「イサム・ノグチ 彫刻から身体・庭へ」 東京オペラシティアートギャラリー

東京オペラシティアートギャラリー
「イサム・ノグチ 彫刻から身体・庭へ」 
7/14~9/24



東京オペラシティアートギャラリーで開催中の「イサム・ノグチ 彫刻から身体・庭へ」を見てきました。

1904年にアメリカで生まれたイサム・ノグチは、彫刻をはじめ、舞台美術、陶芸、家具、照明器具や、さらには作庭やランドスケープのデザインなど、幅広い領域で業績を残しました。

そのノグチに関する作品や資料が一堂に集まりました。また彫刻だけでなく、ドローイング、照明、陶芸のほか、図面や写真も交えていて、ニューヨークのイサム・ノグチ庭園美術館からもコレクションがやって来ました。

はじまりは「身体」でした。そもそもノグチの制作においては、身体性が1つのテーマとなっていて、初期から身体を意識した作品を作っていました。


「北京ドローイング(横たわる男)」 1930年 イサム・ノグチ庭園美術館

一例が、20代半ばに北京で描いた「北京ドローイング」で、毛筆と墨で身体のボリュームを即興的に捉えていました。いずれも筆の動きは素早く大胆であり、まるで人が手足を振り回し、運動しているかのようでした。一連の作品は、ノグチの芸術の出発点とされていて、8点が公開されるのは、国内で初めてでもあります。

1930年代の半ばに入ると、ノグチは舞台美術に携わるようになりました。中でも、モダンダンスの振付家であるマーサ・グレアムとのコラボレーションは、ノグチに身体と空間の関係を強く意識付けました。「鏡」は、マーサ・グレアムの「ヘロディアド」のために制作した舞台装置で、手を上げては、踊る女性の身体を表現しました。なお同作の舞台の様子は、映像で見ることも出来ました。

第二次世界大戦が終わると、ノグチは日本を訪れ、建築家の丹下健三や谷口吉郎、画家の猪熊弦一郎、また草月流の勅使河原蒼風、デザイナーの剣持勇、さらに北大路魯山人や岡本太郎らの芸術家と親交を深めながら、旺盛に制作を続けました。

ノグチが熱心に取り組んだのは陶の作品で、当時、移り住んだ北鎌倉の北大路魯山人のアトリエで制作しました。ノグチは一連の作陶を「陶器による彫刻」と捉えていて、日本の自然や伝統を踏まえた形を、現代的なフォルムに蘇らせました。中には、明らかに埴輪を思わせるようなモチーフもあり、古代への関心を伺うことも出来ました。

谷口吉郎とは慶應義塾大学の「萬來舎」の仕事で協働し、インテリア、工芸、彫刻、庭から成った総合的な造形空間を築きました。また結果的に不採択になったものの、丹下健三の依頼で、広島の原爆慰霊碑のデザインも手がけました。


「2mのあかり」 1985年 公益財団法人イサム・ノグチ日本財団

また岐阜の伝統的な提灯に着想を得て、「光の彫刻」と位置付けた「あかり」を制作し、生活空間と芸術のつながりを志向しました。実際に「あかり」は、おおよそ35年にわたり、200種類以上も生み出され、照明器具として一般に普及しました。


「スライド・マントラの模型」 1966〜1988年 イサム・ノグチ庭園美術館

日本の禅庭をはじめ、世界各地の石の遺跡にインスピレーションを受けたノグチは、大地を素材とする彫刻、つまり庭や公園、言わばランドスケープの設計を手がけるようになりました。ニューヨークの「チェイス・マンハッタン銀行プラザの沈床園」やパリの「ユネスコ本部の庭園」、それに亡くなる直前まで関わった札幌の「モエレ沼公園」が良く知られていて、ほかにも螺旋の滑り台こと「スライド・マントラ」などの、プレイスカルプチュアと呼ばれる遊戯彫刻も作りました。

ラストは後半生の制作で重要な石の彫刻でした。1964年、石材業の盛んな香川県の牟礼町で、石工の和泉正敏と出会ったノグチは、同地にアトリエを構え、石の彫刻を作りました。石はノグチにとり、単なる素材を超えた、「地球の悠久の歴史や自然の摂理を語る存在」(解説より)でもありました。そして、牟礼の仕事場は彫刻庭園に作りかえられ、「イサム・ノグチ庭園美術館」として広く公開されました。


「アーケイック」 1981年 香川県立ミュージアム

空間を切り裂くように直立するのが、「アーケイック」と題した石彫で、土の中に埋もれた塊を利用して作りました。ほぼ四角柱ながらも、上部へ向けて僅かに剃っていて、鋭い刀のようにも見えました。石の元来の形状の姿をかなり留めていていて、頭頂部と脚部には、泥かぶりと呼ばれる、埋もれたままの状態が残されていました。


「アーケイック」 1981年 香川県立ミュージアム

私にとってイサム・ノグチを初めて強く意識したのは、2005年に東京都現代美術館で開催された、「イサム・ノグチ展 -彫刻から空間デザインへ~その無限の想像力」でした。

高さ4メートル近くある「エナジー・ヴォイド」の存在感が圧倒的で、イサム・ノグチの彫刻の持つ力感、言い換えればエネルギーに打ちのめされたことを覚えています。それから屋外彫刻などを見る機会があったものの、不思議と回顧展に接することはありませんでした。


実に12年ぶりの回顧展です。スペースの都合上、現代美術館ほどのスケールには至りませんが、久しぶりにイサム・ノグチの作品を堪能することが出来ました。



一部の撮影が可能です。9月24日まで開催されています。

「イサム・ノグチ 彫刻から身体・庭へ」 東京オペラシティアートギャラリー
会期:7月14日(土)~9月24日(月)
休館:月曜日。
 *但し祝日の場合翌火曜日、8月5日(日)は全館休館日。
時間:11:00~19:00 
 *金・土は20時まで開館。
 *入場は閉館30分前まで。
料金:一般1400(1200)円、大・高生1000(800)円、中学生以下無料。
 *同時開催「収蔵品展063 うつろうかたち─寺田コレクションの抽象」、「project N 72 木村彩子」の入場料を含む。
 *( )内は15名以上の団体料金。
住所:新宿区西新宿3-20-2
交通:京王新線初台駅東口直結徒歩5分。
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