透していくノリが感じられるんだってば。
 あ。僕は、ここのお湯につかる場合、いっつも鼻と上唇のあいだの、空手でいういわゆる「人中」まで湯に沈めるんですけど、そうすると人体でもっとも敏感な上唇の感触で、湯中に含まれた炭酸のたまんない「シュワー感」が、実によく味わえるんです。
 くすぐったくて、なおかつじわじわと体内に浸透してくる、効能ありまくりの、超・濃厚な炭酸-鉄泉!
 このレベルのお湯は、ちょっとないぞお---
 屋内の内湯も凄いんだけど、こちら、野外の混浴の露天は、さらに輪をかけて凄まじい。
 奈良の最奥の、あの「山鳩湯」に勝るとも劣らぬ、とんでもない濃厚オレンジです。
 ただ、飲泉すると、うごーっ! とえずきますんで注意。
 あと、まちがえて髪を洗ったりすると、翌朝、髪が固まって、もの凄いアフロになってるし…(^0^)/
 そんじゅそこらじゃ味わおうたって味わえない、とにかく稀有なお湯なのさ。
 僕は、はじめてここに入ったとき、とにかく嬉しくってね、飲泉したり、得意の目玉洗いや源泉の鼻孔吸いを敢行したりしてたら、あっというまに1時間半くらいたっちゃって…
 もう、湯立っちゃいましたねえ、完璧に---。
 湯立ってレロレロになって、湯舟の縁に頬をあててぐったりしてたら、なぜかそこに雀がチチチと下りてきて---おっと思って湯舟まわりを何気に見てみると、湯からちょっと離れた部分の析出物の割れ目に蟻がマメに這ってたりね---その向こうは葱畑がさらさら---葱畑奥には桃色の牡丹の花が無心にゆれている---で、ぶ厚い析出物に変形した湯口からは、いつまでも源泉がトプトプトプとあふれてて…。
 絵に画いたように平和な午後の湯浴みです。
 なんも、いうことはなかったですね---ていうか、このレベルまできちゃうと素晴らしすぎて、月並なことなんかなにもいえないよ…。

----うわー、ここってゴッチ湯だわ…。

 ええ、無冠の帝王にして関節技の神様であり、猪木や藤原、船木や高田なんかの共通の師匠であった、あのプロレスのカール・ゴッチ…。
 陽のあたるメインストリートにはあまりでずに、むしろ道場という日蔭の場所で伝説になった、あのカール・ゴッチの最強称号こそ、ここの湯にはふさわしいような気がします。
 お勧め度数120パーセント---御主人の後継ぎがいなくて、この施設の存続が危ないとどこぞのテレビでやっていたそうですから、うん、いまのうち、是非とも飛びこみの湯浴みを敢行するのがいいんじゃないでせうか---ねえ?


             


   第7位 ★湯の峰温泉「つぼ湯」★ 和歌山県田辺市本宮町湯の峰110 0735-42-0074

 2008年の11月、会社の首脳部ともめ、抹殺指令がだされていたイーダちゃんは、赴任先の現場でさんざんな目にあっておりました。
 直属上司は、なんとしても僕を辞めさせるようにと指令を受け、宮使いの悲しさゆえそれを実行し、当然、僕はそれらの理不尽に公然と反抗し、毎日のように上司や上司寄りの同僚とつばぜりあう、なんとも殺気立ってがさついた、素敵な日常を送っていたのです。
 もうね、憂鬱きわまりない日々だった---仕事しながら1日中尖っているのは、疲れる疲れる!
 で、そんな日常に厭いた僕は、11月の25~28日にかけて、熊野巡礼の旅にでたのです。
 むかしっから熊野は憧れの地だったんですよ。
 定家、西行、和泉式部なんかも歩いた熊野古道を、自分の足で行脚してみたかった。
 いまでは、これ、糞づまりな環境がいい契機となって、僕に「熊野行脚」への扉をひらいてくれたんだなって解釈してます。
 実際、熊野の旅は、天候にも恵まれ、素晴らしかった。
 僕、熊野本宮の宿坊「瑞宝殿」ってとこに3晩泊まってね---宿代は1泊3000円也(詳細は、徒然その118☆まことの聖地「熊野・大斉原(おおゆのはら)」にて☆でも紹介してます---熊野の中辺路あたりをおもに歩いたんですよ。 
 熊野は、なおやかで、優しく、同時に峻厳であり、神秘的でした。
 山間の「伏拝王子社跡」から終点の大斎原の大鳥居が見えたときの感激は、いまも忘れられません…。
 そんな僕の熊野行の象徴となったのが、こちら、湯の峰温泉にある「つぼ湯」---

 ここのお湯は日本最古の自噴湯であり、同時に世界遺産に認定された唯一の温泉でもあるのです。
 実際にここを歩いてみると、もう50mほど歩いただけで、旅館なんかどこにも見えなくなっちゃうんですよ。
 あまりの小ささにびっくりする、小ぶりでささやかな、山あいの温泉地なんですけど、やっぱりね、町に漂ってる歴史観がフツーじゃない。
 湯の谷川の清流にそって、「小栗判官蘇生の地」と書かれているのぼりが何本もはためいてて…。
 こちら、近くにある「湯の峰温泉公衆浴場」で、入浴券を購入するんですよ---料金は750円也。
 小さいお風呂だから、一度に2人くらいしか入れない、だから、必然的に番待ちになるわけ。
 僕が訪れたときは連休後のせいかお客が多く、18番という待ち札をわたされました。
 「浴場」のおじさんにいわせると、18番っていうのは、だいたい1時間半待ちのコースだそうです。
 ほかの浴場だったら、マジ、1時間半待ち? 冗談いってんじゃねえよ! とかいったノリになるんでせうけど、どういうわけか、ここではまったくそうしたアングリー心理に陥りませんでしたねえ。
 
----へえ、1時間半待ちか…。だったら、ゆっくり楽しんで待ってやろうじゃないの…。

 で、東光寺のまえのお店で購入した生卵を網に入れて、湯の谷川の有名な「湯筒」でもってかぷかぷと温泉卵にしてみたり、そんな僕同様温泉卵作りにいそしんでいる三重発のご夫婦と何気に世間話してみたり…。
 1時間半の待ちなんて、あっという間でした。
 そうして、17番の女の子のふたり連れと交代して、木扉のフックに18番の待ち札をかけて入った憧れの「つぼ湯」は、嗚呼、サイッコーでしたねえ---。
 「つぼ湯」は、長野の五色温泉みたいに日によって色が変化するお湯だそうです。
 僕が入ったときは、やや緑寄りの白濁色をしておりました。
 当然、自噴泉---玉砂利の細き隙間から、ぷくぷくぷくと新鮮なお湯ちゃんが次々と湧いてきます。
 足と尻に触れる玉砂利の感触が、たまんない---入浴5秒ですでにエクスタシーの気配です。
 ただ、湯舟はね、ここ、とってもちっちゃいの---飛行機のコクピットみたい---2人入るともう満杯---基本は、ひとりで入る湯なんだと思う。
 驚かされたのは、僕、ここは詫び系の湯だろう、なんて風に勝手に事前予測してたんですが、ここのお湯自体は、僕のそんなさもしい予想をはるかに覆す、もの凄い生命パワーをうちに宿した強烈な野生湯だったっていうこと。
 硫黄の濃ゆい香りがぴんとね、なんかこう、縦に立って迫ってくる感じなの---。
 ええ、湯舟はちっちゃいし、湯の谷川の清流もささやかで、一見ここ静かで癒し系じみた外貌をしちゃあいるんですが、ええ、ここ「つぼ湯」の本性は、まちがいなくヘビー級の---しかもファイタータイプ!---凄玉温泉なのでありました。
 ヘンな譬えかもしれないけど、僕は、ここのお湯から微妙な「凶暴さ」さえ感じていたんです。
 うん、一般的に殺気系温泉と見なされている、あの秋田の超酸性の「玉川温泉」よりもずっと。
 さっすが、廃人になった小栗判官を蘇生させちゃうわけだよ!---湯治湯って称号はミスマッチだな---ええ、湯の峰温泉は、やっぱり、より強力な語感の「蘇生湯」の呼び名こそふさわしいんじゃないのかな。
 生と死の境に咲く、どろどろの命の塊のような、湯の峰温泉の名湯「つぼ湯」!
 温泉好きなら、是非、こちらの湯をいちど訪れてください---そして、千数百年分の神秘の湯力がしずしずと胎内に浸透してくる、逸楽と殺気とめまいとを同時に体感して、軽く瞠目してほしいと思います…。
 

      
  

   第8位 ★増冨ラジウム温泉「不老閣」★ 山梨県北杜市須玉町小尾6672 0551-45-0311

 山梨といえば「ほうとう」で有名ですが、こちら、名湯の宝庫でもあります。
 山梨といってぱっとうかんでくるのは、あの「韮崎旭温泉」だとか、笛吹川の「はやぶさ温泉」なんかなんですが、絶対忘れちゃいけないのが、こちちの増冨ラジウム温泉「不老閣」(じゃ~んと効果音)なんであります。
 僕は、こちらの温泉のある、須玉町小尾って土地の自然がまず大好き。
 ぽーんと平野がひらけてて、地平は遠くに、見通しのいい青空はいつきてもなんかなごんでて…。
 蛇足でつけくわえますと、こちら、ジャーナリストのリチャード・コシミズ氏の一族の郷里だそうです。
 輿水なんて珍しい姓だと思ってたんだけど、ここにきたら輿水姓はいっぱいいるんだって。

 イーダちゃんは、この増冨ラジウム温泉「不老閣」さんの自炊部に、2009年の9月15日から17日まで3連泊しました。 
 まえから情報探って、憧れてたんですね---で、いってみたら、思ったより立派な旅館さんなんでびっくり!---ええ、本谷川の清流の向こう岸にはじめて目指すべき「不老閣」さんのあで姿が見えたときは、僕、なんかのまちがいじゃないか、と思ったくらい。
 自炊部があるっていうんで、もっとひなびた感じのちっちゃなお宿じゃないかな、なんて勝手に想像してたんですよ。
 でも、実際の「不老閣」さんは、なんちゅーか、モロ一流旅館。
 ロビーも門構えも豪華で綺麗---これは、宿のセレクトまちがえちゃったかなあ、なんて最初は思っちゃいました。
 予約入れてたんでその旨をロビーで伝えると、女将さんがでてきて、にこやかにこちらにどうぞ、なんておっしゃって、自炊部専用の説明用紙片手に、丁寧にお宿の説明をしてくださいます---

1.「不老閣」は、旅館部と自炊部(ラジウムランド)とに分かれている。
2.自炊部の「岩湯」は、自炊棟から野外の山道を少うし歩かねばならない。
3.「不老閣」の温泉は、基本的に19度の冷泉。旅館部の内湯などでは加温しているが、自炊部の「岩湯」は、19度の冷泉のまま掛け流しにしている。
4.1日の理想入浴回は3回。ラジウム湯は想像以上に効く湯のため、入りすぎに注意すること。
5.「岩湯」には、男性入浴時間と女性入浴時間とがある。なお、山道が危険なため、夜間の「岩湯」には入れない。
 
 以上のような説明を和服姿の美人の女将さんから聴きながら、僕は、心ここにあらずというか、ディズニーランド入場前の幼児みたいな心境になってきちゃったことを、ここに告白しときます。
 だって、いままでいろんな湯治宿にいったけど、こんな懇切丁寧な湯治の説明受けるの、マジはじめてだったんだもん。
 女将さんの話にうなずきながら、心は、はるかな「岩湯」にさきに飛んでいってしまい、もうどうにも制御不能。
 で、本館の2階から渡り廊下で山の中腹にある自炊棟の自室に案内されて、そこに荷物を置くやいなや、そわそわイーダちゃんは山沿いの階段を延々のぼり---距離結構あるぞお! 運動不足人は注意(^.-y☆---さっそく噂の「岩湯」を訪れたのです…。

 噂の「岩湯」は、もう雰囲気むんむんでしたねえ。
 旅館部のゴージャスなムードとまったくノリがちがうのよ---ちなみにアタマ左の写真が「岩湯」のある湯小屋、右上フォトが「岩湯」なり---僕は、このいかにも湯治場の雰囲気に入るまえから呑まれちゃってね、ま、半ば陶然と湯小屋の戸をあけたわけです。
 すると、お客さんがいるいる---いやはや、「岩湯」ったら凄い人気です。
 で、僕は着替処で全裸になりまして、いよいよ「岩湯」のなかにINすると、あらら、湯小屋の内部ってかなり薄暗くなってるんです。
 湯舟は、なんか家みたいにでっかい岩にぎゅうぎゅう乗られてる感じ---凄え!
 そして、湯舟にむかって左手上方向には、超・立派な神棚が…。
 厳かに神棚にむかい拝礼して、しずしずとお湯にむかいます。
 すでに湯舟につかってる先輩客らに黙礼して、湯舟脇で掛け湯を少々---すると、

----うお、ちべたっ…!

