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「名作誕生ーつながる日本美術」(前期展示) 東京国立博物館

東京国立博物館・平成館
「特別展 名作誕生ーつながる日本美術」(前期展示)
4/13~5/27



東京国立博物館・平成館で開催中の「特別展 名作誕生ーつながる日本美術」を見てきました。

日本美術史上の名作には、時に相互に引用し、写し、再構成し、変形するなど、多様な影響関係がありました。

そうした「つながり」に着目して作品を紹介するのが、「特別展 名作誕生ーつながる日本美術」で、全国各地の博物館や寺院などより、国宝と重要文化財含む約130件の文化財がやって来ました。(展示替えあり)


冒頭のテーマは「祈りをつなぐ」で、一木造に着目し、8世紀から10世紀へと至る、日本や中国の仏像を並べていました。そもそも古来、日本は、銅や漆の仏像を主流としていましたが、平安時代以降、木の仏像が作られるようになりました。その切っ掛けに鑑真の存在があり、ともに来日した工人が、仏像制作に適した石がなかったことから、木を使用したことに由来するとされています。

一例が、山口の神福寺に伝わる「十一面観音菩薩立像」で、白檀かサクラの広葉樹の一材を彫り出していました。その高い技巧から中国で制作されたと考えられ、日本でも参考にされました。

大阪の道明寺の「十一面観音菩薩立像」も、先の立像を典型とした作品で、頭上から台座の足元までを一木で作り上げていました。ほかにも衣文の比較などもあり、各々の仏像の関係を知ることが出来ました。


国宝「普賢菩薩騎象像」 平安時代・12世紀 東京・大倉集古館

普賢菩薩を、彫刻、絵画、そして経典から見比べる「祈る普賢」のテーマも、興味深いのではないでしょうか。展示室の中央に鎮座するのが、大倉集古館の「普賢菩薩騎象像」で、効果的な照明の効果もあってか、彩色や截金の表現も際立っていました。


国宝「普賢菩薩像」 平安時代・12世紀 東京国立博物館 *展示期間:4月13日(金)~5月6日(日)

その騎象像越しに見えるのが、東京国立博物館の所蔵で、戦後、絵画の国宝第1号に指定された「普賢菩薩像」でした。ともかく目を見張るのは、肉身の白をはじめとした色彩表現で、象の装身具などの模様も鮮やかでした。先の騎象像も、この菩薩像も、以前にも見た記憶がありますが、今回のように並んで鑑賞出来る機会はなかなかありません。相互の作品同士が作り上げた景色も、大きな見どころと言えそうです。


重要文化財「四季花鳥図屛風」 雪舟等楊筆 室町時代・15世紀 京都国立博物館 展示期間:4月13日(金)~5月6日(日)

3人の巨匠に着目した展示も見逃せません。その1人が画聖と称された雪舟で、先行した南宋の玉潤の画を参照したほか、「和」と「漢」をつなぐとして、「四季花鳥図屏風」などの花鳥画を展示していました。雪舟は、中国の明の画風を取り入れつつ、四季の光景といった和様をアレンジしては、花鳥画を作り上げました。

さらに雪舟や中国の呂紀の水墨山水に着想を得た、狩野元信の「四季花鳥図」も見応えがありました。樹木の構図などが、呂紀の「四季花鳥図」に似ていて、互いに比べることも出来ました。

続くのが琳派の宗達で、平治物語などの古典を参照し、いかに図様を転用していたのかについて検証していました。中でも面白いのが、「平治物語絵巻」と「扇面散屏風」の関係で、後者の作品の扇面のうち16面以上を、先の絵巻より援用していました。トリミングやコラージュとして捉えても、差し支えないかもしれません。

3巨匠のラストを飾るのが若冲で、「若冲と模倣」と題し、鶴や鶏の絵画を比較していました。はじめの鶴では、先行する中国の文正の「鳴鶴図」と若冲の「白鶴図」の構図が瓜二つで、まさしく模写をしたとされています。しかしながら細かに見ると、例えば文正よりも羽は線が密であったり、うねるような波濤など、若冲の独自性も伺うことが出来ました。さらに探幽の「波濤飛鶴図」も模写した作品で、波は原本よりも多く表していました。


