都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「蔡國強展:帰去来」 横浜美術館
横浜美術館
「蔡國強展:帰去来」
7/11-10/18

横浜美術館で開催中の「蔡國強展:帰去来」を見てきました。
1957年に中国福建省に生まれ、現在はニューヨークで活動するアーティスト、蔡國強。火薬の爆発痕を用いた作品で知られているのではないでしょうか。1999年のヴェネチア・ビエンナーレでは国際金獅子賞を受賞。北京オリンピックの開会式では視覚特効芸術監督を務めました。
国内では2008年の広島市現代美術館での展示以来、約7年ぶりの個展です。横浜美術館内のグランドギャラリーに滞在して制作した新作絵画のほか、2006年にグッゲンハイムの個展で披露したオオカミのインスタレーション、「壁撞き」などが展示されています。
さてまず圧巻なのは「人生四季」、それぞれ春、夏、秋、冬と題された4枚のキャンバス画です。江戸後期の絵師、月岡雪鼎の肉筆絵巻「四季画巻」に着想を得たという連作、いわゆる春画です。よって「人生四季」にも性を楽しみ、生命を謳歌する男女の愛の営みが表現されています。
春は桜にメジロでしょうか。何やら判別しない朧げな画面で交わるのは男女。霞がかかっているのかもしれません。そして夏、一転して大気は澄み渡ります。光は強い。明瞭です。男女は全てを露にしながら、何者にもとらわれることなく激しく交じり合います。主に局部で広がる赤が否応無しに目に飛び込んできました。
秋は菊でした。そして冬は梅に水仙です。雪も冠っています。季節を変えても男女の営みは続いていきます。刺青が彫られていました。いずれも四季のモチーフに応じた紋様なのでしょう。ちなみに本作、何でも蔡國強が初めて彩色を加えた火薬絵画だそうです。赤は男女の興奮を表すのでしょうか。欲望と愛。ただしそこには二人だけが知り得る平穏な世界が見え隠れしてもいました。
天井高のあるGallery4を効果的に使用しています。朝顔です。蔓を絡ませつつ、花を四方八方に広げた朝顔。素材は陶でした。そこへ蔡は火薬をまいては爆発させ、表情を付けています。朝顔の周りには「春夏秋冬」と題した4面パネルの作品が展示されていました。白い磁器タイルです。タイルには本物と見間違うかのような牡丹に菊、梅などが象られています。そして再び火薬の爆発痕が陰影をもたらす。大気、雲、雨、あるいは花自体の質感を表現しているのかもしれません。トンボ、カニ、鶏でしょうか。生き物たちの姿も見えました。
ハイライトはオオカミです。広い展示室の全てを一つのインスタレーションが支配します。「壁撞き」です。隅に設置されたガラス壁へ向かうのは計99体ものオオカミのレプリカです。前を見据えながら歩み、駆け、大きく飛び上がって突進しては跳ね返され、再び挑んでいきます。ガラスはベルリンの壁と同じ高さです。壁を崩すために行われるオオカミの挑戦。永遠なのかもしれません。群れがメビウスの輪のようにも見えました。ちなみに蔡によればオオカミとは英雄的精神、勇気を意味するのだそうです。果たして打ち破ることは出来るのでしょうか。
美術館正面、グランドギャラリーも圧巻です。天井まで達するほどに巨大なのは、新作、「夜桜」でした。

蔡國強「夜桜」 2015年 火薬、和紙 *本作のみ撮影が出来ます。
これもはじめにも触れたように同館内に滞在して制作したもの。高さは8メートル、横幅は何と24メートルです。中央ににはゆらゆらと煙を立てた篝火が描かれ、周囲には大輪の桜が咲き誇っています。もちろん火薬の爆発で表現したものです。火薬は発火すると一瞬で消えてしまうように、桜も一年の極めて短い時期にしか花開きません。左上には瞳を大きく開いたミミズクがいました。今回は漢方薬に用いられる石の粉末を混ぜたそうです。ゆえにうっすらと黄味がかってもいます。
現在から過去へ至る蔡國強の活動を捉えたドキュメンタリーや、「夜桜」などの制作プロセスを映した映像も見応えがあります。あの火薬が美術館の中でバリバリと音を立てながら炸裂する様子からして迫力満点です。作品も時にエネルギッシュであれば、制作からしてパワフル。ただし点数は8点と僅かです。率直なところ端的に作品数としては物足りない面はあるやもしれません。しかしながら展示室を2周、3周していると、いつの間にか蔡の世界に惹かれ、あるいは飲み込まれている自分に気がつきました。

企画展示室出口よりグランドギャラリー方向。
なお性的表現の含まれる「人生四季」の観覧に際しては制限があります。中学生以下は保護者、引率者の同伴が必要です。ご注意下さい。
「蔡國強 帰去来/横浜美術館」
館内は予想以上に盛況でした。ロングランの展覧会です。10月18日まで開催されています。
「蔡國強展:帰去来」 横浜美術館(@yokobi_tweet)
会期:7月11日(土)~10月18日(日)
休館:木曜日。
時間:10:00~18:00
*9月16日(水)、9月18日(金)は20時まで開館。
*入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1500(1400)円、大学・高校生900(800)円、中学生600(500)円。小学生以下無料。
*( )内は20名以上の団体。要事前予約。
*毎週土曜日は高校生以下無料。
*当日に限り、横浜美術館コレクション展も観覧可。
住所:横浜市西区みなとみらい3-4-1
交通:みなとみらい線みなとみらい駅5番出口から徒歩5分。JR線、横浜市営地下鉄線桜木町駅より徒歩約10分。
「蔡國強展:帰去来」
7/11-10/18