 と、あまりの冷たさについ声がでちまって。

----そりゃあね、19度の冷泉ですから、と先客のじいちゃんが、ころころ笑います。

----でもね、辛坊して入ってれば、すぐ内部からぽかぽかになるから…。ここの湯は、凄いですよ、お兄さん…。

 この先客じいちゃんのいう通りでした。5分10分とこの淡い暗緑色の冷泉につかっているあいだに、僕は、形容しがたい暖かい落ち着き気分包まれている自分を発見したのです。
 単に気持ちいいっていうのとは、ちょっとちがう---そうした肉体快楽的なベクトルの要素を外したうえで、もっと厳かで神聖な---いままでの温泉歴では決して感じられなかった種類の、非常に精神的であると同時にある意味ストイックで神道的な、要するに、まったく新種の未知の湯浴み感---!
 こ、これは、素晴らしすぎる…。
 後ろ頭にごつごつ当たる岩の硬い感じと、足元から湧出してくる源泉あぶくが太腿裏にあたる際のなんともくすぐったい感触、あと、深くなった呼吸ごとに身体の芯まで染みてくるこのふしぎな清涼感は、これは、湯に混入したラジウムの効果なんでせうか?
 イーダちゃんは、この天然のラジウム湯の虜になりました。
 理性が霧散するほどぼーっとなって、みんなして身じろぎもせずにここの冷泉につかっていると、暗緑の泉面がそのうちよく映る鏡になって、そこに神棚正面の窓がそのままくっきりこんと映りこんでくるんです。、

----おお、見事だな…。こんな鏡のなかにもこんな精緻な世界があるなんて…。

 なんて感心してると、その鏡のなかの逆さ扉から新たなお客がまたやってきて、

----やあ、こんにちはー! なんて挨拶してこられて。

 その声にはっとなって、泉面の鏡からやっと顔をあげ、

----ああ、こんにちは…。

 と、どうにか世界に回帰して発する自分の声が、ひとの声みたいに遠く響いて、ふしぎな感じ……。

 「岩湯」で知り合ったお客さんのなかには、玉川温泉に長逗留してたけど、湯があわなくて湯治先をこちらに変えた方、6年がかりで悪化した肝硬変を治しきった方なんかもおられまして。
 尋常な湯場じゃないっスよ、こちら---まさに神の湯---ちなみに、ここの自炊棟の宿代、3泊してたったの1万3500円。
 これは、絶対訪ねなきゃ損だと僕としては思うんだけどなあ…。


                 


    第9位 ★東鳴子温泉「黒湯の高友旅館」★ 宮城県大崎市鳴子温泉鷲ノ巣118 0229-83-3170

 温泉チャンピオンの郡司さんにいわせると、日本の温泉の西の横綱は「別府」であり、東の横綱は「鳴子」であるそうです。
 鳴子温泉のことをよく知らなかった当時の僕は、氏のこの意見を読んで、思わず「?」と両眉を寄せたもんですが、何度か鳴子を訪れるうち、氏の視点が実に達見であることが分かってきました。
 鳴子の湯は、マジ、素晴らしい…。
 あの、鳴子って観光写真でよく紹介されるように、こけしの町なんです。
 駅からおりてすぐのところに巨大なこけし像があって、観光客はまずその歓迎こけしに目線を吸いとられるはず。
 ここ、群馬の草津ほど全国区で有名な場所じゃないけど、週末とか連休だったら、いついっても観光客はそこそこいます。
 お湯の充実度もなかなか凄いっスよ---駅から湯の街通りの坂をちょい上ったとこには、あの白濁の共同湯「滝の湯」さんがあるでしょ?
 あと、駅前通りから中町通りをぶらぶらと15分ほど歩いて、江合川沿いのルート108まででれば、緑湯で有名な「西多賀旅館」さん、アトピーに効くと評判の白濁湯「東多賀の湯」さんなんかが並んでる。
 ここらあたりだけでも相当レベルの温泉地だと思うんだけど、ここ「鳴子温泉」には、さらに奥の院があるんです。
 それが、観光客がめったにいかない、辺鄙で、閑散とした「東鳴子温泉」なんです。
 JR「鳴子温泉」駅の近辺は、さまざまな旅館がひしめくように建ちならび、ほとんど熱海みたいなノリをかもしだしてるんですが、こちら「東鳴子温泉」は、そうしたにぎわいとはちょっと無縁かも。
 まず、昼間いっても、ひとがあんま歩いてないし。
 店舗もほとんどなく---食べ物屋なんて1軒しかないうえ、旅館もせいぜい4、5軒くらいしかない。
 でもでもでもね---湯治場みたいにしーんと静まったここの地区に、実は、只者じゃない、スーパーヘビー級の伝説湯があるんスよ…。
 それが、東鳴子温泉「黒湯の高友旅館」さん---! 

 僕がここに泊まったのは、2007年の5月12日とかなりむかしのことなんですが、まだ、温泉ビギナーだった僕のうぶうぶ温泉ソウルは、ほとんどここのお湯パワーで開眼したんじゃないか、と今じゃ思っとります。
 その後も泊まりでいくことはなかったものの、鳴子に寄る機会があれば、僕は、ここの湯に必ず立ち寄りを決めてます。
 だって、ここ、単純に凄いんだもん…(-_-;)
 僕が全国各地の名泉で知りあった初見の風呂友と温泉話をする際、こちらのお湯は、ええ、あの「別府温泉保養ランド」の泥湯についで、話題に乗る確率が高いお湯でもありました。
 ていうか、段持ちの風呂マニアが、もう、みんなしてすでに知ってるわけ。
 僕は、那須の「北温泉」の自炊用の台所で、前日まで「高友旅館」に泊まっていたというおばちゃんとお話ししたことがあるし、たまたま入った岡山の「幕湯」でも、初めて会った兄ちゃんから「高友旅館」の名を聴いてびっくりしたことがある。
 なんちゅーか、全国区なんですよ---こちらの「黒湯」って。

 ただ、「黒湯の高友旅館」と謳ってはいても、こちらのお湯は、なにも「黒湯」だけじゃありません。
 ここ「高友旅館」さんは、独自の源泉を、なんと4種も引いているお風呂なんスよ。
 売りのお風呂は、「黒湯」のほかに、「重曹泉」「単純泉」「ラムネ風呂(こちらのみ女性限定! けど、僕は宿のひとの許しを得て入ったことある)」なんかがございまして。
 もー、温泉マニアからすると、パラダイスですよ、ここ。
 ま、宿さんのお建物自体はモロ昭和してて、木造のふる~い、いくらか薄気味わるくもある造りですから、清潔好きの若奥さんタイプだったら敬遠しちゃうかもしれない。
 でも、こちら垂涎の「黒湯」はね---それはもう、あらゆる温泉びとの予測を超える、それこそ神の湯なんですから…。
 そんな些細な理由で入らないでいたら、あまりにも勿体ない。
 で、いよいよその肝心な「黒湯」の解説ね---こちら、含硫黄-ナトリウム-ラジウム-炭酸水素-鉄泉の温泉なんです。
 お風呂の扉をあけて、やや薄暗い照明の下にあられるのは、ひょうたん型の、定員10名くらいの、大きめのお風呂です。
 お湯は、濃ゆい暗緑---もっとも、日によって色は変化するそうですが。
 コンクリートと岩とでできた、やや無骨な風貌のこちらのお風呂---湯の湧出物や含有成分ですすけたように変色した風呂場の壁なんかもとっても印象的なんだけど、ここに入ったひとがまずたじろぐのは、なんといってもここのお湯だけがかもしだす独自のにおいでせう。

----うわ、なに? 臭っ…!

 と、たぶん初見の誰もが思うはず。
 ええ、こちらのお湯、猛烈な石油臭(有機溶剤臭)がするんスよ。
 それこそ、日本一臭い湯と異名をもつ、新潟の、あの強力なアウトロー温泉「西方の湯」のように。
 あれからアンモニア臭を取りのぞいて、煮物のダシ臭ものぞき、さらに石油の香りを強く煮出した感じ、とでもいうんでせうか。
 ともかくね、尋常じゃない香りなわけ---しかも、これ、世間的にいう「いい匂い」というやつの対局にある種の香りです---ですから、この風呂場まできて、引きかえしちゃうひとがいるってケースもまあ分からないじゃない---でもね、掛け湯して、いっぺん肩までそっくりこの強烈なお風呂に沈めてみたら、きっと誰もがここのお湯の「湯力(ゆぢから)」に驚嘆することでせう。
 5月13日の早朝の4:30---たまたま僕と一緒に湯浴みした小さなおばあさんは(お。いい忘れてた。こちらの湯、混浴です)、

----ここのお湯につかるとね、リューマチが全然痛くなくなるの…。

 ほんのり桜色の頬で、そうおっしゃってました。
 あのときは、やたら熱がる僕のために、ご自分は熱湯好きなのにわざわざ水をザブザブ入れてくだすってありがとう!m(_ _)m
 で、「黒湯」がいよいよ凄いのは、このおばあさんのほかにも、この湯の「湯力」について言及するひとが後を絶たないこと。
 宿さんがつっくたチラシから、ちょっとその声をアトランダムに抜粋してみませうか---

 石巻のSさん:膝のズキズキ痛むのが治る。
 気仙沼のOさん:脳出血による半身不随のしびれ治る。
 多賀城のSさん:苦しかった強度の神経痛、肩の痛み、治る。
 気仙沼のYさん:足のひらのしびれ治り、帰宅して身体が軽々となる。
 古川のSさん:重症のロッカン神経痛、治る。
 女川の船員Hさん:ヘルニヤで体の痛苦しいの、治る。
 札幌のYさん:宿便がでてお腹ヘコミ体調がきわめて快調になる。
 宮崎町のIさん:3年ぶりに曲がらなかった足曲がるようになる。
 仙台のSさん:交通事故に遭い曲がらなかった首も曲がり、腰の骨の痛みもとれました。
 鹿又のSさん:左足の皿割って3か月め、黒湯に入って杖なしで歩けるようになり、ギブスをかけて固くなったスジも軟くなる……

 これはまあ、なんとあの玉川温泉並の「快癒博覧会」ではないですか---。

 ま、これだけじゃデータ少なすぎるんだけど、ともかくこの「黒湯の高友旅館」の名を貴方の脳チップにクリックしていただければ、イーダちゃんはとても幸甚です。
 いまこうしてこれ書いてても、あの「高友旅館」のぎしぎしいう、長い、暗い廊下が脳裏に閃いてワクワクしちゃう。
 嗚呼、昭和臭むんむんの、あの郷愁の「黒湯の高友旅館」、是非ともまた行きたいもんっスねえ…!

        (第2部、長すぎるんでこれにて了。そのうちまた続きやりまっすw)

徒然その204☆イーダちゃんの 「日本全国特上温泉べストテン!」PART1☆

2015-03-24 23:20:12 | ☆湯けむりほわわん温泉紀行☆
                 


   第1位 ★「別府温泉保養ランド」★ 大分県別府市明礬紺屋地獄 0977-66-2221

 九州の別府は、僕の聖地です。
 もうね、ここよりほかに聖地なしって感じの、一種とびきりの場所なんスよ。
 別府には、マゼラン星雲クラスのグレートなお湯は、いっぱいあるの---「鉱泥温泉」さんとか「神丘温泉」さんとか、あと、別府って町の顔である、あの風格満々の共同浴場「竹瓦温泉」(なぜか、ここ歓楽街のまんなかにあるね)さんとか…。
 でもね、イーダちゃんにとってのベスト・オブ・別府はね、ここしかない。
 イエス、「別府温泉保養ランド」---。
 こちら、僕、個人的には、世界一の温泉だと思っちょります。
 いま調べなおしてみたら、僕、こちらに 2007年の 3/28 3/29 に立ち寄りで3回、 2008年の 3/19 に泊まりでいってます。
 街としては、別府って案外都会なんですよ。
 那須の北温泉みたいに、仙境気分を味わうためにいったって、そりゃあむり。
 ひなびた感じが楽しめるっていうんじゃない、あと、旅館自体に風情があるとかそういうんでもない、僕は、ここ泊まったけど、正直、飯はまずかったし、部屋もボロかった。
 だけど、ここ、湯がね、

 湯が、もう、神…。(ToT;>

 こちらの湯にはじめて訪れたとき、イーダちゃんは、もうカルチャーショックの極みみたいな感覚に襲われたものです。
 まず、施設自体のボロさにびっくりした。
 それから、風呂入口前の畳の休憩所に、プロレスラーの藤波辰巳の写真があることに、またまたびっくりして。
 藤波さん、リングで腰壊したとき、ここに静養にきてたんですねえ、知らなかったよ。
 でも、そんなことよりなにより---長ーい廊下を歩き、着替処ですっ裸になって、地下のほの暗い黒湯部分を歩いて抜けて、あの野外の広大な露天の泥湯にはじめてお目見えしたとき---

----うおっ、こ、これは…。

 と、きっと誰もがどもると思う。
 てゆうか、どもらなきゃ温泉好きぢゃないってば。
 だってさ、視野がいきなりひらけて、由布岳と別府大橋が大パノラマでばーっと見えて---
 しかも、なによ、この池みたいに広い、とろっとろの麗しい天国露天の大群は?
 こちらの露天って、文明的なチャチい、あの湯船って仕切りが、まず、ないんですよ。
 原始の時代から自然に湧きだした天然のままの温泉を、簡単な木枠で申しわけ程度に囲ってあるだけ。
 生まれたままの温泉なのよ---しかも、それが、世界的にも貴重な、鼠色のアチチの、濃ゆい、効能まるだしの、極上の泥湯ときた…。
 足先からそろそろ入ると、こちら、足が、温泉の底にズブズブ埋まります。
 気をつけてないと、片足だけいきなり深く埋もれて、バランスを崩し、自慢の乳房をドワンと公開してくれるレディーが、ほらね、あっちにもこっちにも--- w (ここ、混浴なんス)
 
 濃厚な泥湯は、なんとも形容しがたい、滑らかで、肌に吸いつくような、魅惑の柔らかさ。
 それと、通常のお湯じゃ絶対に味わえない、泥湯ならではの重げな質量が加味されて、なんというか別格の、ふしぎなあったかさがあるんです。
 このあったかさと共に、かぐわしい、別府独自の超・濃ゆい硫黄の香りでしょ?---それを顔に塗りつけると、硫黄の匂いはことさらにプーンと濃く香り、なんちゅーか意識が飛びそうになるの。さらに、ぐわしと掴んだアチチ状の泥の塊のなかに、なんかの葉っぱの切れ端がまじってて、それがほほに貼り残ったり---

----あらーっ、そこの粋なお姉さん、肩のところに葉っぱがぺとーって貼りついてられますよー!

 野趣満載、情緒凛凛、そして、そこはかとないお色気も。
 さらにさらに、ここ、奇跡の足元湧出湯なんです…。
 だから、油断してると、お尻の底の泥部分から、いきなしアチチの泥あぶくがぶくぶくってやってきて、そのふいの熱さの来訪に、ときどき飛びあがったりもしちゃうんだ。

----た、愉しいー。

 うぐいすが遠くでピーヒョロロって鳴いてます。
 湯面の鏡のなかの青空を、ゆーっくりとちぎれ雲が流れていきます。
 おのずから呼吸も深くなり、胸のあたりにしこっていた下界のストレスもすーっと淡くなっていって。
 で、湯のなかの身体中の組織が、毛穴が、爪が、踵が、肛門が、ひよひよ喜んでるのが、だんだん伝わってくる。
 これ以上いうことなんか、なんもないっス…。
 こんなお風呂があっていいんだろうか?
 さながら、温泉界のメリーゴーランドって感じじゃないですか。
 僕は、こちら、世界温泉のトップだと思ってる。
 ですから、これをお読みの皆さん---死ぬまえにナポリを、じゃなくって、死ぬまでにぜひとも奇跡の湯「別府温泉保養ランド」に巡礼しにいきませう---(^0^)/!



