「ここはだれの場所?」 東京都現代美術館

東京都現代美術館
「おとなもこどもも考える ここはだれの場所?」
7/18-10/12



東京都現代美術館で開催中の「おとなもこどもも考える ここはだれの場所?」を見てきました。

今年の夏休みのこどもたちのための展覧会は、4組の作家たちが、美術館の展示室のなかに、「ここではない」場所への入口を作ります。 *東京都現代美術館公式サイトより

夏休みの「こどもたちのために」と題された展覧会。しかしながら自分の居場所を見直し、あるいは探し続けるのはおとなでも同じことです。何も問題はこどもたちだけに向けられているわけではありません。

本展のテーマは4つです。それぞれ「地球はだれのもの?」、「美術館はだれのもの?」、「社会はだれのもの?」、「私の場所はだれのもの?」。各テーマに沿って4組のアーティストが作品を発表していました。


「ヨーガン レールが集めたかけら」 2011-2014年

まずはポーランド生まれのヨーガン・レールです。問い直すのは「地球はだれのもの?」。地球環境の問題に取り組んでいます。一見するところ色鮮やかなインスタレーション。しかし素材はゴミです。ヨーガン自身が海岸に漂着するゴミを集めては、さもランドスケープを描くかのように並べています。カラフルなプラスチック素材。ペットボトルの蓋からマスコットキャラクターに玩具、そして網、はたまた何らの用途か判別のつかないものまでもあります。


「ヨーガン レールの最後の仕事」 2011-2014年

「ヨーガンレール最後の仕事」と題されたインスタレーションも圧巻でした。やはりこちらも同じくゴミです。宙に吊られ、ネオンサインのように浮かぶ無数のオブジェ。いずれも照明が仕込まれてランプのように灯っています。


「ヨーガン レールが見た風景」 2013-2014年

それにしても「最後の仕事」というタイトルが気になりました。一体、何が最後なのでしょうか。キャプションを読んで驚きました。悼ましいことです。ヨーガンは本展の準備のために訪れていた海岸で亡くなってしまいました。


「はじまるよ、びじゅつかん」 2015年 策:おかざき乾じろ

次いでは「美術館はだれのもの?」。取り組んだのは作家で批評家の岡崎乾二郎です。題しては「はじまるよ、びじゅつかん」。コンセプトは「こどもにしか入ることの出来ない美術館」です。端的におとなは入れません。子どもたちのためにだけ作られた「びじゅつかん」が展示室内に広がっています。


「はじまるよ、びじゅつかん」 2015年 策:おかざき乾じろ

ちょうどおとなの背の高さと同じほどにはられた結界。入口は一カ所。開口部から奥に向けて小さくのびているトンネルです。さもドラえもんのガリバートンネルのような造りです。「おとなのひとははいれません」との張り紙がありました。

おとなは外から中をちらりと伺うことしか出来ませんが、中には美術館のコレクションが展示してあり、さらにカンシインならぬウオッチマンなるスタッフが常駐しているそうです。子どもたちはウオッチマンの話しを聞きながら、時に意見をぶつけていく。鑑賞とはどうあるべきか。チャレンジングな取り組みを行っています。


「はじまるよ、びじゅつかん」 2015年 策:おかざき乾じろ

また岡崎が記したテキストも鋭い。さすがに読ませます。彼の問題提起は美術館にいる全ての人たちに向けられているのではないでしょうか。

「社会はだれのもの?」。会田家です。注意すべきは会田誠だけでないことです。つまり会田誠本人に加え、妻の岡田裕子、子の会田寅次郎の三名が作品を発表しています。


会田家(会田誠、岡田裕子、会田寅次郎)「檄」 2015年

何と言っても目立つのが檄文です。美術館の天井から高らかに吊られた殴り書きの文章。会田家三名の連署なのでしょう。「文部科学省に物申す」と記されています。

「もっと教師を増やせ。」にはじまって「運動会が変。」、さらには「教科書検定意味あるのかよ。」といった檄文ならではの刺激的な文言が連なります。ただしどこかオチがあるのが面白いところです。ラストは「新国立競技場の問題は全部に俺に決めさせろ!」や「アーチストだから社会常識がない」と続く。「真面目に子育てやってない」とはひょっとすると自分へ向けた言葉なのでしょうか。もはやパロディー的な要素すら垣間見えます。


