goo blog サービス終了のお知らせ 

「カンディンスキー、ルオーと色の冒険者たち」 パナソニック汐留ミュージアム

パナソニック汐留ミュージアム
「表現への情熱 カンディンスキー、ルオーと色の冒険者たち」 
10/17~12/20



パナソニック汐留ミュージアムで開催中の「表現への情熱 カンディンスキー、ルオーと色の冒険者たち」を見てきました。

19世紀後半から20世紀前半、ほぼ同時代に生きたカンディンスキーとルオーは、時に互いを本拠とする展覧会へ出品しあい、活動の場を共有していた時期がありました。

その一つが、チラシ表紙を飾るカンディンスキーの「商人たちの到着」で、1905年のパリ滞在中に描かれ、同年、ルオーやマティスらの設立したサロン・ドートンヌに出品されました。


ヴァシリー・カンディンスキー「商人たちの到着」 1905年 宮城県美術館

粒を思わせる点描表現が独特で、のちの抽象への道筋こそ容易に見出せないものの、テンペラの色彩は輝かしく、厚塗りの筆触は、ルオーを思わせなくはありません。カンディンスキーは本作において、故郷ロシアのモスクワの記憶を土台に、「ロシアの固有の音楽的な要素」(解説より)を表現しました。この時期に、テンペラやガッシュによる彩色画を数多く描いていたそうです。

一方のルオーが同年に制作したのが、「後ろ向きの娼婦」で、都市に生きる貧しい人々を捉えました。のちにルオーは、1910年、カンディンスキーが会長を務めるミュンヘン新芸術家協会の展覧会にも絵画を出展したそうです。

さて本展、タイトルこそ2人の画家しか記載されていませんが、何も2人展ではありません。というのも、ドレスデンのブリュッケや、カンディンスキーらによる芸術家サークル青騎士をはじめとした、ドイツ表現主義の画家の作品が多く出ているからです。特に中盤は、ほぼ「青騎士とルオー展」と捉えても差し支えありません。


エーリッヒ・ヘッケル「木彫りのある静物」 1913年 広島県立美術館

ブリュッケの画家であるエーリッヒ・ヘッケルの「木彫りのある静物」が鮮烈でした。手前には木彫りの女性の像があり、その奥に、黄や赤い花が花瓶に飾られています。木彫りは、まるで実際の女性のように生々しく、花自体も熱気を帯びていて、何とも言い難い不気味な空間が広がっていました。色彩は総じて濃く、花や人形、それにテーブルクロスの色のコントラストも、個性的と言えるのではないでしょうか。


ハインリヒ・カンペンドンク「少女と白鳥」 1919年 高知県立美術館

青騎士に協力したハインリヒ・カンペンドンクの「少女と白鳥」も忘れられません。奥に家屋も望む林の中にて、一人の裸の女性が、鳥を抱えるような仕草をしています。足元に魚もいることから、おそらく浅い沼の上に立っているのでしょう。青や朱色、時にピンク色の樹木の色彩は独特で、背後には装飾的なパターンをしたモチーフも垣間見えました。古代の神話的な世界を思わせる面もあるかもしれません。

カンペンドンクは、キュビズムやシャガールなど、同時代のフランスの美術にも影響を受けていました。総じて表現主義は、「自然回帰的でプリミティブな表現」が志向され、「中世や古代の情景を表現に取り込もう」(ともに解説より)としていたそうです。それを体現する作品と言えるかもしれません。


ガブリエーレ・ミュンター「抽象的コンポジション」 1917年 横浜美術館

カンディンスキーとも関係の深いガブリエーレ・ミュンターの「抽象的コンポジション」も印象に残りました。ミュンターは1902年、美術学校の教師だったカンディンスキーと出会い、パートナーとなります。ミュンヘン時代をともに過ごしながら、カンディンスキーが別の女性と結婚したため、関係は崩れてしまいました。油彩ながらも、クレヨンを思わせるような色彩にも引かれました。

ラストにカンディンスキーと交流を深めていたクレーが登場します。第一次大戦後の展開で、カンディンスキーは幾何学的なモチーフを求め、クレーは抽象表現へと進む一方、ルオーは深淵で宗教的なモチーフの作品を制作しました。


パウル・クレー「橋の傍らの三軒の家」 1922年 宮城県美術館

まさに三者三様、色に形は多様に変化します。この1点を挙げるのは難しいかもしれませんが、特にクレーの「橋の傍らの三軒の家」が魅惑的ではないでしょうか。滲み合い、溶けるように沈む色彩の中には、確かに三軒の屋根、ないし建物のシルエットが見えます。上下に浮遊するような球体は、明かりを表しているのかもしれません。水面に揺らいでは映る街の様子が頭に浮かびました。端的に抽象とは言い切れません。何とも幻想的な世界が広がっていました。



いつもながらに手狭なスペースですが、絵画や水彩のみならず、書簡や資料を交え、カンディンスキー、ルオー、そしてドイツ表現主義の画家の制作を丹念に見比べています。

出展数は約110点。宮城県美術館をはじめとする国内のコレクションが中心ですが、40点を占めるルオーに関しては、海外からも作品がやって来ています。うち20点は日本初公開だそうです。

カンディンスキーもルオーも到達した地点は異なりますが、絵画から滲み出す「光」は、どこか響きあう面もあるかもしれません。思いの外に見応えがありました。


12月20日まで開催されています。

「表現への情熱 カンディンスキー、ルオーと色の冒険者たち」 パナソニック汐留ミュージアム
会期:10月17日(火)~12月20日(水)
休館:毎週水曜日。但し12月6日、13日、20日は開館。
時間:10:00~18:00 *入場は17時半まで。
料金:一般1000円、大学生700円、中・高校生500円、小学生以下無料。
 *65歳以上900円、20名以上の団体は各100円引。
 *ホームページ割引あり
住所:港区東新橋1-5-1 パナソニック東京汐留ビル4階
交通:JR線新橋駅銀座口より徒歩5分、東京メトロ銀座線新橋駅2番出口より徒歩3分、都営浅草線新橋駅改札より徒歩3分、都営大江戸線汐留駅3・4番出口より徒歩1分
コメント ( 2 ) | Trackback ( 0 )