都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「所蔵作品展 琳派・若冲と花鳥風月」 千葉市美術館
千葉市美術館
「所蔵作品展 琳派・若冲と花鳥風月」
8/27-9/23

千葉市美術館で開催中の「所蔵作品展 琳派・若冲と花鳥風月」を見てきました。
既に江戸絵画コレクションでは大いに定評のある千葉市美術館ですが、今「花鳥風月」をテーマに、所蔵の江戸絵画(一部近代日本画を含む)を紹介する展覧会が行われています。
第一章 四季
第二章 花
第三章 鳥
第四章 風月
第五章 山水
第六章 人物
第七章 琳派の版本
章立ては上記の通り7つ。いずれもシンプルな見出しですが、展示自体は非常に見応えのあるものとなっていました。
さて冒頭の「四季」では二つの六曲一双の屏風が登場。狩野派の「瀟湘八景図屏風」と松村景文の「春秋唐人物図屏風」、いずれも四季の風景を描いた作品ですが、とりわけ山楽、山雪周辺の絵師が描いたという前者が印象的。丸みを帯びた岩山と広がりある前景の水辺の対比。漁に出るのか小舟には人の姿も。長閑な田園の日常が伝わってきます。
また屏風で一際目立っているのは森徹山の「春秋花鳥図屏風」です。こちらも六曲一隻。金地に桜と紅葉を配したものですが、とにかく色鮮やか。目に焼き付きます。

鈴木其一「芒野図屏風」 1830-54年頃 千葉市美術館
そして鈴木其一の「芒野図屏風」です。二曲一隻の画面には一面の芒が。しかしながらここは其一。その描写は実に抽象的です。もはや芒は純然たる曲線と化してリズムを刻む。霞もかかって空間は深淵。この世ならざる景色を生み出しています。
また先に一部近代日本画と記しましたが、本展では同館の近代日本画もいくつか展観。例えば橋本明治の「春庭」に中村岳陵の「青韻」。岳陵は江戸後期の琳派の絵師である池田孤邨の弟子のまた弟子。垂直の竹を二本、さながらトリミングするかのように描いています。そこにとまる蝉もアクセントです。

河田小龍「花鳥図」より 幕末~明治時代 千葉市美術館
二章の「花」へ進みましょう。ともかく注目したいのは河田小龍。江戸後期から明治に活動した画家とのことですが、何と彼は絵金の弟子というから驚きです。中国の草虫画に倣ったという三幅の「花鳥図」が展示されていますが、その描写はまさに濃厚。百合も牡丹もねっとりと爛れています。さらに面白いのが左幅の雀。羽を広げて威嚇するような仕草をしていますが、真っ正面を向いてこちらを見ているので視点が完全に合うのです。
さらに重要なのが小原古邨です。はて聞き慣れない画家、と思う方もおられるかもしれません。彼は明治から昭和にかけての版画家。フェノロサのすすめでヨーロッパへの輸出向けの木版画を多数制作。これが大変な人気を集め、現在でも海外で評価が高いとか。会場ではその古邨の版画を20点弱ほど展示しています。いずれも伝統的な日本の画題を時に西洋風描写にアレンジ。花鳥画にも関わらず、どこか芳年の「月百姿」を思わせる叙情性も。とても魅力的です。
図版がないのでなかなかお伝えしにくいのですが、本展の主役の一人といっても申し分のない小原古邨。この絵師に出会えただけでも行って良かったと思いました。

伊藤若冲「旭日松鶴図」 1755-56年頃 摘水軒記念文化振興財団
さて三章の「鳥」。ここではちょっとした作品の配列に注目です。それが岡本秋暉と伊藤若冲の鶴対決。秋暉の「鶴図(若冲写)」に「松に鶴図」、そして若冲の「旭日松鶴図」が並んで展示されています。

岡本秋暉「若冲写鶴図」 江戸時代後期 摘水軒記念文化振興財団
それらの主題はもちろん鶴ですが、秋暉の鶴は若冲はプライスコレクションの「群鶴図」を模しているというから一興。しかもキャプションに「目力は若冲以上」とあるように、いずれも鶴の目が爛々。不気味なほど迫力があるのです。
ちなみに今回はキャプションもなかなか読ませます。また図録はありませんが、会場内には作品の詳しい解説を載せた冊子も配置。嬉しい配慮でした。

伊藤若冲「乗興舟(部分)」 1767年頃 千葉市美術館
このペースで感想を書いていくとキリがないので先を急ぎます。四章の「風月」では若冲の「月夜白梅図」の隣に橋本関雪の「水城暮雨図」が並ぶという離れ業も。また五章「山水」では若冲の「乗興舟」、そして六章の「人物」では抱一の「老子図」など、お馴染みの名品も目につきます。