会田誠「国際会議で演説をする日本の総理大臣と名乗る男のビデオ」 2014年

「国際会議で演説をする日本の総理大臣と名乗る男のビデオ」は全26分のロングバージョンでした。たどたどしい英語で話すのは会田自身の扮する文字通り日本の総理大臣と名乗る男。ただし名乗ると書かれているだけで、必ずしも総理大臣とは特定されていません。彼はグローバリゼーションの世界に強く異を唱えます。鎖国を提唱しました。ただしやはり随所に檄文同様、オチがあります。しかも全般として荒唐無稽にも聞こえますが、ところどころに思わず頷いてしまうような指摘も少なくありません。


会田誠「美術と哲学3 ハイデガー存在と時間」 2012年-

「美術と哲学3 ハイデガー存在と時間」にも見入りました。「とってもむずかしい本を読みながら絵を描くとどうなるか」を実験しているという作品。椅子の上には一冊の本、「存在と時間」が転がり、その前には何とも得体のしれない厚塗りの絵画らしきものが立て掛けてあります。

もはや苦悩を表現したかのようなキャンバス上の色彩、絵具。無数に転がる絵具チューブの効果もあるのか、もはや大仰なまでに真剣に、またさも深刻に向き合っているかのようにも映ります。絵画制作とは何ぞやを問うかのような作品です。にやりとさせられました。

ラストは「私の場所はだれのもの?」。作家はアルフレドとイザベル・アキリザンです。フィリピンに生まれ、10年前にオーストラリアへ5人のこどもたちと引越したというアーティストでした。


アルフレドとイザベル・アキリザン「住む:プロジェクトーもう一つの国」 2015年 協力:江東区立元加賀小学校の児童のみなさん

テーマは「家」や「自分の場所」。段ボールでしょうか。高い塔のように並ぶのは無数の家々。家の上に家が建ち、複雑怪奇、さも迷宮のように上へとのびます。高層マンションとありましたが、そこまで機能的でかつ秩序だっていません。もはやカオスです。たとえば天空に聳える幻の都市のような様相も呈しています。


アルフレドとイザベル・アキリザン「住む:プロジェクトーもう一つの国」 2015年 協力:江東区立元加賀小学校の児童のみなさん

ちなみにこれらの作品は地域の小学生とワークショップで制作されたそうです。家には場所があり、それぞれに家族がある。「夢のおうちを描いてみよう」という参加型のお絵描きコーナーもありました。

ところで本展、開始早々、会田家の作品、特に檄文に対して美術館側から改変、あるいは撤去の要請がなされたという報道がありました。

会田誠さん作品に改変要請 美術館、子ども向け企画展で(朝日新聞デジタル)
会田誠さん作品の撤去要請問題 美術館側は「あくまで相談段階」 今後は「作者との話し合いで決定」(ねとらぼ)
会田誠さんの作品「檄」、撤去要請を撤回 東京都現代美術館(The Huffington Post)
中学二年生の作品に「こども向けじゃない」 会田誠への「撤去要請」とは何だったのか(エキサイトニュース)

後に会田誠本人と美術館の間にて話し合いがなされたそうです。結果的には当初のプラン通り展示は続行。撤去は行われることなく、今も檄文は掲げられています。

それこそ美術館のあるべき場所を問うかのような事件。もちろん作品への批判はあってしかるべきですが、少なくとも美術館が作家に対して作品の撤去を要請するということ自体は適切だと思えません。

ただし断片的な報道や関係者によるWEB上の見解では真相がなかなか見えにくい面もありました。改めて事実を整理するという点からも、何かしら美術館としての直接的な声明があっても良いのではないでしょうか。

10月12日まで開催されています。

「おとなもこどもも考える ここはだれの場所?」 東京都現代美術館@MOT_art_museum
会期:7月18日(土)~10月12日(月・祝)
休館:月曜日。但し7/20、9/21、10/12は開館。7/21、9/24は休館。
時間:10:00~18:00。
 *7~9月の金曜日は21時まで開館。
 *入場は閉館の30分前まで。
料金:一般1100(880)円 、大学生・65歳以上800(640)円、中高生600(480)円、小学生以下無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
 *本展チケットで「MOTコレクション」も観覧可。同時開催の「ニューマイヤー展」、「きかんしゃトーマスとなかまたち」との2展、3展セット券あり。
住所:江東区三好4-1-1
交通:東京メトロ半蔵門線清澄白河駅B2出口より徒歩9分、都営地下鉄大江戸線清澄白河駅A3出口より徒歩13分。
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