「《米谷健+ジュリア展》 だから私は救われたい」 角川武蔵野ミュージアム

角川武蔵野ミュージアムエディット アンド アートギャラリー
「《米谷健+ジュリア展》 だから私は救われたい」
2020/11/6~2021/3/7



角川武蔵野ミュージアムエディット アンド アートギャラリーで開催中の「《米谷健+ジュリア展》 だから私は救われたい」を見てきました。

日本とオーストラリアのアートユニットで夫婦でもある米谷健とジュリアは、社会や環境問題を主題とする作品を制作し、主に海外の芸術祭や展覧会にて活動してきました。

その米谷健+ジュリアによる日本初の大規模な個展が「だから私は救われたい」で、会場では国内初公開の「最後の晩餐」などを含む数点の大型インスタレーションが展示されていました。


「最後の晩餐」 2014年

白く眩しいまでの煌めきに思わず息をのんでしまうかもしれません。一際目立っていたのが「最後の晩餐」で、長いテーブルに燭台やグラス、果実や牡蠣などの食材をモチーフとした白いオブジェが並んでいました。はじめは石膏で作られているのかと思いきや、素材は驚くべきことに塩でした。


「最後の晩餐」 2014年

米谷はオーストラリア東南部のマレー・ダーリング盆地における塩害に着目し、被害を止めるために地下から汲み上げた水を精製した塩を用いて作品を制作しました。同地域は国の最大の食糧生産地であるものの、大規模農業の過度の灌漑によって塩害が進行している上に、高温小雨が続いているため持続的な農業が困難になっているそうです。そのために毎年55万トンもの塩水を汲み上げ、塩分濃度の高い地下水の増加を止めようとしています。


「最後の晩餐」 2014年

また「最後の晩餐」は多くの絵画に表された聖書の一場面として知られていて、例えばレオナルド・ダ・ヴィンチの作品には、裏切り者とされるユダが塩のカップをひっくり返す光景が描かれています。人間が生きるために必要な塩は神聖であるとともに、環境を破壊する力を持つと捉えた米谷は、農業や食の安全性への疑念など踏まえて「最後の晩餐」として表現しました。


「クリスタルパレス:万原子力発電国産業製作品大博覧会」 2012年〜

「クリスタルパレス:万原子力発電国産業製作品大博覧会」も外観からは思いもよらぬ意味を持ちえた作品でした。ここでは大小6つのウランガラスを用いたシャンデリアが宙につられていて、ブラックライトの照射により緑色の美しい光を放っていました。


「クリスタルパレス:万原子力発電国産業製作品大博覧会」 2012年〜

あたかもゴージャスな夜のパーティーへと誘われたような雰囲気を醸していましたが、シャンデリアにはカナダや中国、それにベルギーといった国名が記されていました。一体、何を意味していたのでしょうか。


「クリスタルパレス:万原子力発電国産業製作品大博覧会」 2012年〜

これは2011年の福島第一原発事故を契機に作られた作品で、シャンデリアの大きさに世界の原発保有国32カ国の電力の総出力規模を反映させていました。(そのうちの6点を展示。)

タイトルは1851年の第一回万国博覧会会場の「クリスタルパレス」に由来していて、そこには世界各国が万博で競うのと同じように、今も原発を建てていることが暗示されていました。ウランガラスの妖しいまでの光は、いわば夢のエネルギーとされた原発の一側面を示しているのかもしれません。


「Dysbiotica」 2020年

2020年の最新作の「Dysbiotica」は、米谷は珊瑚の白化現象に注目し、人と動物、それに微生物の共生のあり方について考えた作品で、死んでいく珊瑚と人間を重ね合わせて表現しました。


「大蜘蛛伝説」 2018年

岡山と鳥取県の県境の峠に伝承する蜘蛛の物語をテーマとした、「大蜘蛛伝説」も目立っていたかもしれません。この峠には人を喰らう巨大な蜘蛛が棲んでいたため、藁人形で退治したという言い伝えが残されたことから、「人形峠」の名が付けられました。なお地域一帯では1950年代にウランの採掘が行われていて、本作でも「クリスタルパレス」と同じウランガラスが用いられました。

農業や気候変動、それに原発などから神話や伝承などを行き来した作品は、一見、美しく静謐ながらも、作家の様々な問題意識が強く反映されているのではないでしょうか。「美とユーモアと毒を併せ持つ作品」と解説にありましたが、美の奥底には現代社会へ不安や危うさが見え隠れしているように感じられました。


「本棚劇場」

チケットはWEBでの事前予約制です。「KCM スタンダードチケット」にて本展の他、本棚劇場、エディットタウン-ブックストリート、荒俣ワンダー秘宝館、武蔵野ギャラリーなども観覧することができます。


「角川武蔵野ミュージアム」。壁面に貼り付いているのは鴻池朋子の「武蔵野皮トンビ」。

2月1日より5日までは館内メンテナンスのために臨時休館します。


撮影も可能です。3月7日まで開催されています。

「《米谷健+ジュリア展》 だから私は救われたい」 角川武蔵野ミュージアム エディット アンド アートギャラリー(@Kadokawa_Museum
会期:2020年11月6日(金)~2021年3月7日(日)
休館:毎月第1・第3・第5火曜日(祝日の場合は開館・翌日閉館)。臨時休館日:2021年2月1日(月)~2月5日(金)
時間:10:00~18:00
 *金・土は20時まで開館。
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1200円、中学・高校生1000円、小学生800円、未就学児無料。
 *完全事前予約制。
 *本棚劇場、エディットタウン-ブックストリート、荒俣ワンダー秘宝館、武蔵野ギャラリーなども観覧可。
場所:埼玉県所沢市東所沢和田3-31-3
交通:JR線東所沢駅から徒歩約10分。ところざわサクラタウン有料駐車場あり。
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