ひさびさの休みがとれたんで、腰の養生もかねて、この3月20日、近場の熱海に1泊2日の湯治としゃれこんでみました。
なぜ、いま熱海なのか?
去年の愛車全損事故により足なし状態がつづいていて、電車での遠出がだんだん面倒になってきたため---というのが第一の理由かな?
で、第二には、新しく就いたいまの仕事では連休がなかなか取りづらいから---といった理由もありでせうか。
そのような規制事項を踏まえたうえでの1泊2日の熱海旅だったのですが、いやー、それがなんともいえずふしぎな旅となったんですよ、今回は…。
熱海駅への到着は、お昼すぎでした。ええ、いつもの常宿である「福島屋旅館」さんにまず荷物をおかせてもらって、昼間のさなかから閑散とした---うん、今回の熱海旅、休日前日で、かつ格好の青天という絶好の観光日和だというのに、観光客、恐ろしいほど少なかったんですよ---そんな閑散とした、人気のない、いい日和の熱海の町をぷらぷらと気ままに、まあさすらっていたと思ってください。
上図:祝日前の晴天日だというのに閑散と静まった熱海銀座の光景
具体的にいきませう。荷物をおいた「福島屋旅館」さんのそばには、源泉の「風呂の湯」ってのがあるんです。その源泉をちょい上ったさきに、熱海櫻が一本見事に花をつけてるのを見つけたんですよ。
----おおっ、凄っ。満開だ、こりゃ…。と、目を細めて携帯写真をぱちぱち撮っていたら。
そしたら、上りの坂のところでそんな僕の様子を見ていたおばあさんが、いきなり話しかけてきたんです。
----ねえ、とってもきれいに咲いてますね…、って。
これが、なんといっても第一のふしぎ事象かと存じます。
ふりかえると、そこにいたのは上から下まで黒衣に身を包んだ、歯のない70代(推定)のおばあさん。
僕はこのおばあさんの言葉にこくんとうなずいて、
----ええ、満開、いまが盛りって感じですよね…、とにっこり返しまして。
それから、その櫻の木の下で、ふたりして延々おしゃべりしちゃいました。
このおばあさん、聴けば、20年前にヨコハマの保土ヶ谷から移住されてきた方だとか。
ええ、当時はいまとちがってまだ熱海は景気もよかったころですから、ヤクザ屋さんもいまよりうんと多かったんですよ。そのころの熱海を仕切っていたのは稲川会の系列でね…、
----えっ。稲川会といったらヨコハマじゃないんですか?
そりゃあ、本家はヨコハマのほうかもしれませんが…、こっちの熱海でも稲川さんの勢いは凄かったんですよ…。もっとも、観光客がこんなに減っちゃってからは、稼ぎもなくなってきて、皆、ヨコハマのほうに移っていっちゃいましたけど、むかしのここいらはホント景気がよかったんですよ。ほら、その証拠に、この坂を上っていった梅園のすぐさきには、稲川さんの豪邸、いまもありますから…。
----へえ、豪邸ですか…。
あなたと同じ年くらいの私の息子も、若い頃いちどヤクザになりたい、なんて馬鹿なことをいいだしましてね、あたしはヤクザなんてそんなに甘い稼業じゃないんだ、ということを教えてやりたくて、稲川さんの屋敷に息子をでっちにいかせたことがあるんですよ。毎朝タクシーでお屋敷まで送りとどけてやってね…、そうですねえ、2週間くらい頑張ったかしら? 掃除に洗濯に用足しに…それでようやく息子もげんなりして折れてくれまして……
はらはらと櫻の花びらの舞う、春萌え坂のとちゅうで、遠いむかしの稲川会の興隆話を拝聴するのは、なんというか非常に浮き世離れした、ふしぎな味わいがありました。
青空と、いまが盛りの熱海櫻と、いい匂いのするむかし話と、春霞のかかった遠くの海と…。
