都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「絵師がいっぱい - お江戸の御用絵師と民間画工」 板橋区立美術館
板橋区立美術館(板橋区赤塚5-34-27)
「絵師がいっぱい - お江戸の御用絵師と民間画工」
4/5-5/18
来館者を楽しませようとする美術館側の仕掛けも見逃せません。館蔵の江戸絵画、全40点を紹介します。板橋区立美術館で開催中の「絵師がいっぱい」展へ行ってきました。
鑑賞者をもてなす美術館の取り組みについてはこちらの記事が完璧なので繰り返しませんが、かのプライス展を超えるお座敷コーナーの屏風露出展示の一つを挙げれば、その優れた内容が伺えるというものではないでしょうか。畳の上の座布団で胡座をかきながら、ガラスケースどころか停止線すらない剥き出しの屏風を目と鼻の先で楽しめる贅沢といったらなかなかありません。その他にも入場無料、全点写真撮影可、さらには作品をより親しみ易くするための現代風タイトル、またはキャプション等、見る側にとってはこの上なく有り難い仕掛けが満載です。思わず、ここが公立の美術館であるということを忘れてしまうほどでした。
撮影可ということで、今回はいつもと趣向を変え、全40点の江戸絵画(一部、明治時代)のうち「私的ベスト10」を挙げたいと思います。ちなみに「」内は美術館が正式タイトルの他に「現代タイトル」として付けた名前です。
10.遠坂文雍「このブドウ 君にあげるよ」(葡萄二栗鼠図)
つがいのリスが単に目を合わせているだけと思いきや、下のリスの両手には大きな葡萄がのっています。「君にあげるよ」とは本当にうまいタイトルですが、墨の濃淡やとぐろをまく蔓の様子を見ると、かの若冲の葡萄図を連想するものがありました。
9.狩野正信「ひょっこりと…」(蓮池蟹図)
得体の知れない巨大生物のように生々しい蓮の葉に、ちょこんと蟹が乗っている可愛らしい作品です。両腕を振り上げる様子がグローブをはめたボクサーのようにも見えました。
8.酒井抱一「カボチャ顔の市兵衛さん」(大文字屋市兵衛像)
本展覧会の呼び込み芸人です。(勝手に認定。)顔がカボチャに似ていたという市兵衛を、抱一が即興的なタッチでコミカルに描いています。軸の紋様もまた粋でした。
7.柴田是真「今月のおすすめ」(十二ヶ月短冊帖)
各月の年中行事を短冊に仕立て上げた作品です。それにしてもこの首の羽子板のようなものは一体何なのでしょうか。キャプションにもその由来は不明とありましたが、生首が連なるようでグロテスクに思えます。
6.酒井道一「黄金に映える桐と菊」(桐菊流水図屏風)
抱一門下道一の、其一テイストに包まれた鮮やかな金屏風です。中央の水流や桐の幹のたらし込み、それに菊の花や葉の靡く様は抱一の様式を思わせますが、ベタッと塗られた木の葉や、全体の造形美の優先した構図等は、其一のそれを見るような気がします。
5.藤田錦江「エサに向かって今からジャンプ」(花鳥図)
ごく普通の花鳥画にも見えますが、岩場や芙蓉の花などが驚くほど繊細な筆遣いで表現されています。また岩場を挟んだ上下の空間がどこかシュールです。ムクドリが鷲のように大きく描かれていました。
4.作者不詳「流行のダンス」(大小の舞図)
一見地味ですが、細やかな部分まで丁寧に表された衣装の描写、または扇子を振り上げて踊る人物の躍動感などが伝わる見事な作品です。ステップは軽快でした。
3.伝狩野探幽「風神&雷神」(風神雷神図屏風)
大胆に取られた余白に風と雨の気配を見る優れた作品です。紅白の風神雷神というのも面白く思えますが、特に風神の吹き出す大風によって吹き飛ばされそうな人々の姿が臨場感に溢れています。まるでこの世の終わりが来たかのような慌てぶりです。
