宇宙そのものであるモナド

生命または精神ともよびうるモナドは宇宙そのものである

『春を嫌いになった理由(ワケ)』誉田哲也(ホンダテツヤ)(1969生)、2005年、光文社文庫

2012-05-30 21:21:51 | Weblog
 水の底で男が、小さな裸の少女を噛み、食べている。少女が「助けて」と言う。

   序章 嫌な仕事を断れなかった理由
 秋川瑞希(ミズキ)、一人っ子、26歳。大卒後、就職浪人4年目。
 叔母、名倉織江、38歳、テレビ太陽のプロヂューサー。
 織江の依頼で、瑞希、ポルトガル人超能力者の通訳のアルバイトをすることになる。瑞希は英語・ポルトガル語ができる。
 超能力者はマリア・エステラ、52歳のおばさん。『解決!超能力捜査班』に出演予定。
 母に200万円の借金があり、それを返すためには金を稼がねばならず、通訳の仕事を瑞希は断れない。しかしインチキの片棒を担ぐのは嫌だと瑞希。

   第1章 外国人が日本を訪れる理由
 児童擁護施設出身の男(=岩本邦彦)。身重の妻。テレビは『解決!超能力捜査班』をやっている。自分の親も捜してほしいくらいだと男。

    1 初台の幽霊
 瑞希、成田にエステラを迎えに行く。瑞希はエステラとホテルに泊まる。
 新宿・初台に若い男の幽霊が出るという。スーツの男が走ってきて、わかいOLに「寒い。すごく寒い!」と言って消えた。
 初台に行ったエステラが「人の念が渦巻いている」と言う。

    2 正剛の成功、林守敬と玉娟の日本への密出国
 福建省泉州市恵安県の貧しい村。村長の孫、古正剛(ゴウツンガン)が日本に行き、大成功しもどってくる。
 村の拠点が老人会館。老人会から20万元(200万円)×2人分、借りる。俺、林守敬(リンソウチン)21歳と妹、玉娟(ウージェン)19歳。二人は、老板(ラオパン)=蛇頭によって日本へ密出国する。
 密航はいわば村の公益事業。それを老人会が仕切る。正剛は老人会の顔役。彼が老板(ラオパン)の吟味・交渉を行う。

    3 瑞希:超能力にトラウマ、不信感
 初台のコンクリートむき出しの廃ビル。「不吉なものを感じる」、「死体があると思う」とエステラ。
 瑞希は超能力にトラウマ、不信感。小4の時、友だちの中島賀世子が行方不明になる。白目を大きくむいた男が、少女を左手をかじり、食べている予知夢を見た。
 しかし、それはゴヤの絵との混同だと言われ、皆にバカにされた。その後、犯人がつかまりカヨコの死体も発見された。

    4 密出国のコンテナ:計43人の密航者
 林守敬と玉娟の日本への密出国のコンテナには計、43人の密航者。玉娟が襲われそうになる。それを救った顔役が事故で死亡。

    5 全裸のミイラ死体の発見:初台の廃ビルにて
 エステラの透視のとおり、初台の廃ビルで全裸のミイラの死体が発見される。警察は透視による死体の発見など信じない。自分たちで死体を遺棄したヤラセではないかと疑う。

    6 従兄の顧少秋
 コンテナの43人の密航者のうち、生き残ったのは5人。
 日本に着くと松波組の手引きで新宿の歌舞伎町へ。そこで従兄の顧少秋(グウリウチエ)と会う。彼は正剛の手引きで最初に日本に来た一人。彼が日本での林守敬・玉娟の世話をする。

   第2章 超能力を信じない理由
 男(=岩本邦彦)は、テレビの『解決!超能力捜査班』が、超能力者マリア・エステラが白骨死体発見と、報告するのを視る。
 そして番組が独自に作成したという死体の復顔像が流される。

    1 両神村:かつて他殺死体が発見された
 かつて他殺死体が発見された両神村へエステラ、瑞希たちが取材に出かける。犯人の名前にはD、N、「ろ」が含まれるとエステラが言う。

    2 台湾流氓(リウマン)の月(ユエ)
 林守敬、林玉娟、顧少秋、蘇夫妻の5人が6畳一間に住む。
 昼も夜も林守敬と林玉娟は働く。
 歌舞伎町の少秋が働く店で、台湾流氓(リウマン)の月(ユエ)に、チンピラ2人が殺される。

