都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「没後400年 特別展 長谷川等伯」 記者発表会
来春早々、上野の地に史上空前(東博副館長談)の長谷川等伯展がやってきます。先日、東京国立博物館で行われた「特別展 長谷川等伯」の記者発表会に参加してきました。

国立博物館クラスでの桃山・江戸期の絵師の回顧展というと、かつての若冲、永徳など、近年は京博のみで行われてきましたが、今回の長谷川等伯に関しては、有り難いことにも東博と京博の二会場で開催されます。まずは展示のスケジュールをあげてみました。
「特別展 長谷川等伯」
東京展(東京国立博物館・上野) :2010年2月23日(火)~3月22日(月・休)
京都展(京都国立博物館・東山七条):2010年4月10日(土)~5月9日(日)
東京展が先行します。それにしても会期がそれぞれ25日と27日間しかありません。非常にタイトなスケジュールです。

続いて本展の見どころです。
・没後400年を記念した、かつてない規模での長谷川等伯の回顧展。
・国宝3点、重文30点を含む、計80点にも及ぶ等伯の名品を一堂に展観。
・「信春」と名乗った七尾時代の画業初期から、上洛後、画壇に地位を占める晩年まで、その生涯を絵画とともに辿る。
・仏画、障壁画、水墨画などのあらゆるジャンルの等伯画を結集。
・国宝3点、「松林図屏風」(東博)、「楓図壁貼付」、「松に秋草図屏風」(智積院)については全期間展示。(その他の作品については一部、展示替えあり。)
・縦10m、横6mに及ぶ大絵画「仏涅槃図」(本法寺)を公開。
・国宝「松林図」と関係が伺われるもう一つの松林図、「月夜松林図」を東京で初めて展示。
・本展開催における研究で等伯の真筆であることが確認された「花鳥図屏風」を公開。(後ろに写真あり。)

発表会では展示の内容について東博、京博の学芸員の方から説明がありました。以下、そのポイントを三つに絞り、出品作とあわせてご紹介したいと思います。
【その1・仏画】
能登の畠山家家臣の奥村家の子として生まれた等伯は、「信春」と名乗り、縁のあった日蓮宗寺院に関する仏画を制作した。上洛後も日蓮宗僧侶、日通との親交を続け、熱心な法華信徒として活動する。本展では「信春」時代の作品(15点)など、あまり知られない等伯の仏画を紹介する。

・長谷川等伯 重要文化財「三十番神図」(1566年・大法寺)
法華経の守護神である三十番神が精緻に描かれている。信春時代の仏画としてもとりわけ色彩鮮やかな作品。各神像の背景には手長猿も見ることが出来、後の水墨画との関連も指摘出来る。

・長谷川等伯 重要文化財「日堯上人像」(1572年・本法寺)
本法寺の第8世、日堯上人が説法を行う姿が描かれている。ちなみに本法寺とは等伯の生家の菩提寺の本寺。等伯はこの寺の伝手にて上洛することが出来た。

・長谷川等伯 重要文化財「仏涅槃図」(1599年・本法寺)
等伯が61歳の時に描いた縦10mにも及ぶ巨大な仏画である。京都三大涅槃図の一。完成時は宮中で披露された。絵の中には等伯一族の名も記され、その厚い信仰心を伺うことが出来る。本展のハイライトでもある。

・長谷川等伯 重要文化財「日通上人像」(1608年・本法寺)
本法寺ぼ日通上人の死に際し、等伯が70歳の時に描いた肖像画。日通は等伯と、住職、信徒という関係でなく、一友人としての深い交流があった。またこの交流から、等伯にまつわるエピソードなどを記した「等伯画説」が誕生している。そこには等伯の会話や絵画観などが書き残されており、日本最古の画論書でもある。
【その2・水墨画】
国宝「松林図屏風」をはじめとした水墨画群を紹介する。

