「バルテュス展」 東京都美術館

東京都美術館
「バルテュス展」 
4/19-6/22



東京都美術館で開催中の「バルテュス展」のプレスプレビューに参加してきました。

1908年にパリで生まれ、初期ルネサンスからフランス古典・写実主義などのヨーロッパ絵画をほぼ独学で参照しながら、いわゆる『少女』のように、時にはスキャンダラスな絵画も描いたバルテュスことバルタザール・クロソフスキー・ド・ローラ(1908~2001)。

日本では20年ぶりとなる回顧展です。出品は初期から晩年までの油画50点。さらに素描や資料をあわせると100点に及びます。他アトリエの再現などを加えてバルテュスの全体像を提示していました。

ご紹介が遅れに遅れてしまいました。作品の印象を交えながら展示の様子を追ってみましょう。


左:「聖木の礼拝(ピエロ・デッラ・フランチェスカの壁画連作〈聖十字架伝〉にもとづく」1926年 スイス、ルガーノ、ライオンズクラブ財団

まずは初期作です。バルテュス、ともすると「孤高」などとも言われがちですが、当然ながら何もが独学というわけでもありません。若い頃は過去の「巨匠」の作を模写している。例えば「聖木の礼拝」です。1926年にイタリアを初めて訪れたバルテュスは、ピエロ・デッラ・フランチェスカの壁画連作「聖十字架伝」を熱心に写しています。本作もそのうちの一枚であるわけです。

またボナールらのモンマルトルの画家との交流もあったとのこと。プッサン、ダヴィット、クールベにもシンパシーを感じていたそうです。後の展開にそうした画家のスタイルが必ずしも明確でない点に、むしろバルティスの面白さがあるのかもしれませんが、あくまでもヨーロッパ絵画の伝統を踏まえていることは、画業を追う上でのポイントだと言えそうです。


右:「鏡の中のアリス」1933年 パリ、ポンピドゥー・センター、国立美術館
左:「キャシーの化粧」1933年 パリ、ポンピドゥー・センター、国立美術館


早々に少女が登場します。「鏡の中のアリス」に「キャシーの化粧」です。ともに1934年のパリで行われた最初の個展への出品作。裸の少女が描かれている。アリスにおける露になった乳房に性器。左足を振り上げて椅子に置いています。何とも奔放な姿ではないでしょうか。

それでいて興味深いのは、いずれの女性もどこか硬直した、さも生気のない、まるで人形か置物のように描かれていることです。アリスの目は白目でもはや殆ど見えていない。そしてキャシーにおける三者の奇妙な距離感。上目遣いで彼方を見据え、バルテュス自身とされる男も全く関係ない方向を見ている。同じく空間でありながらも親密感はありません。


「夢見るテレーズ」1938年 ニューヨーク、メトロポリタン美術館

やはり目を引くのは「夢見るテレーズ」です。股間を見せんとばかりに足を立てて座る少女。目を瞑っているのでしょうか。見る者の存在を拒否するかのように横を向いている。また床にはバルテュスがこよなく愛し、自己を投影していたとも言われる猫がミルクを舐めています。

それにしても絵具の質感が際立ちます。スペインのバロック絵画としたら言い過ぎでしょうか。膝から足先へかけてのハイライト、緑のクッションに赤いスカートと靴、白のシャツと下着。色彩はいずれも深い。配色は計算高くまた理知的です。ともするとモデルの様態は性的と捉えうるかもしれませんが、絵画そのもののはまるで古い静物画のような雰囲気をたたえています。


中央:「美しい日々」1944-46年 ワシントン、ハーシュホーン博物館と彫刻の庭

私自身、好きかと言われると言葉に詰まりますが、率直なところバルテュスで興味深く思えたのは、こうした「夢見るテレーズ」に少し後の「美しい日々」など、おおむね1945年までの主に少女をモチーフとした作品でした。性と神秘。バルテュスの見たイコンのような少女。純然たる美の象徴でもあったのでしょうか。謎めいた魅力は確かに存在していました。


