2010年の7月---もう6年もまえのことです---秋田の後生掛温泉を訪れた際、八幡平のクマ牧場に寄ったんですよ。
ええ、後年の2012年4月20日、クマの管理不行届きで、従業員2人が脱走グマに喰い殺され、センセーショナルな大事件になった例のあの牧場のこと。
僕が訪れたときには、平日だったせいか、広大な駐車場の敷地に駐車したのは、僕のクルマただ1台っきりでね、
全然流行ってる様子がなくて、入るのを躊躇したのを記憶してます。
でも、まあせっかくきたんだし、と入場しました。
そしたら、入場の受付にひとが誰もいなくて---
呼び鈴を押したらしばらくして農家の装いをしたオバちゃんが慌てた様子でやってきて、にわか作りの笑顔で切符をだしてくれました。
入場料は500円---受付をくぐると、いきなり音楽が鳴りだしまして---
----こりゃあ、まったくお客がきてる様子ないなぁ…。大丈夫かしら?
なんて他人事ながら心配になってもきてね。
で、場内をいくとだいたい分かるんですが、広大な牧場内に、案の定お客は僕ひとり…。
これは、なんというか、気持ち的に腰が引けてくるものがありました。
最初に熊の檻がふたつほどあって、そこやりすごすと、広大な熊さんたちのいるエリアが開けてました。
5、60頭ほどの巨大な羆さんらのご一団。
それが、ひさびさのニンゲンを見つけて、喜びの雄叫びを、あげてる。
そこ、観覧用の道からいくと5mほど下がった、いわゆる下からはあがれない羆さんらの生活エリアになっていて、
つまり、上には這いあがれない構造になっちゃいるんですが、僕、正直かなりビビリました。
だって、足のすぐ下には、もう巨大な羆の大集団。
それが皆興奮してガーガー吠えて、歩きまわったり、僕の足下の壁に飛びついたりしてる。
ニンゲンは…見渡すかぎり僕ひとりでしょ?
僕、「餌」としての自分を強く認識せざるをえませんでした。
ええ、「餌」ね---長らく眠っていた野生でのランクをふいに思いだした感じ。
ああいうシチエーションになると、原始の直観が蘇ってくるもんなんですね。
ニンゲン社会のルールだとか価値なんて、もう一瞬で飛んじゃう。
野性のヒエラルキーが舞いもどってくる。
金も地位も社会的地位なんてやつも一切無関係。
一瞬で、本能が、もう気取るわけ。
----こいつら、途轍もなく強い…。逃げろって。
実際、足下の巨大な羆さんら、完璧に僕のこと格下に見てましたから。
熊囲いから見上げられる観覧用通路のとこに、熊用のエサ(固パンみたいなやつ)の販売機がありまして、
よし、じゃあ、このクマさんたちに餌でもあげるか、と僕が小銭をだすと、
熊スペースからすかさず多数の雄叫びがあがります。
----グオーッ! グオーッ! (そうだそうだ、早くよこせ:イーダちゃん訳)
ふりむくと、それまで興味なさげに黙ってダラーンとしてた熊さんたちまで立ちあがって吠えはじめてる。
----グオーン! (それ早くよこせ! こっちだ。俺のとこにすぐよこせ!:イーダちゃん訳)
ざらざらした野性臭のなかに、「殺気」の香りが立のぼりはじめます。
この「殺気」に気圧された僕は、もうさながら即席の自動餌撒きマシーンと化しておりました。
五つ買い求めたそれのビニール梱包をあけ、次々と足下の熊さんらの求めるまま固パンを放るのみ。
僕、以前ある関係でアシカに魚放ったこともあるんですが、そのときはアシカとの心理的交流めいたものが味わえて、それ結構愉しかったの。
でもね、このときの熊さんとの交流は、あんま愉しくなかった。
というより、むしろ怖かったというのが本音かな?