・長谷川等伯 重要文化財「枯木猿猴図」(龍泉庵)*東京展:前期2/23-3/7、京都展:後期4/27-5/9
元は屏風絵。4面あったとされる1部より抜き出している。等伯は水墨の技法を、中国の画家、牧谿の作に倣っていたが、中でもとりわけ優れているのが本作である。母子猿や父猿の長閑な様子、そしてそこから感じられる家族愛、さらには柔らかく温和な雰囲気などは、牧谿を通り越した等伯独自のものであると言って良い。

・長谷川等伯 国宝「松林図屏風」(東京国立博物館)
しっとりした大気の中に佇む松林の姿が描かれている。かつて日本で最も好きな日本画は何かと聞くアンケートがあったが、その中でも一位にランクインしたことがあるくらい有名な作品。遠くに雪山を望み、その前で展開される冷やかな空気と柔らかな光の動きが、まさに日本人の知る心の原風景に近い光景を生み出した。とは言え、全景の緩やかな気配とは一転し、近づて見ると紙がふやけるほどの荒々しいタッチにて墨線がひかれていることが分かる。ここに自然の深遠さを会得しつつ、波乱に満ちた等伯の生涯を重ね合わせることが出来るのではないだろうか。

・長谷川派「月夜松林図」(個人蔵)
国宝「松林図」は長らく他に関連する作品を見出すことができなかったが、現在では本作がそれに先行するものとして知られている。つまりは等伯の「松林図」を考える上で極めて重要な作品。久々に展覧会に出品される。(東京では初公開。)
【その3・金碧障壁画】
新発見の「花鳥図屏風」をはじめとして、国宝「楓図壁貼付」など、桃山文化を代表する金碧障壁画を総覧する。


・長谷川等伯 国宝「楓図壁貼付」/国宝「松に秋草図屏風」(1593年頃・智積院)
いわゆる桃山期の大画様式は狩野永徳が大成したものだが、それを参考にしながらも、等伯独自の画風を確立させた障壁画として名高い作品。秀吉の長男、鶴松の菩提を弔うために建立された祥雲寺(現智積院)に描かれた。力強い巨木こそ永徳を彷彿させるが、細かな葉や花などの描写は、装飾性と艶やかさを兼ね備えた等伯ならではのスタイルと言って良い。
・長谷川等伯 「花鳥図屏風」(個人蔵)*作品写真は下に掲載*
等伯は40代の頃、まだ信春を名乗っていた時期の作品である。今回の展観にあわせて彼の作だと断定された。等伯の金碧障壁画は「楓図」以前、殆ど描かれたことがなかったのではないかという考えもあったが、本作の発見によってそれは覆された。松の天秤型に開く樹木表現、もしくは細かな葉の描写などに、楓図と関連づけられる部分が見られる。

その他にも川村記念美術館の重要文化財「烏鷺図屏風」なども出品されるそうです。壮観なラインナップではないでしょうか。

続いて本展でも紹介される新出の「花鳥図屏風」の公開が行われました。なお撮影が可能だったので、ここに私の撮った写真をいくつか掲載してみます。




大きく迫り下がる金の雲霞の他、楓図同様、左右に広がる枝振りと装飾的な花々、そしてその背景に見られる応挙風の荒々しい滝などが印象に残りました。
なおかつての等伯展というと、石川県立美術館や京都市美術館などで30~40点規模のものはあったそうですが、質量ともにこれほどの内容が揃ったことはなかったそうです。「空前」という言葉もあながち誇張ではないことをお分かりいただけるのではないでしょうか。
少し先の話ではありますが、いまから来春の上野の日本美術は長谷川等伯で決まりとなりそうです。心待ちにしたいと思います。
*展覧会基本情報(東京展)*
名称:「特別展 長谷川等伯」
会場:東京国立博物館(台東区上野公園13-9)
会期:2010年2月23日(火)~3月22日(月・休)
休館:月曜日。但し最終日の月曜(休日)は開館。
時間:午前9:30~午後5:00。金曜は午後8時まで。
料金:一般1400円、大高生900円、中小生500円。(前売はそれぞれ200円引)なおペア券2000円を12月23日まで発売。
*作品の写真、また図版の掲載は許可を得ています。

