「うらめしや~、冥途のみやげ」 東京藝術大学大学美術館

東京藝術大学大学美術館
「うらめしや~、冥途のみやげ 全生庵・三遊亭圓朝 幽霊画コレクションを中心に」 
7/22-9/13



東京藝術大学大学美術館で開催中の「うらめしや~、冥途のみやげ 全生庵・三遊亭圓朝 幽霊画コレクションを中心に」を見てきました。 

立秋を迎えたとはいえ、まだまだ暑い日が続きますが、これほど涼を感じられる展覧会も少ないないかもしれません。

文字通り幽霊画の展覧会です。作品の半数近くは芸大からほど近い谷中の全生庵からやって来ました。明治の噺家、三遊亭圓朝が蒐集したコレクションです。

会場は芸大美術館の地下二階です。階段、エレベーターを降りると、ぐっと照度の落とされた入口が待ち構えています。とても薄暗い。さすがにお化けが出るとは言いませんが、なかなかムードがあります。

冒頭は圓朝の顕彰でした。河鍋暁斎の描いた「圓朝像」にはじまり、圓朝が賛をつけた影絵、演芸会のポスターに愛用のパイプや湯飲み、数珠などの遺品も加わります。

次いで並ぶのは全生庵の幽霊画コレクションです。展示室内にぐるりと一周、掛軸の作品が勢揃い。全50点です。ただし殆どが会期中に入れ替わるため、実際に出ているのは半数ほどです。なおこのセクションは露出展示でした。さらに上には蚊帳も吊られ、足元には雪洞も灯ります。演出にも抜かりありません。


鰭崎英朋「蚊帳の前の幽霊」 明治39年(1906)  絹本着色 全生庵 *通期展示

圓朝コレクションを代表する作品と言っても良いかもしれません。鰭崎英朋の「蚊帳の前の幽霊」です。行灯、そして蚊帳越しに透けて見える幽霊。少し下を向いては何かに憂いています。髪の毛がしっとりと濡れているように見えました。湯上がりかと思ってしまうほどです。おどろおどろしさは皆無です。むしろ可憐ですらあります。

松本楓湖の「花籠と幽霊」はどうでしょうか。反り返るように姿を現した老婆。かごから花をむしり取っては、口で髪を噛み、さらには左手で強く引っ張っています。鬼気迫るものがありました。

何とも風流な幽霊がいました。鈴木誠一の「雪女図」です。雪が舞い、降り積もる中、マンリョウでしょうか。赤々とした実がなっています。そして背後には雪女のシルエットです。定かではありませんが、いわゆる外隈の技法かもしれません。女の外側に影が出来ています。

圓朝は生前から熱心に幽霊画を集めていましたが、近年の調査研究から、コレクションの全てが彼の収集品ではないことが判明したそうです。広重や芳年、今村紫紅などのビックネームから、名もなき筆者不詳の作品までが並びます。なお圓朝コレクションについては全生庵のサイトに詳しい案内があります。参考になりました。

「円朝幽霊画コレクションについて」(全生庵)

さて本展、タイトルに「中心に」とあるように、何も全てが圓朝コレクションで構成されているわけではありません。後半は錦絵、そして全生庵以外の幽霊画です。所蔵先も福岡市博物館や太田記念美術館、そして京都文化博物館や奈良県立美術館などと幅広い。国内各地の幽霊画が集まっています。


歌川国芳「浅倉当吾亡霊」 嘉永4年(1851) 大判錦絵 *前期展示 

「うらみ」がキーワードです。錦絵に幽霊が描かれるようになったのは19世紀前半。かの有名な「東海道四谷怪談」などの怪談物が歌舞伎で評判を呼び、役者絵や芝居絵に多く描かれるようになります。うらみを抱いては死んでいった者たち。亡霊と化して生者に襲いかかります。北斎の「お岩さん」に国芳の描く「崇徳院」。配流先でまさに怨霊と化した姿を描いています。芳年の「偐紫田舎源氏」も面白いのではないでしょうか。いわゆるパロディです。夕顔と源氏。そこに物の怪が現れました。画面を埋め尽くす鮮やかな紋様に彩色。もはや過剰としたら言い過ぎかもしれませんが、ともかく大変な迫力、凄みすら感じられます。