2.狩野栄信「家路」(山水図屏風)
夏山と冬山が水辺を挟んで対峙しています。その広々とした水辺や大空に無限の空間の広がりを感じました。彼方にのぼる月は刹那的ですらあります。
1.川又常正「行かないで」(青楼遊客図)
現代風タイトルがこれまた面白い作品です。桜屏風を前にした遊女が、しきりに外の様子を気にする旦那へ寄り添う光景が描かれています。それにしてもこの遊女、ただ者ではありません。愛おしくすがっているようでもその目だけは鋭く光り、この男の度胸をしっかりと見定めています。それに対しての旦那は全くをもって間抜け顔です。こうした局面での女性のある種の鋭さと、すこぶる判断に弱い男の情けなさが痛いほどよく伝わってきました。
如何でしょうか。いわゆる大家は決して多くありませんが、それでもなかなか見応えのある作品が揃っていました。
ちなみに関連イベントの「日本美術講演会」も進行中です。既にその殆どを終えてしまいましたが、今月17日に開催される佐藤康宏氏の「18世紀の京都画壇」は出来れば聞いて来たいと思います。
展覧会は18日までの開催です。おすすめします。
「絵師がいっぱい - お江戸の御用絵師と民間画工」
4/5-5/18
来館者を楽しませようとする美術館側の仕掛けも見逃せません。館蔵の江戸絵画、全40点を紹介します。板橋区立美術館で開催中の「絵師がいっぱい」展へ行ってきました。
鑑賞者をもてなす美術館の取り組みについてはこちらの記事が完璧なので繰り返しませんが、かのプライス展を超えるお座敷コーナーの屏風露出展示の一つを挙げれば、その優れた内容が伺えるというものではないでしょうか。畳の上の座布団で胡座をかきながら、ガラスケースどころか停止線すらない剥き出しの屏風を目と鼻の先で楽しめる贅沢といったらなかなかありません。その他にも入場無料、全点写真撮影可、さらには作品をより親しみ易くするための現代風タイトル、またはキャプション等、見る側にとってはこの上なく有り難い仕掛けが満載です。思わず、ここが公立の美術館であるということを忘れてしまうほどでした。
撮影可ということで、今回はいつもと趣向を変え、全40点の江戸絵画(一部、明治時代)のうち「私的ベスト10」を挙げたいと思います。ちなみに「」内は美術館が正式タイトルの他に「現代タイトル」として付けた名前です。
10.遠坂文雍「このブドウ 君にあげるよ」(葡萄二栗鼠図)
つがいのリスが単に目を合わせているだけと思いきや、下のリスの両手には大きな葡萄がのっています。「君にあげるよ」とは本当にうまいタイトルですが、墨の濃淡やとぐろをまく蔓の様子を見ると、かの若冲の葡萄図を連想するものがありました。
9.狩野正信「ひょっこりと…」(蓮池蟹図)
得体の知れない巨大生物のように生々しい蓮の葉に、ちょこんと蟹が乗っている可愛らしい作品です。両腕を振り上げる様子がグローブをはめたボクサーのようにも見えました。
8.酒井抱一「カボチャ顔の市兵衛さん」(大文字屋市兵衛像)
本展覧会の呼び込み芸人です。(勝手に認定。)顔がカボチャに似ていたという市兵衛を、抱一が即興的なタッチでコミカルに描いています。軸の紋様もまた粋でした。
7.柴田是真「今月のおすすめ」(十二ヶ月短冊帖)
各月の年中行事を短冊に仕立て上げた作品です。それにしてもこの首の羽子板のようなものは一体何なのでしょうか。キャプションにもその由来は不明とありましたが、生首が連なるようでグロテスクに思えます。
6.酒井道一「黄金に映える桐と菊」(桐菊流水図屏風)
抱一門下道一の、其一テイストに包まれた鮮やかな金屏風です。中央の水流や桐の幹のたらし込み、それに菊の花や葉の靡く様は抱一の様式を思わせますが、ベタッと塗られた木の葉や、全体の造形美の優先した構図等は、其一のそれを見るような気がします。
