HPVワクチンGSK「サーバリックス」の公費助成・定期接種は果たして適正か?

HPV(ヒトパピローマウイルス)ワクチンの公費助成等に関する質疑が21日参議院厚生労働委員会で行われました。現在日本で承認されているHPVワクチン「サーバリックス」のメーカーであるグラクソ・スミスクライン(GSK)の医薬情報担当者(MR)が「サーバリックス」を採用してもらう為に行う医療機関向けプレゼンを連想させるような場面もあり、質問に立った自民党議員の主張は、子宮頸ガン予防に関して国会の場で本来行われるべき内容としてはバランスを欠いたものでした。

 

サーバリックスは国内の臨床試験(20~25歳女性対照の二重盲験比較試験)では、HPV-16/18の持続感染の防止効果は100%。ハイリスク型HPV全体(16・18・31・33・35・39・45・51・52・56・58・59・66・68)での持続感染防止効果は50.6%。これらのハイリスク型HPVによる子宮頸部上皮内軽度異形成(CIN1)以上の病変の防止効果は64.9%ですが、CIN2以上の病変の防止効果は対象群が少なく統計学的有意差に達していません(厚労省HPVワクチン作業チーム報告書〈案〉2010/10/18)。かつ、CIN1=軽度異形成は、その大部分が自然消退します。

 

HPVに感染しても、子宮頸ガンになるのはHPV感染者のごく一部の人で、その確率は0.1~1%以下とも言われています。HPV感染から子宮頸ガン発症までには一般的には10年以上かかると言われていますが、サーバリックスは2007年5月に世界で初めてオーストラリアで承認され、日本では2009年10月に承認という臨床経験の浅いワクチンです。すなわち、ワクチン接種によって培われた免疫反応がどれくらい持続するのかはまだ研究途上、わかっていないのです(海外臨床試験では最長6.4年~試験継続中)。サーバリックスは半年間に3回接種することになっていますが、若年で接種したあと追加接種が必要か否かの検討はこれからです。

 

従って、サーバリックスは、接種時にHPV-16/18の感染が成立していない女性においてHPV-16/18の持続感染防止効果はあっても、「ワクチン接種集団で子宮頸ガンが減少するという効果は期待されるものの実際に達成された証拠はどこにもなく、慎重にモニタリングして子宮頸ガン罹患が減少するか否かを把握する必要がある(上記報告書〈案〉)」、そういうワクチンです。

 

HPVワクチン作業チームは上記報告書(案)の中で更に、この予防接種の目的を「社会における感染蔓延防止の効果は保証されていない。本ワクチンの接種目的は、子宮頸ガンによる死亡者や重症者の発生をできる限り減らすことであり、今後社会防衛に係る影響は知見を重ねる必要がある。」としています。であるならば、このワクチンは、公費助成・定期接種を推進する段階のワクチンではありません。海外では重大な副反応も報告されており、子宮頸ガンが性行為感染症であることからも、接種したい人は接種するという任意接種が適切で、日本の少女全員にHPVワクチン「サーバリックス」を強制するかのようなやり方は、国としてあり得ないことだと思います。

 

同作業チームは合わせて、子宮頸ガン検診の実施率が北欧・北米では70%以上であるのに対して我が国では20%程度に留まっていることを示し、「現時点では、罹患率・死亡率の減少効果が確認されている細胞診による子宮頸ガン検診を適正な体制で行うべきである。」と提言しています。従って国会の役割は、子宮頸ガン予防に関してはまず、「検診体制の強化」即ち希望する人もしない人も全員が費用あるいは心理的苦痛を伴うことなく定期的に検診を受けられるきめ細かな体制づくりのための議論を真剣に展開していくことだと思います。単にクーポン券を送付すれば解決するという問題ではありません。

 

HPV-16/18のGSK「サーバリックス」は2007年9月に日本で承認申請され2009年10月に承認されました。一方、HPV-6/11/16/18(4つの型。6/11は尖圭コンジローマ)のMSD「ガーダシル」は、2007年12月に日本で承認申請されましたが(申請時は万有製薬)、まだ承認されておらず、HPVワクチンの日本市場はGSKが現在独占しています。