左:「樹のある大きな風景(シャシーの農家の中庭)」1960年 パリ、ポンピドゥー・センター、国立美術館

後半です。1953年にパリを離れ、ブルゴーニュ地方の城館へ移る。彼の地の風景を描きます。かの『少女』で見せたような挑戦的な作風は鳴りを潜め、どこか温和な暮らしを捉えたような風景なり人物画が目立つ。「シャシーの農家の中庭」はどうでしょうか。明るい野山の景色。前景には葉を落とした大きな木が描かれている。野山の色面の構成が幾何学的です。さも抽象画のような展開を見せています。

この時期のバルテュス、フレスコ画や漆喰のような画肌を追求していたそうです。写真ではまるで伝わりませんが、確かに初期作とは変化している。ざらりとした感触。少女に猫云々といったモチーフだけでなく、豊かな画肌の質感もバルテュス画の魅力かもしれません。

バルテュスの日本への関心は10代の頃に遡ります。彼はベルリンで日本の人形展を見たり、リルケを通して天心の茶に関する本を読んでいた。そして言うまでもなく決定的なのは節子夫人の登場でしょう。1961年、仏政府の命により日本に派遣されてきたバルテュスは、案内役の出田節子と結婚。後にスイスのロシニエールへ移り、晩年を過ごすようになります。


左:「朱色の机と日本の女」1967-76年 ブレント・R・ハリス・コレクション

「朱色の机と日本の女」のモデルは節子夫人です。見るからに日本を思わせる空間。屈曲した身体のフォルムは「彦根屏風」に登場する女性に似ているとの指摘もあるそうです。ただ実際の絵画制作においてどれほど日本美術を参照していたのか。その辺はまだ議論あるやもしれません。


「バルテュスの愛用品」展示室風景

なお展覧会は節子夫人の全面的なサポートによって実現しています。よって最後はバルテュスと節子さんの世界です。バルテュスの愛用品がお二人の写真とともに展示されていました。


「バルテュスのアトリエ」再現展示

さて6月7日(土)より三菱一号館美術館内の歴史資料室にて「バルテュス最後の写真ー密室の対話」展が始まります。

「バルテュス最後の写真ー密室の対話」@三菱一号館美術館歴史資料室 6月7日(土)~9月7日(日)

これはバルテュスが撮ったポラロイド写真を紹介するもの。最晩年に手を不自由にしたバルテュスは絵筆をカメラに持ち替え、デッサンの代わりにモデルを撮影したそうです。

日本でこれらの写真が展示されるのは初めてです。入場料は500円。都美館のバルテュス展の半券を提示すると100円引きになります。あわせて見ても良さそうです。


左:「窓、クール・ド・ロアン」1951年 フランス、トロワ近代美術館

バルテュス展の会期は既に残すこと一ヶ月弱。私もつい先だっての日曜日に改めて出かけてきました。さすがに盛況です。ただし特に行列などが出来るほどではありません。またゆっくり観覧されたい方は毎週金曜日の夜間開館(20時まで)も有用ではないでしょうか。

「ユリイカ2014年4月号/特集=バルテュス 20世紀最後の画家/青土社」

6月22日まで開催されています。

「バルテュス展」 東京都美術館@tobikan_jp
会期:4月19日(土)~6月22日(日)
時間:9:30~17:30(毎週金曜日は20時まで開館)*入館は閉館の30分前まで。
休館:月曜日。5月7日(水)。*但し4月28日(月)、5月5日(月・祝)は開館。
料金:一般1600(1300)円、大学生1300(1100)円、高校生800(600)円。65歳以上1000(800)円。中学生以下無料。
 *( )は20名以上の団体料金。
 *毎月第3水曜日はシルバーデーのため65歳以上は無料。
 *毎月第3土・翌日曜日は家族ふれあいの日のため、18歳未満の子を同伴する保護者(都内在住)は一般料金の半額。(要証明書)
住所:台東区上野公園8-36
交通:JR線上野駅公園口より徒歩7分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅7番出口より徒歩10分。京成線上野駅より徒歩10分。

注)写真は報道内覧会時に主催者の許可を得て撮影したものです。
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