2016年最後の缶詰として、イギリスの珍缶をご紹介したい。肉のパイの缶詰である。
缶蓋に「ステーキ&キドニー」と書いてるから、肉とキドニー(腎臓)が具に入っているようだ。
ほかの箇所にも「ビーフとポーク・キドニーがグレイビーソースに入ってます」的な表記がある。
僕はこれをロンドンのスーパーで買った。今年の夏、取材とイベントで渡英したときのことである。
パイの缶詰が珍しいのと、缶が大きかったことに一目惚れして、迷わずカートに入れてしまった。
一体どれくらいの大きさかというと...。
このくらいである。
手前のいわし蒲焼缶と比較すると、その大きさがよく判ると思う。
上蓋の直径が15.5cm。厚みは3.5cmもあるのだ。
大きい缶詰というのは、訳もなく人を缶動させる。
缶動させるだけでなく、買わせてしまうパワーも持っている。
お値段は1ポンド50セント。日本円にして215円。
缶動の大きさのわりには安価なのがやや、気になった。
ともあれ、買い物の後に行なったイベントで、これをお客さんに見せて
「こんなの買ったんだけど、中身はどんなの?」
と訊いてみたら、一人のおじさんがこう言ったのだ。
「それはオーブンに入れて焼いてから食べるんだよ」
な、何ですと?!
そのおじさんは酔っぱらっていたので(イベントで酒も提供した)、その時はきっとジョークを言っているのだと思った。
日本では、缶ごとオーブン焼きさせるような缶詰はない。
なぜなら、缶は調理器具ではなく保存容器であるからして、直火に掛けたら
「どうなるか保証しませんよ」
と、日本の製缶会社は言っているのだ。
ところが、この缶詰の裏側には(上の画像)
「フタを取ったら230℃に余熱したオーブンで25分〜30分くらい焼いてくれろ」
的なことが書いてある。
あの酔っぱらいおじさんの言っていたことは本当だったのであります。
じゃあ中はどうなっているのか。
こうなってました。半生っぽいパイ生地がたっぷり入ってます。
フタを開けた瞬缶、ちょっと甘いパイの匂いとグレイビーソースの匂いが広がった。
とてもいい匂いである。
我が家のオーブンはあまり信用できない奴なので、魚焼きグリルで焼くことにした。
イギリスのオーブン文化も素晴らしいが、日本の魚焼きグリルだって優秀なのである。
温度を設定することは出来ないが、うまく使えばサラマンダー(上火オーブン)と同じような料理が可能なのだ。
どうだマイッタカ!
ということで調理開始。
一番弱火にして、まずは9分間加熱してみる。
途中で好奇心に負けて引き出してみた。
半生っぽく見えたパイの表面が少しずつ焼け、焦げ目が出来はじめている。
いい缶じであります。
ただ、匂いが気になった。加熱前はしなかったモツ臭が漂い始めたのだ。
合計12分ほど焼いたところで出来上がりとした。
フチ部分が熱く焼けてふつふつとはぜている。見た目はものすごく美味しそうである。
しかしモツ臭は激しい。
かくのごとし。
周囲が缶内面に貼りつくことなく、すっと取れるのがいい。
缶底にはグレイビーソースがたっぷり入っていたが、それはゼラチン的なもので固まっているようで、ぷるぷるしている。
とにもかくにも、ひと口...。
むっ。
パイがさくさくで、その食感はちょっとした缶動である。
確かに焼いた効果があるわけだ。
しかし、中の肉&腎臓がけっこう臭い。
モツ好きの人でもやや眉をひそめるくらいの匂いである。
だが、開高健も言っていた。
「腎臓料理というのは、少しおしっこ臭いくらいじゃないといけない」
このパイの肉は、おしっこ臭くはない。
ないが、腎臓の鮮度、もしくは洗浄などの下拵えがイマイチだったのではないか。
しかしまあ、決して不味くはないのだ。
ということで、2016年の締めくくりはやや臭い肉のパイ&スコッチとした。
みなさま、どうぞ良い年をお迎え下さい。
内容量:425g
原材料名:水(欧米の缶詰は水も原材料に含めて表記する)、パイ生地27%、マーガリン、牛肉12%、豚の腎臓9%、安定剤(キサンタンガム)、加工したとうもろこしでん粉、小麦粉、塩、コショウ、スパイス、酵母エキス、香料、トマトペースト、大麦麦芽エキス、牛肉エキス、チコリエキス、砂糖、カラメル色素、トマト、にんにく、ひまわり油
原産国:イギリス