横浜美術館で開催中の「蔡國強展:帰去来」を見てきました。
1957年に中国福建省に生まれ、現在はニューヨークで活動するアーティスト、蔡國強。火薬の爆発痕を用いた作品で知られているのではないでしょうか。1999年のヴェネチア・ビエンナーレでは国際金獅子賞を受賞。北京オリンピックの開会式では視覚特効芸術監督を務めました。
国内では2008年の広島市現代美術館での展示以来、約7年ぶりの個展です。横浜美術館内のグランドギャラリーに滞在して制作した新作絵画のほか、2006年にグッゲンハイムの個展で披露したオオカミのインスタレーション、「壁撞き」などが展示されています。
さてまず圧巻なのは「人生四季」、それぞれ春、夏、秋、冬と題された4枚のキャンバス画です。江戸後期の絵師、月岡雪鼎の肉筆絵巻「四季画巻」に着想を得たという連作、いわゆる春画です。よって「人生四季」にも性を楽しみ、生命を謳歌する男女の愛の営みが表現されています。
春は桜にメジロでしょうか。何やら判別しない朧げな画面で交わるのは男女。霞がかかっているのかもしれません。そして夏、一転して大気は澄み渡ります。光は強い。明瞭です。男女は全てを露にしながら、何者にもとらわれることなく激しく交じり合います。主に局部で広がる赤が否応無しに目に飛び込んできました。
秋は菊でした。そして冬は梅に水仙です。雪も冠っています。季節を変えても男女の営みは続いていきます。刺青が彫られていました。いずれも四季のモチーフに応じた紋様なのでしょう。ちなみに本作、何でも蔡國強が初めて彩色を加えた火薬絵画だそうです。赤は男女の興奮を表すのでしょうか。欲望と愛。ただしそこには二人だけが知り得る平穏な世界が見え隠れしてもいました。
天井高のあるGallery4を効果的に使用しています。朝顔です。蔓を絡ませつつ、花を四方八方に広げた朝顔。素材は陶でした。そこへ蔡は火薬をまいては爆発させ、表情を付けています。朝顔の周りには「春夏秋冬」と題した4面パネルの作品が展示されていました。白い磁器タイルです。タイルには本物と見間違うかのような牡丹に菊、梅などが象られています。そして再び火薬の爆発痕が陰影をもたらす。大気、雲、雨、あるいは花自体の質感を表現しているのかもしれません。トンボ、カニ、鶏でしょうか。生き物たちの姿も見えました。
ハイライトはオオカミです。広い展示室の全てを一つのインスタレーションが支配します。「壁撞き」です。隅に設置されたガラス壁へ向かうのは計99体ものオオカミのレプリカです。前を見据えながら歩み、駆け、大きく飛び上がって突進しては跳ね返され、再び挑んでいきます。ガラスはベルリンの壁と同じ高さです。壁を崩すために行われるオオカミの挑戦。永遠なのかもしれません。群れがメビウスの輪のようにも見えました。ちなみに蔡によればオオカミとは英雄的精神、勇気を意味するのだそうです。果たして打ち破ることは出来るのでしょうか。
美術館正面、グランドギャラリーも圧巻です。天井まで達するほどに巨大なのは、新作、「夜桜」でした。

蔡國強「夜桜」 2015年 火薬、和紙 *本作のみ撮影が出来ます。
これもはじめにも触れたように同館内に滞在して制作したもの。高さは8メートル、横幅は何と24メートルです。中央ににはゆらゆらと煙を立てた篝火が描かれ、周囲には大輪の桜が咲き誇っています。もちろん火薬の爆発で表現したものです。火薬は発火すると一瞬で消えてしまうように、桜も一年の極めて短い時期にしか花開きません。左上には瞳を大きく開いたミミズクがいました。今回は漢方薬に用いられる石の粉末を混ぜたそうです。ゆえにうっすらと黄味がかってもいます。
現在から過去へ至る蔡國強の活動を捉えたドキュメンタリーや、「夜桜」などの制作プロセスを映した映像も見応えがあります。あの火薬が美術館の中でバリバリと音を立てながら炸裂する様子からして迫力満点です。作品も時にエネルギッシュであれば、制作からしてパワフル。ただし点数は8点と僅かです。率直なところ端的に作品数としては物足りない面はあるやもしれません。しかしながら展示室を2周、3周していると、いつの間にか蔡の世界に惹かれ、あるいは飲み込まれている自分に気がつきました。

企画展示室出口よりグランドギャラリー方向。
なお性的表現の含まれる「人生四季」の観覧に際しては制限があります。中学生以下は保護者、引率者の同伴が必要です。ご注意下さい。

館内は予想以上に盛況でした。ロングランの展覧会です。10月18日まで開催されています。
「蔡國強展:帰去来」 横浜美術館(@yokobi_tweet)
会期:7月11日(土)~10月18日(日)
休館:木曜日。
時間:10:00~18:00
*9月16日(水)、9月18日(金)は20時まで開館。
*入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1500(1400)円、大学・高校生900(800)円、中学生600(500)円。小学生以下無料。
*( )内は20名以上の団体。要事前予約。
*毎週土曜日は高校生以下無料。
*当日に限り、横浜美術館コレクション展も観覧可。
住所:横浜市西区みなとみらい3-4-1
交通:みなとみらい線みなとみらい駅5番出口から徒歩5分。JR線、横浜市営地下鉄線桜木町駅より徒歩約10分。
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