 

質問に立った自民党議員は、子宮頸ガン撲滅の為にHPVワクチンを推奨しているわけですから、MSD「ガーダシル」の承認およびその副反応の問題についても質問しなければおかしいと思います。

 

同時に同じ理由で同議員は、武田薬品が進める国産初のHPVワクチン(神田HPVワクチン)の製品化の為の研究への助成強化を個別具体的に求めるのが筋ではなかったかと思います。このワクチンはハイリスクHPV15種すべてに有効である可能性があると見込まれており、製品化が実現すれば、日本人への意義はGSK「サーバリックス」の比ではないからです。本年7月、長妻厚生労働大臣(当時)もHPVワクチンについて「国産ワクチンの開発を進めたい」と述べています。

 

本委員会で岡本充功厚労政務官はサーバリックスの価格について、「限られた企業が製造販売している場合、価格競争は起こりにくい。価格交渉で値下げができるものではない」と答弁しました。厚労省は、MSD「ガーダシル」の承認が遅れている理由を明らかにするとともに、国産初のHPVワクチン「神田HPVワクチン」の製品化に向けて国としての役割を積極的に果たしていく姿勢を見せなければ理に適わないと思います。

 

自民党議員は、「あるべき子宮頸ガンワクチンの公費助成対策を検討する際、はずせないポイント」として、「国が全額負担すること・助成は恒久的措置とすること・ワクチン接種対象者を中学1年生とすること・数年間のキャッチアップを設けること・所得制限なし」の5点を強調しました。現段階では非常に極端な主張だと思います。GSK「サーバリックス」は、2007年にオーストラリアで承認され日本では昨年10月に承認されたばかりで、日本人への適性や抗体価の持続年月・副反応等は全く未知数の研究途上のワクチンです。本剤の添付文書にも「予防効果の持続期間は確立していない」と明記されています。費用対効果については、慶応義塾大学医学部産婦人科学教室が研究解析に取り組んでいることを同教室のHPで紹介しています。

 

自民党議員は、このようにHPVワクチンの公費助成を強く求めた上で、公費助成ワクチンの副反応救済制度にも言及しました。製薬メーカーであるGSKの責任には一切触れず、結果的にGSK「サーバリックス」サイド一辺倒の主張となっており、国会の委員会質疑としては非常にバランスを欠いたものであったと思います。

 

サーバリックスのインタビューフォーム(IF)には、「日本人子宮頸ガン患者ではHPV-16/18が約60%」とありますが、癌研有明病院は、臨床研究の結果として、日本人にとって真の危険型はHPV-16/33/52の3タイプだと報告しています。欧米人と日本人とでは子宮頸ガンになりやすいハイリスクHPVの型が異なる可能性は多くの専門家が指摘しており、山王メディカルプラザの論考、「神田HPVワクチン」発明者である神田忠仁氏の論考等、国会の場では、GSKが提供する以外の臨床データを基にした包括的な議論がなされなければならないと思います。

 

ワクチンギャップについては議論の余地はありますが、公費助成・定期接種の適否の判断の適正化を欠いた結果、ワクチン至上主義となっては本末転倒です。民主党政権は、子宮頸ガンの予防には適切な性教育と定期健診による早期発見・早期治療が最善の策であることを、またHPVワクチンの正確な有効性と副反応について、国民に積極的に情報提供していかなければならないと思います。

 

なおその為にも、細川厚生労働大臣は子宮頸ガンも含め広く一般の医療行政について、もっとしっかりと自ら答弁できるようにして頂きたいと思います。

(参考)

厚労省HPVワクチン作業チーム報告書〈案〉

子宮がんとは(癌研有明病院)

子宮頸がんとヒトパピローマウイルス(癌研有明病院)

 

「子宮頸がん予防ワクチン」への疑問:重大な副作用(はたともこブログ)


 

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