河鍋暁斎「幽霊図」 江戸末期~明治3年(1960年代) 絹本彩色 イズラエル・ゴールドマン・コレクション *前期展示

ラストは再び掛軸画、屏風絵といった日本画です。凄惨なのは渓斎英泉の「幽霊図」です。生首を持って立つ女。首からは生々しい血が滴り落ちています。暁斎の「幽霊図」には驚きました。行灯を前にすくっと現れた幽霊。顔面は筋肉が浮き出ているように見えるほどに力強い。何よりも光の陰影が効果的です。明かりの側を白く、影の部分を薄い墨で塗っています。そして影の方の着物には紋様が浮かんでいました。何とも繊細な描写ではありませんか。


伝円山応挙「幽霊図」 江戸時代(18世紀) 絹本着色 福岡市博物館 *前期展示

師弟の幽霊画のそろい踏みです。応挙(伝)と盧雪です。先の応挙作は「幽霊図」。長い髪をだらりと垂らしては浮かぶのは幽霊。当然ながら足はありません。描表装は秋草でしょうか。風雅です。それにしても品の良い姿です。もはや美人画の域。「うらみが美に変わるとき」とは本展のテーマの一つですが、それを体現したような作品でもあります。

一方の盧雪は応挙い倣いながらも、ややエグ味のあるような表現が目を引きます。口をややすぼめては、細い白目で上を睨む。幽霊の心の内面が現れているかのようです。これから誰かに取り憑こうとしているのかもしれません。

異色の幽霊画と言えるのではないでしょうか。伊藤晴雨です。屏風の前で手招きする幽霊。色は朧げで潤み、どこか溶け合うようでもあります。儚い姿。ふと夢二の描く情緒的な美人画を思い出しました。

ほかには曾我蕭白の「柳下鬼女図屏風」も見どころではないでしょうか。ちなみに前期展示の最後を飾るのは松岡映丘の「伊香保の沼」でした。自失しては蛇に姿を変えたという伝説に基づく作品。湖畔に佇む女性の虚ろで寂し気な表情が際立ちます。そして映丘一流の雅やかなまでの色遣い。優美な中にも妖気が漂っています。改めて感じ入りました。


曾我蕭白「美人図」 江戸時代(18世紀)  絹本着色 奈良県立美術館  *後期展示

展示替えの情報です。一部の圓朝に関する資料を除き、前後期でほぼ全ての作品が入れ替わります。二つあわせて一つの展覧会と捉えて差し支えありません。

「うらめしや~、冥途のみやげ」出品リスト(PDF)
前期:7月22日~8月16日
後期:8月18日~9月13日

なおチラシ表紙を飾る上村松園の「焔」は9月1日から会期最終日までの限定公開です。ご注意下さい。



館内は賑わっていました。後半につれてさらに混雑してくるのではないでしょうか。またグッズ販売、その名も冥途ショップも力が入っています。販売の方が着られていたのは何と白装束でした。

8月11日(火)の圓朝忌、及び8月21日(金)はナイトミュージアムとして開館時間を延長。夜7時まで開館するそうです。



9月13日まで開催されています。

「うらめしや~、冥途のみやげ 全生庵・三遊亭圓朝 幽霊画コレクションを中心に」@urameshiya_info) 東京藝術大学大学美術館
会期:7月22日(水)~9月13日(日)
休館:月曜日。
時間:10:00~17:00
 *ただし8月11日(火)と21日(金)は19時まで開館。
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1100(900)円、高校・大学生700(600)円、中学生以下無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
住所:台東区上野公園12-8
交通:JR線上野駅公園口より徒歩10分。東京メトロ千代田線根津駅より徒歩10分。京成上野駅、東京メトロ日比谷線・銀座線上野駅より徒歩15分。
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