だって、羆さんら、むちゃくちゃ運動神経いいんスよ。
コントロールが外れた固パンをも、すっと身体を流して完璧口キャッチしちゃう。
全盛期の佐山悟ばりのガタイに似合わぬその素早さがなおさら不気味。
噛んで、飲み下して、もっとよこせとまた吠えはじめるの。
で、自分のとこに投げられない熊さんは熊さんで、やっぱり吠えはじめるし。
結果、羆牧場は、もう餌強要の咆哮の渦----
----グッオーン! (なぜ、オレのとこによこさない? はよよこさんかい!:イーダちゃん訳)
てなよなわけでこのクマ牧場をあとにしたとき、イーダちゃんは神経をすり減らし、すっかり疲労困憊していたのでありました…。
2012年の4月20日、経営難のためクマの餌を減らしていたところ、飢えに駆られた羆6頭が、当牧場より脱走しました。
脱走を可能にしたのは、八幡平の多量の雪---こちら、あの八甲田山の麓の部分ですから、ま、世界有数の降雪地帯なわけ。
ハンパないその降雪はクマの居住スペースにも容赦なく降りそそぎ、結果的にクマ壁になだらかな雪の坂を作っちゃった。
で、6頭がそこから逃げ、飢えの要求するまま従業員の女性をふたり襲った。
ひょっとして僕の会った方だったかもしれないと思うと、これ、複雑な思いです。
飢えたクマに襲われたら、ニンゲンなんかひとたまりもないもん…。
僕が人類最強の闘士のひとりと思っているあのダニー・ホッジにしても、若いころプロレスのギミック・ショーで体重230キロのレスリング・ベア「テディ」と闘って、
----闘ってみて、とても人間の勝てる相手じゃないっていうのがよく分かった…。
なあんていってる---。
ええ、あのウサイン・ボルトより速く、横綱10人分のパワーでもって必殺の爪と牙をふりまわす、最凶のプレデターがクマなんです。
で、このクマたちを「処理」するためには、地元の猟友会のひとらがあたったそうです。
これは正解ですよね---警察の装備程度じゃ、とてもとても猛り狂ったクマは抑えられない。
ハンドガンはまったくの無意味、ライフルにしても対人用のライフルじゃ、とてもクマをしとめきれません。
熊はねえ、絶えず警戒のためアタマを小刻みに動かしてるし、頭骨自体もニンゲンとは比較にならないくらい分厚く頑丈だし、しかも、脳髄の大きさはせいぜいニンゲンの拳大とくる。
ここをピンポイントで撃ちぬかないと、即死させることはできません。
つまり、目と目のあいだの小さなポイントを真正面から狙うしかないわけ。
たとえ心臓を撃ちぬいても、野性のクマは心臓が破裂しないかぎりは動きつづけるんです。
野生の鹿だって、心臓を撃ちぬかれてもその場に崩れ落ちたるするケースはむしろ少ない---ピョンピョン跳ねて、息耐えるのは、大抵遠くの藪のなかだったりね。
まして相手は列車と正面衝突しても、何食わぬ顔して、ノシノシと歩み去っていけるミスター・タフネスの羆さんですから…。
そのあたりの機微を読みそこなって返り討ちにあったハンターは、わんさかいます。
手負いにしたら、即、撃ち手が危ない。
猟友会の名手らによって射撃は慎重に行われ、6頭全部が射殺されるまでに総計6時間あまりもかかったそうです…。
✖ ✖ ✖
で、長い枕になりましたが、ここからが当記事の本論です。
----もし野性のクマと対峙したら、どうするか?
