「石内都 mother's」 東京都写真美術館

東京都写真美術館目黒区三田1-13-3 恵比寿ガーデンプレイス内)
「石内都 mother's」
9/23-11/5



今年1月の個展(ハウスオブシセイドウ)でも印象深かった石内都の写真展です。彼女の亡き母の所持品を写した作品、約40点ほどで構成されています。昨年のヴェネツィア・ビエンナーレの日本館から巡回してきました。半ば凱旋展です。(展示は写真美術館のために再構成されています。)



石内は遺品とじっくり向き合うことで、亡くなった母との対話を試みています。髪の毛の絡まったクシや、年季の入った口紅、そして着古された衣服。それらが生前に撮影されたという裸体と相まって、それこそポートレートを描くように、母という一人の女性の姿が提示されていました。特に、内側がボロボロに削げ落ちたヒールが印象的です。履き古された靴には、それを使っていた者の歩みが記録されています。出歩いたであろう場所と、この靴を履いて出会った人たち。履き慣れた靴を捨ててしまう時に襲われるような、ある種の寂しさを感じました。失われた母への哀悼。ここは瞑想するように見入ります。

 

一般的に、遺品を拝見するということはあまり気分の良い行為ではありません。しかし、石内はそれを物質感を削ぎ落としたような冷たい感触の写真で美しく見せてくれました。写真には母の生活感こそ朧げに漂っていますが、そこにあったはずの温もりは殆ど表現されていません。その部分に、石内と母との難しい関係(確執もあったと聞きました。)を思わせますが、一枚一枚から沸き立つ気品には、石内の母への敬意がこめられていると感じました。母の腕の中に抱かれたかったが、実際には飛び込めなかった。遺品と対話することで、彼女は生前叶わなかった母との愛を確かめているのかもしれません。

11月5日までの開催です。(10/15鑑賞)
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