行ったことのない図書館を訪ねてみる。
とてもワクワクするものです。
図書館は、図書館であるなら、どこも素敵です。
本が並んでいるんですもの、素敵でないわけがありません。
図書館は、どこもみな、違う雰囲気を持ちます。
建物のつくりや、棚の配置、本の並べ方で、印象は大きく変わります。
目立つようにピックアップされている本によって、司書さんたちのセンスも垣間見ることができます。
図書館は、みな素敵です。
でも、ここは特別素敵、という図書館があります。
この本は、そんな、特別素敵な図書館で出逢いました。
『とぶ船』
なんという心踊るタイトルでしょう。
そして、翻訳が石井桃子さん。
これは、面白くないはずはありません。
さらに、わたしが最も心ひかれたのは、この本のにおい。
小学校時代の図書館の本のにおいがしたのです。
年月を経た本の、健全なにおい、とでも言いましょうか。
ひっそり愛されてきた本のにおい。
誰にも読まれなかった本のにおいでなく、この本をごく愛する、限られた子どもによって、繰り返し読まれてきた本のにおい。
それは、幸せなにおいです。
手にした時に、“ああ、いい本”と感じました。
市内の図書館でしたので、わたしも借りることができます。
迷うことなく、借りてきました。
そして、朝や夜などに、少しすつ読み進めてきました。
読むような、この幸せなにおいに包まれるような、そんな時間。
そして、出逢ったのです。
こんな素敵な言葉に。
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「信じなければ、魔法は、はたらかぬ。」
「いく年もたたぬうちに、この子どもたちは、魔法の船を信じなくなる。
たぶん、この子どもたちは、そのような時は、くるはずがないと思っているだろう。
だが、日がのぼり、しずむのとおなじように、かならず、その時はやってくる。
この子どもたちは、おとなになるのだ。」
「さて、その時がきたら、『スキードブラドニール』(魔法の船の名前)をかえしてもらおうではないか。
そのおかえしに、わしは子どもたちに、一つずつ贈り物をおくろう。」
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本を閉じて、深呼吸しました。
こんな言葉に出逢いたかった。
こんなことが書いてある物語に出逢いたかった。
もうこんな歳になってしまったけど、やっと出逢えた。
ほんとに、よかった。
そんな気持ちで。
子ども時代は、どの子も、こんな風であってほしい。
魔法を信じられる、とても幸福な、とても短い時期を、満喫してほしい。
魔法は、いつか必ず消える。
でも、それだけではないのですね。
魔法を手放す時、知らずに、なにか素晴らしいものを受け取る。
それは、魔法が育んでくれた、何か。
わたしは、魔法の船を得てきたでしょうか。
ええ、得てきました。
これだけは確かです。
そして、それをちゃんと、返してきたてしょうか。
・・・もしかしたら、まだ、宝箱にしまってあるのかしら。
そうならば、わたしらしい時期に、それを返さなくては。
次の子どもたちのために。