「三菱が夢見た美術館」 三菱一号館美術館

三菱一号館美術館千代田区丸の内2-6-2
「三菱が夢見た美術館 岩崎家と三菱ゆかりのコレクション」
8/24-11/3



「三菱および岩崎家が育ててきた珠玉のコレクション」(ちらしより引用)を総覧します。三菱一号館美術館で開催中の「三菱が夢見た美術館 岩崎家と三菱ゆかりのコレクション」へ行って来ました。


ジョサイア・コンドル「丸の内美術館 平面図(1、2階)」 明治時代 三菱地所株式会社蔵

まさに三菱グループのコレクション総ざらいと言うべき展覧会かもしれません。見事な構成で画業とその時代性を明らかにしたマネ展とは一転、会場に所狭しと並ぶのは静嘉堂文庫や東洋文庫などの古文書、古美術品、さらには三菱系企業の所蔵する日本近代絵画やモネらの西洋絵画の品々でした。


黒田清輝「春の名残」 1908年 三菱重工業株式会社蔵

冒頭、日本の近代絵画で目立つのは、岩崎家との関係も深かった黒田清輝や岸田劉生らの作品です。エキゾチックな作風で異彩を放つ山本芳翠が2、3点出ていたのも嬉しいサプライズでしたが、S字の裸体を露にした黒田の「裸体婦人像」(1901)には目を奪われました。これは当時、あからさまな表現が批判の対象となり、下半分を布で覆って発表されたていう曰く付きの作品ですが、岩崎家では何とビリヤード室に展示されていたという記録が残っているそうです。その何とも言えないアンニュイな雰囲気に惹かれました。


野々村仁清「色絵吉野山図茶壺」 江戸時代 静嘉堂蔵

近代絵画の次に待ち構えるのはお馴染みの二子玉川の静嘉堂文庫の名品です。さりげなく仁清の艶やかな「色絵吉野山図茶壺」(17世紀)が出ていることには展示の地力を感じさせますが、ここでは何と言っても橋本雅邦の勇壮な「龍虎図屏風」(1895)の存在感が群を抜いていました。特に右隻の龍と波の激しくぶつかり合う様子は息をのむほどの迫力です。実際のところ目玉の「曜変天目」(12-13世紀)がてぐすと強い照明であまり馴染めなかっただけに、前に立ちはだかるこの龍こそ展示のハイライトに相応しい作品に思えてなりませんでした。

東洋学の世界的研究図書館としても名高い東洋文庫の品で是非挙げておきたいのが「釈兼好(吉田兼好)撰 徒然草」(1596-1615)です。下絵の版には光悦による図柄が用いられています。雲母刷の模様は角度を変えてみるとキラキラと浮き上がってきました。


クロード・モネ「プティ・タイイの岬、ヴァランジュヴィル」 1897年 個人蔵

時代の空気を伝える三菱系企業の日本郵船や麒麟麦酒のポスターを経由して、最後に待ち構えていたのは西洋絵画でした。ここでは水色の空の下に佇む寒村を明るいタッチで描いたシスレーの「ルーヴシエンヌの近郊」(1872)や、それこそ水面を描かせれば右に出る者はないマルケによる「トリエル、晴れた日」(1931)などが展覧会に半ば潤いを与えています。また同一主題による梅原とルノワールの比較展示やボナールの見慣れないオブジェも楽しめました。

それにしてもこの最後の西洋絵画の殆どが個人蔵であることに感心させられます。私自身も初見の作品ばかりでしたが、次にいつ出るのかと思うと感慨深いものがありました。

ラストを飾る一枚、郡司卯之助の「三菱ヶ原」(1902)に驚いた方も多いのではないでしょうか。ビルの建ち並ぶ現在の丸の内とは似ても似つかない当時の長閑な風景に、日本の近代化の道程を感じざるを得ませんでした。

展示全体を貫くストーリー性こそ希薄ですが、コンドル設計による美術館の図面の紹介やキャプションなどから、出品作と三菱との関連を伺い知ることができました。


「曜変天目」 宋時代 静嘉堂蔵

一部作品に展示替えがあります。 ご注意下さい。

展示スケジュール(*曜変天目の展示は明日、9月5日まで。)

11月3日まで開催されています。
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