    3 エステラの透視:「殺人犯がここに来る」
 『解決!超能力捜査班』の放送中、エステラが「殺人犯がここに来る」と透視する。

    4 玉娟:日本人から結婚を申し込まれ喜ぶが、入管につかまる
 少秋の仲介で店舗の改造の仕事に、俺・守敬はつく。俺はインパクト・ドライバーも買う。俺は真面目に働く。日本の10万円は、中国で100-150万円になる。
 マスコミが月(ユエ)を知りたがっている。
 店で、玉娟が「日本人から結婚を申し込まれている」と喜んで言う。守敬は「騙される」と反対。
 日本国籍が取れるので嫉妬した同胞から入管に密告される。玉娟が入管につかまる。

    5 インチキ超能力者、秋川瑞希
 瑞希は超能力・霊魂・透視を憎む。小4の時、友だちの中島賀世子が殺された事件で、「インチキ超能力者、秋川瑞希」と黒板に書かれ、いじめられた。(⇒第1章3)

   第3章 あえて訳さなかった理由
 男は『解決!超能力捜査班』をテレビで見ながら、「あれ、霊能者と通訳の女がいなくなった」と気付く。

    1 殺人犯が「誰を殺したか」は、まだわからない:エステラ
 「エステラが『殺人犯がここに来る』と言っている」と、瑞希が、プロデューサーの織江に急いで伝える。「邪悪なイメージが局の外に近づいてくる」とエステラ。「誰を殺したか」は、まだわからないとのこと。
 ただし瑞希は番組中に、エステラのこの発言を訳すことはしなかった。「重大なことは織江に相談せずに訳してはいけない」と言われていたから。

    2 老人会の正剛:貸した40万元(400万円)の返済を心配する
 玉娟が強制送還されたのを知った老人会の正剛は落胆し、疑念を持つ。
 強制送還されれば、2万元(20万円、1元=10円)の罰金。中国内での出稼ぎの2年半分。すでに守敬と玉娟は、2人で老人会から20万元×2=40万元(400万円)の借金。
 少秋はすでに、借金を返済。

    2-2 守敬:他人のパスポート、健康保険証、運転免許証を手に入れる
 月(ユエ)を追う日本人マスコミの男がカバンを忘れる。守敬がそのカバンを拾う。その中にパスポート、健康保険証、運転免許証、携帯電話がある。名義は月光出版社員、久保友則。ノートやメモリースティックもあったが、それらは捨てる。
 仕事先のトモさんに頼んで、10万円で免許証の写真の貼り替えをする。
 サラ金で、なりすましで、限度額いっぱい50万円×4社=200万円くらい借りてしまおうと、守敬が計画。
 
    3 エステラ:「失踪人の若い男はもう亡くなっているかもしれない」
 両神村の身元不明遺体事件で、エステラは「最初から殺意があった」と透視。
 『解決!超能力捜査班』の失踪人探しについて、エステラは「失踪人の若い男はもう亡くなっているかもしれない」と告げる。

    4 守敬、「なりすまし」で借りる:サラ金から合計280万円
 守敬は、サラ金6軒から合計280万円を「なりすまし」によって借りる。手伝ってくれたトモさんに30万円を渡す。
 守敬が、稼いだ20万円とともに270万円を地下銀行を通して、老人会館に送金。正剛が「何をしでかした?」と

    4-2 月(ユエ):守敬を探し、少秋の所に来る
 月(ユエ)が守敬を探して、少秋の所に来る。「今日は見せにいない」と少秋が言うと、月(ユエ)が少秋の左耳をむしりとる。

   第4章 彼女がキレる理由
 テレビを見ている男(=岩本邦彦)は、児童施設で幼児期から10代を過ごした自分が、今、身重の妻と暮らし幸せと思う。

    1 市原稔・祥子夫妻:生き別れた兄、久保友則を探してほしい
 『解決!超能力捜査班』の失踪人探しのコーナーで、市原稔・祥子夫妻が生き別れた兄、名前は久保友則、28歳、無職を探してほしいと登場。
 市原夫妻に会ったエステラが、プロデューサーの織江に、「何か説明をせずに隠している」と抗議する。

    2 俺=林守敬:月(ユエ)から逃げるがつかまりそうになる&少秋は惨殺される
 俺=林守敬は月(ユエ)から逃げる。久保友則として生きると決める。
 少秋からの電話で、少秋の家に、俺が行く。月(ユエ)がそこに居て、少秋はすでに惨殺されていた。

    2-2 久保友則:月(ユエ)に殺され、月(ユエ)が久保友則のカバンを奪う
 俺が見つけた月光出版の久保友則のかばんは、月(ユエ)が久保友則から奪ったものだった。
 月(ユエ)を追っていたマスコミの男は久保友則であり、彼は月(ユエ)に殺され、月(ユエ)が久保友則のカバンを奪った。
 月(ユエ)は「取材データが入った久保のメモリースティックはどこだ」と、俺=林守敬にたずねる。
 俺は、それを捨てた。俺は殺されると思い逃げる。