国立博物館クラスでの桃山・江戸期の絵師の回顧展というと、かつての若冲、永徳など、近年は京博のみで行われてきましたが、今回の長谷川等伯に関しては、有り難いことにも東博と京博の二会場で開催されます。まずは展示のスケジュールをあげてみました。
「特別展 長谷川等伯」
東京展(東京国立博物館・上野) :2010年2月23日(火)~3月22日(月・休)
京都展(京都国立博物館・東山七条):2010年4月10日(土)~5月9日(日)
東京展が先行します。それにしても会期がそれぞれ25日と27日間しかありません。非常にタイトなスケジュールです。

続いて本展の見どころです。
・没後400年を記念した、かつてない規模での長谷川等伯の回顧展。
・国宝3点、重文30点を含む、計80点にも及ぶ等伯の名品を一堂に展観。
・「信春」と名乗った七尾時代の画業初期から、上洛後、画壇に地位を占める晩年まで、その生涯を絵画とともに辿る。
・仏画、障壁画、水墨画などのあらゆるジャンルの等伯画を結集。
・国宝3点、「松林図屏風」(東博)、「楓図壁貼付」、「松に秋草図屏風」(智積院)については全期間展示。(その他の作品については一部、展示替えあり。)
・縦10m、横6mに及ぶ大絵画「仏涅槃図」(本法寺)を公開。
・国宝「松林図」と関係が伺われるもう一つの松林図、「月夜松林図」を東京で初めて展示。
・本展開催における研究で等伯の真筆であることが確認された「花鳥図屏風」を公開。(後ろに写真あり。)

発表会では展示の内容について東博、京博の学芸員の方から説明がありました。以下、そのポイントを三つに絞り、出品作とあわせてご紹介したいと思います。
【その1・仏画】
能登の畠山家家臣の奥村家の子として生まれた等伯は、「信春」と名乗り、縁のあった日蓮宗寺院に関する仏画を制作した。上洛後も日蓮宗僧侶、日通との親交を続け、熱心な法華信徒として活動する。本展では「信春」時代の作品(15点)など、あまり知られない等伯の仏画を紹介する。

・長谷川等伯 重要文化財「三十番神図」(1566年・大法寺)
法華経の守護神である三十番神が精緻に描かれている。信春時代の仏画としてもとりわけ色彩鮮やかな作品。各神像の背景には手長猿も見ることが出来、後の水墨画との関連も指摘出来る。

・長谷川等伯 重要文化財「日堯上人像」(1572年・本法寺)
本法寺の第8世、日堯上人が説法を行う姿が描かれている。ちなみに本法寺とは等伯の生家の菩提寺の本寺。等伯はこの寺の伝手にて上洛することが出来た。

・長谷川等伯 重要文化財「仏涅槃図」(1599年・本法寺)
等伯が61歳の時に描いた縦10mにも及ぶ巨大な仏画である。京都三大涅槃図の一。完成時は宮中で披露された。絵の中には等伯一族の名も記され、その厚い信仰心を伺うことが出来る。本展のハイライトでもある。

・長谷川等伯 重要文化財「日通上人像」(1608年・本法寺)
本法寺ぼ日通上人の死に際し、等伯が70歳の時に描いた肖像画。日通は等伯と、住職、信徒という関係でなく、一友人としての深い交流があった。またこの交流から、等伯にまつわるエピソードなどを記した「等伯画説」が誕生している。そこには等伯の会話や絵画観などが書き残されており、日本最古の画論書でもある。
【その2・水墨画】
国宝「松林図屏風」をはじめとした水墨画群を紹介する。