                 

   第2位 ★乳頭温泉「鶴の湯」★ 秋田県仙北市田沢湖田沢先達沢国有林 0187-46-2139

 出たーっ、横綱、乳頭温泉---! 
 恐らく、全国でアンケートをとったら、栄冠ある温泉人気第1位を勝ちとるのは、乳頭温泉の、この「鶴の湯」さんなんじゃないでせうか?
 僕は、この「鶴の湯」さんっていうのは、多くの日本人がもっている「温泉」のイメージをいちばん表象してる温泉だ、と思うんだ。
 茅葺屋根の本陣の風情ある並び、極上の濁り湯にブナ林、すすきに熊笹、そして、ほろほろと舞い散る雪の粒…。
 ニッポンの温泉の原風景とでもいうのかな?
 僕が第1位にあげた「別府温泉保養ランド」は、湯は超・極上なんだけど、施設がちとボロじゃないですか?
 あと、名前ね、「別府温泉保養ランド」---ちーっと即物的すぎて、なんちゅーか含みに欠けるキライがある。
 施設自体も町のなかにあって、どう考えても秘境ってイメージとは結びつかないし。
 そこいくと、この「鶴の湯」さんは、国有林のブナの森のまんなかに位置してる---オゾン臭プンプンの秘境っスよ。
 さらには宿の風情---茅葺屋根の本陣さんでしょ? 囲炉裏を囲んだ食事でしょ? さらには、写真を見るだけでため息が漏れてきそうな、極上のバランシーな濁り湯でしょ?
 これはね、強いよ---。 
 僕は、おなじ乳頭温泉の「黒湯」さんに2泊したことがあって、「黒湯」さんのワイルドな佇まいも超好きなんだけど、やはり、やーっぱりこの「鶴の湯」さんの格別の魅力には抵抗できません。
 僕は、こちら、2006年の12/19に1泊しました。
 この夜、僕は、憧れの本陣さんには泊まれなかったんだけど、宿の食事は、こちら、皆、本陣さんででるんですね。
 雪のなか、全国各地からやってきたひとが、みんな、本陣さんにいそいそと集まって。
 建物の外の雪の気配をそれぞれに感じながら、囲炉裏を囲んで、鶴の湯特製のもてなし食「山の芋鍋」を食べて---。

 さて、人気のある宿のお風呂を独占しようと思ったら、それはもう方法はふたつきりしかありません。
 夜中に入るか、夕食直後にソッコーINするか---。
 この夜、僕が敢行したのは、後者の技でした。
 みーんな、やっぱ、鶴の湯の雪と旅情に酔って、日本酒飲んだりして、僕の読み通り、出足、遅れたんですよ。
 で、この夜、僕は、あの「鶴の湯」の伝説露天を、ひとり、独占することができたってわけ。
 この夜の湯浴みは、忘れられません。

 写真にもある、湯中の岩を枕にして、僕は、仰向けに、舞い落ちる雪を見ながらの、極上露天と決めこんだのです。
 雪は、ごんごん降ってます。
 夜の彼方の天の袖から。
 結構、大粒なの---ためしに口をあけたら、口のなかにひゅーって飛びこんできたり。

----うっ、ちべたっ…!

 でも、湯に埋まってる身体部分は、そんな夜空への突起部分と反比例して、超・ぬくぬくなの。
 ときどき、足元湧出の源泉のあぶくが、身体を伝って湯面にぶくぶくと昇ってくるのが、嗚呼、なんとも愛おしい。
 湯けむりもこう、顎から鼻筋に伝ってそーっと流れてきてね、馨しい硫黄の香りを顔面付近でいったんふり撒いて、それから楚々と天に昇っていくの。
 降りしきる雪、雪---ねえ、空一面の雪模様…。
 自分が海底の底にいて、プランクトンの死骸が降ってくるのを茫洋と見ているような、あれは、なんともふしぎな感触でした。
 通常の時間軸から外れた場所で呼吸するみたいな、あんな湯浴みは、たぶん、もう二度とできないだろうなあ。
 うん、あれは、プレイバック不可の、一期一会の湯浴みだったのです。
 「鶴の湯」さんにいったのは、あれっきり、それからは一度もいったことはありません。
 けれども、身体が芯まで凍えそうな寒い晩、僕は、いまでもときどき瞼をとじて、秋田のあの「鶴の湯」の湯にむけて、想いを飛ばしてみたくなるんです…。


                 

   第3位 ★屈斜路湖「コタン温泉」★ 北海道川上郡弟子屈町古丹 01548-2-2191

 2010年の8月、僕は、長年勤めた会社を辞め、北海道放浪の旅にでました。 
 愛車に飯盒炊爨セットとひとり用テントとをつめこんでの気ままなひとり旅は、言葉じゃいい表せないくらい楽しかった。
 社会で生きてるとニンゲンの視野って狭くなるんですよ。
 人間関係だとか対客用営業仕様とか、そっち系のセンサーばっかりやたら発達しちゃってね、ニンゲンとして本来備わっているフツーの五感は、むしろ封印しちゃってるケースが多いの。
 空の色調の時刻ごとの繊細微妙な変化に翳り、風の香り、草の匂い、雲のかたち---そういった広大な世界を感知する鋭すぎるセンサーは、人工物と気苦労とに満ちた、多忙で世知辛い街で生きていくうえでは、ある意味重荷であり邪魔ですから。
 その意味で、この北海道行は、目からウロコの連続でした。
 北海道の自然って、本州のニンゲンからしたら、信じられないくらい「濃い」んスよ。
 特に、8月の盛りなんかに山間部をクルマで飛ばしてると、フロンガラスに、ほとんど5秒おきくらいの感覚で、さまざまな虫がブチブチブチーってあたっては潰れていくの。
 なんという豪奢な生命の蕩尽か!
 そもそもの自然の生命力自体の桁がちがうっていうのかな。
 空はどこまでも高く、山は、町慣れしたニンゲンの罪深い胸を破るほど青く…。
 そんな僕の北海道旅のいちばんの収穫が、こちら、屈斜路湖(くっしゃろこ)湖畔にあるコタン温泉でした---。

 このお湯には、僕、2010年の8月13と14日に訪れました。
 屈斜路湖から17キロの弟子屈(てしかが)の「桜ヶ丘公園キャンプ場」ってとこにテントを張って---
 弟子屈から243をまっすぐいって、美幌峠屈斜路湖の看板を右折、52を5分ばかり走ったら、風靡な屈斜路湖と湖畔のアイヌの資料館が道路沿いに見えてくる。
 それが目印---こちらの湯、そのアイヌの資料館のご主人が管理されてるお湯なんです。
 無料の混浴の、塩素もなにも投入されてない、生のままの掛け流しのモール泉。
 大きさはさほどじゃないんだけど、ここ、見ての通り、石造りの湯舟のすぐ30センチ先がもう屈斜路湖なの…。
 冬場は、ここ、湯舟の暖かさに惹かれて、湖から白鳥がいっぱい寄ってくるんです。
 僕もなにかでその写真を見て以来、ずっとこちらのお湯に憧れてたわけなんでありまして…。
 で、実際に入ったこちらのお湯は、どうだったのか?

 至高、でした…。
 僕の温泉歴史のなかでも指折りに数えられる、たまんない湯浴みでした、あれは。
 仏教で「山川草木悉皆成仏-さんせんそうぼくしつかいじょうぶつ-」という思想があるんだけど、これはね、山や木や草々なんかとおなじように、川とか谷なんかの土地土地も生命をもったひとつの生き物である、といったような考えかたなんです。
 つまり、その土地土地での温泉経験は、ただの肌と源泉との物理的接触なんていうものじゃなくて、もっともっと深い、一個のニンゲンの魂とその土地との出会いであり、コミュニケーションであり交わりでもあるってわけ。
 この考えが、これほどの説得力でもって実感される湯浴みはありませんでした。
 だって、目のまえすぐが広大な屈斜路湖ですよ---!
 摩周湖のブラザーでもある、北海道屈指の美麗な湖のひとつ、神秘で深い屈斜路湖---。
 空気の鮮度、オゾンの濃度、空の高さと澄みぐあいからして、ほかの土地とぜんぜんちがう。
 ただでさえ自然のオーラの立ちまくっているこんな場所で湯浴みしたら、そりゃあ、染みないわけないよ。
 失業旅行中の未来不確定当時の不安定な僕に、この「コタン温泉」は、たとえようもないくらい優しい、言葉じゃない言葉で、なにかを語りかけてくれたのです。
 うん、実際、この温泉につかっていたら、僕内のネガティヴな数々の感情が、次々とほぐれて、融解していったんだから。
 じゃあ、実際に「コタン温泉」が僕に対してなにをいったのか?
 そりゃあ、分かんない…。
 人間よりずっと大きくて長命な屈斜路湖と、そのまわりのすべての地霊のコトバだもん。
 たかが一介のニンゲン風情に、解明なんてできるわきゃない。
 でもね、このときの「コタン温泉」」の湯浴みほど、染みた温泉っていうのが、かつて一度もなかったっていうのは、たしかなホント。
 朝方、湖畔の露天に肩までつかりながら、湖面の色が夜から夜明けの色に刻々と染まりかわっていくのをぼーっと眺めてるのは、よかった。
 なにがどうよかったのか、コトバで説明するのは、とても難しいんだけど…。
 あと、僕がここで湯浴みしたのは、お盆前の8月の13~14日でして、北海道ってこの時期、昼の盛りはまだ夏まっ盛りって感じなんだけど、夕をすぎるといきなり秋なの---特に屈斜路湖あたりでは、夕暮れ時には、鳴いてるのはもう秋の虫なのよ---リーリーリーって涼しげな調べでね。
 

 追憶の遠き北海道---
 碧く、はるけく広がる空と、地平までまっすぐ続く一本道と。
 弟子屈---深い藍の沈んだ屈斜路湖。
 そのほとりにひっそりと咲く、屈斜路湖自身の吐息のような、この「コタン温泉」は、ええ、いつまでも僕内の最強温泉のひとつです…。


                

    第4位 ★那須「北温泉」★ 栃木県那須町湯本151 0287-76-2008

 好きな温泉は数多くあるんですけど、いま、いちばんどこにいきたいか? と問われれば、僕の場合、いつもまっさきにアタマに浮かぶのが、那須のこの「北温泉」なんです。
 ここって、たぶん、僕がもっとも多く泊まってるお宿だと思う。
 いま、つらつらと調べてみましたら、2006年11/28、2007年11/19に1泊、2008年の6/28に1泊、8/18、19と連泊、さらに10/27、8、9と3連泊---
 2009年の5/11、12も連泊、8/17、18にも2連泊、11/23に1泊、さらにさらに、2010年3/6、2011年の5/18にも泊まりときた!
 もー、どんだけ「北温泉」が好きなのよって自分に突っこみたくなるくらい…(^.^;>
 ここにあげただけも16泊じゃないですか。
 数えもらしたぶんもあると思うし、あと立ち寄りのぶんまで加えたら、それこそ膨大な訪湯時間になると思います。

----「北温泉」のどこがそんなにいいのさ?

----うーんと、まずは土地かな…。このあたりってもともと修験道の土地でさ、たとえば「北温泉」前の駐車場にこう立って、宿のほうを見下ろしただけで、土地の醸しだす凛とした空気に、僕はいつも打たれるわけ。杉の木々が山肌に針みたいにピンと立ってるし、夜笹川の瀬音も通常の川よりどっか厳しい響きがして、背筋のあたりが自然にピンと立ってくる気がするの。ていうか、理性よりさきに全身の毛穴で実感するんだよ、ああ、また「北温泉」にきたんだなあって…。

----へえ、空気か…。ほかには?

----「北温泉」までに至る道かな…? あのさ、「北温泉」ってクルマではとちゅうまでしかいけないのよ。宿のすぐまえまでならクルマでいけるんだけど、その駐車場からさきの下りの800mは歩きなの。その、つづら折りの下りの細道の過程がね、これがまたいいんだなあ…。秋にくると赤とんぼがそれこそ雲霞のように舞っててね、誇張じゃなしに淡い靄みたいに見えるのよ。冬にきたらきたで、ここ、超・雪道じゃない? 一歩一歩転ばないように注意しいしい歩いて行って、とちゅうの坂でようやく「北温泉」の全景が見下ろせたときのあの喜び---アレは、そう、何物にも代えがたいよ…。

----へえ、ずいぶん奇特な趣味に聴こえるけどな。ほかには?

----建物。「北温泉」ってね、基本的に魔窟なの。江戸、明治、昭和にそれぞれ建てられた建物が、縦横無尽に交錯して、複雑に繋がりあって、総括的な「北温泉」って場をかたち作っているわけ。僕は泊まるときは必ず江戸期の3階建の宿に部屋をとるんだけど、ここ、凄いよお…。なにが凄いって、ぐにゃぐにゃに張り巡らされた細い廊下の構造が、なんというか、もう複雑怪奇すぎ。ほの暗い廊下の角々ごとに小さな神社があるわ、そのなかで線香が灯されていて、おかげで建物中がいつも抹香臭いわ、しかも、居室に許された暖房器具は基本的に炬燵だけだから、冬場の居室は超・寒いわ、なんちゅーかシュールなノリなのよ…。あの宮崎駿が「千と千尋の神隠し」の参考にしたっていうのもうなずけるほどの出来だわね。あ。ただ、こちらのお宿の廊下の床下には、四六時中温泉が流れてててね、その効果で廊下はとても暖かいんです。宿猫のミミがいつもトイレ前の廊下板のうえで居眠りしてるのが、なんちゅーか、ねえ、こちらのお宿の風物詩なんですよ(トなぜか目を細めて)…。

----ほう、魔窟、ですか?

----うん、魔窟…。温泉と猫と魔窟の三位一体が、要するに「北温泉」の魅力の肝なわけ。お分かり?

----そう決めつけられるとちょっと…抵抗感じちゃうんスけど…。だって、魔窟なんて…

----誇張じゃないよ。マジネタよ。だって、ここ、座敷童でるんだもん…。

----マジ…?

