「特別展 京都」 東京国立博物館

東京国立博物館
「特別展 京都ー洛中洛外図と障壁画の美」
10/8-12/1



東京国立博物館で開催中の「特別展 京都ー洛中洛外図と障壁画の美」を見てきました。

「京都でも見ることのできない京都」とも銘打たれた展覧会。とは言え長い歴史を踏まえた京都のイメージは多種多様。ずばり京都展と聞いても何が展示されているのか分からない。そう思われる方もおられるかもしれません。

そこでサブタイトルにもある「洛中洛外図と障壁画」。これが展覧会の内容をほぼ完璧に表しています。

というのも本展は指定品の「洛中洛外図屏風」と龍安寺の襖絵、京都御所の障子絵に二条城の障壁画のみで構成されている。出品リストも紙一枚。作品件数は言ってしまえば僅か20点です。しかしながら一つの障壁画が20面も30面も連なる。潔いまでの大作推し。いわゆる小物は一切ありません。大変な迫力でした。

では展示の中身へ入りましょう。まずは「洛中洛外図屏風」から。指定品、つまり国宝・重文の指定を受けた7点がそろい踏みしています。


重文「洛中洛外図屏風 舟木本(部分)」岩佐又兵衛 江戸時代・17世紀 東京国立博物館

と言っても会期中、常に7件あるわけではありません。11月5日の展示替えを挟み、現会期の前期は4点。永徳の上杉本に歴博乙本、そして勝興本。そして岩佐又兵衛の舟木本の4点が出ています。ちなみに舟木本は全会期での展示です。


国宝「洛中洛外図屏風 上杉本(部分)」狩野永徳 室町時代・16世紀 米沢市上杉博物館 展示期間:10/8~11/4

このように指定品が全て揃う機会自体も貴重ですが、前期では上杉本と舟木本という二大品を同時に見比べられるのがポイント。舟木本における又兵衛の描くことへの執念すら感じさせるような人物描写。驚くほど正気に溢れています。また上杉本では永徳の緻密な風景描写が光っている。なお後期の3点についてはパネルでも紹介。これが思いの外に鮮明な図版です。もちろん後期も出かけますが、展示室一室を全て本物、図版あわせて洛中洛外図屏風で埋めてしまおうというコンセプト。空から一周、京都見物気分を味わえます。効果的でした。


重文「群仙図襖」狩野永徳 天正14年(1586) 南禅寺

なお永徳については御所の障壁画へおさめるために描いた「群仙図襖」も重要です。絵具の剥落こそ目立つものの、永徳の硬軟使い分けた筆の技を見てとれる作品。仙人たちの飄々とした表情が印象に残りました。

さて後半は龍安寺と二条城です。それぞれ18面の襖絵と84面の障壁画が登場。いずれも実際の空間の配置に則った形で展示されています。


「列子図襖(部分)」 江戸時代・17世紀 メトロポリタン美術館

龍安寺こそ先のキャッチフレーズ、「京都でも見ることのできない京都」を良く表しているかもしれません。何故ならここにある一部の襖絵は龍安寺から失われてしまったもの。いわゆる里帰り作品なのです。メトロポリタン美術館から「列子図襖」が、そしてシアトル美術館からは「琴棋書画図襖」がやって来ています。

そして二条城二の丸御殿の障壁画です。大広間から黒書院まで。こちらも立体展示。それこそ二条城の室内空間が引っ越してきたかのような展示が行われています。


重文「二条城 二の丸御殿 大広間 四の間障壁画(西側)『松鷹図』」狩野探幽 寛永3年(1626) 元離宮二条城事務所

ともかくあるべき空間を意識した配置。障壁画は室内を飾っていた通り、上下二段で並んでいる。力技です。当然ながら上段の障壁画を近くで見られませんが、それを言わば捨ててでも空間再現を第一に志向した仕掛け。見るから感じることへの転換。全身で二条城の空間を体感することが出来ます。


重文「二条城 二の丸御殿 黒書院 二の間障壁画(南側)『桜花図』」狩野尚信 寛永3年(1626) 元離宮二条城事務所

一の間の「松鷹図」を正面にして後ろを振り返ると二の間の「桜花図」が見える。鷹を背に立つとそれこそ将軍の気分です。見事でした。

さてもう一つ、極めて重要な部分を忘れてはなりません。それは映像。前半、後半とも、初めの展示室は特大の映像スクリーンが待ち構えているのです。

冒頭には高精細画像で「洛中洛外図屏風」の舟木本が4面のスクリーンで展開。右隻、左隻各2面ずつ。大きさは4×4mです。時間はそれぞれ2分間。舟木本の様々な画面がクローズアップして映し出されます。

そして後半も冒頭は映像。本展の一つのハイライトと言って良いでしょう。4K超高精細映像による「龍安寺 石庭の四季」です。


「龍安寺石庭4K映像」イメージ

文字通りかの有名な石庭の四季を映した作品です。春夏秋冬、表情を変化させる石庭の姿。春の桜に秋の紅葉、そして雪に埋もれ、静まり返る冬の景色。私のおすすめは夏です。バラバラと落ちる雨はまるでスクリーンから飛び出さんとばかりの臨場感。ゴウゴウと風が吹き、その後にわかに晴れて強い陽射しが差し込み、蝉がミンミンと泣く。そして庭の白い石の粒がキラキラと輝いてきます。実に鮮やかです。

ちなみに先にも触れましたが、両映像、その後の実際の作品を鑑賞する前の一つの導入にもなっています。映像から作品へ進むストーリー。特に龍安寺に関してはその後の展示の配置を意識した造作となっている。ようはスクリーンをそのまま石庭の空間に見立てて襖絵を並べているのです。


「公式アプリ『洛中洛外図屏風 舟木本』完全版」

それにしても4K映像しかり、3Dプロジェクションマッピングの他、「洛中洛外図屏風舟木本」のiPhoneアプリなどのデジタルコンテンツが展覧会を盛り上げます。少なくとも東博ではかつてないほど映像なりイベントとコラボした特別展。議論はあるかもしれません。ただ一つの在り方として今回は徹底している。素直に感心しました。

タイミング良く平日の午後に観覧することが出来ましたが、館内は思ったほど混雑していませんでした。ただしそれでも「洛中洛外図屏風」はそれなりの人出。作品の性格上、やはり近寄って見たいものです。夕方以降、閉館前にかけては人もひいてきます。先に順路に沿って一通り観覧した後、改めて洛中洛外を楽しむのも良いかもしれません。

前期:10月8日(火)~11月4日(月・休)
後期:11月6日(水)~12月1日(日)


巡回はありません。12月1日まで開催されています。

「特別展 京都ー洛中洛外図と障壁画の美」 東京国立博物館
会期:10月8日(火)~12月1日(日)
時間:9:30~17:00(金曜日は20時まで開館)
 *入館は閉館の30分前まで。
 *11/3(日)は20時まで、11/4(月・休)は18時まで開館。
休館:月曜日。但し10/14(月)、11/4(月)は開館。10/15(火)、11/5(火)は閉館。
料金:一般1500(1200)円、大学生1200(900)円、高校生900(600)円。中学生以下無料
 *( )は20名以上の団体料金。
住所:台東区上野公園13-9
交通:JR上野駅公園口より徒歩10分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅、京成電鉄上野駅より徒歩15分。
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