重要文化財「仙人掌群鶏図襖」(部分) 伊藤若冲筆 江戸時代・18世紀 大阪・西福寺 

鶏では若冲作同士で比較し、若冲が水墨と着彩の作品、例えば「鶏図押絵貼屏風」と「仙人掌群鶏図襖」において、同様の鶏のモチーフを展開を見ることも出来ました。かつての東京都美術館の若冲展など、何かと人気の絵師だけに、個々の作品を見る機会は少なくありませんが、こうした「模倣」の観点から追うと、また新たに若冲の創作のあり方が浮かび上がってくるのかもしれません。

伊勢物語と源氏物語に関する作品を集めた、「古典文学につながる」の展示も充実していました。ここでもやはり作品同士が生み出す景色が美しく、特に尾形光琳の「八橋蒔絵螺鈿硯箱」越しに見る「伊勢物語図屏風」は、思わず息をのむほどでした。

あえて一つのハイライトをあげるとすれば、「山水をつなぐ」の松林の展示と言えるかもしれません。まず登場するのは、伝能阿弥による「三保松原図」で、広々とした海辺を中央にした松原の光景を、俯瞰した構図で描いていました。中国の水墨の技法や、西湖の作品に構図を引用したとも言われ、元は六曲一隻の屏風絵で、左には富士山があったともされています。松林の筆触は素早く、どこか茫洋として、まるで大気が満ちているかのようでした。

それに続くのが、長谷川等伯の「山水松林架橋図襖」で、元は大徳寺塔頭の三玄院の方丈を飾った雲母刷り桐模様の唐紙に、松林や水辺のある山水の光景を表していました。襖の左下の松林は、かの「松林図屏風」へつながるとも指摘され、実際に掠れたような筆触などから、同作の表現を思わせる面がありました。


国宝「松林図屛風」 長谷川等伯筆 安土桃山時代・16世紀 東京国立博物館 展示期間:4月13日(金)~5月6日(日)
*「博物館に初もうで」の際に撮影しました。


その「松林図屏風」が山水のラストを飾る作品でした。例年、東博では「博物館に初もうで」の時期に国宝室に出展されますが、今年は「名作誕生」での公開でした。

「花鳥をつなぐ」として、蓮を描いた中国と日本の絵画の比較も、興味深いのではないでしょうか。中でも現存最古の蓮池水禽図とされる「蓮池図屏風」は、蓮池を大きく取り上げて描いた作品で、花は大きく、並々ならぬ迫力も感じられました。蓮は古代より造形化され、中国では五代以降、江南で描かれるようになり、日本へも数多く伝わってきました。


「見返り美人図」 江戸時代・17世紀 東京国立博物館

さらに「人物をつなぐ」、「古今へとつなぐ」として、様々な名作の関係を追っていました。ラストの岸田劉生はやや意表を突かれましたが、ほぼ全編が見どころとしても過言ではありません。さすがに充足感がありました。

最後に会場内の状況です。会期のはじめの日曜日の午後に出かけて来ましたが、館内は思いの外に空いていて、どの作品も一番前でじっくりと鑑賞することが出来ました。


既に会期も中盤です。GWに入り、混み合うかと思いきや、特に混雑していないようです。入場待ちの待ち時間も一切ありません。



GW明けに展示替えがあり、作品も多く入れ替わりますが、これまでのところ土休日でもスムーズに観覧出来ます。私も後期にもう一度、見てくるつもりです。

「特別展 名作誕生ーつながる日本美術」出展リスト
http://meisaku2018.jp/images/list_0402.pdf

そもそもこれほどの日本美術の優品が集まる機会など滅多にありません。またカタログの解説も細かく、見応えがあるだけでなく、読み応えもある展覧会でした。



5月27日まで開催されています。おすすめします。

「特別展「名作誕生ーつながる日本美術」@meisaku2018) 東京国立博物館・平成館(@TNM_PR
会期:4月13日(金) ~5月27日(日)
時間:9:30~17:00。
 *毎週金・土曜は21時まで開館。
 *日曜および4月30日(月・休)、5月3日(木・祝)は18時まで開館。
 *入館は閉館の30分前まで。
休館:月曜日。但し4月30日(月・休)は開館。
料金:一般1600(1300)円、大学生1200(900)円、高校生900(600)円。中学生以下無料
 *( )は20名以上の団体料金。
住所:台東区上野公園13-9
交通:JR上野駅公園口より徒歩10分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅、京成電鉄上野駅より徒歩15分。
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