----うん、マジ。長年、先代と帳場を斬りまわしていたAさん(注:彼はいま北温泉にはいらっしゃいません)から、僕、直接聴いたもん。○○○号室で座敷童見たお客が、かつて何人もいたって…。

----ゲロゲロ! 本当だとしたら、それは凄いな…。

----本当だってば。べつの温泉で出会った「北温泉」マニアのひとからも、僕、おなじ話を聴いたことあるもの。

----へえ(トいくらか感心して)…。

----ただ、誤解してほしくないんだけど、「北温泉」の根本って、やっぱり温泉なのよ…。宿も魔窟風味もそれなりに素晴らしいんだけど、それは、やはり「北温泉」の根幹であるところの温泉の素晴らしさがあるからであって…。

----「北温泉」の湯っていったら、それは、やっぱ「天狗の湯」だっけ?

----うん、「天狗の湯」だね…。あれに、尽きる。宿前の広大な温泉プールも、目の湯も、夜笹川まえの露天もいいけど、あの「天狗の湯」のまえでは、すべての風呂が色あせる…。

----そんなに? そんなに「天狗の湯」っていいの…?

----うむ…。「天狗の湯」はね、「北温泉」のいちばん古くからのお湯なんです。源泉は「天狗の湯」脇の石段をあがったとこの「天狗神社」のお山から、次々と豊富に流れ落ちてきてる…。ここ、もともと修験道のための湯でね、お風呂に天狗の面がかかっているのは、それの名残りだとか…。いいよー、目の前の大天狗の面を眺めながら、鮮度バリバリの、極上の掛け流しの湯につかる心地は…。ここのお湯は透明な単純泉。でも、お湯のなかには湯の花がいっぱいあふれてて、しかも、ラジウムも混入してるらしいんだ…。

----へえ…。

----お風呂自体の立地もまた凄いよ。ここ、江戸期に建てられた旧館の二階の奥手にあるんだけど、お風呂場と廊下を隔ててるのが、なんと、簡単なすだれだけなの。つまり、二階の住人が戸をあけてついと奥手を見たら、もうモロ入浴客らの裸が見えるわけ。場合によっちゃあ、いきなり中年男性の局部と御対面なんてケースが、日常のあたりまえの風景なの。あ。ちなみに、ここ、混浴ね。お風呂に着替処がなくて、籠を入れた棚しかないから、入浴客らのまんまえで脱がなきゃいけなくて、そのぶん女性入浴のハードルは高いけど、入ってくる勇者の女性、ときどきいらっしゃいますよー。

----それは、なかなか興味深いですな…。

----鼻の下を伸ばすんじゃない! 「天狗の湯」に入って助平心を催すなんて不謹慎な…。ここでの混浴は、もっと神聖なものなんです。大天狗の面をぼーっと眺めながら、極上の湯につかって、たまたまご一緒したおっさんやお嬢さんやおばちゃんと何気に言葉を交わして---で、湯疲れしたら、風呂脇の、温泉神社に至る階段上にすっ裸であぐらをかいて、身体冷めるまで那須の山々を無心に眺めて…。

----むーっ、それはよさげですな…?

----でしょ? ここほど仙境気分にひたれる温泉ってないのよ。だから、僕は、何年にもわたって、ここに通いつめてるわけで。でも、何年たっても、飽きるってことはないな。

----いいですね…。話、聴いてたら、なんか、急に行きたくなってきた。どうです、今度の休みにでも?

----うむ、(微笑して)いきましょう…。

(注:「北温泉」は僕ブログの過去記事、徒然その44☆北温泉逗留物語☆にて特集してます。ご興味がおありの方はどんぞw)


                 


    第5位 ★奥津温泉「東和楼」★ 岡山県苫田郡鏡野町奥津33 0868-52-0031

 2007年の10月4日の12時05分、僕は、島根の「長楽園」さんの有名な庭園風呂のなかで、絶望しておりました。
 この日は中国温泉遠征旅の3日目でして、僕は、前日に岡山の「砂湯」「真賀温泉」などを攻め、ひそかに岡山の温泉レベルの高さに驚嘆していたんです。
 特に「真賀温泉」の「幕湯」には、やられた。
 マジ? こんなに中国の温泉ってのはレベル高いのか…。
 賞賛5割・羨望3割・嫉妬2割のそんな気持ちに胸に抱いていたら、出雲のあの「長楽園」さんに無性に足をのばしてみたくなったのです。
 「長楽園」さんは、創業120年の歴史を誇る、老舗宿---
 なかでも宿自慢の広大な庭園風呂は、日本の庭園風呂を語るとき、必ず引き合いにだされるほどの存在です。
 僕は根城が関東だし、この機会を逃したら、もう二度と「長楽園」さんにはいけないかも…。
 そう思ったら矢も楯もたまらず、はるかな出雲にむけ、クルマを駆っていたのです。
 目的の玉造温泉到着は、朝の7時すぎ---。
 早すぎてどこもやってないの---仕方なしにパン屋さんでパン買って、近くの玉湯川で足湯したり、玉造ゆ~ゆでバイキングを食したりして、立ち寄りの12時まで時間をつぶしていたのです。
 長い待ち時間だったけど、なに、これからあの「長楽園」さんの湯につかれると思うと、辛さなんか微塵もありません。
 で、12時ジャストに宿にいって、いそいそと全裸になって、あの伝説の庭園風呂に入ったわけです。
 そしたら、信じられない---こちら、塩素湯でした---!
 入るまえからそれっぽい気配はしてたんですよ、けど、まさかあの「長楽園」さんが温泉に塩素を投入するなんか信じられなかったんです。
 でもね、長大な庭園風呂をあっちにいったりこっちにいったりしてるあいだに、事情は厭でも飲みこめてきます。

----信じられない…。これは、塩素だ…!

 悲しかった。
 通常だったら5秒ででるんですが、庭園風呂はあまりに広く、しかも胸までお湯が深いんで、でるまでに30秒ほど費やしたように思います。
 髪も身体もびしょ濡れのままクルマに乗りこみ、速攻で玉造温泉をあとにします。
 なにも考えてなかった。とにかくそこを離れたかったんです。
 さて、玉造温泉では上天気だったんですけど、岡山にもどるころになると、なぜか雨脚が凄まじくなってまいりました。
 僕の失望した胸中の鏡のように、涙雨が降るわ降る---!
 で、そんな豪雨のなかをやけくそに飛ばし、3時間ほどあとに辿りついたのが、ここ、奥津温泉だったのです…。
 PM4:00---雨は、そろそろやみはじめていました。

----へえ、ここが奥津温泉なんだ…。
 
 クルマのドアをあけ、丸まった背筋をのばし、ちょっと町の散策としゃれこんでみます。
 雨あがりの草のにほい。いいなあ、洗われたばかりの空気まで、なにか新鮮に感じられます。
 奥津温泉は、ちっちゃな町でした---旅館なんてほんの数件っきゃないの。
 町を貫く吉井川の清流を囲むように、有志が町を形成したって感じでせうか?
 そのほとりにある有名な露天である「洗濯湯」(現在、さまざまな都合により、ここでの遊浴みは禁止されます)と。
 もういちど旅館のあるあたりにいってみると、温泉教授大推薦の宿「東和楼」を見つけることができました。
 なお、このときの時刻は16:50---立ち寄りには、たぶん遅すぎる時刻なんだろうけど、ダメモトで入浴を申しこんでみると、

----ああ、どうぞ、いいですよ…。

 お金払って、トンネルをくぐって、地下一階の源泉風呂にいそいそと向かいます。
 湯舟は、正直、ちっちゃめ---天然の岩がそのまま湯舟になってる形式です---洗い場のスペースだってそんなにない---ふたりか三人入ったら満員になってしまうようなお風呂です。
 でもね、お風呂から立ちのぼってくる香りが、こちらフツーじゃなかった。
 名湯の予感がひしひしとしてきます。
 が、焦りは禁物!---逸る心をいなして、あえて入念に駆け湯なんぞして、足首からはんなりと入り湯すれば----

----……!

 僕、思わず息をのんで、黙っちゃいました…。
 いい透明湯の説明って一般に濁り湯よりも難しいんだけど、特にここ「東和楼」さんのお湯の魅力は、コトバで表現することがやりにくい。
 入っちゃえば一発で、誰にでもすぐ分かることなんだけど。
 それにしても、こちら、綺麗なお湯でした。
 それに、ほら、ここ、なんという柔らかい肌触りでせうか---!
 手の指も爪先も、お湯のなかでくつくつと歓喜してるのが、よーく分かるのよ。
 源泉は足元からときどきあぶくになって湧いてくるものと、ホースでぶわーっと組みあげているのとの、二通り。
 あえて分類するなら、ええ、無色・無味の単純泉ってことになるのだと思う---なのに、どうして、ここのお湯、こんなにもいいの?
 温泉マニアの僕からすると、どうしたって分析したくなるお湯です---けど、上窓から漏れてくる夕日に照らされて、この極上の湯にぷかぷかとつかっていたら、僕の頭脳からだんだんその種の分析力は失われていくようでした。
 というか、これだけのお湯につかりながら、五感をそんなせせこましいことに使うなんて、あまりにもったいないっていうか。

----それよりも、いまだけのこの極上湯を、全身で繊細に味わいつくさなきゃ…!

 ええ、こちらのお湯って、入ったひとを温泉の求道者に変えてしまうんですよ。
 そんなつもりで入ったわけじゃないんだけど、2、3分肩までつかっていたら、僕もいつのまにか温泉求道者になっちゃってました。
 ここのお風呂に部屋借りて1年くらい住んでみたいなあ、なんて結構マジに思ってみたりして…。


                          ×             ×             ×

 奥津温泉の「東和楼」さんは、僕的にとてもスペシャルなお湯なんですよ---。
 僕、基本的に「濁り湯党」なんですけど、やっぱり、極上の透明湯と出会えたら、その喜びには格別なものがあるわけで。
 だって、なんといっても、透明湯って温泉の原点なんスから。
 「東和楼」さんを出たら、夕日、だいぶ傾いてました。
 雨あがりの奥津温泉は、ひなびてたけど、きらきらと輝いて、とても綺麗でした。  
 近くの雑貨屋で練乳入りのアイスキャンディーを買って、それ齧りながら、吉井川のほとりをぶらぶらと歩いてみました。
 吉井川の清流と、草のにおいと、うなじを通る風と---あの秋の夕暮れどきの小さな恍惚が、僕は、いまもって忘れられません…。


                                                              (第一部、了)
  
 


 
 
 
 

 

徒然その202☆川治温泉「登隆館」神の湯におののく! ☆

2015-02-24 02:07:28 | ☆湯けむりほわわん温泉紀行☆
    


 2015年の2月中旬、イーダちゃんはひさびさの温泉旅にいってまいりました---。
 いままでは試験があるから自制してたんですが、試験が終わってしまうと、もうどうにも自制ききませんでした。
 休みに入るやいなや---ためてたもんが爆発寸前、急いた手つきでリュックに荷物をかろうじてつめて、いざ、旅電車へ!
 行き先は? なんも決めてない。
 方角も…決めておりやせん。
 三輪山に行こうかと最初は思ってたんですよ。
 ただ、試験明けにいい温泉を味わいたい気持ちがあまりにも強くて、関西行きは---関西は調べないでいくと塩素湯にあたる確率が高いんで。関西在住者、あい失礼---直前になって中止、結局、イーダちゃんは上野経由で北にむけて進路をとったのです。 
 目指すは北! とにかく北へ---!
 で、車内でポテチを喰いながら、浅草から東京スカイツリー電車に乗って、一路、栃木の鬼怒川温泉へ---。
 鬼怒川温泉に到着したのは、お昼の2時過ぎでありました。
 最初は、鬼怒川から恒例の湯西川でも行こうかなあって思ってたんですけど、お気に入りの湯西川の金谷旅館さんにTELしてみたら、ごめんなさい、今日はお休みにしちゃったの、とくる。
 仕方ねえ、なら鬼怒川のかけ流しの宿でも狙ってみるか、と駅前の観光協会にいって尋ねると、いやあ、すみませんが、基本的にうちで紹介してるのは、循環のお湯だけなんです、というトホホな返答…。

----あ。そうなんですか。じゃあ、結構です…。

 というわけで、イーダちゃんは、鬼怒川温泉からさらに野岩鉄道(会津・鬼怒川線)を乗り継いで、前回行きそびれた、川治温泉をめざすことにいたしました。
 宿の予約は、あいかわらずしてません。
 ぶっつけ本番、でたとこ勝負が醍醐味の温泉旅なりき。
 で、まあ、ごとごととのんびりペースでいったわけですが、鬼怒川公園駅あたりじゃそうでもなかったのに、龍王峡をこえたあたりから、いきなり雪の降りがもの凄くなってきたんですよ。
 川治についたときは、なんちゅーかもうほとんどブリザード状態!
 ただひたすらに、さ、寒いっ…。 
 川治温泉駅から川治温泉街までは、だいたい徒歩20分あまりうの距離なんですけど、吹雪のなか、革靴で歩くその道中の長いことったら。
 リュックから傘をとりだすのが面倒だったので、ポケットに手をつっこみながら歩いていたら、川治温泉街についたころには、イーダちゃんはほとんど雪ダルマ状態---超・寒かったですねえ。
 電線の上にもすでに雪が積もりはじめてるし、身体の芯まですっかり凍えきっちゃってるし、いちばん目立つ○○閣さんの豪奢なロビーにすかさず飛びこんで、

----あのー、予約ないんですが、今日ひとりで宿泊は可能でせうか?

 と、まあ避難民のフィーリングでいつものようにやったわけです。
 こちらの○○閣さん、お部屋とかはよかったんですが、残念ながら塩素湯でして、僕は、夕べのいちどっきりしかここのお風呂入らなかったんだけど、今回僕が書こうと思ってるのはこちらさんじゃない、べつのお宿のことなんですわ。

 さて、2月13日の晩、雪はしんしんと降りつづきまして、翌朝、目が覚めたら、外は一面の銀世界---
 お見事って感じです---朝早くから町の中心部を貫くルート121を、除雪車が2台、しきりに走りまわってました。
 

         


 で、転倒に注意しいしい、イーダちゃんが121の通りを何気にぶらぶらしてたら、○○閣さんのすぐ近くに、ずいぶんと古風なお宿があるじゃあありませんか。
 昨日は、吹雪があんまりすぎて、まったく気づきませんでした。
 道路から奥まった場所に建ってるせいで、気づきにくかったっていうのもあるかもしれない。
 でも、僕、ここのお宿になんんとなくビビビってきたんです。
 見れば、奥のほうに雪かきしてる男性がいる---ひょっとして宿の方でせうか?(写真奥に写ってる方がそうです)
 ものは試しに聴いてみることにしました。


         


----こんにちはーっ。昨日はずいぶん降りましたねえ。大変ですねえ…!