考えるだに怖すぎる想定とは思いますが、僕、2010年の8月に北海道放浪した際に、ニセコや知床でクマの脅威をまざまざと感じたんですね。
ニセコでは早朝に神仙沼を訪ねたんですが、時間が早いすぎたせいか、いってみたらあてにしてたほかの観光客が誰もいなくて。
神仙沼ってとても美しい神秘の湖なんですが、あちこちにやたら「クマに注意!」みたいな立て札が立ってんの。
実際、早朝のあのへんを藪漕ぎしてたら、ほかの動物の気配は誰だってびんびん感じられるものなんです。
僕、藪漕ぎのとちゅうで怖くなって、熊鈴と防御用のハンマーとをとりに一端クルマにもどりました。
事故時にフロントガラスを一撃で粉砕できる例の脱出用の特殊ハンマー---あれ、案外重いんス。
もっとも実際に野生のクマに出会ったら、こんなもの役に立たないってことは重々承知しちゃあいましたが、手ぶらよりはいくらか心強かったんですよ。
夜明けの神仙沼見て、帰りの下りの道でようやくやってきた観光客らと出会えて、心底ホッとしました。
観光客らは、僕が物騒なモノを肩に担いでるんで、皆、ギョッとしてたようですが…w
知床でも、もうクマさん、わんさか見ましたねえ---あちら、まあ世界でも有数の羆の生息地ですから、遭遇はいわば必然。
羅臼の道の駅では策の向こうの山の先に黒い点が動いてて、みんながクマだクマだと騒いでましたし、
知床五湖にある電気網に守られたクマ散策路から見れる野生のクマらの佇まいは、非常にしなやかなものでした。
知床五湖からカムイワッカの滝に向かう専用バスの車窓からも、クマの姿はやはり見られたし、
ウトロ港発のオーロラ号からの海路から眺められる知床岬は、もうあちらもこちらもうじゃうじゃとクマだらけ…。
都会にいるとまったく実感できませんが、わが祖国ジャパンは、実は、世界でも有数のクマ生息国だったのですよ。
それが知識じゃなく肌感でもって実感できました。
しかし---それはあくまで羆という種の話---たとえばカナダやアラスカには、この羆よりさらに大型の、ハイイログマという種がいるのです。
身長3m、体重600キロを超える怪物が、あたりまえに存在闊歩してる土地が、世界にはあまたあるのです。
このことを、ねえ、貴方どう思います----?
僕はもう考えるだに怖いなあ…。
当記事冒頭にUPした怪物をよくご覧ください---膝頭が自然と震えてきませんか?
このグリズリーベアーの隣りに立ってる親父さん、180センチあるんスよ。
もうニンゲン風情が対抗できる種じゃないなんてことは、この写真を見ただけで誰もが感知可能な事実かと思います。
この地で暮らすならライフル所持は、必須です。
実際、ライフルを撃てないと、不動産屋が部屋を貸してくれないの。
もちろん対人用のM16アサトライフルなんかじゃダメダメよ----わるいけど、あれじゃあ、イノシシ猟もやれません。
かの地で携帯するならば、最低.30-06クラス----いえ、このクラスですら、ときとしてレディースライフルと揶揄されるのですから。
ええ、かの地で要求されるのは、最強の銃弾マグナム300を発射できるレミントンM700かウインチェスターM70----それが、かの地でのスタンダードな選択なのです。
ハイイログマ、グリズリーというのがいかにしぶとくて狡猾な動物なのか----その種の逸話は山ほどあります。
----米軍制式ガンのベレッタの9ミリオートあるよな? あれを至近距離から全弾撃ちこんでも、グリズリーベアーの前進はとまらない。それにアンタ、至近距離に迫ってくるアイツにむかってダブルタップしたって何発撃てると思う? 口の中に1ダース撃ちこんでも奴は即死なんかしちゃくれない。しかも、そのあいだ奴はとまっていない。動いてるんだ。オレのいう意味分かるだろ? 近代のセミオート・ピストルなんて、ここじゃあなんの役にも立たない玩具みたいなもんなのさ。ここで暮らすなら、300クラスのマグナム・ライフルとサイドアームの44マグナムは絶対要るね。357じゃダメだ。ここアラスカで長年ベストセラーの座を守りつづけているサイドアームを教えてやろうか? ここじゃあ誰もが携帯してる、どのガイドもみんな保持してる。それは、ルガーのスーパー・ブラックホーク44マグナムさ…。
というわけで、ようやくのことGUNの紹介です---スタームルガー社のスーパー・ブラックホーク44マグナム---まずはその雄姿をご覧あれ---!
うほほ、ごっついな、アンタ----!
ルガーのブラックホーク44マグナムは、いわずと知れたあの往年のアクション漫画「ドーベルマン刑事(デカ)」で有名になったハンドガンです。
当時はこれ、S&Wの44マグナムM29---「ダーティーハリー」で一挙にブレイクした例のやつっス---と並んで、世界最強の GUN と呼ばれたりもしてたんです。
コルト・ピースメーカー、いわゆる「ピーメ」と同型の、もう見るからに郷愁の濃い香りがぷんぷん漂うシングルアクション・リボルバー。
写真にUPしたのは、安全のためのトランスファーバーが機構に組みこまれた、73年以降の後期型の「ニュースーパー・ブラックホーク」のほうですね---。
おまけに、オール・ステンレス製---ここ、ポイント高いっス---普通のオートなんかじゃ、それこそ過酷な環境にやられて、それこそあっというまに錆び錆びの作動不能になっちゃうアラスカの地---そんな環境下であってもあくまでタフに機能しつづけられる稀有な銃---モダンで近代的な瀟洒な香り、爛熟文化の移り香なんかには欠けてるかもしれないけど、「タフネス」「パワー」「信頼性」の3点において、この GUN に匹敵しうるハンドガンはちょっとありません---これぞ、まさに対モンスター・グリズリーのために製造されたような究極GUN ではないですか!
