ちいさなちいさな いのりのことば

 * にしだひろみ *

魔法の船*日々のつれづれ*

2016年09月06日 | Weblog

行ったことのない図書館を訪ねてみる。

とてもワクワクするものです。


図書館は、図書館であるなら、どこも素敵です。

本が並んでいるんですもの、素敵でないわけがありません。


図書館は、どこもみな、違う雰囲気を持ちます。

建物のつくりや、棚の配置、本の並べ方で、印象は大きく変わります。

目立つようにピックアップされている本によって、司書さんたちのセンスも垣間見ることができます。


図書館は、みな素敵です。

でも、ここは特別素敵、という図書館があります。


この本は、そんな、特別素敵な図書館で出逢いました。



『とぶ船』

なんという心踊るタイトルでしょう。

そして、翻訳が石井桃子さん。

これは、面白くないはずはありません。


さらに、わたしが最も心ひかれたのは、この本のにおい。

小学校時代の図書館の本のにおいがしたのです。

年月を経た本の、健全なにおい、とでも言いましょうか。

ひっそり愛されてきた本のにおい。

誰にも読まれなかった本のにおいでなく、この本をごく愛する、限られた子どもによって、繰り返し読まれてきた本のにおい。

それは、幸せなにおいです。

手にした時に、“ああ、いい本”と感じました。


市内の図書館でしたので、わたしも借りることができます。

迷うことなく、借りてきました。

そして、朝や夜などに、少しすつ読み進めてきました。

読むような、この幸せなにおいに包まれるような、そんな時間。


そして、出逢ったのです。

こんな素敵な言葉に。


*****************

「信じなければ、魔法は、はたらかぬ。」

「いく年もたたぬうちに、この子どもたちは、魔法の船を信じなくなる。

たぶん、この子どもたちは、そのような時は、くるはずがないと思っているだろう。

だが、日がのぼり、しずむのとおなじように、かならず、その時はやってくる。

この子どもたちは、おとなになるのだ。」


「さて、その時がきたら、『スキードブラドニール』(魔法の船の名前)をかえしてもらおうではないか。

そのおかえしに、わしは子どもたちに、一つずつ贈り物をおくろう。」


*****************


本を閉じて、深呼吸しました。

こんな言葉に出逢いたかった。

こんなことが書いてある物語に出逢いたかった。

もうこんな歳になってしまったけど、やっと出逢えた。

ほんとに、よかった。


そんな気持ちで。


子ども時代は、どの子も、こんな風であってほしい。

魔法を信じられる、とても幸福な、とても短い時期を、満喫してほしい。


魔法は、いつか必ず消える。

でも、それだけではないのですね。

魔法を手放す時、知らずに、なにか素晴らしいものを受け取る。

それは、魔法が育んでくれた、何か。



わたしは、魔法の船を得てきたでしょうか。

ええ、得てきました。

これだけは確かです。

そして、それをちゃんと、返してきたてしょうか。


・・・もしかしたら、まだ、宝箱にしまってあるのかしら。

そうならば、わたしらしい時期に、それを返さなくては。

次の子どもたちのために。









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