神坂雪佳「百々世草」 1909-1910年刊 千葉市美術館 ラヴィツコレクション
また七章では琳派の絵師の版本がかなり紹介されているのもポイントです。芳中の「光琳画譜」に抱一の「光琳百図」、そして可愛らしい雪佳の「百々世草」など。いずれも2~3面の展示です。そして面白いのは古谷紅麟。さて名を何と読むでしょうか。答えは『こうりん』、雪佳に学んだ明治期の画家です。彼は光琳の図像を取り込んだ「こうりん模様」を出版。それが展示されています。一連の版本を通して見ることで、光琳画受容の変遷過程など浮かんでくるかもしれません。
市民美術講座「日本絵画の花鳥風月」
日時:9月7日(土)14:00より
講師:伊藤紫織 (同館学芸員)
聴講無料/先着150名/11階講堂にて
千葉市美では新たな試みとして本展のフェイスブックページもオープン。作品の一部の解説などを読むことが出来ます。こちらも是非どうぞ。
「千葉市美術館所蔵作品展 琳派・若冲と花鳥風月」(facebook)
タイトルにもあるように若冲、そして琳派を楽しみながら、知られざる江戸絵画の絵師の作品とも出会える展覧会。出品数は怒濤の120点余。(出品リスト)ボリュームも満点。しかも料金はたったの200円(一般)です。

松村景文「秋草図」 1818-44年頃 千葉市美術館
9月23日まで開催されています。おすすめします。
「所蔵作品展 琳派・若冲と花鳥風月」 千葉市美術館
会期:8月27日(火) ~ 9月23日(月・祝)
休館:第1月曜日。(9月2日)
時間:10:00~18:00。金・土曜日は20時まで開館。
料金:一般200(160)円、大学生150(120)円、高校生以下無料。
*( )内は20名以上の団体料金。
住所:千葉市中央区中央3-10-8
交通:千葉都市モノレールよしかわ公園駅下車徒歩5分。京成千葉中央駅東口より徒歩約10分。JR千葉駅東口より徒歩約15分。JR千葉駅東口より京成バス(バスのりば7)より大学病院行または南矢作行にて「中央3丁目」下車徒歩2分。
「所蔵作品展 琳派・若冲と花鳥風月」
8/27-9/23

千葉市美術館で開催中の「所蔵作品展 琳派・若冲と花鳥風月」を見てきました。
既に江戸絵画コレクションでは大いに定評のある千葉市美術館ですが、今「花鳥風月」をテーマに、所蔵の江戸絵画(一部近代日本画を含む)を紹介する展覧会が行われています。
第一章 四季
第二章 花
第三章 鳥
第四章 風月
第五章 山水
第六章 人物
第七章 琳派の版本
章立ては上記の通り7つ。いずれもシンプルな見出しですが、展示自体は非常に見応えのあるものとなっていました。
さて冒頭の「四季」では二つの六曲一双の屏風が登場。狩野派の「瀟湘八景図屏風」と松村景文の「春秋唐人物図屏風」、いずれも四季の風景を描いた作品ですが、とりわけ山楽、山雪周辺の絵師が描いたという前者が印象的。丸みを帯びた岩山と広がりある前景の水辺の対比。漁に出るのか小舟には人の姿も。長閑な田園の日常が伝わってきます。
また屏風で一際目立っているのは森徹山の「春秋花鳥図屏風」です。こちらも六曲一隻。金地に桜と紅葉を配したものですが、とにかく色鮮やか。目に焼き付きます。

鈴木其一「芒野図屏風」 1830-54年頃 千葉市美術館
そして鈴木其一の「芒野図屏風」です。二曲一隻の画面には一面の芒が。しかしながらここは其一。その描写は実に抽象的です。もはや芒は純然たる曲線と化してリズムを刻む。霞もかかって空間は深淵。この世ならざる景色を生み出しています。
また先に一部近代日本画と記しましたが、本展では同館の近代日本画もいくつか展観。例えば橋本明治の「春庭」に中村岳陵の「青韻」。岳陵は江戸後期の琳派の絵師である池田孤邨の弟子のまた弟子。垂直の竹を二本、さながらトリミングするかのように描いています。そこにとまる蝉もアクセントです。

