「狩野一信の五百羅漢図展」 増上寺宝物展示室

増上寺宝物展示室
「狩野一信の五百羅漢図展」 
2015/10/7~2016/3/13



増上寺宝物展示室で開催中の「狩野一信の五百羅漢図展」を見てきました。

江戸幕末の絵師、狩野一信の描いた畢竟の大作「五百羅漢図」。まとめて公開されたのは今から3年前、江戸東京博物館で行われた「五百羅漢 狩野一信」でのことでした。

そもそも「五百羅漢図」は一信の没後、ここ増上寺へ献納された仏画です。当初は境内の羅漢堂に掛けられていたそうですが、お守をしていた妻の死とともに忘れ去られ、いつしか収蔵庫の奥底に眠る幻の作品と化していきました。

今年はちょうど一信の生誕200年です。相応しいタイミングということでしょう。「五百羅漢図」が境内の宝物展示室にて公開されています。


狩野一信「五百羅漢図 六道 畜生」(第30幅) *前期展示

作品は100幅のうちの21幅から61幅。前後期で半分ずつの展示です。そして現在は21~40幅。罪を犯した人間が死後に巡る「六道」の場面です。それにしても「五百羅漢図」は10年余もかけて描かれた作品。さすがに作風にはかなり幅もありますが、「六道」の表現はいずれも鮮烈です。緊張感が緩みません。一信ならではのエキセントリックな世界が展開しています。最も充実した作品群と言えるのではないでしょうか。


増上寺宝物展示室入口(本堂地下1階)

会場は本堂地下1階です。何やら真新しいスペースが広がっていますが、それもそのはず。宝物展示室が完成したのは今年の4月です。つい半年前にリノベーションしてオープンした展示施設でもあります。

展示室は約300平方メートル。ほぼ一室です。さほど広くはありません。そして中央には幅4メートル、奥行き6メートルにも及ぶ巨大な建築模型、「台徳院殿霊廟模型」が置かれています。


増上寺宝物展示室 *チラシ画像より。室内の撮影は出来ません。

なお模型は何も最近制作されたものではありません。作られたのは明治末期。主導したのは東京美術学校です。かの高村光雲らを監修に迎えたそうです。中門から拝殿、本殿と続く巨大な霊廟の建築群を10分の1のスケールで再現しています。黒漆塗に朱漆塗の色彩も美しい。欄間の彫刻から建具に至る細部までが精巧に作られています。

霊廟の原型である台徳院殿は江戸初期に建てられました。家光の命により造営され、長らく威容を誇っていましたが、終戦の年に太平洋戦争の戦災により焼失。残念ながら失われてしまいます。ようは当時の姿を殆ど唯一伝える模型でもあるわけです。

1910年にロンドンで行われた日英博覧会に出品されたそうです。その際にイギリス王室に贈呈され、長らくロイヤルコレクションとして保管されていましたが、この度、里帰りが実現。長期貸与という形にて増上寺で公開されることになりました。

また里帰りに際して修復も行われました。そのプロセスや模型に関する情報は奥の小部屋の映像で紹介されています。参考になりました。

さてメインの「五百羅漢図」は中央の霊廟を挟む形で左右に展開。右に21から30幅、左に31から40幅が並んでいます。写り込みの少ないガラスで展示環境も上々。そもそも各幅がぴたりと収まる高さのケースです。まさに「五百羅漢図」のために作られた空間ということでしょう。効果的な照明にて細部の細部までをじっくりと見ることが出来ます。

六道のうちでも特に凄まじいのが21から24幅の「地獄」の場面です。21幅は地獄の窯ゆで。鬼たちが待ってましたといわんばかりに人々を痛めつけようとしています。一方、上から杖を垂らす羅漢も何やらコミカル。にやりと笑みを浮かべています。本当に助けようとしているのでしょうか。もはや地獄の様子を楽しんでいるようにも見えます。


狩野一信「五百羅漢図 六道 地獄」(第22幅) *前期展示

22幅は大風が劇的です。龍の吐く火焔に炙られては手を差し伸べる人々。風を表す墨線は凄まじいまでの勢いがあります。23幅は有名な羅漢ビームです。下は氷の池地獄。今度はビームで火をおこしては温めようとしています。地獄の人々は血みどろ。ぐさりと斧で突き刺されては、真っ逆さまに落下している者もいます。何と凄惨な光景ではないでしょうか。