    3 エステラの「犯人がここに来る」との透視は放送できない:織江
 プロデューサーの織江は、エステラの「犯人がここに来る」との透視は、裏が取れない限り放送できないと判断。
 織江は、女だからとなめられないようにする。だからいつもキレる。

    4 『失踪人、久保友則さん、28歳』
 月(ユエ)から逃げた俺=林守敬は、ラーメン屋で、テレビに『失踪人、久保友則さん、28歳』と映されたのを見て驚く。

   第5章 珍しく私がキレた理由
    1 白骨死体の復顔像こそ久保友則である:男(=岩本邦彦)
 テレビで『解決!超能力捜査班』を見ている男(=岩本邦彦)が、久保友則は児童擁護施設で1歳年下の阿部友則だと気付く。彼は養子に入り姓が久保になった。
 市原稔・祥子夫妻が探す久保友則の写真は、男が知る久保友則とは別人である。(それは林守敬の写真である。)
 白骨死体の復顔像こそ久保友則である。
 男(=岩本邦彦)はテレビ太陽に電話する。

    2 「久保友則」は偽名:林守敬がテレビ太陽にやってくる
 俺=林守敬は、保護を求めて久保友則を探しているというテレビ太陽に向かう。
 織江は、「久保友則本人が来た」と知らされる。ただし織江は、この「久保友則」が偽名でやってきたのが、林守敬だと知っている。

    2-2 市原祥子:守敬の妹の玉娟だった
 エステラが、瑞希に「市原祥子を、すぐに玄関前に連れて行くように」と言う。
 そこで市原祥子は、林守敬と会う。
 林守敬も、何と市原祥子が、妹の「玉娟!」と知る。
 彼女は強制送還されず、彼女に結婚を申し込んでいた男(=市原稔)と結婚した。

    2-3 刑事の一人:守敬に襲いかかった月(ユエ)を殺す
 その時、月(ユエ)が玄関で、林守敬を待ち伏せていた。襲いかかった月(ユエ)を、刑事の一人が殺す。
 エステラが、こんな危険な場面に行くように指示したと、瑞希はキレる。

    2-4 白骨死体:月光出版社員、久保友則で、月(ユエ)が殺した
 初台の廃ビルの白骨死体は月光出版社員、久保友則であり、月(ユエ)が殺した。

    3 守敬の写真と偽名「久保友則」:失踪人コーナーで織江がとりあげる
 強制送還されるはずの玉娟を、市原稔が身元引受人となって、引き取り結婚した。
 市原夫妻から、「玉娟の兄の守敬を探したい」とテレビ太陽プロデューサーの織江に相談があった。
 玉娟が持っていた守敬の写真と、「久保友則」という偽名を手がかりに『解決!超能力捜査班』の失踪人のコーナーで取り上げた。
 このことを織江は、エステラには伝えていない。
 
    3-2 守敬と玉娟の罰金と借金:市原稔が払う
 市原夫妻は、密入国の守敬を中国に帰し、罰金と借金は、稔が払うという。

   終章 何もかも嫌になった理由
 「守敬を救い、月(ユエ)を殺した刑事は、実は亡くなった少秋よ」とエステラが瑞希に言う。「瑞希は霊能力がある」とエステラ。
 超能力・霊能力を信じない瑞希は、「生きている者も死んだ者も区別がつかないのか」と思い何もかも嫌になる。
 エステラが、瑞希の小4の時の予知夢について言う。「あなたの夢が、犯人は長い髪の男と予知したので、女の子たちが、髪が長い犯人を警戒し、被害者が一人ですんだのよ」と。

 《評者の感想》
1 プロットが骨太でしっかりしている。謎解きに無理がない。
 白骨死体は、月光出版社員、久保友則。
 月(ユエ)は、自分についてのデータを集めていた久保友則を殺した。
 林守敬は、久保友則に成りすました。
 林守敬が、月(ユエ)に追われたのは、久保友則のデータを月(ユエ)が取り戻そうとしたため。
 玉娟は入管につかまるが、強制送還されなかった。
 玉娟に結婚を申し込んだ市原稔は本気だった。玉娟は、日本国籍を得て市原祥子となる。
 林守敬は、保護を求めて、「久保友則を探している」というテレビ太陽に向かう。
 これらの設定に、無理はない。

2 「瑞希は霊能力がある」とエステラが言うところが、最後のクライマックス。
 瑞希は、死者が、つまり少秋が、月(ユエ)を殺すのを視る。
 怪奇な結末。
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