----ああ、こんにちは…(ト雪かきとちゅうの手をとめて)…。ええ、降りましたねえ。でも、まあ、いつものことですから…。

 で、なんとなく世間話がはじまって---僕等、雪の積もった玄関前で、しばし白い息ながら立ち話をいたしました。
 僕は、いい温泉に入りたくて鬼怒川温泉までやってきたんだけど、観光協会にいったら鬼怒川はほとんど循環湯になっちゃってて、やむなくここ川治温泉までやってきた経由と、けれども、昨日泊まった宿は、部屋と食事はよかったけど、あいにくの塩素消毒湯でがっかりしたことなんかを正直に話しました。
 すると、こちらの宿関係らしき方、

----そうなんですよ…。実をいうと、いまねえ、鬼怒川さんのほうは、お湯が枯れかけてるんです…。地震のせいか、お湯の湧出量ががくんと減っちゃってね、まあ、でも、その点じゃうちのほうも一緒かな? ここ川治でも、いまじゃ源泉掛け流しの、無塩素でやってるとこは、うちと、あと○○さんと、もう2軒きりしかないんですよ…。

----そう…なんですかぁ…。

 と思わぬ内部情報にたじろぐ僕。
 しかし、こちら「登隆館(とうりゅうかん、と読みます)」さん、実は、川治でいちばん古い歴史ある宿であり、全国区で有名な川治の露天「薬師の湯」へお湯を提供してるのもこちらのお宿なんだとか…。
 さらにはこの方、静かな自信を目線にこめて、こうもおっしゃりました。

----ええ、うちの湯は、源泉そのままのお湯ですよ。源泉自体の湯温が41度なんでいくらかぬるめのお湯ですが、塩素も循環もしていない生のままの湯ですから、ゆっくり浸かっていれば、効能はもう保障つきです…。

 こうまでいわれちゃ、温泉大好き人間のイーダちゃんとしては、これはもう捨ててはおけません。
 気がついたら、即刻、こちらのお宿「登隆館」さんに、その日の宿泊を申しこんでおりました。
 あとになって、僕、この自分の決断と、この朝、この宿のおじさんに巡りあわせてくれた運とに、非常に感謝することになります---。


                           ×             ×             ×

 ですが、まあ、そのときはまだ朝の9時まえでして、宿には3時からしか入れないわけだから、僕は、このおじさんに3時の再訪を約束して、川治温泉の駅まで雪道を歩いて、電車に乗って、鬼怒川温泉のほうにまた戻ったんですよ。
 で、鬼怒川温泉近郊の栃木銀行でお金おろして、3時ちょっとすぎにこっちの川治温泉にまたもどってきて、宿の手続きして、「いまなら誰も入ってないから、入るといいよ。気持ちいいですよ」と宿のひとにいわれて、さっそくこちらの自慢のお風呂にいってみたわけ。
 それがね、記事冒頭のフォト。
 ちょっと震えるでしょ? 僕も震えた。
 なんちゅーか、予測してたよりずっといいお風呂なんだもん。
 名湯のオーラがわんわんしてるの---露天はなしの内湯だけ---そのへんの潔さも、なんか、いい。
 で、若干うわずり気味の心をいなしつつ、掛け湯して、ちゃぽんとこちらのお風呂に身体を沈めました。

 そしたら、僕、黙っちゃった。
 「神の湯」です、ここ…。
 なんちゅー綺麗なお湯だろうか。
 入ってすぐ鹿児島・川内(せんだい)の紫美温泉の「しび荘」の湯を連想しました。
 あれとじゅうじゅう匹敵できる、とんでもない名湯です、ここ!
 基本は、PH8の、くせのない素直な湯なんです。
 なんともいえない柔らかさと、あと、ちょっとこれは表現しがたいんだけど、ほかのどの湯にもない、一種特別な繊細さがあるんですよ。
 なにより凄いのは加温してないとこ。
 こちらの湯、源泉温度が41度だから、そのままだとこの季節はちとぬるいのよ、でも、むりに加温したら、たぶん、この極上の繊細さは脆く壊れちゃう、それを見越して、こちらのお湯をあくまで生のままの姿で管理されている、宿の方の慧眼とこだわりには、心底敬服しました。

----やられたぁ、仕事人だわ…。凄え、凄えや…!

 と半ば白痴のように呆けた顔で、イーダちゃんは、湯のなかで蕩けてぶくぶく…。
 ただひたすら嬉しくってね、この瓢箪型の広いお風呂のなかを、にこにこしながらあっちにいったりこっちにいったり、鼻孔からの源泉吸いを敢行したり、お湯のなかで阿呆みたいに両掌をいつまでもゆらゆらさせたり、両手ですくったお湯を何度も顔にぱしゃーっとやったり、もーねー、ほとんど幼な児のような、至福の1時間半をすごせていただきました---。
 まさか、九州でも岡山でもない身近な関東の近郊に、これほどハイレベルのお湯があったとは…。
 認識不足でしたねえ、ええ、午前中にいった露天の「薬師の湯」もむろんよかったけど、その御本家たるここ「登隆館」さんの湯処は、それ以上の奇跡の天上湯なのでありまして。
 味はなし、香りも特別になんかの香りが目立ってるってわけじゃありません。
 この先の湯西川だと硫黄の香りが底のほうに潜んでいるんだけど、川治の湯はちがう、基本的に無味無臭で、塩気もありません。
 で、最初にここのお湯に入った感触はたしかにぬるいのよ---たぶん、39度くらいなんじゃないのかな?---でもね、そのまま極上の湯の肌触りを愉しんでいると、5分ほどして、予想をはるかに上回る至福感がゆーっくりやってくるの。
 この感触、特に女性の方に知ってもらいたいですね。
 僕なんかより肌の繊細な女性がこの湯にふれてどう感じるのかは、非常に興味深いところです。
 おお、窓の外では、大粒の雪がまたごんごんと降ってきてるじゃないですか。

----こりゃあ、積もりそうだなあ…。

 なんて眠たげな声でいってみる。
 すると、掛け流しの多量の湯が、排水溝に吸いこまれ、ごお、という音をたててそれに答えて。
 うーむ、凄いや、まるで青森・碇ヶ関の「古遠部温泉」みたいじゃないですか。
 ええ、こちらの温泉ね、あったまったら、湯船からこぼれた多量のお湯でもって、タイルの床にごろりとなってなんと寝湯まで楽しめるんですよ。


                   

                 


 これほど素晴らしい湯っこを堪能させていただけたら、僕としては、もう感謝以外いうことはありません。
 あ。こちらの「登隆館」さん、宿自体は古びた木造の感じだったんですが、お客さん、ずいぶん泊まってられました。
 これだけのお湯だもの、やっぱり、人気のあるお宿なんですねー。
 夕餉も、美味しかった。
 イワナの塩焼きに、湯豆腐に、刺身に、豚の味噌焼き、ご飯に、お吸い物に、あと、山の歓待の最たる料理「ごたごた鍋」---。
 これ、里芋とか地元のキノコなんかがメインの鍋なんスけど、これがまた絶品でしした。
 いつも銭を浮かすために素泊まりが身についている僕なんかからすると、サイッコーのご馳走でしたねえ、この夕は。


         

          
 というわけで、栃木・川治温泉の名宿「登隆館」を推薦します---。

                      川治温泉登隆館
                   栃木県日光市川治温泉高原41-2
                   TEL 0288-78-0006

 

 お値段は、朝、夕食コミで、7710円---安ッ!
 女遊びなんかいいの、カラオケいらない、酒もほどほどでいい、男鹿川の滔々たる流れを聴きながら、ただ、静かに、いいお湯につかりたいだけなんだ、と希う御仁にとっては、こちら、最上の憩いの宿となってくれることと思います…。


                  

P.S. あ。近々、「イーダちゃんの日本全国特上温泉12選!」という特集をやるつもり。乞うご期待---!


                   
 
 

 



 

徒然その183☆ ふしぎなふしぎな「七沢荘」 ☆

2014-09-24 01:30:13 | ☆湯けむりほわわん温泉紀行☆
        


 神奈川県厚木市の郊外にある、東丹沢の麓のふしぎちゃん温泉「七沢荘」には、日帰りで何度も訪れたことがあります。
 というか、僕は、ほとんどここの常連さんだった、といってもいいかもしれない。
 ええ、こちらのお湯につかったことのある方なら誰でも肯定するでせうが、こちら、アルカリ度のとても高い、肌と傷に効くトロトロ湯、塩素投入も抜きで、たぶん全国屈指レベルに数えられるだろう、いわゆるとびきりの名湯であります。
 経済的事情から愛車を売り払ってしまってからは、さすがに以前ほど頻繁に訪れることはできなくなりましたが、それでも電車とバスを利用して、2、3か月に一度は必ずこちらのお湯には通っていました。
 もうちょっと足を伸ばせば箱根までいけるのだけど、こちらの厚木のお湯には、箱根の湯にはない別種の魅力があったのです。
 ただ、お泊まりしたことはなかった。
 つまり、日帰り立寄り専門だったんですよね。
 だって、小一時間電車とバスを乗り継いでいけば、家に帰れるんですから---もったいないって感覚から、日帰り湯として限定してたんですよ。
 でも、今年の8月は、個人的に僕、仕事にプライヴェートにめちゃめちゃ忙しくてね、もー 身体バテバテだったんですよ。
 だもんで、たまたまスケジュールにぽっかり1日あいた8月の11日、夏バテ解消のために、こちら厚木七沢の「七沢荘」を訪ねてみたんです。
 最初は日帰りのつもりでした---けど、一度ここの黄金露天の素晴らしさを経験しちゃうとね---もういけません。
 どうにも帰りたくなくなった。
 まる1日ここでぼーっとして、文庫本とか流し読みしながら、ときどき畳に頬ずりしたりして、ひたすらまったりだらーんと時間をすごしてくてたまんなくなった…。
 で、フロントにいって、日帰り予定を1泊素泊まりに急遽変更!
 費用は、たしか8千幾らかじゃなかったかな?
 結果、ほとんど箱根行とおんなじくらいの出費がでてしまったわけなんですが、まあ、こういった温泉誘致の流れならしようがねえ。
 それっくらいこちら「七沢荘」の露天パワーは素晴らしかったということで---じゃあ、まず、こちらの温泉を知らない方のために、神奈川・七沢温泉「七沢荘」の宣伝といきますか…。 

 はじめは画像からです----まんず、どーぞ---!


    

       


 どーっスか---なかなかよさげな温泉でしょ---?
 上が「七沢荘」自慢の露天(男湯)で、下のが足湯の施設です。
 特に、上写真の露天なんて、写真だけでもお湯のトロトロ加減が、ある程度は分かるんじゃないのかな?
 とまあ、そういったような事情で、こちらの温泉施設は、いつもぎゅうぎゅうの家族連れでにぎわっているんですよ。
 僕が泊まったのはたまま8月の11日だったから、当然お盆休みと重なって、「七沢荘」はモロすっごい人出!
 ですので、このフォトは、翌朝の早朝に撮ったものであります。

 で、肝心要のこちらのお湯の効能はというと、ま、次のフォトを参照あれ----





 ま、でも、こんな能書き抜きでも、七沢荘自慢のお湯の威力は、これはもう入ってみれば誰でも容易に分かります。
 アブダカタブラ…5秒で分かる。
 とにかくもー トロットロのトロ----!
 このトロットロに匹敵するだけのお湯は、ほかにあんまり知らないなあ…。
 僕の過去の温泉ブログ ☆湯けむりほわわん温泉紀行☆ のコーナーで紹介したことのある、おなじ七沢温泉の「かぶと湯温泉・山水楼」さんなんかにしても、ここの七沢荘さんのお湯ほどトロトロじゃありません。
 「山水楼」さんのお湯の場合は、お湯の鮮度が抜群に凄いのよ---トロトロ度じゃ、ここ「七沢荘」のお湯に負けますけど。
 うーむ、三浦半島の逗子葉山にある「星山温泉」さんくらいかなあ、これほどのトロトロ感を有してるのは。
 肌に、身体に、とにかく柔らかくって優しくて、僕は、ここの湯に身体を沈めるとき、例外なく「うほー!」なんて奇声をいつもあげちゃいます。
 みんな、びっくりしてこっち向いたりもするけど、いいのよ、そんなのぜんぜん気にしない! 
 だって、足指にお湯のまとわりつくほろほろの感触が、たまんないくらいいいんだもん。
 で、風呂縁の柵のとこまでいって、ちーっと背伸びして、まわりの景色を眺めてみると、なんとも朴訥かつ素朴な、のーんびりこんとした東丹沢の風景と奥行きのある夕空とがのぞけるわけでせう? 
 湯は極上---そいでもって、風景もまたほっこりした一級品ときた。
 これで気持ちのくさくさがほどけなきゃ、そのひと、よっぽどどうかしてますよ。
 僕は、ここのお風呂だったら、うん、2時間半は余裕でいけますねえ…。
 ここ七沢温泉のイメージは、僕的にいうなら完璧に「母」なんですよ。
 ええ、母なる温泉ってイメージにこれほど合う湯場って、そうないんじゃないかなあ、と個人的には思っております---。


                      ×             ×             ×


 と、ここまではフツーの温泉紹介なんですが、今回の記事の本論は、実は、ここからはじまるのです---!
 なぜ、僕が、この七沢温泉の「七沢荘」を、ふしぎちゃん温泉なんて呼んだのか?
 そのへんはまあ論より証拠---以下のフォトをざーっと御覧ください。
 その一例①---これは、館内の廊下にある、有料のBOXです。


             

    