河田小龍「花鳥図」より 幕末~明治時代 千葉市美術館
二章の「花」へ進みましょう。ともかく注目したいのは河田小龍。江戸後期から明治に活動した画家とのことですが、何と彼は絵金の弟子というから驚きです。中国の草虫画に倣ったという三幅の「花鳥図」が展示されていますが、その描写はまさに濃厚。百合も牡丹もねっとりと爛れています。さらに面白いのが左幅の雀。羽を広げて威嚇するような仕草をしていますが、真っ正面を向いてこちらを見ているので視点が完全に合うのです。
さらに重要なのが小原古邨です。はて聞き慣れない画家、と思う方もおられるかもしれません。彼は明治から昭和にかけての版画家。フェノロサのすすめでヨーロッパへの輸出向けの木版画を多数制作。これが大変な人気を集め、現在でも海外で評価が高いとか。会場ではその古邨の版画を20点弱ほど展示しています。いずれも伝統的な日本の画題を時に西洋風描写にアレンジ。花鳥画にも関わらず、どこか芳年の「月百姿」を思わせる叙情性も。とても魅力的です。
図版がないのでなかなかお伝えしにくいのですが、本展の主役の一人といっても申し分のない小原古邨。この絵師に出会えただけでも行って良かったと思いました。

伊藤若冲「旭日松鶴図」 1755-56年頃 摘水軒記念文化振興財団
さて三章の「鳥」。ここではちょっとした作品の配列に注目です。それが岡本秋暉と伊藤若冲の鶴対決。秋暉の「鶴図(若冲写)」に「松に鶴図」、そして若冲の「旭日松鶴図」が並んで展示されています。

岡本秋暉「若冲写鶴図」 江戸時代後期 摘水軒記念文化振興財団
それらの主題はもちろん鶴ですが、秋暉の鶴は若冲はプライスコレクションの「群鶴図」を模しているというから一興。しかもキャプションに「目力は若冲以上」とあるように、いずれも鶴の目が爛々。不気味なほど迫力があるのです。
ちなみに今回はキャプションもなかなか読ませます。また図録はありませんが、会場内には作品の詳しい解説を載せた冊子も配置。嬉しい配慮でした。

伊藤若冲「乗興舟(部分)」 1767年頃 千葉市美術館
このペースで感想を書いていくとキリがないので先を急ぎます。四章の「風月」では若冲の「月夜白梅図」の隣に橋本関雪の「水城暮雨図」が並ぶという離れ業も。また五章「山水」では若冲の「乗興舟」、そして六章の「人物」では抱一の「老子図」など、お馴染みの名品も目につきます。

神坂雪佳「百々世草」 1909-1910年刊 千葉市美術館 ラヴィツコレクション
また七章では琳派の絵師の版本がかなり紹介されているのもポイントです。芳中の「光琳画譜」に抱一の「光琳百図」、そして可愛らしい雪佳の「百々世草」など。いずれも2~3面の展示です。そして面白いのは古谷紅麟。さて名を何と読むでしょうか。答えは『こうりん』、雪佳に学んだ明治期の画家です。彼は光琳の図像を取り込んだ「こうりん模様」を出版。それが展示されています。一連の版本を通して見ることで、光琳画受容の変遷過程など浮かんでくるかもしれません。
市民美術講座「日本絵画の花鳥風月」
日時:9月7日(土)14:00より
講師:伊藤紫織 (同館学芸員)
聴講無料/先着150名/11階講堂にて
千葉市美では新たな試みとして本展のフェイスブックページもオープン。作品の一部の解説などを読むことが出来ます。こちらも是非どうぞ。
「千葉市美術館所蔵作品展 琳派・若冲と花鳥風月」(facebook)
タイトルにもあるように若冲、そして琳派を楽しみながら、知られざる江戸絵画の絵師の作品とも出会える展覧会。出品数は怒濤の120点余。(出品リスト)ボリュームも満点。しかも料金はたったの200円(一般)です。

松村景文「秋草図」 1818-44年頃 千葉市美術館
9月23日まで開催されています。おすすめします。
「所蔵作品展 琳派・若冲と花鳥風月」 千葉市美術館
会期:8月27日(火) ~ 9月23日(月・祝)
休館:第1月曜日。(9月2日)
時間:10:00~18:00。金・土曜日は20時まで開館。
料金:一般200(160)円、大学生150(120)円、高校生以下無料。
*( )内は20名以上の団体料金。
住所:千葉市中央区中央3-10-8
交通:千葉都市モノレールよしかわ公園駅下車徒歩5分。京成千葉中央駅東口より徒歩約10分。JR千葉駅東口より徒歩約15分。JR千葉駅東口より京成バス(バスのりば7)より大学病院行または南矢作行にて「中央3丁目」下車徒歩2分。
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