これが、この日僕が体験した、ふしぎエピソードその1ですね---。
でもって、次には第二のふしぎ事象のご紹介---
このおばあさんとお別れして、僕は、もそっと海沿いの、糸川橋の付近をぷらぷらと散策してたんですよね。
なんか、急に美味しいものが食べたくなっちゃって。
クルマの旅なら、ふだんは食べ物は思いきり節約節制しちゃうのですが、今回はお金のかからない電車旅ですから、めいっぱい美味しいものを食べちゃおうかなって思いまして。
で、さんざん食べ物屋さんを何往復もして吟味して、とうとう跳びこんだこちら、
イタリア料理店「Termale-テルマーレ-」さん---まったくの本能で選んだこちらの店の料理が、なんとも絶品でした。
あとからネットで調べたら、こちら、けっこう有名なお店だったんですねえ。
僕は1300円くらいの「ツナクリーム・パスタ」と赤のグラスワインとを頼んだんですが、ここのパスタのソースはマジ美味でした。
で、そのことを伝えて、お勘定をすませて、さあ、お店を出ようとしたとき、こちらのご主人が、
----あ。お客さん、さっき食事するまえ、カウンターで諸星大二郎の特集、読んでらしたでしょう?
----ええ、まあ読んでましたけど…、と僕はやや戸惑いながら。
こちらのお店のカウンターには数冊の本が置かれてて、そのセレクトがなんというか、とってもユニークだったんですよ。
本好きのイーダちゃんは、そのなかに諸星大二郎を特集した「ユリイカ」の増刊号があるのを見つけて、びっくりして、かなり熱心に目を通していたんです。ご主人は、きっとその様子をよく見てられたんですね。
----いやー、そうとう熱心に読んでおられたから、諸星さんのこと、好きなのかなって、そう思ったんですよ。
----ええ、たしかに。諸星さんは、ずいぶん好きですけど…。
----なら、その本、差しあげますよ。どうぞ、それ、持って帰られてください…。
----えっ!?
----いえね、店にただ置いておくより、そっちのほうが本にとってよさそうだ、と思ったもんですから。ほんとにどうぞ、ご遠慮なく…。
と、こちらのご主人はあくまでにこやかに---そうして、イーダちゃんは、気まぐれで入った一見さんの熱海のイタリアン・レストランで、なぜだか諸星大二郎本を一冊、貰い受けてしまったのでありました…。<(_ _)> ←メルシーマーク。
で、腹がくちて、「うーん、これからどうしようかな?」と伸びをしたときに思いだしたのが、熱海の巨樹情報。
ここでふいにこんな巨樹のことを思いだしたっていうのを、僕的には第三のふしぎ事象に指定したいわけ。
イーダちゃんは巨樹が非常に好きでして、機会があれば必ず見るようにしてるんですけど、熱海にもよくTVのパワスポ系の特集なんかで取りあげられるような、有名な巨樹があることは知っていたんです。
さっそく通りがかりのジモティーっぽいおばちゃんに聴いてみます。
すると、それ、来宮神社にある二千歳の「大楠」だということが分かりました。
だとしたら、善は急げ、さっそく徒歩で来宮神社を目指しました。
岡本ホテルのある坂を上って、ぐーんとまっすぐ---20分ほど歩いたら、目指す来宮神社が見えてきた。
こちらの建物の左側の坂をのぼったさきに、目的の、その樹齢二千歳の「大楠」はありました。
----うおーっ、でっかいなあ…。
マジに太くて大きい…。
それに、なんたる威厳でせうか。
なんともいえない歴史の香りが、はるかな高みにある枝々から、しんしんと降りそそいできます。
なんか、巨大なオームを目あげたときの「風の谷のナウシカ」の心境とでもいいませうか?
