コーヒーの沸くあいだに、ニックは杏の小さな缶詰を開けた。彼は缶詰を開けるのが好きだった。ブリキのコップに、シロップごと、中身をすべて開けた。火の上のコーヒーを見守りながら、彼は杏のシロップを飲んだ。最初はこぼさぬように注意深くシロップをすすり、そのあとは黙想にふけりながら杏を口に入れたのだ。杏は、生のものよりも味が良かった。
アーネスト・ヘミングウェイ『二つのこころのある川』訳/はやと
この『缶詰のある風景』シリーズでありますが、どうもこの、ヘミングウェイからの出典が多いようであります。
それは筆者がヘミングウェイを好きだからでもあるし、またキャンピングで缶詰を開けるシーンがよく登場するからでもあります。
さて、このシーン。
我が缶詰さんが、実にいい脇役を演じているとは思いませんか。
夜のしじまに、焚き火のかたわらで開ける缶詰は、意外にもこんなシラップ漬けのフルーツ缶が合うんです。
晩秋の書斎で、孤影悄然とサンマ缶をつつくのも捨てがたい魅力だけれど、何といっても缶詰さんの活躍する場所はキャンプなんであります。
丸太や草の上にポンと置かれたその姿からは、缶詰たちの喜びの声が聞こえてくるようです。
なーんて書いておいて、本日も室内なんであります。
ニックのようにわくわくしながら開けてみると、なんとも愛らしい杏ちゃんがずらりとこっちを見上げております。
こやつを、ぽちゃりぽちゃりと牛乳に投入。
あっ、牛乳があとのほうが良かったですな。
ついでにヨーグルトも投入。
中身が少なくなって、汁が多くなったところを使うとモアベターであります。
そしてマシーンで高速かき混ぜの儀。
最近、我が家にはこのフードプロセッサーみたいのが登場したんであります。
いろんなことが短時間にできて、ともかく便利。
かくのごとし。
屋内で杏缶を食べても芸がないので、スムージーというやつを作成したんであります。
おそらく、ニックの時代にはこんなものはなかったでありましょう。
では、失敬して一口。
やっ。意外と甘みが感じられない。
シラップを追加してから再び高速かき混ぜの儀。今度はうまくいきました。
杏のかほりと、ヘビーシラップの甘み。そこにヨーグルトの酸味と牛乳のコクが加わって、なかなか美味い飲み物であります。
あらためて、缶詰から杏を拾い上げて口中へ。
ニックのいう「生のものよりも味が良かった」という表現は、少し分かるような気もする。
しかし、やはりこいつはキャンプで食べた方が美味いようであります。次回はぜひとも、風に吹かれながらシラップをすするんであります。
固形量:240g
内容総量:420g
原材料名:あんず、砂糖、塩化カルシウム
原産国:南アフリカ(S&W)