都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「浮世絵の夜景」 太田記念美術館
太田記念美術館(渋谷区神宮前1-10-10)
「浮世絵の夜景」
2/1-2/26
どちらかというと夏向きの展示かもしれませんが、浮世絵における夜景の表現も趣き深いものがあります。江戸、及び明治の夜景を表した浮世絵、全70点にて構成された展覧会です。
チラシ表紙を飾るこの作品が展覧会の目玉かもしれません。お馴染みの畳敷きの肉筆コーナーで一際異彩を放っていたのは、葛飾応為の「吉原格子先の図」でした。江戸博の北斎展における、エキゾチックで西洋画風の浮世絵も記憶に新しいところですが、この応為作を見るとそれらの作品を思い起こします。明暗の大胆なコントラストに、格子をのぞき込むシルエット状の人々、そしてその置物のような形状、さらには鳥瞰的な遠近法などに、西洋画の影響を見ることが出来るのではないでしょうか。実際のところ、かの里帰り作とどう関係しているのかは不明ですが、一風変わった感覚が魅力的に感じられました。
例えば夜桜、花火、月見など、夜に情緒を見出す日本人の感性を楽しめるのも嬉しいところです。夜桜では、シルエットになった木と粉雪のように散る花びらが対比的な広重の「隅田堤闇夜の桜」、また月見では、三枚合わせの大判の画面に、茶屋の二階でどこか退廃の風を漂わせながら月を見やる清長の「大川端楼上の月見」などに惹かれました。また『昼夜比べ』と題して、同じ場所を昼と夜に描き分けた、小林清親の「茶の水雪」と「御茶水蛍」も見応えがあります。中央線開通前の鬱蒼とした木立の覆うお茶の水を、一点は昼景の冬景色にて、またもう一点は闇よりぽっと浮かび上がる蛍の明かりにて叙情的に表していました。ちなみに今回の展覧会では、この小林ら、主に明治期以降に活躍した絵師の浮世絵も数多く展示されています。江戸と東京の夜景を見比べて見るのもまた一興です。
最後にはお待ちかねの巴水が登場していました。『巴水ブルー』も目に染みるお馴染みの夕景も出ていましたが、その中ではやや異質な「潮来の夕暮」が印象的です。上から順に、月、高木、小舟、またその影、そして手前の潮来の水面と、巴水の得意とする縦のラインが見事に示されていました。
館内にはかなり余裕がありました。今月26日までの開催です。
「浮世絵の夜景」
2/1-2/26
どちらかというと夏向きの展示かもしれませんが、浮世絵における夜景の表現も趣き深いものがあります。江戸、及び明治の夜景を表した浮世絵、全70点にて構成された展覧会です。
チラシ表紙を飾るこの作品が展覧会の目玉かもしれません。お馴染みの畳敷きの肉筆コーナーで一際異彩を放っていたのは、葛飾応為の「吉原格子先の図」でした。江戸博の北斎展における、エキゾチックで西洋画風の浮世絵も記憶に新しいところですが、この応為作を見るとそれらの作品を思い起こします。明暗の大胆なコントラストに、格子をのぞき込むシルエット状の人々、そしてその置物のような形状、さらには鳥瞰的な遠近法などに、西洋画の影響を見ることが出来るのではないでしょうか。実際のところ、かの里帰り作とどう関係しているのかは不明ですが、一風変わった感覚が魅力的に感じられました。
例えば夜桜、花火、月見など、夜に情緒を見出す日本人の感性を楽しめるのも嬉しいところです。夜桜では、シルエットになった木と粉雪のように散る花びらが対比的な広重の「隅田堤闇夜の桜」、また月見では、三枚合わせの大判の画面に、茶屋の二階でどこか退廃の風を漂わせながら月を見やる清長の「大川端楼上の月見」などに惹かれました。また『昼夜比べ』と題して、同じ場所を昼と夜に描き分けた、小林清親の「茶の水雪」と「御茶水蛍」も見応えがあります。中央線開通前の鬱蒼とした木立の覆うお茶の水を、一点は昼景の冬景色にて、またもう一点は闇よりぽっと浮かび上がる蛍の明かりにて叙情的に表していました。ちなみに今回の展覧会では、この小林ら、主に明治期以降に活躍した絵師の浮世絵も数多く展示されています。江戸と東京の夜景を見比べて見るのもまた一興です。
最後にはお待ちかねの巴水が登場していました。『巴水ブルー』も目に染みるお馴染みの夕景も出ていましたが、その中ではやや異質な「潮来の夕暮」が印象的です。上から順に、月、高木、小舟、またその影、そして手前の潮来の水面と、巴水の得意とする縦のラインが見事に示されていました。
館内にはかなり余裕がありました。今月26日までの開催です。
コメント ( 8 ) | Trackback ( 0 )
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大好きなんですが、清親の2枚の絵は
今の光景からは想像もできないほどの闇を
感じさせられましたね。
>今の光景からは想像もできないほどの闇を
感じさせられましたね。
同感です。今でもあの鬱蒼とした雰囲気はあまり他にない良さがありますが、当時のあの闇には驚かされますね。本当に真っ暗です…。
お茶の水橋より見る聖橋は私も大好きです。周囲はビルばかりですが、ニコライ堂とセットで趣のある空間が出来ているなと感心します。
ただ、応為の絵のように、明るくて実は暗い廓といった心理的な明暗まで描きこまれているものは「夜景」というより「実景」なのでしょう。
江戸と明治の差異は興味深いですね。今回が小林清親のモダンさに惹かれました。
>応為の絵のように、明るくて実は暗い廓といった心理的な明暗まで描きこまれているものは「夜景」というより「実景」
仰る通りですね。これまで応為はあまり注意したことがありませんでしたが、先日の北斎展といい、このところ自分の中で赤丸急上昇中の作家です。吉原図も都市の闇を巧みに表していました。
かなり客観的な視点で描かれて折り、遊廓・花魁を風景として捉えているのが彼女らしいですね
江戸の夜遊びや昼夜の比較などなかなか興味深い展示でした。
巴水の静けさは他に無い気がします。
少しノスタルジックで、大磯の版画では中原中也を思い出しました
あの遊郭の表現は、実際のかの場の明暗を象徴的に描いているのかもしれません。外から俯瞰して見ているような構図感が、逆に何かその賑わいの儚さをも演出しているように思えました。
>少しノスタルジックで、大磯の版画では中原中也を思い出しました
ノスタルジック、まさに仰る通りかと思います。
巴水から中也へイメージが移りましたか。素敵な組み合わせですね。
応為の絵、皆さんのブログでちらほら見て、それにひかれてふらふらと太田詣でをしてきた、という感じでした。
実物をみて、ほんとおっしゃる通り、年末年始の江戸博の北斎展が思い出されてびっくりでした!
個人的に追いかけたい画家がまた一人増えたという感じですが、まずは本などさがしてみたいなと思っているところです。
応為の絵はなんともエキゾチックでしたね。ビックリしました。そして江戸博で見た北斎とどう関係があるのかなと…。気になって仕方ありません。
>まずは本などさがしてみたいなと思っているところです。
本となると難しいかもしれませんが、とらさん(Art & Bell by Tora)の記事は大変に勉強になりました。これから研究が進んでいくと良いですよね。