あのときのナウシカってきっとこんな心境だったんだと思うな。もうね、心ごとすさーっと吸いあげられる感じ。
そして、その吸われる感触が、とっても心地いいの。
自分の呼吸も、いつのまにか巨樹にあわさるように、深くゆっくりになってきて。
イーダちゃんは、この「大楠」さんのまわりを、見上げながら、ゆーっくり何周かしましたねえ。
許可もらって---もちろん、巨樹さんに直接です---写真を何枚か撮らしてもらって、またしても何周かくーるくる。
あとからきたカップルや観光客が木をあとにしても、イーダちゃんはまだ飽きもせず、「大楠」さんのオーラ圏内に停泊しておりました。
もの凄い長い年月、存在しつづけてきた生き物だけがもてる、静かだけど、独自の威厳に満ちた、涼しげで居心地のいい「悟り」のオーラ---その空間にひたっていれるのは、極上の温泉に入っているのと同様の、ふしぎな恍惚感がありました…。
× ×
でもって、常宿の「福島屋旅館」さんにもどって、イーダちゃんはまた一風呂浴びたんですわ。
阿呆ですねえ、いい温泉に入ってると、ホント、それだけで満足しちゃうんです。
うーむ、気持ちいいなあって---ニンゲンカンケーの気苦労とか、浮き世のしがらみとか、人工地震勢力への怒りだとか憤懣とかもいろいろあるけど、まあ、いいか、この世はすべてこともなしってことで…、みたいな即席の「ゆるゆる坊主」になっちゃうっていうか(笑)。
あ。最後に追記ね---こちらのお宿のご主人が、「福島屋旅館」さんのHPを開設されました。
昭和の熱海が生きている温泉宿 - 熱海温泉 福島屋旅館 HP www.atamispa.jp/
ちなみに、こちらのご主人、非常に気合いの入った鉄オタさんでもありまして、お話が大変おもしろいの。
特に、天皇が伊東から東京に帰られるって情報を入手したとき、鉄道のダイヤから熱海駅に寄られる時間をとっさに推理して、礼服を着て町の仲間と熱海駅まで陛下を歓迎にいった(もっとも、このとき天皇は下車されず、ホームから電車内への歓迎となったようですが)エピソードなぞは、松本清張の「点と線」のアリバイ崩しの話を聴いているようで、大変興味深く、手に汗握る思いで聴いてしまいました。
というわけで、温泉とレトロと巨樹と鉄オタとに興味ある方がおられたら、ぜひにも熱海の、この「福島屋旅館」さんを訪ねたらいいよ、という宣伝をひとくさりやって今回のレポートの幕にしようか、と目論んでみたイーダちゃんなのでありました---。(^.^;>
先月、熱にうなされながらネットサーフィンしていてこのブログにたどりつき、具合が悪いにも関わらず面白くてついついたくさん読んでしまいました。
で、その後すっかり大楠のことも温泉のことも忘れてて
先日なんとなく「連休に入る前に熱海に行こう」と思い立ち(当方神奈川在)、
来宮神社に参拝して
福島屋旅館の日帰り湯に入って
満足して帰って来ました。
で、今日なんとなくこちらに来てみたら「あれ?来宮神社の情報が、、、」
高熱で溶けた脳みそのせいで、潜在意識に熱海が刷り込まれていたようです。
福島屋旅館、とても良いところでした。
大楠も、すごかったです。
またマニアックな情報楽しみにしております。
あと、熱のほうはいかがですか? もう、平気なのか気にかかります。
大楠、たまらんですよね。
あと、福島屋旅館さんはいわずもがな。
お湯も、それから建物全体の風情も。
でも、あちらの旅館では、ご主人のお話も超面白いんですよ。
今度、機会があったら、是非お話ししてみてください。(^^)
熱は、3月~4月にわたり二週間引っ張りましたが、もうすっかり下がり、ぴんぴんしています。
今度熱海で宿泊する時は福島屋旅館に!
(日帰りの料金も、駅前温泉より安いんですよね)