 なんと、宇宙パワーBOX!---うーむ、でっかくでましたねえ…。
 よく読んでも理論系統の論旨がどうにも飲みこめないし、「[世界に三つしかない!」なんて宣伝文句も、「これを体験して宇宙旅行をした気になった」という体験者の感想なんかも、胡散くさくてなかなかいい味だしてます。
 けど、45分2000円というのは、ちと高いんでないかい?
 なにより、僕、ここには十数回はきてるけど、ここにきてこのBOX、誰かが利用してるの、いっぺんだって見たことないんですもん。
 かくいう僕も、今度きたときに試そうと思うばかりで、結局は入ったことないし。
 誰か2000円払って入ってみて体験談聴かせてほしいと常々思ってるんだけど、でも、ま、それはさておき、これ、なんかユニークでせう?
 機械そのものがじゃなくて、こうした類いの機械がこのような温泉空間にあるってことがユニークだ、と僕は思います。
 しかし、この施設でユニークなのは、なにもこのマシン(?)だけじゃないんだな。
 たとえば僕が最初に紹介した露天風呂---ここはジョークでもなんでもなくて掛け値なしの名湯なんですけど---ここの露天の隣りの休憩棟のまえに、こちらの施設ではお客用の庭「元気の広場」ってのを用意してくれているんですね。
 これが結構広いの---ベンチや喫煙もできるようになっていて、僕なんかここを訪ねたときには、ここのテーブルで必ず猫と延々戯れることにしてるんですけど、この庭の奥のほうに、こーんな施設②があるんですよ----


     

     


 これ、「不老長寿の九宮飛び」って飛び石---。
 この飛びかたが、やや複雑でね---その飛びかたを解説した看板が、この石のところに立ってんの。
 ま、僕も泊まりで暇なんで飛びましたけどね、ユニークっスよ、やっぱ。
 ですけど、この九宮飛びをやってるひとは、何人か見たな---カップルの女性のほうとかね。
 さらによく見てみたなら、この施設、正面の玄関のまえにもこーんな標語が書いた石があったもんなあ。


                    


 スゲッ!---ていうか、ここまでくるとちょっと呑まれてきちゃいますよね、このふしぎちゃんパワーのいわれなき連鎖に…w(^0^>

 でも、いろいろあるけど、こちら神奈川県厚木市郊外、七沢温泉の「七沢荘」さん、いいお宿ですよ。
 サービスもいいし、有料の休憩所も広いし、宿自体も全体的にとっても清潔。
 僕は素泊まりだったんで飯の情報はあげられないんですけど、お風呂でほかのお客さんと話したかぎりじゃ、なかなか美味しかったみたいですよ、こちらの夕餉…。
 てなわけで、東丹沢の麓の「七沢荘」を推薦します---

       厚木七沢温泉「七沢荘」
        〒243-0121 神奈川県厚木市七沢1826
              046-248-0236



       


 なお、宿さんの主張するとこよにると、こちら、長野の伊那山地の分杭峠のような「ゼロ磁場」だそうです。
 そのあたりの成否はあいにくのこと僕には判断できないんですが、こちらがいい温泉の湧く極上の湯場であるということは、いいきってしまっていいと思う。
 箱根もいいけど東丹沢の湯もなかなかいいゾ、というのを結論として、今夜のとこは筆を置きませうか?---お休みなさい---。(^.^;>
 

 


  
 




 
 

徒然その174☆草津でオドロキ豪雨の名湯!☆

2014-06-19 00:10:42 | ☆湯けむりほわわん温泉紀行☆
      


 2014年6月28日午後4時半、群馬県草津市は、いきなり爆弾性低気圧の襲来に見舞われました。
 それまでの夏日がうそのよう---湯畑上空が一天にわかにかき曇り、ぶ厚い黒雲がごーっと集まってきたと思ったら、構える暇すら与えず、重低音の雷がごろごろと鳴りはじめ、もの凄い豪雨がいきなり滝のようにじゃばーっと降ってきたのです。
 雨! 雨! 雨軍団の御到来ー!
 平穏なニンゲン管理世界が突如として終わり、厳かな神の時間が水煙とともにやってきました。
 大変だー!---通りの歩行者は、みーんな泡喰って逃げていく。
 すぐ下を駆けていく若い女の子のふたり連れなんか、もう頭の先から爪先まで究極の濡れネズミ---濡れた服が身体の線にぴっちりと貼りついいて、透けた薄手のブラウスがモロ・セクシーです。

----おお、凄ぇ…!

 なんつって中2階のベランダから眼を細めてそれを眺めている、不謹慎な中年男が僕---。
 前日、万座の「湯の花旅館」さんに1泊したイーダちゃんは、翌早朝、万座からバスに乗りついで、ええ、今日は、ここ草津までやってきていたのです。
 体調の不調はあいかわらずでしたけど、せっかくきたのだからと懐かしの草津にまあ停泊して、お昼ごろ草津の「大滝乃湯」でひと風呂浴びたらまたしても気持ちわるくなっちゃって、湯畑近くの民宿「ゆたか」さんってとこに素泊まりのお部屋を借りまして、居室内で芸もなくごろごろしていたのです。
 そしたら、ベランダあたりからなにやら物凄い音がしてくるじゃありませんか。
 バラバラバラと、地上の音をかき消すヴォリームの謎の音。
 煙草片手にいってみると、うわ、なんだ、これ、雹じゃねえの…。


              

      


 雨とはちがう、あまりの屋根轟音にびっくりした御主人が、ベランダまで小走りでやってきます。

----うわ。なんて音だろうときてみたら…

----ええ、雹ですよ、御主人。しかも、もの凄い雹…。草津では、こういうの、よくあるんですか?

----いや、いくらなんでもこんなのは、ここに宿だしてからはじめてですね…。

----外車とかいいクルマだと屋根、やられちゃいますね、もしかしたら…?

----うん、やられちゃいますねえ、これじゃあ…。

 眺める御主人のほうもやや当惑気味---あとから調べたら、群馬のあちこちで大雨注意報がでてたらしい---その中心部にあたる標高1200mの草津では、これほどの規模の豪雨であり豪雹だったわけなのですよ。
 少なくとも、僕は、あんな猛烈な雹を見たのははじめてだった…。
 で、しばらく体調の不良も忘れて、ベランダで豪雹見物がてらモクってたんですけど、いつまでもそうしてても埒あかないんで、そうだ、こちらの民宿「ゆたか」さんのお風呂にでも入ってみるか、と---そのときは僕、湯あたり疲れで部屋でごろごろしてるばかりで、こちらのお宿のお風呂にはまだ入ってなかったんですよ---手拭1枚もって、こちらのB1Fの貸切風呂に何気に行ってみたんです。 
 こちらの民宿「ゆたか」さんのお湯は、草津の湯畑源泉から直接引いてまして。
 であるからして、名湯であることはほぼまちがいなし---僕がいちばん怖れる塩素湯ではという危惧も、ここ草津にかぎっては成り立たちません、なぜって、草津のお湯って強烈な酸性湯なんで、塩素なんか入れたくても入れらないんですよ---だから、いい湯なのは、ま、ある程度は予想してたの。

 ところがところが……僕のそんな通人気取りの陳腐な予測針をはるかに振りきって、その夕、イーダちゃんを待ち受けていたのは、大雨仕立てのとびっきり---いわば、スペシャルランクの超・名湯だったのです……。


                   


 ねっ! 見てよ見て! このお湯の強烈な濁り具合ってどーよ?
 常識外れの膨大な雹の落下が草津・湯畑お湯を底の底まで掻きまわしたおかげで、湯畑の底にたまった湯の花がまんべんなく湯中に拡散され、ちょっと想像できないくらいの濃ゆい、効能たっぷりの「湯っこ」が、そこに、偶然できあがっていたのです。
 一目見て、僕は、もう恋に落ちたな…。
 おバカかもしれないけど、息、つまっちゃった。
 で、慌てて掛け湯して、この極上湯っこに入ってみたら---。
 もー イーダちゃんは、泣きましたね…。
 それは、過去に例のないくらいの、すンばらしいお湯でありました。
 香りも、肌触りも、濃度も、湯気も、滋味も、もー なにもかも極・上。
 豪雨がシェフした特製の濃厚白濁湯---湯畑源泉のお湯はね、フツーは透明色なんですよ---の表面近くで掌をひらひらさせているだけで、爪の肉のあいだの皮膚から、なにやら「むみょ~っ」と滋養成分が浸透してくるのが分かるんですよ、マジ。
 

----こりゃあ、すげえ…。効く、効く、効いてるぅ…!

 と、僕は、ほとんど覚醒剤中毒者のノリでしたねえ。
 窓の外は、まだドバドバの豪雨---ためしにガラス戸をちょいあけると、雹がぱらぱらと窓桟の木枠にすぐに積もりはじめて。
 窓からこっちの至福状態と下界の地獄ぶりとのそんな対比が、またお湯の味わいに滋味をそえて、なんともよろし。
 うん、ちょっと、そのときの至福のフォトを1枚ほどアップしておきませうか---


                    

 さっすが草津です---それまでの僕は正直いうと、草津のことを凄い凄いとアタマでは認めつつも、でもそれはあくまで歴史上の凄さであって、お湯質はそれほど好きじゃないしなあ、みたいなゴーマン印象をじゃっかんもっていたんですよ。
 たしかに凄い湯場だけど、湯質でいったら、万座とか真賀とか紫尾のほうがいいかもなあ、なんて。
 でもね、この日このとき、イーダちゃんは改悛しました。
 横綱は、やっぱ横綱でした---東の横綱・草津湯の底力は、それはもう凄かった。
 あまりのたんまり滋養湯の至福効果にくるまれて、イーダちゃんは、もはやいうべき言葉なんてなにもありませんでした…。
 だって、いえねえよ---これほどのお湯を体験しちゃったら---コトバなんて、もう、ねえ……?


                        ×             ×             ×

     ◆ここで、民宿「ゆたか」御主人の証言◆
「お客さん、お風呂、入りました? 凄かったでしょう? あんな濃い凄い湯、わたし、宿やってからはじめてですよ。明日になったら、もう普通の状態にもどっちゃうかも…。まあ、底の湯花をかきまぜればまた濁り湯にはなるだろうけど、今日みたいにはいかないでしょうねえ、絶対。うん、お客さん、ラッキーですよ…」

     ◆さらに、民宿「ゆたか」おかみさんの証言◆
「わたし、普段はウチのお風呂には入らないんですよ。でも、今日のはねえ…。これは、入らないと…。素晴らしいお湯でしたねえ。わたし、こんなのはじめて…」

 草津のプロのおふたりがこうのたまうほど、この日のお湯は素晴らしかったのです。
 僕的にも、この夜は忘れがたい一夜となりました。
 ただ、あまりにお湯が魅力的すぎたせいで、イーダちゃんはまたもや湯っこに入りすぎ、素晴らしいお湯が体調不良のボディーにあんまり効きすぎて、その夜はほとんど廃人みたいになっちゃった…。
 もーねー なんかまぶたあけるのも億劫になるくらいデロンとしちゃってさあ。
 翌朝まで蒲団虫になって、熱っぽい湯あたり症状のままゴロゴロしてるよりなかったですねえ---トホホン…。(^.^;>

 でもね、この草津の偶発的超・名湯って、やっぱり一夜限りの自然のマジックだったのですよ。
 なぜって、翌朝のお風呂は、あらら、もういつも通りの湯畑源泉の透明湯に戻っちゃってましたから。
 やっぱり、あれは、嗚呼、一夜限りの幻の逢瀬だったのね!
 もっとも、そのお湯にしても、フツーの温泉ランクからいったらA級ライセンス級の湯だってことには変わりがないんですが、あのウルトラセレブの濁り湯を肌で経験しちゃうとね---むーっ、どうにも歯噛みするよりないですねえ、これは。

 おっと。お湯にかまけすぎて宿の紹介するの忘れてました。
 この日僕が泊まったのは、湯畑からほんの徒歩55秒のところにある、


                   赤ちゃん・キッズ大歓迎の宿「ゆたか」さん
                    〒377-1711 群馬県吾妻群草津市大字草津97
                           0279-88-6186


 こちら、地の利もいいし、お値段も手ごろ---僕の場合は、素泊まり1名でたしか4700円でした---共通の休憩所には、もの凄く大量の子供用のセットが、ディズニーランドみたいに豪奢に並べられている、小綺麗でお洒落な民宿です。
 基本、禁煙なんだけどさ、喫煙部屋も2部屋あるし、ベランダ行けば、僕みたいに煙草もOKだしね。
 御主人も奥さんもとっても気さくだし、3つある家族風呂はどれも魅力的、へんに高級なとこに泊まるよりよっぽどいいと僕は思うぞぉ---お勧めなり。


        

        

        


                    ×             ×             ×

 ぜんぜん関係ないんですけど、僕、この草津に、非常に心安らぐ魅惑のパワースポットを今回発見しました。
 それはね---ページトップの湯畑フォトを左方面に、つまり、西の河原通りをしばしまっすぐいき、二つめの小さな角で右に折れ、長ーい石段を上ったさきにある、あの歴史ある「白根神社」のすぐ隣りに隣接してる、ほんにちっちゃな、目立たない公園なんです。
 僕は、ここ、6月28日の2時すぎに訪れました。
 湯あたりしてフラフラしながら宿を探してたら、偶然ここに迷いこんじゃってたの。
 夕立ちがくる1時間くらいまえのことでした。
 ま、論より証拠---そこの写真を御覧あれ---!


