「森村泰昌 レンブラントの部屋、再び」 原美術館

原美術館
「森村泰昌 レンブラントの部屋、再び」 
10/12-12/23

*図版1

原美術館で開催中の「森村泰昌 レンブラントの部屋、再び」のプレスプレビューに参加してきました。

約20年ぶりに森村の扮するレンブラントがやって来た。

1994年に原美術館で行われた「森村泰昌 レンブラントの部屋」。森村自らがレンブラントの自画像に扮し、初期から晩年、その表現と人生の変遷を半ば追いかけていく。当時は国内の美術館での初個展。話題を集め、作品は美術館へ収蔵されました。

以来20年。何度か単発的に作品が公開されたことはあったものの、その全てを改めて紹介したことは一度もありませんでした。

そこで「再び」です。1994年の「レンブラントの部屋」を再現します。

さてこの日はプレビューに参加し、作家森村のレクチャーを伺うことが出来ました。以下、その内容を簡単にまとめたいと思います。


「黄色い服を着たセルフポートレイト 1658」1994年

まず何故にレンブラントの自画像に着目したのか。神話や聖書をモチーフとして時に壮大な物語を絵画に描いたレンブラント。一方、多数残した自画像においても何らかの物語を作ろうとしていたのではないか。自分自身とともに夫人や愛人の姿も描いている。言わば家族の物語。人間してのレンブラント。そのプライベートな部分に惹かれたことから始まった。


「家族の肖像・妻」1994年

レンブラントの自画像に自らを重ねることで人生を追体験する。若い頃から晩年への展開。半ばダブルポートレートというべきかもしれない。

1階の展示室は夫人や息子、そして母親をモデルとした作品を。夫人と愛人をちょうど対面の位置に展示してみた。また自画像では初期から壮年期の作品を並べている。

それでは何故に20年前の再現をしたのか。まず再現するためには、当時の場所、モノ、人のいずれもが残っていなくてはならない。幸いにして原美術館という場所も収蔵されたレンブラントシリーズもそのまま残っている。そして94年の展示を担当したのは現副館長。スタッフとの息もあって可能になった。


「森村泰昌 レンブラントの部屋、再び」ギャラリー1展示室(1階)

レンブラント・シリーズを並べて改めて感じたこと。まず20年前に考えていたことを振り返ることが出来る。その一方で自分なりの作品に対する受け止め方が変わったことも分かった。20年前と今の自分。レンブラントを通すことで比較出来た。

「レンブラントの部屋」では画家の作品にも重要な「光と闇」が一つのキーワードとなっている。闇から浮かび上がる自画像。ラストは一転しての光。ライトボックスを用いた「白い闇」を展示した。

レンブラントに死んで皮の剥がれた牛の描いた「された牛」という作品がある。それを前にしてふと思い浮かんだことがあった。つまり牛の肉の塊と絵具の塊が共通のイメージを表している。言い換えればベーコン画に通ずるような肉的な感覚への意識。そこをテーマにした作品を作りたいと考えた。

そのためにはまず実際に食肉センターに行き、された牛を撮影することから始めた。息をして生きている牛と、綺麗にカットされて食卓へと並ぶ牛肉。しかし場で吊るされた牛はその何物でもない。まさに巨大な塊。しかも白い。それが実に不思議だった。

レンブラントは暗い闇の中に筆を置くことで何かを描きだす。言い換えれば闇に絵具という光を当てることで絵画を生み出した。また絵画はレンブラントから時代を経て印象派の頃にはずっと明るくなった。それと同じように例えばロウソクが電球に変わることによってより強い光がもたらされた。さらに写真が映像になったことでも強い光が得られた。

つまり歴史とは光の強くなる過程。モノやコトが明瞭に見えてくる過程ではないだろうか。そしてその行き着く果てに得られたのは、現代における原爆の炸裂の閃光である。しかしながら核の問題、例えば放射能汚染の一つをとっても、逆に我々の目をくらませ、再び良く分からないような恐怖、つまり闇を再び生み出していることにも繋がらないだろうか。

そのようなことを「白い闇」を通して考えた。


「恰幅の良いセルフポートレイト 1643」1994年

さてそもそもレンブラントの自画像とは一体何なのだろうか。自分とは何かを見つめるために描く。確かにそうした面もあるかもしれない。しかし一連の自画像を見ていると彼が色々と演じていることが分かった。


「笑うポートレイト 1665」1994年

例えば夫人を描いた一枚、フローラの格好をさせている。またレンブラント自身も豪華な衣装を纏い、貫禄のある姿で描いている。まるで貴族の自画像だ。またそれらにはルーベンスの自画像など元ネタのある場合もある。レンブラントはそれに自身を重ねあわせているわけだ。

しかしながら一方でボロを着ている自画像もある。ようは貴人にも貧しい人にも扮せる演技派。しかも彼はそれを楽しんでいたのではないだろうか。

レンブラントの自画像を見ていて最も惹かれたのはまさに彼が扮装の達人であること。だからこそ自分もさらにレンブラントを演じてみたいと思ったわけだ。


「放蕩息子に扮するセルフポートレイト 1636」(1994年)の前に立つ森村泰昌

以上です。少し硬い文章になってしまいましたが、実際には物腰柔らかく、時に冗談を交えてのお話でした。


「輪舞(ロンド)」1994年~

さて館内はまさしく森村一色ですが、本展にあわせて常設の「輪舞」も衣装替えして登場。こちらも見どころです。

また森村は現在、資生堂ギャラリーにてベラスケスの「ラス・メニーナス」をモチーフとした新作の展示も開催中。銀座と品川。ともに行き来しながら、今と昔の森村の表現を見比べるのも面白いかもしれません。

11月15日(金)の20時スタート、BS日テレ「ぶらぶら美術・博物館」で本展の特集があるそうです。こちらもあわせてご覧ください。

「11/15(金)夜8時~OA『ぶらぶら美術・博物館』に森村泰昌展登場」@原美術館

12月23日まで開催されています。



「森村泰昌 レンブラントの部屋、再び」 原美術館(@haramuseum
会期:10月12日(土)~12月23日(月・祝)
休館:月曜日。(但し祝日にあたる10月14日、11月4日、12月23日は開館)、10月15日、11月5日。
時間:11:00~17:00。*水曜は20時まで。
料金: 一般1000円、大高生700円、小中生500円
 *原美術館メンバーは無料、学期中の土曜日は小中高生の入館無料。
 *20名以上の団体は1人100円引。
住所:品川区北品川4-7-25
交通:JR線品川駅高輪口より徒歩15分。都営バス反96系統御殿山下車徒歩3分。

注)写真は報道内覧会時に主催者の許可を得て撮影したものです。図版1は「恰幅の良いセルフポートレイト 1640」。
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