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「どーしたんだよ、悩みがあるならいえよ」
川崎が鼻毛を引き抜きながら訊いた。
「何でもないっス」
隼人が答える。コンポからはオフコースの『Yes No』が、切なく流れていた。
「俺達のほかに誰もいねえんだからや、いってみろ」
「いや、そのう...」
「ほれ」
川崎がショートピースを差し出した。二人で深々と一服する。
「予備校行くために東京に来たのに、バンド活動ばっかりやっていていいのかなって」
「そうか...」
東京は小金井市の、桜町荘。
男4人が共同生活しているアパートである。
居間にいるのは川崎と隼人の二人だけだった。夜の五日市街道を走るダンプの鈍重な響きが、部屋の中まで聞こえてくる。
「やっぱ大学は受けるんだろ」
「はい」
「造形? 武蔵美?」
「まだ分かんないっす」
「家庭教師のバイトはどうなの? 教え子は調子いいの?」
川崎は気を遣い、明るい口調で訊いた。
「はい。こないだのテストで成績上がってたから」
「そっか...」
実際はバンド活動などと言えるようなことはやっていなかったのだが。ただ単に、受験勉強をさぼっているだけなのだが。
青年というのは、時折、わざと悩んでみたりするのである。
「つうかれたあ~っと!」勢いよくドアが開き、優が帰ってきた。
「飯食いましたか何食いましたか」
「おめえは情緒もクソもねえやつだなあ!」川崎がいう。
「まだ食ってねえよ。腹ぺこだよ」
「今夜の炊事当番、誰でしたっけ?」
「犬丸。でもあいづ、先輩のとこに飲みに行ってんだよな。ったくよう」
「あっそうだ。昨日、家から食料送ってもらったんですよ」優が台所でごそごそと物音をたて、勝ち誇ったように宣言した。
「ほうら皆さん、なめ茸でっす!」
「おっし、そいつで飯食おう! 隼人、飯炊け。4合だぞ」川崎が朗らかにいった。
「やっぱ勉強が第一だよ。オレらに付き合って無理にここにいること、ないんだぜ」
「ナンですか誰がここにいるんですか」優がベンジャミンを撫で回しながら言った。
「うるっせえなおめえは。あっそうだ。ババロア買ってこいよ。おごってやるぜ!」
「やったあ! ババロアですね。プリンではないんですね」優が嬉しそうに確認した。
昭和59年、武蔵小金井にて つづく
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妙高なめ茸、信濃高原なめ茸
内容量:160g(120g)
原材料名:えのき茸、醤油、糖類(砂糖、ブドウ糖果糖液糖)、食塩、酵母エキス、調味料(アミノ酸等)、クエン酸、増粘多糖類、酸化防止剤(ビタミンC)・(原材料の一部に小麦を含む)
原産国:日本
信濃高原なめ茸のほうが、甘みが強いようである