          

           

 なんか、よくないですか、ここ? 
 僕は、ヒジョーにここ、気に入ったな。
 「大滝乃湯」の浴後ほとんど半死半生だった僕に、ここの空気はものすごーく効いたんです。
 なにしろ、ここ、空気がいいの---すぐ下の湯畑じゃ観光客がイモ洗いみたいに押しっくらしてるというのに、「白根神社」脇のこのぽつんとした公園には、1時間以上いたのに僕以外誰も訪ねてこなかったしね。
 平日のせい?---それは、たしかにあるでせう、でも、たぶん、それだけじゃない。
 僕は調べてないからなんともいえないけど、この公園、ひょっとしたらむかし「白根神社」の敷地だったんじゃないのかな?
 あまりにも、ここ、空気がよすぎたもん。
 通常の場所じゃないと思うなあ。
 きりっと澄んでて、ときどき尖るように厳しくて、でも、なんといえない寛容の気にも満ちていて…。
 僕、ここの公園でぶらぶらしてて、なんもせず、結局1時間半はここにずーっといたんだもんね。

 ああ、いま見返してみても、あのときのふしぎな淡い魅惑感が胸中にことことと蘇ってきますねえ!
 清澄、清澄、清澄---いま、僕はそれがいちばん欲しいんです---というわけで今夜はそろそろこのへんで---お休みなさい…。(^o^y☆  (fin)             


         


         




      

       

 
          
                  
 



 
 

 

徒然173☆標高なんと1800m!万座温泉湯治旅 ☆

2014-06-12 23:30:44 | ☆湯けむりほわわん温泉紀行☆
            


 5月の末、珍しく連休がとれたので、大好きな上州の万座温泉までいってきました。
 標高1800mの高地にある、日本一硫黄含有量の高い、濃ゆくてクチゃい白濁湯の理想郷・万座温泉!
 こちら、僕的にいうなら、あの大「別府」とならぶくらい大好きなお湯なんですよ。
 ええ、あのグレートな郡司さんもおなじことをいってられましたがね、マジ、ここ、天国にいちばん近い温泉なんです。
 いま nifty温泉さん のクチコミで過去の自分の訪問履歴を調べてみたら、僕、2006年の6月7日に「万座プリンスホテル」で1泊、あと、2008年の7月23日にもこちらの「湯の花旅館」に1泊してました。
 泊まりはたしかにこの2泊きりだけど、日帰り入浴なんかも含めると、もー 数えきれないほど、僕は、ここきてますね。
 「豊国館」も「万座高原ホテル」も「日新館」のお湯も、みんなみーんな入ってる。
 それっくらい僕ぁここ万座が好きなんスよ---それは、もう無条件に!
 「万座」というコトバの響きを耳にしただけで、僕の鼻腔にはたちまち濃ゆい硫黄のかほりがむあーっとたちこめ、耳にはうぐいすの澄んだ声がこだまし、目には、はるけく高い万座の山々の稜線と空とがくっきりこんと見えてくる…。
 すこーんと抜けきった青空と、山風が運んでくる心地いいい硫黄のかほりと。
 でもって、空の一角では、うぐいすが、ほーほけきょ。

----うーむ、いい咽喉してるな、おまえ、なんつって w。

 もうね、「万座」、ほとんど魔法のコトバだよねえ、ここまでくると。
 端的にいえば、僕、ここの温泉、東の温泉横綱である草津より好きかもしれません…。

 で、その憧れの万座温泉を、ひさしぶりに訪ねてみたんですよ---先月の末にね。
 いままではクルマでいっていたのですが、いまイーダちゃんはクルマをもってないので、電車とバスを乗り継いでいきました。

 横浜を10時にでて→上野→高崎へでて、万座鹿沢口からバスで30分---。

 いやー、関越使ってクルマでいくよりずっと速いじゃありませんか。
 これには、ちょいビックリ。
 万座到着は、夕前の3時ごろでした。
 極上とはいえないけど、まあいい天気---バスに乗るまえに、僕は、こちらの「湯の花旅館さん」に素泊まりの予約入れてたんですよ。
 万座は、温泉的には超・極上の地なんですけど、ここ、食堂もお土産屋もなーんもないんです。
 だもんで、素泊まりだと必然的に飢えちゃうの。
 以前、それで懲りた記憶がありましたので、今回はおなじ轍を踏まぬよう、あらかじめ万座プリンスホテルの1Fのお土産屋さんに寄って、じゃっかんの食糧を仕入れていきます。
 正直、仕事の疲れがたんまりたまってて、体調はイマイチだったんですけど、いざこうやって憧れの万座の地を踏んじゃうとねえ、もう気持ちはウキウキでしたよ。
 「豊国館」によって御主人としばし話し、懐かしの「万座高原ホテル」をちょっち覗いてから、R466を歩いて、本日の目的地であるところの「万座 湯の花旅館」さんを目指します。
 「豊国館」から「湯の花旅館」までは、だいたい徒歩15分くらいの道なりなんです。
 とちゅう、景観のいいところもいっぱいあるしね、内心のわくわくを抑えつつ、イーダちゃんは歩きましたとさ。
 標高1800mの山々に見とれ、ひさかたぶりの万座の景観に見とれ、目のまえにそびえる白根山に見とれ、しばらく歩いてR466を左折すると、ページ冒頭のフォトの景色が見えてきます。
 そのすぐ先が「湯の花旅館」---万座のなかで僕がもっとも愛する、ひなびた湯治宿です。
 PM3:00。「湯の花旅館」さんの前の道は、一列になったスイセンがいっぱい咲いておりました。


    


                 ◆万座温泉「湯の花旅館」◆
               群馬県吾妻郡嬬恋村万座千俣2401
                   ℡:0279(97)3152


 「湯の花旅館」さんはね、純粋な湯治宿なんです。
 中央の廊下には、長期の湯治客のための炊事場なんかも使えるようになっていて。
 その日のお客は、平日のせいもあってか、僕以外は初老のご夫婦が1組いるきりでした。
 玄関をくぐって、受付のとこの呼び鈴鳴らしても誰もでてこなくてね---人気のない玄関でぽつねんと、手持ちぶさたに煙草喫ったりしてる待ち時間が、これが、なんともいえずまたいいの。
 お。玄関のところに、こちらの内湯にもある「猿のこしかけ」が飾ってありましたっけ。
 この珍しいきのこを万座のお湯に浸してつかれば、そのきのこの玄妙な成分が万座のお湯と微妙に交じりあって、なんともいえぬ癌の特効薬になるのだとか…。
 あのザ・ドリフターズのいかりや長介さんが、癌に犯されて亡くなられるまえ、こちらの旅館に長期滞在されて、湯治に専念されていたのは有名な話かと思います。





 10分くらい待ったかなあ?
 しばらくして御主人がやってこられて、挨拶して、記帳して、それから、こじんまりした炬燵と蒲団のある4畳半のお部屋に案内されて。
 体調はイマイチだったけど、もちろん、イのいちばんにこちらのお風呂にいきましたとも。
 ただね、その「猿のこしかけ」のある内湯がいいのはもちろんなんですけど、イーダちゃんのその日のお目あては、その内湯からちょちょいと歩いてでたところにある、混浴露天の「月見岩の露天風呂」なんでありました。
 このお風呂がね、これがまた絶品なんでありまして---その証拠写真、いきませうか---ほい。


    


 どうです---思わず涎が垂れてきそうなお風呂でしょ---?
 (注目ポイント:風呂左の布袋さんと温泉に映ってる空!)
 前回の湯西川・川俣温泉行以来のひさびさの極上温泉だったから、僕はもう嬉しくってねえ---ちょっと長湯しちゃったんだなあ、これが。
 なにしろ景色がいい---白根山が見える、それに、そこらの岩の上にちょっと立つと、お隣りの[松屋ホテル」の屋根が見える、そして何より、高原の草々のそよぎと、なんともいえない深い色の「山の空」が見える…。
 でもって、こちら「湯の花旅館」さんのお湯は、万座のなかでも特に濃いことで有名なんですよ。
 まして、この日のお客はほんの少数---ほぼ、ひとりでこの極上湯を独占状態のわけじゃないですか---温泉好きだったら、こりゃあ誰だって長湯するに決まってるじゃないですか。
 というわけでイーダちゃんは大変長湯したんですよ---硫黄の香りまくるお湯を鼻腔吸いしたり、源泉で目を洗ったり、白濁湯の鏡に映る雲の推移をぼーっと眺めていたり、下手糞な瞑想を試みたりして、気がついたら1時間半くらいあっというまにたっちゃってて…。
 もー おかげで部屋帰ったらバタンキューでした。

 で、2時間ほど蒲団で寝ちゃってたんですが、ふっと夕に目が覚めてみたら、口のなかがなんだか痛いの。
 歯ぐきがなんか腫れあがっちゃっててね---特に上の前歯---前歯がかすかにふれあうだけで、もうズキズキ痛むわけ。
 肩こりや疲労が極になったとき、歯ぐきは腫れるってよくいうけど、温泉効果が、いきなり出ちゃったんでせうかねえ?
 さすが万座の湯っこなり---即効性が並じゃない!
 でも、感心してばかりじゃいられない、あまりにも口のなかが痛くて、それこそ水を飲んでも口のなかが痛むくらいなんで、たまらずまた風呂へと避難することにしました。
 懲りもせずに、またもや「月見岩の露天風呂」へ---。
 さすがに口内が痛むことを慮って、今度は20分くらいに湯浴み時間を加減して…。
 するとね---その20分あまりの湯浴みで、口内の痛みがちゃんとひくの。

----凄ェ、万座湯って。マジ、効果あるじゃんよ…。

 もっとも、そんな風にちょこちょこ湯浴みしてたら、疲れた身体にお湯が効きすぎちゃって、僕は、もうダルくて、ほとんど一晩中蒲団でごろごろ転がってました。
 2008年の3月、別府にいって、やっぱり温泉しすぎて湯あたりしたときのことがしきりに思いだされました。
 読もうと思ってもっていった本を読む元気もなかったな。
 そんな風にほとんど一晩中悶え苦しんでたわけなんですけど、万座の夜はあくまでシンと静かでね、物音ひとつしてこない。
 昼間のあいだかしましかったうぐいす嬢たちも、すっかり眠りについた様子。
 あとね、寒かった---くるときの万座鹿沢口の駅なんて夏日で半袖でも暑かったくらいなのに、ここ、1800m標高の万座温泉の夜は、下界とちがってめっきり寒いの。
 そして、その寒さを見越して、部屋部屋の蒲団には、ちゃんと毛布が用意されていたんです。

----なるほどなあ、ここじゃ、まだ毛布が要り用だってことなのか…。

 で、僕は、蒲団のなかの毛布に身体をくるんだまま、またしても寝返りを打って---。
 寒かった。そして、それ以上に口内が痛く、身体全体も熱っぽくダルかった。
 でも、その夜の「湯の花旅館」さんは、それ以上にひっそりこんと静かなのでありました。
 1800mの山中だけに可能な静けさが、「湯の花旅館」全部をすっぽりとくるんでました。
 都会じゃ、こーゆー種類の静けさを想像するのも難しいんじゃないかな?
 歯ぐきは腫れ腫れ状態で、湯あたり微熱もじゃっかん身体にこもっており、1800m標高の空気はいささか肌寒で、フツーなら決して快適とはいいかねる夜だったのかもしれませんが、そのような俗事から一端視点をパンして、もっと大きな見地から眺めなおしてみるならば---うん、それは、ちょっとばかし豪奢な静けさなのでありました…。


                       ×            ×            ×

 てなよなわけで、この夜のイーダちゃんは、体調は最悪なれど、案外幸せいっぱいだったのであります…。
 たしかにあんま動けなかったけど、蒲団にくるまって目を閉じているときにも、窓の外のクマザサが静かな風にさらさら動いてるのが体感できたし、それに、なんやかんやで結局、僕、6回は極上のお風呂に入れましたしね---。
 特に、寝静まった深夜の宿の廊下をスリッパでペタペタ歩きながら、ひとり風呂場にむかい、硫黄のたんまり香る浴場ののれんをついとあげる刹那の、あのなんともいえない微妙な味わい……
 胸中の足元湧出湯の砂地から源泉のあぶくがまろびでるときのような、嬉しさとくすぐったさがブレンドされたあの特別なたまんない一瞬---。
 自分がホントに温泉が好きなんだなあ、と実感できるのはああした瞬間ですねえ。

 おお、参考までに万座内の小地図、ここに添えておきませうか---


                  

 翌日の朝、僕が温泉の源泉をつめたペットボトルをもっているのを目にとめた宿の御主人が、

----お客さん、そんな小さいのじゃあんまり入らないでしょ? うん、いま厨房であいたばかりの大きなのがあるから、それに入れていったら…?

 なんていってくださって、イーダちゃんはその御好意にまんず甘えることにしました。
 さらには御主人の黒岩さん、素泊まり一泊のお客の僕なんかを、わざわざプリンスホテルのバス停までクルマで送ってくださって---あのときは、ほんとにありがとうございました。
 奇跡の万座湯と「湯の花旅館」さんに感謝!
 最後に、万座全景のフォトを添えて、今回のこの万座温泉紹介のページを閉じたく思います----お休みなさい…。m(_ _)m






P.S. キャンデイさん、お元気?
    僕、g-mailが突如イカれて往生してます。
    よかったらクチコミください。夏あたり、いちどぜひお食事でもいたしましょう。(^.^;>



 

 

     
 


徒然その166☆イーダちゃん、奥日光・川俣温泉をさすらう!(栃木篇Ⅱ)☆

2014-03-05 03:30:27 | ☆湯けむりほわわん温泉紀行☆
                 


 さて、2014年の1月21日、栃木の旅の2日目、雪の湯西川温泉を巣立ったイーダちゃんは、次にどこへ向かったのか?
 それが、全然なにも決めてなかったんですね。
 旅するときは大抵そうなんですけど、僕は、あんま旅の予定とか立てないひとなの。
 足の向くまま気のむくまま、漂泊の風に乗って、里心を捨て去るのが、僕の旅の目的でもありまして。
 旅のスケジュールをどうしようだの、こうしようだののチマチマした管理思想は、いうなれば僕のもっとも厭うところ。
 ですから、このときも思いつくまま電車に乗って、ふっと閃いた川治温泉駅で途中下車しちゃった。
 川治温泉---あまりにも有名な鬼怒川沿いの、あの混浴露天の「薬師の湯」(僕は、ここ、6、7回入浴してます!)に浸かりながらぼおっと1泊するのもいいかなって、そんな腹づもりだったんです。
 川治温泉は、雪、まだあんま積もってませんでした。
 寒さも4駅先の湯西川ほどじゃない---ここは、湯西川とくらべると、もうちょっと山裾にある、ほっこりしたにぎわいの見られる土地なんです。
 ただ、観光客は少なかったなあ---。
 リュックに徒歩のひとり旅の僕の佇まいが、なんだかやたら目立つ感じです。
 あと、こちら、駅から徒歩でいくと、「薬師の湯」までは結構距離あるんですよ。
 高台の駅から、ルート121号を横切って、看板の案内を頼りに、田舎道を30分は歩きましたかねえ。
 でも、まあ、この手の知らない田舎道をぽつぽつ行くのは、いいもんです。
 天気は曇り、ときどき晴れ。
 空が晴れたとき、風に乗って細かい雪つぶてが降ってくるのが両頬に触れ、うん、チベタッ、いかにも寒村の温泉地って風情です。

----うーん、泊まるんだったら、どこがいいかなあ…?