5.藤田錦江「エサに向かって今からジャンプ」(花鳥図)
ごく普通の花鳥画にも見えますが、岩場や芙蓉の花などが驚くほど繊細な筆遣いで表現されています。また岩場を挟んだ上下の空間がどこかシュールです。ムクドリが鷲のように大きく描かれていました。
4.作者不詳「流行のダンス」(大小の舞図)
一見地味ですが、細やかな部分まで丁寧に表された衣装の描写、または扇子を振り上げて踊る人物の躍動感などが伝わる見事な作品です。ステップは軽快でした。
3.伝狩野探幽「風神&雷神」(風神雷神図屏風)
大胆に取られた余白に風と雨の気配を見る優れた作品です。紅白の風神雷神というのも面白く思えますが、特に風神の吹き出す大風によって吹き飛ばされそうな人々の姿が臨場感に溢れています。まるでこの世の終わりが来たかのような慌てぶりです。
2.狩野栄信「家路」(山水図屏風)
夏山と冬山が水辺を挟んで対峙しています。その広々とした水辺や大空に無限の空間の広がりを感じました。彼方にのぼる月は刹那的ですらあります。
1.川又常正「行かないで」(青楼遊客図)
現代風タイトルがこれまた面白い作品です。桜屏風を前にした遊女が、しきりに外の様子を気にする旦那へ寄り添う光景が描かれています。それにしてもこの遊女、ただ者ではありません。愛おしくすがっているようでもその目だけは鋭く光り、この男の度胸をしっかりと見定めています。それに対しての旦那は全くをもって間抜け顔です。こうした局面での女性のある種の鋭さと、すこぶる判断に弱い男の情けなさが痛いほどよく伝わってきました。
如何でしょうか。いわゆる大家は決して多くありませんが、それでもなかなか見応えのある作品が揃っていました。
ちなみに関連イベントの「日本美術講演会」も進行中です。既にその殆どを終えてしまいましたが、今月17日に開催される佐藤康宏氏の「18世紀の京都画壇」は出来れば聞いて来たいと思います。
展覧会は18日までの開催です。おすすめします。
コメント ( 6 ) | Trackback ( 0 )
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>いわゆる大家は決して多くありませんが
そうなんですよね。
派手さはない代わりに他ではまねできない
数々の工夫がこらされていますよね。
気分よく拝見できる展覧会です。
>他ではまねできない数々の工夫
板橋はこれがあるからたまりませんよね。
西高島平からの寂しいアプローチも、あの工夫が見られると思うからこそ行けるものです。
Takさんところでこの記事を見て「うう~~」と悩んだ果てに、いきなり出かけた私です。
それにしても(撮影で)共通して「これイイ!」と思う絵と、好みで選んだ絵との違いが、なんだか面白いです。
微妙なアングルも違いますし、楽しいですね。
9位のカエル、仮面ライダーに似てるな、と秘かに思いました。(仮面ライダーはバッタですが)
>(撮影で)共通して「これイイ!」と思う絵と、好みで選んだ絵との違いが、なんだか面白い
趣向が出ますよね。
適当にベスト10を挙げてみましたが、皆さんのお好きな作品もそれぞれ違って面白かったです。
>仮面ライダー
確かに目の感じとかが…。可愛いですよね。
写真を見た限り、短冊の配置は順不同のようですが、おそらく三月の短冊だと思います。旧来のモチーフを180度異なる視点で描いているところが、明治前期に活躍した絵師らしいですね。外人の方が喜びそうです。
こんばんは。コメントありがとうございます。
>立雛の首ですよね
私も何とも驚きました。
>三月
なるほどそうでしたか。是真の機知が伺える作品ですよね。