・長谷川等伯 重要文化財「枯木猿猴図」(龍泉庵)*東京展:前期2/23-3/7、京都展:後期4/27-5/9
元は屏風絵。4面あったとされる1部より抜き出している。等伯は水墨の技法を、中国の画家、牧谿の作に倣っていたが、中でもとりわけ優れているのが本作である。母子猿や父猿の長閑な様子、そしてそこから感じられる家族愛、さらには柔らかく温和な雰囲気などは、牧谿を通り越した等伯独自のものであると言って良い。

・長谷川等伯 国宝「松林図屏風」(東京国立博物館)
しっとりした大気の中に佇む松林の姿が描かれている。かつて日本で最も好きな日本画は何かと聞くアンケートがあったが、その中でも一位にランクインしたことがあるくらい有名な作品。遠くに雪山を望み、その前で展開される冷やかな空気と柔らかな光の動きが、まさに日本人の知る心の原風景に近い光景を生み出した。とは言え、全景の緩やかな気配とは一転し、近づて見ると紙がふやけるほどの荒々しいタッチにて墨線がひかれていることが分かる。ここに自然の深遠さを会得しつつ、波乱に満ちた等伯の生涯を重ね合わせることが出来るのではないだろうか。

・長谷川派「月夜松林図」(個人蔵)
国宝「松林図」は長らく他に関連する作品を見出すことができなかったが、現在では本作がそれに先行するものとして知られている。つまりは等伯の「松林図」を考える上で極めて重要な作品。久々に展覧会に出品される。(東京では初公開。)
【その3・金碧障壁画】
新発見の「花鳥図屏風」をはじめとして、国宝「楓図壁貼付」など、桃山文化を代表する金碧障壁画を総覧する。


・長谷川等伯 国宝「楓図壁貼付」/国宝「松に秋草図屏風」(1593年頃・智積院)
いわゆる桃山期の大画様式は狩野永徳が大成したものだが、それを参考にしながらも、等伯独自の画風を確立させた障壁画として名高い作品。秀吉の長男、鶴松の菩提を弔うために建立された祥雲寺(現智積院)に描かれた。力強い巨木こそ永徳を彷彿させるが、細かな葉や花などの描写は、装飾性と艶やかさを兼ね備えた等伯ならではのスタイルと言って良い。
・長谷川等伯 「花鳥図屏風」(個人蔵)*作品写真は下に掲載*
等伯は40代の頃、まだ信春を名乗っていた時期の作品である。今回の展観にあわせて彼の作だと断定された。等伯の金碧障壁画は「楓図」以前、殆ど描かれたことがなかったのではないかという考えもあったが、本作の発見によってそれは覆された。松の天秤型に開く樹木表現、もしくは細かな葉の描写などに、楓図と関連づけられる部分が見られる。

その他にも川村記念美術館の重要文化財「烏鷺図屏風」なども出品されるそうです。壮観なラインナップではないでしょうか。

続いて本展でも紹介される新出の「花鳥図屏風」の公開が行われました。なお撮影が可能だったので、ここに私の撮った写真をいくつか掲載してみます。




大きく迫り下がる金の雲霞の他、楓図同様、左右に広がる枝振りと装飾的な花々、そしてその背景に見られる応挙風の荒々しい滝などが印象に残りました。
なおかつての等伯展というと、石川県立美術館や京都市美術館などで30~40点規模のものはあったそうですが、質量ともにこれほどの内容が揃ったことはなかったそうです。「空前」という言葉もあながち誇張ではないことをお分かりいただけるのではないでしょうか。
少し先の話ではありますが、いまから来春の上野の日本美術は長谷川等伯で決まりとなりそうです。心待ちにしたいと思います。
*展覧会基本情報(東京展)*
名称:「特別展 長谷川等伯」
会場:東京国立博物館(台東区上野公園13-9)
会期:2010年2月23日(火)~3月22日(月・休)
休館:月曜日。但し最終日の月曜(休日)は開館。
時間:午前9:30~午後5:00。金曜は午後8時まで。
料金:一般1400円、大高生900円、中小生500円。(前売はそれぞれ200円引)なおペア券2000円を12月23日まで発売。
*作品の写真、また図版の掲載は許可を得ています。
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