「大名茶人・松平不昧」 三井記念美術館

三井記念美術館
「没後200年 特別展 大名茶人・松平不昧-お殿さまの審美眼-」 
4/21~6/17



大名茶人として知られる松江藩7代藩主、松平不昧(治郷)は、今年、没後200年を迎えました。

それを期して開催されているのが、「大名茶人・松平不昧-お殿さまの審美眼-」展で、不昧の収集した茶道具と、関連する美術品を展示していました。

冒頭からしてお宝揃いでした。まず惹かれたのは、「油滴天目」で、斑紋の木目が小さく、繊細な表情を伺わせていて、黒い底部から青みを帯びた縁へのグラデーションも美しく見えました。現在は重要文化財に指定され、九州国立博物館に収蔵されています。


「奥高麗茶碗 銘 深山路」 桃山時代・16〜17世紀 展示期間:4月21日〜4月27日

さらに国宝の「大井戸茶碗 喜左衛門井戸」も目を引きました。高台の梅花皮が無骨であり、ざらしとした枇杷色には渋みが感じられるものの、やや反った口縁には動きも感じられました。所持した者に腫れ物を病むとする言い伝えを持つ茶碗で、不昧も患った際に、妻から手放すように勧められたとの逸話も残されているそうです。のちに大徳寺へ寄進されました。


「古今名物類聚」松平不昧編 江戸時代・18世紀 島根大学附属図書館

不昧は利休の茶に帰ることを唱え、禅学を修めながら、茶禅の茶の湯を極めました。その不昧の大きな功績とも言えるのが、名物茶器を分類した「古今名物類聚」の出版でした。全18冊にも及ぶ著書で、古くからの茶道具の名器を「宝物」、「大名物」、「中興名物」などに分け、図説とともにまとめ上げました。結果的に、現代に至るまでの茶器の評価の基準と化しました。

また不昧は、自らの800点を超える茶道具を、「雲州蔵帳」に記録しました。コレクションを体系付けて整理していたようで、その多くは今も貴重な文化財として残されています。



不昧の所持した書画にも魅惑的な作品がありました。例えば牧谿の「叭叭鳥図」、あるいは伝牧谿の「燕図」で、後者では蓮の花托にとまる小さな燕を、濃い墨を用いて描いていました。蓮や後方の葉は薄い墨で、そのほかには何もなく、大気のみが満たされていました。

また雪舟の「一円相」も目立っていて、禅における悟りや真理を示す図形の円を、一筆で描き切っていました。その筆は全くの迷いも見られず、泰然としていて、しばらく眺めていると、中心の円に引き込まれるかのようでした。


重要文化財「赤楽茶碗 銘無一物」長次郎作 桃山時代・16世紀 頴川美術館 展示期間:4月21日~5月20日

茶道具では、光悦の現存唯一の香合でもある「赤楽兎文香合」をはじめ、まるで胴が切り立つ崖のようにも見える光悦の「赤楽茶碗 加賀光悦」、また口縁が花のように開き、ややグレーを帯びた色味も美しい「堅手茶碗 銘 長崎」などに引かれました。さらに如庵に置かれた、長次郎の「赤楽茶碗 銘 無一物」の佇まいにも魅せられました。

56歳で隠居した不昧は、品川の大崎の下屋敷に移り住み、11棟の茶室を設けては、亡くなるまで茶の湯に没頭しました。その茶苑を写したのが、伝谷文晁による「雲州候大崎別業真景図巻」で、大崎を訪ねた定信が、文晁に命じて描かせたと言われていて、茶室の構成などを今に伝えています。当初は2巻あったものの、上部は焼失して、現在は下巻しか残っていません。

なお一連の茶苑は、江戸随一の名苑として知られていたものの、不昧の死後、1853年の黒船来襲の際に、幕府による海岸警護のため、没収されてしまいました。ちょうど現在の御殿山付近、品川区北品川五丁目一帯に当たるそうです。


「菊蒔絵大棗」原羊遊斎作 文化14(1817)年

後半は不昧が、自らがプロデュースして、蒔絵師などに作らせた、いわゆる「お好み道具」と呼ばれる作品が展示されていました。不昧は、抱一との合作としても知られる蒔絵師、原羊遊斎に親しく、多くの作品の制作を依頼しました。その中でも抱一下絵、原羊遊斎作による「瓢箪蒔絵弁当箱」などが、特に目を引くかもしれません。そもそも抱一の兄、宗雅は、不昧の茶の湯の筆頭弟子でもありました。また、木挽町家狩野派8代目の栄信も、同じく原羊遊斎に下絵を提供しました。


「瓢箪蒔絵弁当箱」酒井抱一下絵・原羊遊斎作 江戸時代・19世紀

松江藩の御用窯として創業し、のちに中断したものの、不昧が長岡住右衛門に再興させた楽山焼も、魅惑的ではないでしょうか。ともかく右に左に優品揃いで、素人目にも不昧に関する作品資料を、実に幅広く集めたものだと感心しました。


「不昧画像」 江戸時代・19世紀 月照寺

現在、畠山記念館でも松平不昧に関した展覧会を開催中です。

「没後200年 大名茶人 松平不昧と天下の名物-『雲州蔵帳』の世界」
会期:4月7日(土)~6月17日(日)
http://www.ebara.co.jp/csr/hatakeyama/exhi2018spring.html

使用済み半券の使用で、相互の展覧会が割引になるサービスも実施されています。あわせて見るのも良さそうです。


既に会期中の展示替えが行われ、後期に入りました。以降の入れ替えはありません。



6月17日まで開催されています。おすすめします。

「没後200年 特別展 大名茶人・松平不昧-お殿さまの審美眼-」 三井記念美術館
会期:4月21日(土)~6月17日(日)
休館:月曜日。
 *但し4月30日(月)は開館。
時間:10:00~17:00  
 *入館は閉館の30分前まで。 
料金:一般1300(1100)円、大学・高校生800(700)円、中学生以下無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
 *リピーター割引:会期中、一般券、学生券の半券を提示すると、2回目以降は団体料金を適用。
場所:中央区日本橋室町2-1-1 三井本館7階
交通:東京メトロ銀座線・半蔵門線三越前駅A7出口より徒歩1分。JR線新日本橋駅1番出口より徒歩5分。
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