狩野一信「五百羅漢図 六道 修羅」(第31幅) *前期展示

以降、40幅まで「鬼趣」、「畜生」、「修羅」、「人」、「天」と続きます。「修羅」の群像表現も面白い。豪華な贈り物が羅漢に届く「人」の場面も生気に満ちています。細部にまで行き渡った緻密な表現も見どころです。次から次へと場面は変化しています。飽きさせません。

「五百羅漢図」のほかには逸見家伝来の一信に関する資料が展示されていました。逸見家とは一信が婿入りした妻の家のことです。一信には子どもがいなかったことから没後、弟子を養子として迎え入れます。その後も家系が続きました。

逸見家には一信の日記や画稿などがたくさん残されていたそうです。それを今回、増上寺へ寄贈。最近発見されたという「布袋唐子図」なども注目の作品と言えそうです。

ちょうど今週末からは森美術館で「村上隆の五百羅漢図展」がスタート。かの村上隆が一信の五百羅漢に着想を得た「五百羅漢図」を日本で初めて公開する話題の展覧会です。時を超えて邂逅する二つの「五百羅漢図」。芝公園と六本木を行き来すればともに楽しむことも出来ます。

「村上隆の五百羅漢図展」@森美術館 2015年10月31日(土)~2016年3月6日(日)

なお私が出かけた日はみなと区民まつりのため境内は大盛況。ステージや出店も立ち並んでは多くの人で賑わっていました。ただ宝物展示室は混雑とは無縁でした。おそらく展覧会会期中もゆっくり見られるのではないでしょうか。



なお先にも触れたように会期は完全2期制です。前後期で全ての五百羅漢図が入れ替わります。


狩野一信「五百羅漢図 十二頭蛇 露地常坐」(第50幅) *後期展示

前期:10月7日(水)~12月27日(日) 21幅~40幅
後期:2016年1月1日(金)~3月13日(日) 41幅~61幅

私も展示替えの年明け以降、また見に行きたいと思います。



閉館時間が夕方4時と早めです。ご注意下さい。2016年3月13日まで開催されています。

「生誕200年記念 狩野一信の五百羅漢図展」 増上寺宝物展示室
会期:2015年10月7日(水)~2016年3月13日(日)
 *前期:10/7~12/27、後期:2016/1/1~3/13
休館:火曜日。但し火曜日が祝日の場合は開館。
時間:10:00~16:00
料金:一般700円。
 *徳川将軍家墓所拝観共通券1000円。
場所:港区芝公園4-7-35
交通:JR線、東京モノレール浜松町駅から徒歩10分。都営三田線御成門駅、芝公園駅から徒歩3分。都営浅草線、大江戸線大門駅から徒歩5分。
コメント ( 4 ) | Trackback ( 0 )
« 「板倉鼎・須... 11月の展覧会... »
 
コメント
 
 
 
Unknown (Unknown)
2015-11-29 14:36:30
ブログの最後にある増上寺へのアクセス間違ってると思います。
日比谷線六本木駅からでは徒歩では遠すぎるし直結ではありません。六本木駅の駅員に聞いたところ乗り換えを勧められました。
都営三田線の芝公園と書くべきではないでしょうか。
森美術館へのアクセスと勘違いしてませんか?
 
 
 
Unknown (はろるど)
2015-11-29 14:39:44
@Unknownさま

ご指摘ありがとうございます。仰るように森美術館のアクセスを掲載しておりました。ご不便、ご面倒おかけして大変失礼致しました。直ちに訂正します。

申し訳ありませんでした。
 
 
 
Unknown (Unknown)
2016-01-31 22:26:56
展覧会の案内ありがとうございます。数年前にこれを見て、おどろき感動しました。ベトナムへきて3年になります。ホチミン市に永厳寺というお寺があり、そこには、この模写絵がいくつか掲げてあります。
 
 
 
Unknown (はろるど)
2016-02-02 21:41:07
@Unknownさま

コメントありがとうございます。
ホーチミンのお寺にも一信の模写絵がありましたか。
どのような経緯で渡ったのでしょうね。
情報ありがとうございます。
 
コメントを投稿する
ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません
 
名前
タイトル
URL
コメント
コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。