N響定期 「ルトスワフスキ:オーケストラのための協奏曲」他

NHK交響楽団 第1619回定期公演Aプログラム

ベートーヴェン ピアノ協奏曲第5番
パヌフニク カティンの墓碑銘
ルトスワフスキ オーケストラのための協奏曲

指揮 尾高忠明
ピアノ レオン・フライシャー
管弦楽 NHK交響楽団(コンサートマスター 篠崎史紀)

2008/5/11 15:00~ NHKホール2階



前半の「皇帝」はさて置くとしても、後半の2曲、パヌフニクとルトスワフスキは力演だったのではないでしょうか。尾高忠明の指揮によるN響定期を聴いてきました。

僅か10分にも満たないパヌフニク(1914-91)の「カティンの墓碑銘」は、冒頭の篠崎のソロも切ない響きも心に残る、実に叙情的な音楽です。ヴァイオリンソロに導かれるようにして木管群が静かに重なり合い、後に弦が感情を揺さぶるようなフレーズを奏でながら、一つの大きな音へと収斂して高らかに鳴り渡ります。この手の音を積み重ね、結果全体が一つになる音楽を聴くには、オーケストラを手堅くまとめることに定評のある尾高の指揮が適切です。各パートへ丁寧な指示を与え、特に木管のフレーズを巧みに浮き上がらせながら、端正なティンパニを下支えにして無理なく曲を進行させていきます。メインのルトスワフスキでも同様でしたが、弦、木管、金管などを秩序立って、言わば曲の構造の四隅をしっかりと揃えながら、いとも容易く音楽を整理する様子はなかなか見事です。安定感のある音楽とはまさにこのことを指すのではないでしょうか。聞き慣れない曲でしたが、全く違和感なく響きに耳を傾けることが出来ました。

ルトスワフスキはそのような安定感の上に、尾高の独特なリズムが奇妙にマッチしていた、やや個性的な演奏だったと思います。どちらかというと彼は弾けるようなリズムをとるよりも、むしろ腰の据えた、角も尖った硬いリズムで音楽を進めますが、このルトスワフスキでは時折登場する民族音楽風のモチーフに、何やら東欧というよりも日本の土着の民謡を連想させるような、極めて泥臭いリズムを与えていました。元々、協奏曲でありながら東欧の作曲家らしい民族的な要素の多いこの音楽に、さらに日本的な感性が加わるという、言わば東西の折衷を見るかのような興味深い表現であったと思います。また木管を始め比較的、好調なN響も、尾高の指揮に鋭く食いついていました。不満は殆ど残りません。

さて、あまりにも馴染みの深い名曲を、説得力のある演奏で聴かせるのはそもそも難しいことです。一曲目の皇帝は尾高の指揮を含め私には真面目過ぎ、また数十年にわたるブランクを経て復活を遂げたというエピソードを鑑みても、ソリストのフライシャーに感銘させられる部分が殆どありませんでした。教科書の解説文を読むような表情の硬いオーケストラに、何やら千鳥足のようにたどたどしいピアノはこの曲に全然似合いません。

Cプロのエルガーはまさに尾高の十八番です。そちらでも手堅く、また少しひねりのある音楽が楽しめるのではないでしょうか。
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