むろん、市街戦でブラックホークを使おうとは僕にしたって思いやしません----
ワンマガジンで20連発近くファイアーパワーのあるグロックやシグなんかの最新鋭のセミオートと比べたら、旧式然とした6連発リボルバーのブラックホークは、いかにも分がわるい。
弾の詰替えだけでも30秒はかかるしね---いくら威力があっても、このタイムロスはヤバすぎでしょ?
複数が相手だったら、もうやるまえから結果が見えてる感じじゃないですか。
つまるとこ、いわゆる市街地向きの GUN じゃないんですよ、このブラックホークは。
けれども、ことアラスカの広大な荒野においては、この評価は完璧に逆転します。
9ミリのセミオートをつづけざまに全弾撃ちこんだところで---たぶん、グリズリーベアーの突進は止まらない…。
そのあたりのニンゲンVSグリズリーベアーのリアルな闘争を見事に表現した文章を、ここに少しばかり引用してみませうか。
----その刹那、灌木の茂みからブラウンベアーが飛び出しハンター氏に飛び掛った。ウエザビーが火を噴く…はずだった!
ところがライフルを叩き落され、ストックがグリップの所から真っ二つに叩き折られた。
ガイドと私はナイフを捨てそれぞれのサイドアームをホルスターから引き抜いた。
ブラウンベアーはハンター氏を弾き飛ばし、二人のほうへ低い姿勢で突進してきた。
距離は15フィート。真正面なので横腹は撃てない。
ワンハンドの抜き撃ち。ガイドはシングルアクション、私はダブルアクション。
彼は1発、私は2発撃った。
ブラウンベアーは正面から3発の240グレイン弾を受けけた。それにもかかわらず勢いは止らない。
更に彼はもう1発、私は更に発撃ち込んだ。
さすがに6発のソフトポイントとホローポイント弾の混合弾を身体に受けたブラウンベアーは転倒した。
ガイドは傍らに立てかけてあったライフルを取り、.375SH&Hマグナムのグレイン弾で止めの1発を横腹に撃ち込んだ。
合計7発のマグナム弾をくらってやっと動かなくなった。
このベアーもスキニングと解体をしてみると、2発は脳天に当っていた。
だが、いずれの弾も頭骨は貫通せず、くぼみが出来ただけで横に跳弾となっていた。
ビッグゲームでは、正面から攻撃された場合、ファイヤーパワーを全開にすることだ…。
(ウッデイコバヤシ「野性との対峙」GUN.2014.2月号より)
うーむ、凄すぎる…!
至近距離から撃たれた44マグナムを2発とも跳ねかえす、戦車の装甲板みたいな頭骨なんて…。
まさに野生の戦車じゃないですか、こいつは----。
僕は平和主義者でして、いかなる殺生にも反対の立場取りしたいタイプのニンゲンなんですが、体内に流れる「オトコ」の血のせいか、この種の話にはどうしても魅きつけられてしまう。
うん、抵抗できない、興味よりなにより血が騒ぐんですわ。
このブラックホークは、たしかマルシンさんあたりがグスガン化してたはず。
マルシンさんは贔屓じゃないんで、そのブラックホークの出来はよく分からないんですが、
こんなの書いてたぎった僕内の野性の血は、なんだかまだ収まりそうにない…。
夜もようよう更けました---今夜のとこは枕辺に対ハイイログマ用の空想のブラックホークでも1丁置いて、そろそろ休むことにしませうか?---アラスカはいま氷点下20度とのこと、夜風は幸いのこと今夜は凪いでます---では、そろそろ…(あくびしながら)お休みなさい……。(-o-)zzz
<