ちいさなちいさな いのりのことば

 * にしだひろみ *

『ウォールデン』*わたしの本棚*

2015年05月21日 | Weblog

ヘンリー・デイビット・ソロー の『ウォールデン ~森の生活~ 』を初めて手にしたのは、二十歳の頃でした。

大型書店で見つけたその本は、やや大判の単行本で、かなりの厚さ。

お値段も、一般的な単行本が何冊も買えるほど。

貧しい学生には、簡単に手を出せるものではありません。




・・・ここで少し、読んでいこう。

ほんの、少しだけでも。





わたしは、その重たい本を、傷めないように、そうっと開きました。




その瞬間、そこは、書店ではなくなりした。


人も音も、みんな消えて、

わたしは、深く静かな森にいました。


わたしは、魂が震えるようなよろこびに、全てを忘れました。






数十ページ、読み進んだ頃、わたしは、ハッとして、慌てて本を閉じました。


これ以上読み進めば、戻れなくなる。

この本を知らなかったわたしに、それまでのわたしには、戻れなくなる。


こんな高価な本を買うことは、とても無理。

それなのに、この本を知ってしまうことは、わたしにとって、とても不幸なことに違いない。

だから、ここまでにしなくては。



わたしは、本を棚に戻すと、お店を後にしました。






けれども、翌日、わたしは再び、その本の前に立っていました。


もう、戻れないわたしに、なっていたから。

わたしの魂のよろこび、秘められた願いに背を向けることは、できなかった。


わたしは、当面の倹約生活を覚悟し、その本を抱え、レジに進みました。





あれから、とても長い年月が過ぎました。

一度は失ったその本、今は、新しい翻訳のものが、わたしの本棚にあります。(小学館)






ナチュラリストである今泉吉晴さんの翻訳は、いきいきとして瑞々しく、とても読みやすい。

デザインも素敵です。




あの日、わたしを、大自然へといざなった、一冊の本。

ソローのようにどっぷりと、森の奥に家を建てるところから自給まで、とはいきませんが、

森のそばに生き、森を感じながら、わたしらしい生き方を(森との繋がり方を)見つけようとしています。



人は、自然から離れて生きることは、できないのだと思います。

どんなに細くとも、ささやかでも、繋がっていなくては・・・

自然とは、人の、いのちの素ではないでしょうか。


目がよろこび、
鼻がよろこび、
耳がよろこび、
身体がよろこび、
心がよろこび、
魂がよろこび。




学生時代、知らぬ間に自然から遠ざかろうとしていたわたしを、違うものを目指して進まなくてはならないと思い込んでいたわたしを、一冊の本が引きとめてくれました。

そうして今、森のそばで生きています。

さらに、今もまた、新たな力をわたしに及ぼしつつあります。





最近、『ウォールデン』を読み直したわたしは、日数をかけて、本棚を整理したくなりました。

好きなもの、大切なもの、わたしをよい方へ導いてくれるもの、そんな本だけの本棚にしましょう。


蔵書はかなり減らしていましたが、ちょこちょこ勢いで買ってしまうものもあります。

中には、それほど必要でもなく、愛着を感じない本もあります。




ソローが、小さな家を建て、ごく限られたものを大切に暮らしたように、

わたしも、できるだけシンプルに暮らしたい。





そうすると、本棚だけに留まりません。

衣類も、かばんも、食器も、履き物も、外の物置の中も、と、どんどん拡大していきます。

端から見たら滑稽なくらい、この一週間は、よく動き回るわたしでした。



ようやく一段落しましたが、もうしばらくは続けてみるつもりです。

とてもとても、素晴らしい気持ちです。






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