 それっぽい宿を何気に探しながら、鬼怒川へと続く谷をゆるゆる下りていって---発電所への凄え長い石段(上にゴーンってでっかい鉄橋があるあたり)をショートカットに利用しました---田舎道の両サイドに、よそ行きの装いの瀟洒なお宿がチラホラと見えはじめたら、さあ、いよいよ川治温泉の中心部への到着です。
 ところが---。
 着いてみると、「薬師の湯」、いつもと雰囲気がちがうの。
 アレ? と思い施設のひとに(施設内の内湯は営業してたのデス)聴くと、なんと、「薬師の湯」の混浴露天は今日明日ともお休みだとのこと…。
 ガビーン!
 これは、ショックでした。

----なんだよ…。「薬師の湯」に入れないんなら、川治温泉に泊まる意味もないよなあ…。


                           下図◆その休業中の名湯「薬師の湯」
           

 なら、残念だけど仕方ない、川治温泉の風情に後ろ髪引かれる思いをなんとか振りきって、運命が定めた川治温泉宿泊白紙化計画をここで潔く享受することにして、もういちど電車に乗って、終点の鬼怒川温泉までゴトゴトいきました。
 で、改めて人気のない鬼怒川温泉---平日の鬼怒川温泉は、えっ、ここ観光地なの? といいたくなるほどの閑散ぶりでした---をうろついて、ビビッとくる温泉宿をあちこち探したんだけど、寒風のなかを2時間以上うろついても、どーしてもビビッと僕の温泉アンテナに訴えてくるとこがない!
 駅前の宿泊センターで相談しても、どの宿情報からも、源泉独自の芳しい清涼な香りがしてこない。
 うん、宿都合の営業勘定の生臭ーいにおいしかしてこないのよ。
 これじゃあどこにも泊まれないじゃん---うーむ、困ったぞい…。
 

                           下図◆途方に暮れつつ映した寒風の鬼怒川フォト
        

 そんなこんなで3時すぎまで鬼怒川温泉駅近辺でもぞもぞしてたんですね。
 けど、これじゃああんまり時間が無駄すぎるし、なにより埒もあかないんで、駅前のバスを利用して近郊の温泉地に行こうと考えました。
 バスターミナルの表示をよく見ると、奥鬼怒行きのバスなんかも出てるじゃありませんか。
 奥鬼怒といえば栃木の際奥---あの女夫渕だとか加仁湯だとかの名湯が集まっている処です。
 (※ちなみにイーダちゃんは2006/07/08に加仁湯を、2008/08/25に女夫渕温泉をそれぞれ訪湯しています。詳しくは nifty温泉さんのクチコミを参照)
 とっさのうちに出発を決断して、バス亭の番号をたしかめて行ってみると、おお、なんとそこのバス、もうきてる!
 慌てて走って乗りこむと、びっくりしたことに、そのバスはお客で満載でした。
 鬼怒川温泉駅構内のお客すべてをあわせたよりももっと多いお客さん---しかも、手にTVカメラをもったひとや、TVでちょこちょこ見かけたこのあるタレントさんなんかも…。
 ええ、その日、僕がたまたま乗りあわせたのは、なんと、テレビ東京の温泉番組の撮影クルーさんたちをいっぱいに詰めこんだバスだったんです。
 後ろの席のディレクターさんに何気に尋ねると、それは、2月5日に放送の「いい旅夢気分」という番組収録のためのロケだということ。
 なんでも、予定では2時間以上の番組になるそうで、この大所帯もそのためだとおっしゃってました。
 いわれてみれば、バスに後続して、2台の大型ワゴンもくねくね道を追随してきます。
 そのなかにもタレントさんやら撮影クルーが乗ってるんだとか。
 へえ、面白いバスに乗りあわせちゃったな、と思いつつ、1時間40分のバス旅行がはじまりました。
 このバス旅行が案外面白かった---バスの運ちゃんはお喋り好きの60絡みの親切なおっちゃん---運転ながら道々の名所を「ねえ、テレビのひと、次の見所はねえ…!」なんていちいち解説してくれるひと。
 テレビのスタッフもノリがよくて、そのたびに「おお」とか「わあ」とか反応して、いいムード。
 ま、「2時間モンはハードすぎますよ…」なんて愚痴もときどき聴こえてきたけど、総じて楽しかったですねえ。
 ただ、龍王峡をすぎ、川治温泉もすぎ、湯西川に至るルート121号を左折して、雪深い山道のルート23号になってくると、テレビのスタッフからぽつぽつため息がもれはじめます。

----うわーっ、果てしなく田舎だねえ…。

----うん。こりゃあ、陸の孤島だっていうのも分かるなあ…。

----こないだロケした○○温泉もなかなか凄いと思ったけど、それ以上だね、これは…。

 実際、奥鬼怒に至る道程の秘境ぶりには、目を見張らせられるものがありました。
 僕は、まえにクルマでこの道を何度か走ってるんですが、自分で運転してると景色なんかあんま見てられませんから。
 こんなに景色をじっくり見ながら通るのは、実際初めてといってもよかったんじゃないでせうか?---まして、山の厳寒の冬景色でしょ? 奥鬼怒の自然美には、一種すさまじいものがありました。
 夜、マイナス20度くらいになるため、緑色に凍てついたダム貯水池の水…。
 あまりの寒さのため流れのとちゅうで背伸びしたまま凍結した、抽象彫刻みたいな滝…。
 白い山肌のなか、バスは延々と走り、いちどだけ中間地点でトイレ休憩をとりました。


             
 
 ここでトイレに行ったとき、タレントの太川洋介というひととたまたますれちがいました。
 元アイドルで、いまはレポーターをよくやってるひとなんだと。
 ただ、そのときは分からなかった。
 イーダちゃんは普段まったくテレビというものを見ないので、タレントの顔はほとんど知らないのです。
 あとからひとに聴いて、「ああ、そういえばあのひとって…」と、思いあたったという次第。
 ほかにも「栃木でいちばんいい女」と運ちゃんがいってた女性タレントともちょっと喋ったけど、僕は、彼女のことよく知らなかったし、帽子を目深にかぶっていて顔もよく分からず、また、さほど美人とも思わなかったので、失礼、名前、失念してしまいました。
 あとねえ、話飛ぶけど、このトイレ休憩のちょいあと、運ちゃんが「ここ、ニッポン一のつららがあるんですよ! ここ!」と防雪トンネルのとちゅうでバスをおもむろに徐行させて、スタッフが、おお、とテレビカメラを回しだしたりしたことがあったんですよ。
 あれは、よかった。
 それまで居眠りしてた撮影クルーも急に活気づいて、みんなしてバスの片翼にわらわら集まってきて。
 これが、そのニッポン一のつらら(?)とそのときのバス内風景ね---一応ここにアップしておきませう---5日の放送で使われるかなあ、と思ったけど、これ、結局は使われなかったみたいですねえ…。 


               

               


 さて、この日、テレビ東京の撮影クルーが向かっていたのは、奥鬼怒の「加仁湯(がにゆ)温泉旅館」。
 こちら、もの凄い山深くにあるお宿なんですよ---雰囲気がちょっと山小屋じみててね、森閑とした環境内での硫黄系、混浴の濁り湯が売りなわけ。
 当然、交通の便はやたら不便なんでありまして、バスが通っているのは、あくまでこの日光観光バスの終点である「女夫渕温泉」まで。そこから「加仁湯」まで行きたいひとは、徒歩か、宿からの送迎バスを待つよりありません。
 以前きたとき、僕はここまで歩いたんだけど、夏場でも徒歩で10キロあまりの道のりだったから、結構こたえました。
 しかも、ハイキングコースじゃなくて、こちら、完璧な山道ですから。
 こんな真冬に歩いたりしたら、天候次第じゃ遭難だってしかねないくらい。
 だもんで、それまでの僕は、「加仁湯」に飛びこみの宿泊でも決めこんでみようかな、なんて漠然と思っていたんだけど、後ろの席のデイレクターさんと話してたら、なんと、今日の撮影のため「加仁湯」では、これ以上の当日宿泊は遠慮させてもらってるとのこと---ヤバ…。
 うーんと、それなら終点の「女夫渕」で泊まろうかな、といったら、彼、あれ、「女夫渕温泉」は、たしか2、3年まえに廃業したはずだけど、なんて軽くいわはるの。
 思わぬ不意打ち情報にたじろぐイーダちゃん、

----マジ? マジっスか、それ…?

 そのようなやむない諸般の事情があって、イーダちゃんは、女夫渕温泉の2キロまえの、耳慣れぬ「川俣温泉」というバス亭で下車する運びとなったのでありました。
 降りたら「温泉」って謳ってるくらいだから、せめて民宿くらいあるだろ、と思っていたんですね。
 でも、川俣温泉ってすっげー田舎なの。
 見えるのは、はるけく雪化粧した山々ばかりなり。
 その山々の狭間ごとに、ときどき、申しわけ程度に小さな集落が張りついてる。
 あたり一面に雪が降りつもり、宿っぽい建物なんてどこにも見当たらない。
 加えるに、僕、皮靴だったから、道が滑るのよ、とても。
 帰りのバス亭を見てみると、すわ、帰りのバス、もー ないじゃありませんか。
 雪かき中の土地のひとに尋ねて、このあたりのひとがよく利用するという坂の下の国民宿舎を訪ねてみたんですが、あいにくのこと休館日でやってない。
 遠目に宿っぽい建物を見つけて、おっちらほいさら歩いて遠征してもみたんですが、そちら、潰れてあいにくの解体作業中。

----はあ、どうすんべ…? と僕は途方に暮れましたねえ。

 白い息を吹きあげながら困り顔でトホホンとしてたら、この旅館を解体してた兄ちゃんが声かけてきてくれました。
 
----ん? どうしたんですか…?

 で、まあいろいろ話しはじめて、事情も説明して、事情ついでに温泉のよもやま雑談なんかもしてたら、自然、この兄ちゃんと仲良くなってきちゃって、この兄ちゃん、それならばと、あるお宿を紹介してくれたの。
 この改装中の宿のなかを通っていったらそこへの近道だからと、ついには部外者の僕を宿の中を通して案内までしてくれて…。
 あのときは感謝デス、兄ちゃん!m(_ _)m
 このとき、兄ちゃんが紹介してくれた宿が、川俣観光ホテル「仙心亭」なのでありました---。


             

 渡りに舟というか、困りイーダに「仙心亭」というか、この偶然、嬉しかったなあ。
 で、テクテク雪道を歩いていって、「仙心亭」さんのロビーにいって、宿泊を申しこんでみたわけ。
 そしたら、係のおっちゃん、簡単にいいですよって---。
 ただ、正式にはウチ今日は休館日でして、厨房の者が誰もきてないので素泊まりというカタチになってさまうけど、それでもいいですかって。
 僕にいいもわるいもあろうはずがありません。
 どこにも泊まれなければ、零下20度の極寒の夜のなかで遭難だと思ってたんですから---。 
 もう嬉しくて嬉しくて、このロビーのごっついおっちゃんとさらに話していたら、驚くまいことか、このおっちゃん、僕の愛する、あの那須にある全国屈指の名宿「北温泉」を長年切りまわしてきた、あのAさんだということが判明しました。 
 全世界にファンを持ち、あの宮崎駿さんも泊まりにきたという、あの究極の混浴宿「北温泉」---!

 (※ここで「北温泉」について未知の方がおられたら、僕のまえのブログ記事、徒然その44☆北温泉逗留物語☆をお読みください)

 僕が「北温泉」の骨がらみのファンで、年に何度も泊まりにいくいわゆる「北温泉」フリークだということが分かると、このAさんも喜んじゃってね…。
 も・それからは「北温泉」の話題で超・盛りあがり!
 「北温泉」に詳しいひとで、このAさんを知らないひとはいません。
 なにを隠そう---先代の変わり者のご主人とともに、長年「北温泉」を切り盛りしてきたのは、このAさんだったのです。
 僕も泊まったとき、仲良くなったほかのお客さんから、Aさんのことはよく聴いてました。
 ただ、僕が「北温泉」にハマリだしたころと、このAさんが「北温泉」を去ったときってだいたい一致してて、直接の面識はなかったんですよ。
 いや、僕が「北温泉」にハマリだした初期のころには、実は僕、何度かこのAさんとすれちがっていたんですね。
 あの情緒ぷんぷんたる「北温泉」の帳場のまえの慰安所で、常連客とAさんらが夜中にお酒を飲んでる現場は何度か目撃したことがありました。
 僕自身もお酒に誘われたことがある。
 けど、僕、生来のひと見知りから、それ、断っていたんです。
 だから、Aさんとほぼすれちがいでいたわけで、お互い顔もよく知っちゃあいなかったわけ---それがどういう縁か、こんな川俣温泉の偶然訪ねた宿でよもやこうして再会することになろうとは---!
 このシンクロニシティーには、ただただ驚かされるばかりでした。
 Aさんは笑いながら、

----おっしゃ、イーダさん、じゃ今夜はコレ(ト飲む仕草をして)いきましょうか?

----うむ、いきましょう! と、僕もむろん即決です。

 で、温泉のあと、このAさんとAさんのお友達のMさんと、3人で宿のロビーでお酒を飲みました。
 Mさんっていうのは、かつていろんな事業をやってたお方---話がむちゃくちゃ面白いったら---さらに、このMさん、夕前に飯ぬきの僕がカップラーメンを所望したら、僕のために無料でまかないのカレーをつくってくださって…。
 おまけにこの方、元学生運動の闘士で、かつ骨がらみのビートルズ・ファンでもあって---。
 お酒は、宿の厳寒の屋根から下がっているつららで調達した、「つららロック」。
 旅先で友達になった年上のお二方と飲む「つららロック」は、まさに極上の味わいでした…。


                 ×            ×            ×

 おっと。温泉のほうも忘れちゃいけない---川俣温泉「仙心亭」さんの自慢の露天のフォトもここに掲載しておきませう---。


              

            ◆川俣観光ホテル「仙心亭」
            〒321-2717 栃木県日光市川俣サビ沢891-8
0288-96-0223 http://www.sensintei.com/



 こんなのを体験しちゃうと、もうますます旅がやめられなくなっちゃいますねえ。
 感無量の、味わい深い、なんともふしぎな温泉行でした。
 あとね、翌朝、お世話になった部屋をあとにするとき、煙草の空き箱をゴミ箱にむけて何気に投げたら、ゴミ箱のうえに僕の投げたその煙草箱、なんと、ちょこんと立ったんですよ。


              
              
 2メートル半くらいの距離から超・いい加減に投げたのに…。
 これにはちょいびっくり---このふしぎな旅全体を見事に総括してくれる、一本締めみたいな出来事だなあ、なんてつい思っちゃいました…。(了)